クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第26話 下級勇者のダンジョン遠征

 ダンジョン遠征当日。天気は快晴。

 ダンジョンに天気など欠片も関係しないけれど、それでも雨天よりは気分が上がる。

 

 ジョン・エルドリッチとの対話から数日、何かが劇的に変化したということは無いけれど、強いて言うなら《勇者の中に『裏切り者』が存在する》という噂が流れた。

 

 出処は千司同様ライザに直接呼び出され会話をした勇者の誰か。これに対しライザの対応は迅速だった。

 

 彼女は歴代の勇者の中に『裏切り者』という職業で召喚された者がおり、彼(ないしは彼女)は元いた世界でも諜報員として潜入していた人物だったという事を告げ、一先ずの沈静化を試みる。

 

(情報操作も甚だしいな)

 

 ライザの言い分ではまるで裏切り者(・・・・)は、元の世界でも裏切り者(・・・・・・・・・・)だった者に与えられる職業と誤認してしまうからだ。

 

(ここまで来れば話した方が良いと思うんだがな……考えられるとしたら……)

 

 そうしていくつかの理由を考えつつ、本日を迎えた次第であった。

 

「それではこれより王都近郊ダンジョンへと遠征に向かう! 各自気を引き締めるように!」

 

 今回向かうのは今注意喚起を行ったリニュと第一第二騎士団から二人ずつ。

 

 それと前回ダンジョンに行かなかった居残り組の下級勇者十五人。

 

 加えて、前回ダンジョンでトラウマを抱き治療が必要と判断された上級勇者が六人。

 

 以上の計二十六人である。

 

 トラウマ組には夕凪飛鷹や天音文香の姿がある。

 

「さすがに緊張してきたね」

 

 不意に隣に立っていたせつなが弱音を口にした。千司は彼女の頭を優しく撫でながらいつも通り不遜に告げる。

 

「せつなは俺が守る。安心しろ」

「……もう、そんなこと言われたら、もっと好きになる」

「嬉しいな。ありがとう。俺も愛してるよ」

 

 甘いムードを漂わせていると「おほん!」と大きく咳払いしたリニュが鋭い目付きで千司を睨みつけながらもよく通る声で吠える。

 

「それでは、第二回ダンジョン遠征を始める!」

 

(いよいよだな)

 

 

  §

 

 

 今回の遠征は約一日掛けて十層まで潜り、ボス攻略して帰還する、と言う物。

 

 本来ならダンジョン内で迷子になり一日で十層など到底無理な話であるが、千司達を引率するのは王国の騎士。当然最短ルートが記録された地図がある。加えて前回の遠征から日も経っていないので強力な個体が生まれている可能性も低く、この行軍となった。

 

 因みに前回の遠征では六階層の途中で『強化種』と遭遇し、これを撃退。疲労を鑑みて撤退したのだとか。

 

(ま、適当に頑張るとするか)

 

 そうして千司はしばらくぶりとなるダンジョンに再度足を踏み入れた。

 

「すご、ほんとにゲームみたいだね。千司」

「あぁ、気を抜いてはいけないとわかっていても、テンションが上がるな」

「やっぱ千司くんも男の子だねぇ」

「当たり前だ。そういう天音は……案外大丈夫そうだな」

 

 せつなと話していると天音が横から割ってくるが、怯えていたと聞いていた割には平然としていた。他の再遠征組の上級勇者はそれなりに怯えを見せているというのに。

 

 あの夕凪飛鷹でさえ、ぶるりと身を震わせて右腕を押さえている。おそらく前回切断されたという箇所だろう。

 

 そんな彼ら彼女らを睥睨していると、ダンジョンの奥からコボルトが姿を見せる。

 

「ちょうどいい。センジやってみろ」

「言われなくてもやるよ」

 

 リニュに命令され、千司は王国から支給された剣を抜く。コボルトなど相手にもならない。

 

 剣を構えてコボルトと対峙すると、奴は待つということを知らないようで一気に距離を詰めてきた。

 

「ふんっ」

 

 鋭い爪を突き立てようとしてきたコボルトを一閃。ステータスを遺憾無く発揮した膂力とそれなりの業物である剣によりコボルトは一刀両断。

 

 死骸が床に落ち、しばらくして吸い込まれて消えた。

 

「これでいいか? リニュ」

「……お前、生き物殺すの初めてじゃないのか?」

「気にしてたら疲れるだけだ」

「まぁ、いいか。とりあえず良くやった。褒めてやる」

「このレベルが相手なら何十匹いても問題ない」

「そうか、そんなお前に『強化種』を見せてやりたかったよ。そうすれば少しはその鼻っ柱を明かせたというものを」

「監督不行で怪我人出した分際で偉そうに」

「なんだと!?」

「なんだよ! 喧嘩売ってきたのはそっちだろ!?」

「はーっ! 雑魚センジが調子乗るから釘を指してやってるんだ! この、ざこ、ざーこ! 前髪スカスカ!」

「スカスカじゃねぇわ! フサフサだわ!」

「うるさいこの二股男!」

「二股……? 一体何の話だ?」

 

 咄嗟にハリウッド俳優顔負けの演技ですっとぼける千司。

 しかし内心は焦りに焦っていた。

 

(まじかよこいつ。いつ知ったんだ? 流石に言いふらさないだろうが、今度媚び売っておくか。足でも舐めたら許してくんない?)

 

 プライドの欠片もない男である。

 

「二股って何の話?」

「さぁ。誰かと勘違いしてるんじゃないか?」

 

 ジト目で睨んできたせつなを誤魔化す。一方でリニュは若干困っている千司を見て溜飲を下げたのか、僅かに口元をニヤつかせながら話を切りあげ、ダンジョン攻略を再開した。

 

 以降、ダンジョンの奥へと進みながらモンスターが出現する度にそれぞれ攻撃を加えていく。最初は生き物を殺すことに躊躇している生徒もいたが、流石に一度二度攻撃を食らうと反撃して倒していた。

 

 そこをすかさず褒めることで今のは間違っていないことなのだと無意識下で認識させつつ、生物と戦う事への倫理のたがを外していった。

 

 そうしてダンジョン遠征を続け、千司たちは七階層まで降りてきた。

 

 現在はキュプロクス相手に夕凪が戦闘中。彼のステータスなら何の問題もない相手であるが、前回『強化種』に腕を吹き飛ばされた影響か、相手の攻撃を受ける事を嫌い、大きく動いて回避している。

 

 かなり震えているが、ふと千司の隣にいたせつなをチラリと見やると、一転。奮起したように攻撃を受け流すようになった。

 

(単純な奴だな)

 

「頑張ってるね。幼馴染みくん」

「あれぐらい、上級勇者なら楽勝でしょ」

「……仲直りしないの?」

「別に、喧嘩してるわけじゃないし」

 

 そうやって無関心を貫こうとしているせつなであるが、その奥に見え隠れする感情を抑えられているようには見えなかった。

 

「そうか」

「うん……」

「んじゃ、俺はねぎらいの言葉でも掛けてこよーっと」

「うん……は、え!? なんで!?」

 

 驚くせつなを無視し、無事ノーダメでキュプロクスを打ち倒した夕凪に声を掛ける。

 

「お疲れ、なんか良い感じになったな」

「な、奈倉? ……あ、あぁ、うん。まだ震えるけど、何とかって感じ。流石にデッド・オーガと再戦ってなったら動ける気はしないけど」

「それはしゃーない。まぁ、ほどほどに頑張ろうぜ」

「そうだな……っと」

 

 ふと彼は服の外に出ていたネックレスに気付き、大事そうに内側にしまう。

 

「それ、こっちの世界で買ったやつ……じゃないな。日本の?」

「えっ、あ、あぁ……うん。せつ……いや、大切な人からの贈り物」

「なら王宮に置いといた方が良かったんじゃねぇの? なくしても知らんぞ?」

「あー、確かに。次からはそうする」

「おう」

 

 言葉を交わし終えると、千司はきびすを返してせつなの元へ。

 すぐ側には文香の姿も。

 

「雪代さんは夕凪くんと付き合ってたの~?」

「……鷹くんとはそう言うのじゃないから」

「へ~」

 

 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべてからかう文香に対し、苛立った様子で返すせつな。

 

(この二人もかなりギスギスしてんなぁ~。まぁ、当たり前だけど。それに……お~、すげぇ目で睨んでるなぁ、夕凪くん。んじゃ、ここは……)

 

「二人ともその辺にしとけ。雑魚ばかりとは言えダンジョンだぞ」

 

 せつなと文香に注意しつつ、恋人であるせつなの頭だけ軽く撫でる。すると彼女は僅かに頬を赤らめ、嬉しそうにはにかむと「ん~、わかった」と甘えた声で鳴いた。

 

 これを受け、文香からも睨まれるが問題はない。

 それより確認すべきは夕凪の方で……。

 

(うん、万事順調だな!)

 

 絶望に顔をゆがめた彼を確認して、千司は内心ガッツポーズを握るのだった。

 

 

  §

 

 

 ダンジョン遠征が順調に進み、八階層にやって来た時、千司は前方の曲がり角の先から物音がしたのに気が付いた。千司が気付いたと言うことは当然リニュも気付いており――しかし彼女は意地の悪い笑みを浮かべて見てこいと顎をしゃくった。

 

「……わかったよ」

 

 剣を抜き、警戒しながら曲がり角の先を覗く……瞬間、目の前に銀線が走った。千司は咄嗟に身を引くことでこれを回避、続く追撃を剣で受ける。

 

 攻撃を仕掛けてきたのは冒険者風の男だった。

 彼は千司を見やると、途端に脱力したように息を吐く。

 

「んだよ、人か……」

「悪いな、声を掛ければ良かった」

「……いや、こっちこそすまない。仲間が怪我をしてな。少しばかり警戒心が強くなってたんだ」

 

 そう言って後方を指さす冒険者。そこには五人の男女がおり、うちの一人が足から血を流していた。パーティーを組んでここまで来たが、怪我をして立ち往生といったところだろう。

 

(一応、この世界には回復魔法が込められたポーションがあるから即時回復は可能だろうが……かなり高価なうえに見たところそこまで酷い怪我では無いから痛みが引いてから動こうと考えていた、ってところか)

 

「少し待っていてくれ。うちの仲間に回復職が居る」

「そんな、悪いよ」

 

 咄嗟にきびすを返す千司の背中に申し訳なさそうに声を掛ける男。

 千司は振り向きざまに笑みを浮かべ――。

 

「気にしないでくれ。何しろ俺たちは――『勇者』だからな」

 

 心にもないことを告げるのだった。

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