クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第4話 手駒探し

 

 一晩考え、やはり白金級や金級の勇者を殺すにはクラス内での内ゲバは欲しいという結論に至った。

 

 その為、千司は情報収集と平行して以下のことを行うことに決める。

 

・内ゲバを起こす際に、手駒となるクラスメイトを見つける。

・内ゲバを起こせるだけの発言力をクラス内で確立。

・自身の強化。

 

(他にも情報が揃えば追加するが、とにかく内ゲバは確定事項だな。じゃないと白金級勇者には勝てる気がせん)

 

 内ゲバでクラスメイト同士で削り合って貰う。その為の離間工作はこれから進めていくことになるが、これは『情報収集』の分野だ。

 

 とにかく千司が行動として起こすのは『駒』を捜すことと、クラス内での立場を確立すること。

 

 後は、最低限自分が戦えないと意味がないので、自己強化もまた、必須事項である。

 

 そんなことを考えている内に夜は明け――翌朝。

 

 王宮内の食堂に案内されて朝食を済ませた千司たちは、次に訓練場を訪れていた。

 

 大きなグラウンドの中央には長身の女性が剣を地面に突き立てて仁王立ちしている。

 

 獰猛な笑みを浮かべる彼女は目算にして二十代前半。綺麗な銀髪にもかかわらず寝癖すら取らずに跳ね散らかっているところを見るにずぼらな性格が窺える。しかしその容貌は美人と言って差し支えない程に整っていた。

 

 グラマラスなスタイルにも関わらずかなり露出の多い服装。

 

 なにより一層目を引くのは彼女の頭部に生えた二本の角(・・・・)。異世界ここに極まれりと言わんばかりの姿に、流石の千司も強い興味を惹かれた。

 

「よお! 来たな勇者サマ!」

 

 笑みを濃くして剣を肩に担ぐと、豊満な胸がたゆんと揺れる。

 

 訓練がちょっと楽しみになってきたな! なんて思っていると、爆乳美女は自己紹介を始めた。

 

「アタシの名前はリニュ。リニュ・ペストリクゼン! この国最強の剣聖であり、お前らの訓練を行う! ズタボロのボロ雑巾になるまで絞りつくしてやるぜ! 雑魚ども!」

 

 豪快に言ってのけたリニュに対し、ここまで案内してくれた衛兵さんは申し訳なさそうな表情で頭を下げていた。

 

 しかしそんな思いもむなしく、一人の怒声が響き渡る。

 

「雑魚だァ!? ふざけんなやボケェ!」

 

 声の主はクラスでも屈指の問題児、大賀(おおが)健斗(けんと)。なんちゃってヤンキーである。

 

 彼が声を上げた瞬間、クラス中からうわぁ……と言った空気が漏れ出たのを、千司は感じた。

 

 それも仕方が無い。彼は常に素行が悪く、オタク相手に罵詈雑言を飛ばしたり、女子を穴だと教室の中心で口にしたりと、それはもうあらゆる方向に火種をばらまくからである。

 

 つまり、千司からすれば救世主に等しい。

 

(ヘイト集めお疲れ様! キミは最後まで生かしてあげるから、その空気の読めなさを遺憾無く発揮してクラス内をギスギスで満たしてくれ!)

 

 彼を火種とした争いほど、生み出しやすいものはない。内ゲバ着火係の候補だ。

 

「ふむ、お前は何級だ?」

「あぁ!? 金級だよ!」

「そうか、ならかかってこい! ひとまず上下関係をはっきりさせよう!」

「はぁ!? 巫山戯(ふざけ)てんじゃねぇぞ!」

「巫山戯る? 意味が分からないな。あぁ、安心しろ剣は使わないから」

「……ぶっ殺す」

 

 大賀が驚くのも無理はなかった。

 

 勇者のステータスは、召喚された当初で既にこの世界の平均を超えているとライザに教えられたからだ。

 

 故に、その中でも上位に位置する金級勇者の大賀なら、大半の存在は相手にならないはず。

 

「殺せるものなら殺してみろ。アタシを殺せたらすぐに魔王も倒せるだろう!」

「死ねや——ッ!」

 

 次の瞬間、大賀が恐ろしい速度でリニュとの差を埋める。おおよそ千司たちの知る人間の動きではない。

 

(これが、金級勇者のステータスか)

 

 一歩が早く、そして大きい。身体能力が大幅に向上しているのは間違いなかった。

 

 だが千司が何より驚いたのは大賀の才能である。彼は唐突な身体能力の上昇に対応していた。

 

 通常、突然身体能力が上がればまともに駆けるのも難しいはずなのに、大賀はそれをやってのけていたのである。

 

 しかし次の瞬間、そんな驚きをかき消すほどの衝撃をリニュは見せた。

 

 彼女は人の領域を大きく逸脱した大賀の拳を、いとも容易く受け止めてしまったのである。

 

「この程度かァ? 勇者サマよォォ!!」

「ッ、くそ!」

 

 吠えるリニュからとっさに距離を取る大賀。

 

 リニュの物言いに再度申し訳なさそうに頭を下げる王宮の皆様を尻目に、二人は再度ぶつかる。

 

 数度の衝突。大賀、リニュの早さと判断力をぼんやりと見つめ、千司は一つの結論を出す。

 

(なるほど。この世界のトップレベルは勇者と張り合うのか。これが『まだ成長していない勇者だから』で済めばいいが……)

 

 十中八九そうではないだろう。金級ならば容易に超えていけるだろうが、銀級、銅級の勇者なら、良くて同レベル。悪ければ格下になる可能性は十二分にあり得る。

 

(注意しなきゃいけないことは増えたが、まぁ良いことを知れたな)

 

 思いのほか、異世界人は強いらしい。

 

「くそっ! ふざけやがって! なら——『時計職人(クロノスタシス)』」

「ふむ、『スキル』か」

 

 思考に耽っていると、攻撃が当たらないことに苛立ったのか、大賀がスキルを発動。

 

 一瞬、大賀の動きが止まった気がした。

 

 かと思えばすぐに動き出し、目にも止まらぬ早さで大賀の拳がリニュの鳩尾に突き刺さっていた。

 

「ハッ、ざまぁみやが——ぶぼっ!」

「ふむ、奇襲型としては優秀。あとは使い方と技術と、その他諸々。攻撃力の低さは論外だなボロ雑巾! さて、お次はこちらの番だ!」

 

 そうして獰猛に牙を見せたリニュによる大賀の公開処刑が行われた。

 

 ボコボコにされる大賀を見てクラスメイト達は彼に対する留飲を下げるだろう。

 

 もちろん千司的にはナンセンス。後で大賀を煽てに煽てて、もう一度イキり散らしてもらおうと心に決める。

 

 彼が精神的に成長できる機会は根こそぎ奪う腹積もりである。

 

「さぁ、他にかかってくる奴はいるか? 居ないならこれから初日の訓練を始める」

 

 そうして初日の訓練が始まった。

 

  §

 

 訓練を終え、風呂に入って飯を食いながらクラスメイトを観察。

 

 普段運動しない生徒はげっそりとしていた。一方で、運動部や強い『職業』を手に入れた生徒は疲れを見せつつも楽しそうにしている。

 

 クラス内に溝のような物は窺えるが、しかし交友関係はあまり変わらない模様。

 

 篠宮とその取り巻きは相も変わらず固まっているし、雪代せつなは幼馴染みの夕凪(ゆうなぎ)飛鷹(ひだか)と仲良さげに食事を摂っている。

 

 他にもボッチや少人数の友人と食う物が多数。

 

 一通りの観察を終えると千司は部屋に戻り、訓練を振り返る。訓練中、千司は幾人かのクラスメイトに話しかけていた。その大多数は訓練に積極的ではない生徒。

 

 その中には先ほど名前の挙がった雪代せつなも居た。

 

 彼女は疲れた様子で一人夕凪を見ていたので、話しかけるのは容易だった。

 

 千司はその時のことを思い出す。

 

「昨日もそうだったが、もしかして付き合ってるのか?」

 

 日影に座り込み、額から流れる汗を拭いながらグラウンドの少年を見つめるせつなに、千司は特に躊躇することもなく話しかけた。

 

 これが普段の学校生活なら訝しがられたかも知れないが、昨日話しかけた事とこの異常な状況を鑑みれば、会話に答えてくれるだろう事は間違いない。

 

 案の定、彼女は綺麗な黒髪を耳に掛けながら答えた。

 

「また奈倉くんに話しかけられた」

「すまん。面倒だったらそう言ってくれ」

「んーん、レアイベント発生って感じ。(たか)くんとは付き合ってないよ。ただの幼馴染み」

「なるほど。にしても、あいつは凄いな。剣に炎を纏ってる」

 

 見つめる先では夕凪飛鷹が太陽を背にごうごうと燃える剣を手に、リニュに斬りかかっていた。

 

「昨日聞いたけど『太陽の使者(アグニ)』って言うなんか凄いやつなんだって。金級の中でもトップクラスらしいよ」

「へぇ、いいな。かっこいい」

「やっぱ男子的にはああいうの憧れるの?」

「憧れるけど、熱そうだな」

「それは確かに。こっちまで熱届いてるもん」

 

 からからと笑うせつな。

 

「因みに、雪代は訓練参加しないのか?」

「もう疲れたかなって。それに私、銅級の『術師』だし、やる気もあんまり。奈倉くんも銅なんでしょ?」

「残念ながら。それに俺は守ってくれそうな奴もいないし、色々大変だ」

「守ってくれそうな奴?」

「ほら、雪代の場合はあの幼馴染みくんが守ってくれるだろ? さっきからすげぇこっち睨んでくるし」

「え……?」

 

 千司とせつなの視線の先では、リニュとの当たり稽古を終えた夕凪が面白くない物を見る目で二人を見返していた。

 

「怖いんだが」

「あー、あはは。なんかごめんね」

「別に構わん。んじゃ、邪魔になるといけないから俺はこれで」

「おっけー」

 

 そんな感じで千司は雪代との会話を切り上げた。

 

 他にも数人に話しかけ、積極的ではない理由、交友関係を聞き出し、ついでに友好的に接することで次回以降の情報収集を円滑に進められるようにしておいたのだ。

 

 千司は自室のベッドに横になる。

 

 色々と思考したいことはあったが、慣れない運動にさすがに身体がもう限界である。気付くと千司の意識は夢の中に落ちていった。

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