クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第16話 どしたん、話聞こか?

 先日の焼き直しの如く、千司は天音の隣に腰を下ろした。

 

「そう言えば、夕凪に魔法について相談したんだろ? どうだった」

 

 千司は少しばかり考えてから、本題とは異なる世間話から会話を切り出した。

 これを受け、天音は苦笑を浮かべて「えっとねー」と答え始める。

 

「まぁ、どうだった? って聞かれたら、夕凪くんって凄いなぁとしか答えられないかなぁ。だって、『なんとなくできた』とか『身体の中の魔力に集中して』とか『詠唱して名前を言えば使えたよ』とか……それが出来たら苦労してないんだけど!?」

 

 わざわざ夕凪の口調を真似ての言葉に、思わず千司も苦笑い。

 どうやら彼は説明があまり得意な部類ではなかったようだ。

 

(ま、俺も『偽装』スキルはなんとなくで使えてるから似たようなもんだが)

 

「それは大変だったな」

「ほんとだよ! いや、わざわざ時間作って相談に乗ってくれた人を悪く言えないけど……それが出来ないから聞いてるんだけど!? って話な訳です」

「なるほどな。……因みに、天音の回復能力ってステータス上でどんな扱いになってるんだ? 職業(ジョブ)の能力なのか、スキルの能力なのか」

 

 千司の場合、職業の能力は倫理値に-1000の補正。

 スキルが『偽装』である。

 

「えっとね……」

 

 そう言って天音が説明してくれたのは以下のことだ。

 

―――――

『祝福の巫女:回復魔法発動に必要な魔力が十分の一になり、魔力に+400の補正。

 スキル:『祝福』全ての回復魔法が使える。』

―――――

 

「魔法には『適性』って言うのがあって、その適性がないと、例え呪文を詠唱しようと魔力を注ぎ込もうと魔法は使えないんだって。私のスキルは回復魔法の適性を高めるって物で……つまり、使える(かっこ)使えるとは言ってない(かっことじ)って感じ! あははっ、やってらんないんだけど~! ……はぁ」

「情緒不安定だな」

「不安定になるにきまってるじゃん! だってこんなへっぽこヒーラーが一週間後にはダンジョンに行くんだよ!? ……って、行かない人に言っても意味ないか」

 

 ジト目で皮肉を口にする天音を、千司は笑って流す。

 

 相手の悪感情に乗って言い返せば場の空気自体が悪くなる。それは望むところではない。千司が天音に構うのは、彼女の能力が非常に有用で是非とも自身の駒にしたいからだ。

 

 故に、距離を詰めに来ているのに、離れるような言動は避ける。

 

「そうだな。俺はお前が回復魔法を使えようと使えまいと関係ない人間だ。だから気にせず愚痴れば良い。それで、天音のストレスが少しでもなくなるのなら一向に構わないさ」

 

 極力優しい声色で寄り添うように語りかけると、彼女は自身の失言に気付いたのかばつの悪そうな顔を見せた。

 

「……ごめん」

「本心だったんだがな」

「なら、尚更ごめん……でも、やっぱり不安なんだ。私みたいな使えないヒーラーがダンジョンに行ってどうするの? って」

 

 天音は一度言葉を句切り、大きく深呼吸。周囲を一瞥し、声の聞こえるところに誰も居ないのを確認してから千司に告げた。

 

「今から、最低なこと言って良い?」

「構わない」

「誰にも言わないでね」

「言わない」

 

 即答する千司を見て、彼女は日本に居た頃は一度も見せなかった暗い瞳をして、絞り出すように言葉を吐き出した。

 

「……私、ダンジョンに行きたくない。いざという時に回復魔法に失敗して誰かが死ぬのが怖い。――って、訳じゃない。私は、誰も信用できない(・・・・・・・・)。友達も、騎士団の人も。信じたいけど信じ切れない。だって、だって私には――自衛手段がない(・・・・・・・)から」

「……」

 

 無言で先を促す。

 

「ダンジョンに行っても、目の前の人が逃げたら私は死ぬ。目の前の人が怪我をした時、治せなくても私は死ぬ。私は、命がけの状況になった時、周りの人に頼ることしか出来ない。でも、その人たちは高校で知り合ったり、この世界で知り合ったりしただけの『ただの他人』な訳で、私のことを命がけで守ってくれるかなんて分からない。そんな……そんな悪い想像が頭の中をぐるぐるして、もう、訳がわかんなくて……」

 

 堰を切ったように止まらない天音の言葉を黙って聞く。

 表情は真剣、しかし内心は――。

 

(めんどくせぇこと考えてるんだなぁ。とりま『うんうん』聞いてるふりしよ)

 

 ヘラってる天音の隣で、うんうん、それで? うんうん、と中身のかけらもない相づちを打って彼女の胸中の不安を全て吐き出させる。胸の内にたまった感情は文字通り言葉にすればすっきりする物だ。

 

 そして全てを吐き出し終えた天音に、千司は聞いていて思ったことを尋ねた。

 

「天音、最近寝れてるか?」

「……え? あ、いや……考えてたらなんか寝れなくて、最近はちょっと寝て、ちょっと起きての繰り返しになってる、けど……」

 

 突拍子もない問いに困惑する彼女に、人差し指を立てて一つアドバイスを教える。

 

「こんな言葉がある。『夜中に考え事をすると、悪い方向にしか行かない』」

「そうなの?」

「あぁ、一見考え事に集中できて解決案が見つかりそうに思えるが、悪い結果以外見つかることはない。だから考え事をしそうになったら……そうだな、オナニーでもすれば良いんじゃねえの?」

「なるほど、オナ……」

 

 瞬間、冷たい視線が注がれるが極力気にしないふりをして、続けた。

 

「因みにリニュはするらしい」

「えぇ!?」

「何でも寝なくて大丈夫な種族らしくてな、夜暇で他にやることないんじゃないのかなと俺は推理している」

「……最っ低」

「誤解だ。寝ない種族ってのと自慰云々はあいつ本人が言ってたこと。俺はそれを組み合わせて推理しただけだ」

「一体リニュさんとどんな話してるの? ……って言うか、奈倉くんっていつもそんなこと考えてるの?」

「まぁ、他にも色々考えてるが……基本そうだな」

「馬鹿みたい」

 

 むくれたようにそっぽを向く天音。

 

「確かにな。だが、それぐらい気楽に行けって話だ。肩の力抜くんだ。そうすれば見える景色も変わってくる」

「はぁ? そんなんで変わるわけ――」

「じゃあ天音は知ってるか? 夕凪って魔法を使う時、若干声が高くなるんだぞ」

「……え?」

 

 いきなりなんの話だ、と言わんばかりの表情を見せた天音であるが、千司が視線を夕凪の方へ向けると、彼女もつられてそちらを見やる。

 

 そこでは現在進行形でリニュと当たり稽古をしている夕凪の姿。彼は太陽を背にこれでもかと格好を付けて――『フレイムボールッ!!』甲高い声が響いた。

 

「多分テンションが上がってるからだろうな。本人は気付いてないと思う――って、どうした?」

「い、いや、別に何も」

 

 口元を抑え顔を逸らす天音。その肩は若干震えていて「くっ、まだ遅いかっ! ならばッ――『フレイムスピアー』ッ!!」、遠くから聞こえてくる夕凪の声に彼女は吹き出した。

 

「ぶふっ、くっ……なんで、こんな……ふっ……こんなくだらないことで……っ」

 

 必死に堪えようとする天音に「まだまだ行くぞ! 『フレイムソード』ッ!!」更に追い打ちがかかる。

 

「ひっ、ひひっ、ちょ、やめっ……うひひっ」

「案外アレが魔法を使うコツだったりしてな。天音もやってみれば?」

「んなっ……、そ、ふふっ、そんな、わけ……ふひっ、ないじゃんっ!」

 

 目尻に涙すら浮かべて腹を押さえる天音。

 完全にツボにはまってしまったらしい。

 

 一通り笑い転げた後、彼女はひぃひぃ息を切らし、極力視界に夕凪を入れないようにしながら仕返しとばかりに脇腹を突っついてきた。

 

「な、なんだよ」

「うるさいっ、この! めっちゃお腹痛いんだけど!」

「俺のせいなのか?」

「奈倉くんのせいだよ! っとに、もう」

「けど、肩の力は抜けただろ?」

「それは……うん」

 

 天音は不服そうに唇を尖らせつつも、こくりと首肯した。

 

「まぁ、何が言いたかったかというと、考えることは悪いことでは無いが、頭の隅っこでくだらないことを考えられる程度の余裕は持っておけってことだだ。あとは、夜よく寝ること」

「そんなこと言われても……寝れないんだもん」

 

 子供のように拗ねる天音に思わず苦笑をうかべる。

 

「子守唄でも歌いに行ってやろうか?」

「え〜いらな〜い」

「んじゃ、オナって寝るか、夕凪の甲高い声でも思い出しながら寝ることだ。意識的にでも楽しい記憶を思い出すことだな」

「その選択肢には色々不満はあるけど……でも、うん。わかった。夜はあんまり考えないようにする」

「そうしろ。何かしら答えを出したい考え事なら相談ぐらい乗ってやるさ。遠慮なく言うといい」

「いや、まぁ変態の奈倉くんにもう遠慮なんてしないけど……一応、ありがと」

 

 不平不満を顔に表しつつも感謝を述べる天音。彼女はふと疑問に思ったように、頬を赤らめつつ千司の耳元に口を寄せて囁いた。

 

「ち、ちなみに奈倉くんはそういう処理ってどうやってるの?」

「まさかの猥談にビックリだな」

「さっきはイキナリだったからアレだけど、実は結構好きだったりします。……で、どうしてるの?」

 

 とんでも美少女の天音が下ネタ好きとは。千司は意外に思いつつも、思春期だから仕方ないねと寛容に流すことにした。

 

「そりゃ夜にコソッとだな」

「でも借りてる部屋だし」

「気にしたら負けだ。むしろゴミ箱を空にする執事くんにセクハラするつもりでやればそれも楽しいってものだ」

「あははっ、きっしょ。でも参考にするかも」

「辛辣だな~」

「もう遠慮しないって言ったでしょ。……い、嫌だったりした?」

 

 思い切り罵倒したかと思えば、変なところで気を使ってくる。

 

「別に、むしろ絡みやすくて好きだよ」

「何それ告白?」

「さぁ? どうだろうな。それでは、俺そろそろ訓練に戻る」

 

 そうして、天音に別れを告げると千司は下級勇者たちの元へと戻って行った。

 

 

  §

 

 

「楽しそうだったね」

「見てたのか」

 

 天音と別れて下級勇者たちの元に戻ってきた千司を出迎えたのは頬を膨らませたせつなだった。

 

「見てたっていうか、見えたっていうか……。随分楽しそうにしてたなって、別にそれだけ」

「まぁ、楽しくはあったな」

「……っ、あっそ。別に関係ないけど」

 

(聞いてきたのそっちじゃん)

 

 という思いは胸の内に秘め、目の前で踵を返し、離れて行こうとするせつなの手を取った。

 

「っ、なに?」

 

 振り向いて見つめてくる彼女を千司は深く分析する。視線を合わせてから逸らされるまでの時間、発汗の量、視線の動き、呼吸――そして、彼女が大きく息を吐いた間隙を縫って、口を開いた。

 

「今度の休み、一緒に出かけないか?」

 

 その提案を、せつなは息と同時に飲み込む。

 

「ぁ、……と、それって?」

 

 何かを期待するような視線、声色。きっとそれは恋愛感情では無い。幼馴染みが離れて生まれた隙間に入り込んできた、ただの代替品に対する、執着。

 

(いい感じだな。この調子で、依存していって貰うとしよう)

 

 千司はせつなに向かって、頭からつま先まで嘘で塗り固められた嘘八百を、まるでそうとは感じさせずに告げた。

 

「なんと言うか、デートのお誘い? みたいなものだ。ダメか?」

 

 首筋に手を当て、顔を背け、照れてるように演出。普段の千司ならこんなナヨナヨしい誘い方はしないが、今回はあえてそうして見せた。

 

 参考にしたのは『夕凪飛鷹』。

 雪代せつなに対してはこれ以上ない特攻カード。

 

 そうして計算され尽くした千司の誘いに、

 

「んーん、ダメじゃない。じゃ、じゃあ、予定空けとく……から……うん。楽しみにしてる」

 

 せつなは顔を真っ赤にして了承すると、恥ずかしさから逃げるように踵を返して去っていった。

 

(さて、お次は王都の方の準備だな。ん〜、やることいっぱいで大変だなぁ)

 

 千司は軽く伸びをして、自身の訓練に戻った。

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