クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第13話 魔法学園

 魔法学園へと出発する朝。

 千司の気分は憂鬱だった。

 

 何しろ日々の楽しみであったライカへのセクハラが向こうしばらく叶わなくなるのだから。

 

「こうして起こして貰うのも今日で最後か」

「……昨日あれだけしたのに今日も朝から元気ですね」

「生理現象だ。仕方が無い」

 

 だらだらと話ながら着替えさせて貰う。

 

 因みにロベルタは部屋の隅の鞄の中。昨日はかなり遅くまで起きていたのでまだ眠っているのだろう。念のために『偽装』で誤魔化しつつ、下の方も着替えさせて貰う。

 

「奈倉様……妹のこと、お願いしますよ」

「あぁ、わかってる。お前の妹は、クラスメイトたちと同じぐらい大切に守るさ」

「ならいいですけど。……はむ」

「……どうしたいきなり」

「ちゃんと約束を守って貰うためと……妹には手を出さないで貰うための兄としての行動です」

「なるほど」

「セクハラしながら格好付けないでください」

「今日はお前から手を出してきたんだろうが」

 

 ジト目で睨み付けてくるライカの頭を右手で撫でつつ、千司は最後のセクハラにいそしむのだった。端的に言って最低である。

 

 

  §

 

 

 集合場所である王宮の入り口にはすでにほとんどの生徒が揃っていた。

 それぞれ友人知人と固まってはいるものの、篠宮派閥と千司の派閥の間には確かな溝が存在している。その垣根を越えて友達と会話している者も居るが、とても穏やかな雰囲気とは言えなかった。

 

「おはよ、千司」

「おはよう、千司くん!」

 

 到着早々せつなと文香に抱きつかれながらも、挨拶を返す。

 

「おはよう。二人とも昨日はよく寝れたか? 今日から馬車移動だから若干キツいかもしれないぞ?」

「なんとか寝れたかな。……千司が居れば、もっと安心して寝れるんだけど」

「私はちょっと寝不足気味。移動中のことも心配だし、この三日間は千司くんと一緒に寝たいなーなんて」

 

 照れ隠しを含んだせつなの言葉に対し、甘えるような文香の仕草。

 瞬間、千司を挟んでギスギスとした修羅場が展開される。

 仕方が無いので二人を抱き寄せ撫で撫で。甘やかしておけば機嫌が直るだろうというクズの所業であった。

 

 そうこうしていると、勇者たちの護衛として同行する剣聖リニュ・ペストリクゼンと第一騎士団団長セレン、そして他数名の騎士団員を連れて、ライザが姿を現した。

 

 ライザは千司たちを見渡すと、大きく息を吸い込んでから挨拶を述べる。

 

「本日はお日柄もよく、絶好の旅立ち日和になりましたね。王宮から出るということに未だ不安を抱える方もいらっしゃると思います。ですが、リニュと、そしてセレン団長含めた優秀な騎士の皆様に護衛のほどを任せておりますので、どうぞご安心ください。しばらくお会いすることはなくなりますが、魔法学園にて有意義な時間を過ごし、魔王討伐に向けた訓練のほどが行われることを遠くから祈っております」

 

 挨拶が終わると同時に千司は拍手。するとぱらぱらと広がり、クラス全体からライザに拍手が送られた。ライザは深く一礼すると、リニュとセレンに目配せ。

 

 それに応えるようにリニュが指示を飛ばす。

 

「よし、それでは出発する! 全員それぞれの馬車に乗り込め!」

 

 こうして、千司たちは魔法学園へと旅立った。

 

「あ、奈倉様」

 

 ——と、馬車に乗り込む寸前、千司はライザに呼び止められる。

 なんだろうと振り返ると、彼女はにっこりと笑みを浮かべたまま見覚えのある巾着を手渡してきた。

 

「これで足りる程度でお願いします。それと、くれぐれも学園の女子生徒には手を出さぬよう。他国官僚の娘もおりますので」

「そこまで節操なしじゃありませんよ」

「ではこちらは不要でしょうか?」

「……ありがたく頂戴いたします」

 

 そうして千司は餞別として避妊薬を受け取った。

 世界広しと言えど、旅立つ勇者に避妊薬を送る王女は彼女ぐらいなものだろうと思う千司であった。

 

 

  §

 

 

 人数が人数なだけに、勇者が乗り込む馬車は複数台用意されていた。

 誰がどの馬車に乗るかどうかは当初男女で別けるべきとされていたが、ここ数日の勇者間の確執を鑑みてなのか、仲のいい人同士で適当に乗り合わせるようにとリニュから指示があった。

 

 千司の乗り合わせた馬車にはせつな、文香、新色、そして辻本とその友人である岸本と富田の勇者七人と、どういう訳か嫌悪感丸出しの表情で睨みつけてくるセレン団長の姿があった。

 

 座り順は、

 海端、せつな、千司、文香

 岸本、辻本、富田、セレン

 と、幌の中で向かい合う形。

 

 そんな中で、セレンは千司ただ一人をギッと睨みつけていた。

 これに戸惑うのは彼女の正面に座っている文香。

 怯えるように千司の腕に身を寄せる文香に、セレンの視線はさらに鋭くなる。

 

「どうかされましたか、セレン団長。あまり睨まれるとこんな狭い空間ですし……空気が悪くなってしまうのですが」

 

 その言葉にセレンは僅かに目を見開き、鼻を鳴らした。

 

「ふん、それもそうだな。……いや、何。貴公のふるまいが、まるで悪しき王国貴族のようで腹が立ったのだ。不純、その一言に尽きる。本妻、妾、内縁、貴族共はいつもそうだ。偉ぶりの象徴のように女を侍らせる」

「……自分にそんなつもりはないのですが」

「嘲笑、貴公のような下劣な者いつもそう語る。王国の国教である『へリスト教』は一夫多妻を認めていないというのに、貴族共は詭弁を弄して女を侍らす。貴公もその口なのだろう? まったく、勇者の中でも貴公だけは好きになれん」

 

 どうやら彼女は熱心な教徒らしい。そして、その宗教では一夫多妻制が認められていない為、怒りをあらわにしている、と。

 

(めんどくせ。適当に流すか)

 

「そうですか。こちらの宗教観については明るくないものでして……良ければ教義のほどをいくつか教えてもらえませんか? 少し興味がございます」

 

 少し強引過ぎただろうか、と思いつつも嘯く千司。

 他のメンツは見え見えの話題転換に苦笑を浮かべていた。

 

 しかし当のセレンは気付かなかったようで、にんまりと笑みを浮かべる

 

「……む? 本当か? なるほどな。異世界より召喚された勇者が教義を知るわけもない。神は信じる者を救えど、神を知らなければ信じることも叶わず。それを罰するのは酷と言うべきか。よかろう、牧師には及ばぬが、私が貴公に説法を行おうではないか!」

 

 本当は欠片も興味はないが、宗教というのも何かしらに使えるかもしれない。問題点があるとすれば、宗教は乗っ取るのが難しいところか。それでも強固な集団というのは魅力的だ。

 

(せっかく聞くならちゃんと勉強するか)

 

 そう考えた千司は……しかし数分後、自らの選択を後悔するのだった。

 

 

  §

 

 

「なっが」

「奈倉殿。どうにかするでござるよ。ほんと、いやマジで。あの調子だと明日も話し続けそうでござる」

「こればっかりは本当にすまん」

 

 時刻は夜。

 すっかり日も落ちた現在、馬車を街道の路肩に停車させた一行は、焚火を囲んで夕食を取っていた。夕食と言っても、王宮で食べていたようなものではなく、簡易の肉料理とスープぐらいだが。

 

 千司の周りに居るのは馬車に一緒に乗っていたメンバー。

 セレンだけは明日の予定の確認に、騎士団の集まりへと行っていた。

 

 そうして始まるのは、セレンへの愚痴大会だった。

 

 何しろセレンの説法は移動中ずっと行われたのだ。

 これが牧師ならまだ聞きやすかったのかもしれないが、彼女は一教徒に過ぎず、そして話慣れているという訳でもなかった。故に、普通の演説として聞いても聞くに堪えない酷い物。

 

 面白くないし、知らない単語を連発するし、言葉の誤用も多々あった。

 察するに彼女の育ちはあまりよくないのだろう。

 

 それらが永遠ぶっ通しで八時間以上。

 さすがの千司の顔にも疲れが現れていた。

 

「明日は適当に話を逸らしてみるよ」

「頼むでござる」

「ぼ、僕からもお願い」

 

 そう言って会話に入ってきたのは辻本の友人でひょろがり眼鏡の富田だった。

 彼の座っていた位置はセレンの真横。無視しようにも無視できず、永遠苦行を味あわされた哀れな男である。

 

「悪いな富田。頑張るよ」

「ありがとう」

 

 感謝を受け取ったことで、ひとまずはセレンへの愚痴が収まった。

 千司はこの機を逃すまいと『偽装』でバレないように肉を懐に忍ばせてから立ち上がる。

 

「どうしたの千司」

「ちょっとお手洗い」

 

 せつなの質問に答えながら千司は集団から離れ、そのまま人気のない幌へ。

 荷物置きに放置された一つの鞄を開けると、そこから顔をのぞかせたロベルタに持ってきた肉を与えた。

 

「うむ、ご苦労なのじゃ」

「どうだ、気分が悪くなったりはしてないか?」

 

 ロベルタはのそのそと起き上がりながら、受け取った肉を頬張り答える。

 

「ちょっと酔ったのじゃ。まぁ、眠れば治ると思うのじゃ」

「それならいい」

 

(なんだかこうしてると、こっそり犬を拾ってきた小学生の気分だな)

 

 むしゃむしゃ肉を食らうロベルタの頭を徐に撫でる。

 サラサラの髪であるが、洗われていないのでかなり傷んでいる。と言っても、千年以上風呂に入っていないのにこの程度で済むわけもないので、おそらくあの魔法陣が何かしらの影響を及ぼしていたのだろうが。

 

「なんじゃ?」

「気にするな」

「わかったのじゃ」

 

 ロベルタが食い終わるのを待ちながら千司は来た道を見据える。

 当然街灯などはなくかなり薄暗いが、本日は快晴。雲一つない空から青い月光が降り注ぎ、薄ぼんやりと周囲を照らしていた。

 

「にしても、案外進まないものなんだな」

「ん?」

「馬車だよ。……でも、それもそうか。いくら馬でも人載せて隊列組めば移動距離も限られるか」

 

 千司の予想では進んだ距離は五十キロ行くか行かないか。

 

 魔法学園までの地図は見たことあるが縮尺が正しいかどうかの判別がつかなかったため無視していたが、見える景色と地図の情報から照らし合わせて、現在地は三分の一にぎりぎり届くか届かないかと言ったところだろう。

 

(てことは王都と魔法学園の距離は大体百五十キロってところか。迂回路もあったから直線距離ならもっと短い。……走れば数時間で行き来できるんじゃないか?)

 

 日本に居た頃ならまず無理であるが、今は勇者の肉体である。

 やってやれないことはなさそうだった。

 

「けぷ、美味かったのじゃ」

「そりゃよかった。んじゃ、俺は戻るから」

「うむ、ご苦労なのじゃ~」

 

 手をひらひらと振るロベルタを置いて、千司は皆のところに戻ってくる。

 

 戻った瞬間、右腕にせつな、左腕に文香がそれぞれ当たり前のように抱き着いてきた。千司は既に慣れてしまったが他のメンツは違う。

 

 辻本と岸本、富田の三人は苦笑を浮かべ、新色はジト目で千司を睨みながら頬を膨らませていた。

 

「ふむ、セレン殿ではないでござるが、こうも目の前でハーレム糞野郎されてると流石に思うところがあるでござるな。拙者も召喚されて当初はチートハーレムに憧れた身……こうなれば魔法学校に出会いを求めるしかないのでは?」

 

 辻本のぼやきに岸本と富田が「それだ!」と口をそろえて同意を示す。

 

「おい勇者。それでいいのか?」

「「「お前が言うな」」」

 

 まったくもってその通りである。

 

(まぁ、俺は勇者じゃないんだけどねぇ~)

 

 

  §

 

 

 二日目以降はセレンにこの世界の地理や騎士団の仕事での思い出などを質問することで、どうにか説法を免れた。それと同時に、適度に相槌を入れて彼女を持ち上げると、徐々に笑みを見せるようになった。

 

 それでもせつなと文香が千司に抱き着こうとすると眉を顰めていたが、千司が強要していることではなく、二人から行っていることだというのが何となくわかったのか、三日目になるともう何も言わなくなっていた。

 

 そうして三日目の夕方——千司たちはついに魔法学園のあるレストーの町に到着した。

 

 町に入り幌馬車から降りると、風に乗って潮の香りが鼻孔を擽る。

 

 レストーは海に面した町である。建物の形などは王都の物とそう変わらない物の、使われている材質は潮風に強い物を選んでいるのか若干異なっていた。

 

 町の中にはいくつか巨大な水路が流れており、その中を悠然とゴンドラが移動している。

 

「なんか、こういう町あったよね」

「あぁ、確かヨーロッパの方の……ヴェネチアだったか?」

「私も知ってる! 綺麗なところだよね!」

 

 せつなの疑問に答えると、反対側から文香の元気な声が返ってきた。

 彼女はそのまま腕に抱き着き、続ける。

 

「元の世界に帰れたら一緒に行こうね、千司くん」

「……は? 私が行くから。千司との新婚旅行で私が行くんだから」

「……新婚旅行?」

「なに」

 

 いつものようにバチバチと火花を散らし始める二人。

 千司は手を叩いて注目を集めると二人の手を取って歩き出す。

 

「はいはい、言い合いは後にしろ。置いていかれるぞ」

 

 前を向けば勇者一行はかなり先に進んでいた。

 最後尾の辻本が「早くするでござる~!」と呼んでいる。

 

「千司が言うなら」

「うん、わかった」

 

 素直に従う二人を連れて、辻本たちの後を追う。

 しばらく町並みを観察しながら海の方へ向かって歩いていると、しばらくして魔法学園に到着した。

 

 魔法学園は海沿いに建てられた広大な施設であった。

 

 校内は高校というよりは巨大な大学のキャンパスに近く、事前に聞かされていた情報によると、敷地内には校舎の他に訓練場、闘技場、そして全校生徒が寝泊まりする寮などがあり、他にもさまざまな施設が併設されているらしい。

 

 精緻な装飾が施された学園の正門の前で待っていると、少しして左目にモノクルを付けた初老の男性が現れた。

 

「ようこそ魔法学園へ、勇者の皆様。私はこちらで学園長をさせていただいております、フランツ・セッテンと申します。以後お見知りおきを」

 

 フランツと名乗った彼は軽く一礼。

 それに応えるように前に出てきたのはこの集団の実質的トップであるリニュだった。

 

「フランツ。久しいな」

「これはこれは剣聖殿。創立五十周年の祝賀会以来ですかな? またお会いできて光栄の至りでございます」

「うむ、そちらも壮健そうで何よりだ。王女がよろしくと言っていたぞ」

「はい、お任せください。我らが魔法学校のセキュリティーは万全ですので。それに、剣聖殿に加えて騎士団の方々もいらっしゃる。勇者の皆様には安全に、そして確かな成長をお約束できるでしょう」

 

 柔和な笑みを浮かべるフランツは、リニュとの社交辞令的な挨拶を終えると、千司たちに向かって少しばかり声を張り上げて伝えた。

 

「それでは皆さま、これから学生寮の方にご案内いたしますので本日はそちらでお休みいただき、長旅の疲れを癒してください。編入試験は明日の朝から執り行います。と言っても、編入自体は既に決まっていますので、あくまでも試験は皆さまの実力を測るだけ。緊張せず、今の実力をお見せいただければそれで構いませんので。……それではどうぞこちらへ」

 

 そうして、千司たちはそれぞれの寮へと案内された。

 寮は当然男女別。寂しそうな表情を浮かべるせつなと文香に別れを告げ、千司が連れてこられたのは男子寮の角部屋だった。

 

「ふむ、まぁ悪くないでござるな」

「だな」

 

 隣に立っていた辻本の言葉に首肯を返す。

 男子寮は通常二人一部屋である。千司としてはプライベートの欠片もないこんな状況に嫌気がさすが、回避する方法はすでに知っているので数日の我慢であった。

 

 それよりも、と千司は鞄を肩にかけて扉に手を伸ばす。

 

「む、どうしたのでござるか?」

「いや、なに。ちょっと学校を見て回ろうかなと」

「なるほど。その鞄は?」

「ん~? 秘密兵器、まぁ楽しみに待ってな」

 

 そう言って千司はロベルタの入った鞄を片手に、部屋を後にするのだった。

 目指すは学内、ではなくレストーの町。

 目的はロベルタのお部屋探しである。

 

(三日間移動した後にこれは疲れるな……ロベルタじゃなかったらさっさと殺してそこらへんに捨ててたぞ)

 

 内心愚痴を吐きつつ、千司は鞄からロベルタを引きずり出してお部屋探しを始めるのだった。

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