クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第19話 襲撃

「え、え? な、なに?」

「せつな、ゆっくり下がって大通りに出るぞ」

「え、え?」

 

 困惑する彼女にそう言うが、まだ理解していないのか動かない。その足はガクガクと震えており、彼女の視線が向かう先には――ポニテ男が手にしている抜き身の短剣。

 

 夕日を反射しキラリと輝くその切っ先は、迷うことなく千司達に向けられている。

 

 それを見て、せつなは動けなくなっていた。

 

(恐怖心か。まぁ、いつもは訓練だったしな。それにこの二人……敵意がビシビシ伝わる)

 

「えっと、俺たちに何かようですか? 穏やかじゃないのは嫌いなんですが」

 

 相手を刺激しないよう言葉に気をつけつつ尋ねると、彼らは鋭い視線のまま一切油断することなく答えた。

 

「悪いとは思ってるよ」

「いや思ってないね」

「そうだ、思ってない。お前達のせいだ」

「くそ、お前達のせいで俺は家族を……でも、旦那(・・)が言ってくれた。お前達を拉致すれば、借金をチャラにしてくれると」

「旦那は寛大だ。二人併せて二百万、それを全部チャラだってんだから」

「それもお前達(・・・)を拉致すれば良いだなんて……俺だってただのガキならそんな極悪非道はしないが、でもお前達(・・・)なら……嗚呼! 俺は旦那に一生ついて行くぜ!」

「だな!」

 

 語る内に高揚していく男達。彼らはおもむろに懐から瓶を取り出すと、中から錠剤のような物をひとつ摘んで口に含み、飲み込んだ。

 

 途端にうひひっ、いひひっ、と奇っ怪な声を上げ始める。

 

「な、何、あの人たち」

「異世界だからな、人攫いか何かか?」

 

 怯えるせつなを背中に隠しつつ、千司は近くの建物の屋根を見やる。

 

 上手く気配を隠しているが、そこには外出している勇者につけられた監視員が隠れ潜んでいた。――が、どうやら動く気配はない。

 

(まぁ、予想通り。実戦の為にダンジョンに行くとか言ってる連中だ。偶発的に実戦の機会が訪れたらピンチになるまで手を出すなと命令されているんだろ。なら――)

 

「せつな、逃げれるか?」

「あ、あし、震えて……こけるかも」

「なら俺が担いで――」

 

 せつなを担ごうと一瞬二人に背を向ける千司。その隙を見逃すほど人攫いは馬鹿ではなかった。

 

「おいおいおいおい、馬鹿かよお前」

「女女、俺女が良い」

「んじゃ、俺は俺は……俺も女、女女女!」

 

(あらら~、相当ラリってるなぁ、これは)

 

「せ、せん、千司……っ」

「大丈夫、絶対守るから」

 

 下心を多分に含んだ敵意を向けられ、せつなはいよいよ全身を震わせる。

 

 千司はそんな彼女を安心させるよう、いつも通り尊大な態度で笑みを見せると――すぐ側まで近付いていた二人を、振り向きざまに蹴り抜いた。

 

 逃げる振りをして二人に対し隙を見せたのは意図的に行ったことで、まんまと罠にはまった彼らに容赦なく反撃したのである。そこに一切の躊躇いはない。

 

 ダンジョンでモンスター相手に大立ち回りをしたことはあっても、今回は初めての対()戦。同種との殺し合いに対し、しかし千司に臆した様子はかけらも見えない。

 

「うぎゃあ! いってぇ! あいつ力やばくねぇ!?」

「やばいやばい。どうしよ」

 

 蹴りで吹き飛ばされた二人は受け身をとりつつ立ち上がり、小さく言葉を交わす。

 

 そして数秒の後、無精ひげの男が腰の剣を抜き、ポニテ男が先ほどと同じく短剣を構える。しかし今回は構えた姿勢がかなり低い。地面を這うような形だ。

 

(あー、なんだっけ。リニュから聞いたな。確かアシュート王国の隣の帝国発祥の剣術だったか)

 

 千司は頭の奥から知識を引っ張り出すが、流石に対処法までは教わっていない。何しろ千司たちは魔王を討伐するために訓練をしているのであって、特定の剣術を扱う人間との戦闘はそもそも想定していないから。

 

「三、二、一、――どんっ」

 

 無精ひげの合図と同時に二人が駆け出す。

 わざわざカウントダウンするなど、なんて間抜けな、と思っていたのもつかの間――気付けばポニテ男が千司の懐に潜り込んでいた。

 

「はやっ」

「まずは足――ッ」

 

 接近の勢いを殺すことなく短剣を振り抜くポニテ男。完全に千司の虚を突いて行われた完璧な攻撃の流れである。――が、千司に焦りはない。何故なら、

 

「うらっ!」

「ッ! ほんと意味分かんねぇ馬鹿力ァ!!」

 

 狙われた足をそのまま蹴り上げると、ポニテ男が大きく宙を舞った。

 

 そう、何も焦る必要はない。千司のステータスは勇者の中では確かに低い部類であるが、この世界の基準で当てはめれば『冒険者』でもかなり上位に食い込む数値である。

 

 千司が敵わない異世界人は『千司と同程度のステータス』と『千司を上回る技術』を持った人間。アシュート王国で当てはまるのは騎士団ぐらいである。

 

 その為、薬中の人攫いなどそもそもステータスの暴力で鏖殺できるのだ。

 

(神様印のチート能力で無双するの気持ち〜)

 

「――千司、横っ!」

 

 宙を舞うポニテ男に視線をやっていると、せつなの悲鳴のような声が聞こえた。

 

 そこにはポニテ男を囮にして近付いていた無精ひげの姿。彼は鋭い目つきで千司を睨み、流れるような動きで剣を振り下ろした。

 

 ――が、これも当然効かない。

 

 振り下ろされた剣を左手で受け止めると、その腹を右手で横から殴ってへし折る。バキンッと折れた刃先がクルクルと宙を舞う。

 

「化け物かよお前」

 

 刀身の折れた剣を投げ捨て、距離を取る無精ひげの男。その表情は苦々しげにゆがんでは居るものの、どこか余裕が垣間見えた。

 

 これほどまでの戦力差をありありと見せつけられて、なおそうしていられることに千司は違和感を抱き――次の瞬間、身体が怠く重くなり、頭痛が襲う。

 

「……ぐっ」

「千司!」

 

 心配そうなせつなの声を耳にしつつ、千司は素早く『ステータス』で自らの状況を確認。

 

─────

 

状態異常:『狂気』倫理値に-1000の補正。

    『呪詛』体内侵蝕率3.2%

 

─────

 

(なるほど、これが呪術か)

 

 魔法とは異なるこの世界の不思議パワー。それが呪術。その種類は多岐に及び、一度呪われれば術者が解除しない限り解けることは無い。体内侵蝕率が上がるにつれ呪詛は効力を増し、100%に到達すると死に至る。

 

(一度かかれば強力……だが)

 

「はん、これでお前は動けねぇ。侵蝕率は30%程(・・・・)だろうが苦しくて仕方ねえだろ? 俺は呪術(こっち)が専門な訳よ」

「……」

「へへ、もう喋れねぇか。呪いを解いて欲しかったら大人しくしておくんだな」

 

 そう言って近付いてきた無精ひげの男を、千司は真正面から殴り付けた。完全に不意をつかれた形となった男は防御も間に合わず地面をゴロゴロ。

 

 噴き出す鼻血を手で抑えながら千司を睨みつける。

 

(確かに呪術は強力だが、それ故に対策さえしておけば何ら怖くは無い。……分かってはいたが完全初見殺しの雑魚技だな)

 

「千司! だ、大丈夫なの? その、呪いって……あいつが言ってたけど」

「あぁ、問題ない。……それより」

 

 素早くステータスを確認すると、すでに『呪詛』の状態異常は消えていた。よって意識を向けるべきは目の前の二人。距離を取って先ほどまでとは比べものにならないレベルで警戒心をむき出しにしている。

 

(直接戦闘はダメ。搦手も失敗。……さて、どう出るか)

 

 男たちは互いに一瞬だけ目を合わせて頷き合うと、

 

「チッ、覚えてろよ糞ガキが」

「女の前にお前だ。次はこうはいかねぇからな」

 

 分かりやすい捨て台詞を残し、男たちは路地裏の影に消えていった。

 

 千司は素早く屋根の上にいた監視員を睥睨。すると監視員はぺこりと軽く頭を下げてから、男たちが消えていった方角へと走って行った。

 

 それから少しだけ周囲を探り、完全に敵影が無くなったのを確認してから、肩の力を抜いた。

 

「……ふぅ。もう大丈夫そうだ。怪我はないか、せつ……なっ!?」

 

 振り返った瞬間、胸元に彼女が飛び込んできた。

 

「あー、えっと、大丈夫か?」

「それはこっちの台詞……せん、千司……ほんとに大丈夫?」

 

 そう言って上目遣いに見つめてきた彼女の瞳はよほど不安だったのか涙で濡れており、千司は思わず彼女を抱き締め返していた。

 

 安心させるように優しく、けれど少しだけ強く。

 

「本当は少し怖かった。が、守らなきゃならない奴がいたからな」

「……っ!」

「せつなは大丈夫だったか?」

「ん、……うん。千司が、守ってくれたから」

「なら良かった」

「……うん。ありがとう」

 

 せつなは小さく感謝を述べると、恥ずかしそうに頬を染めて胸に顔を埋めていた。

 

 その行動があまりにも可愛くて……。

 

「せつな」

「ん、なに?」

「顔上げて」

 

 返事は無い。

 しかし、彼女はモゾモゾと動き、ちらりと千司を見上げる。

 潤んだ瞳、上気した頬、瑞々しい唇。

 見つめあっていたのはどれほどだっただろうか。

 

 永遠にも一瞬にも思える時間が二人の間に流れ――唇が重なった。

 

「んっ……ふぅ……」

 

 せつなの甘い吐息が漏れる。

 色っぽく艶やかな声色に、脳が沸騰しそうになるのを『偽装』で誤魔化し、理性を働かせて唇を離した。

 

「ぁ……」

「続きは帰ってからにしよう。もうすぐ門限だ」

 

 物足りなさそうな声を出し、今度は背伸びをして顔を近づけるせつなに、苦笑を浮かべつつ告げると、彼女は顔を真っ赤にしたままこくこくと数度頷いた。

 

「っ、……ぁ、う、うん。……ねぇ、千司」

「なんだ?」

 

 優しい笑みを浮かべて聞き返すと、彼女は今まで見た事がないくらいの花のような笑顔で、

 

「私……ファーストキスの相手が千司で、嬉しかった」

 

 そう、幸せを噛み締めるように告げた。

 

「俺も同じ気持ちだよ」

 

 淡い恋心を滲ませたとろけるような甘言に、千司は心を『偽装』して淡々と答えるのだった。

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