クラス召喚された俺の職業が『裏切り者』だった。   作:赤月ヤモリ

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第22話 協力関係

「王国を、乗っ取る」

 

 突飛なことを口にする千司に、ラクシャーナ・ファミリーの面々は閉口。

 それぞれ困惑が先立つ中で、最初に声を上げたのはナタリアだった。

 

「本気か?」

「えぇ、もちろん」

 

 嘘である。王国を乗っ取るつもりなど欠片もない。

 乗っ取ろうと思えば乗っ取れないこともない(・・・・・・・・・・・)、と判断する千司であるが、やる意味は薄いと感じていた。

 

 仮に王国を乗っ取った場合、仲間になるのはラクシャーナ・ファミリーという事になるが、味方とするにはいささか力不足。

 

 国と組織という数の違いももちろんそうであるが、やはりライザやリニュと言った特出した力を有する戦士の存在が大きい。

 

 そういった意味では、ラクシャーナ・ファミリーは適当に使いつぶすのが丁度いいだろう。

 

 そんな寸感をおくびにも出さず、千司は堂々としたたたずまいで幹部とナタリアを睥睨。彼女は腕を組み、再度疑うような視線で尋ねる。

 

「そんなこと、本気で出来ると思っているのか?」

「むしろできない理由がないですね」

「……エルドリッチ。貴様は知っていたのか?」

 

 老紳士に視線を向けるナタリア。

 エルドリッチには幹部会に入れてくれと頼んだだけで、このことは教えていない千司であったが——老紳士は髭を擦り、千司を横目で捉えながら厳かに頷いた。

 

「私が連れてきたのですから、当然ですね」

「……そうか」

 

 と頷いたナタリアは、再度千司に視線を戻すと椅子に深く腰掛けて、徐にぱちんっと指を鳴らす。すると呼応するように、各幹部の護衛達が武装を解除した。

 

「面白い、聞くだけ聞いてやろう。ただし、それがあまりにも荒唐無稽と判断した場合、貴様には死んでもらう」

「仮にこの場の全員で殺しに来てもうちの護衛が対処してくれるとは思いますが……いいでしょう」

「その巫山戯た格好をしたイカレ女がか?」

「試しますか?」

 

 瞬間、歓喜の表情を見せるアリア。

 しかしナタリアは鼻を鳴らして首を振った。

 

「いい。部屋をこれ以上雌臭くされても叶わないからな。それよりも計画を話せ」

 

 こればっかりは本当に申し訳ないと内心で謝罪した千司は、ごほんっと咳払いを入れてから指を立てて語り出す。

 

「……わかりました。と言っても方法は簡単。『トリトンの絶叫』を使います。今もまだエルドリッチ殿が所有しているのでしょう?」

「えぇ、私と私の部下が保管、および管理をしております」

 

 その言葉にナタリアは視線を鋭くさせる。

 

「私はまだ、勝手に使用したことを許していないのだがなぁ」

「『トリトンの絶叫』を簒奪したのは私の策であり、管理を任されたのも我々だったはずですが」

「組織を慮れと言っている」

「失敬、上にしか立ったことがありませんので」

 

 素直に頭を垂れるエルドリッチを、ナタリアは面白くなさそうに睨む。

 これを見るに、ラクシャーナ・ファミリーも一枚岩ではないらしい。

 

「老害が……それでなんだ? ドミトリー、貴様はまさか『トリトンの絶叫』を使って王女の寝首でも掻こうとでも言いたいのか? 確かに王女の私室に転移は出来るだろう。が、そもそもあの王女は人間が敵う相手ではない」

「そんなことは百も承知。それに王女の首に興味などありませんよ」

「ならお前はどうやって王国を乗っ取るというのだ?」

「その力の一端をそぎ落として行けばいい」

「……あぁ?」

 

 のらりくらりと要領を得ない千司の言葉に、ナタリアは苛立たし気に口から煙管を取り、そのまま片手でへし折った。

 

「結局、お前の言いたいことはなんだ?」

「簡単な事、かつてエルドリッチ殿がそうしたように——王国貴族がそれぞれ所有する『ロベルタの遺産』をすべて簒奪する」

 

 ロベルタの遺産。

 世界に二十四個存在するそれらは、『トリトンの絶叫』を除く全てがそれぞれ歴史ある二十三の王国貴族家により、保管管理されている。

 

 ラクシャーナ・ファミリーが所有する『トリトンの絶叫』もまた、かつては王国貴族が所有していたものだが、盗賊により簒奪。話を聞くに、それらを指揮したのがエルドリッチなのだろう。

 

「はっ、そう簡単に奪えると思っているのか?」

「難しい事とは思いませんがね」

「エルドリッチが成功させたのはあらゆる条件がかみ合った偶然の結果だ。一つ盗まれたという過去が生まれたことで、他の貴族の警戒もさらに増している。いくら『トリトンの絶叫』を持っているからと言って、成功するとは到底思えないな」

「だから、今度は俺が指揮するんですよ」

「……あ?」

「忘れましたか? 俺はライザ王女を出し抜き、勇者を一人殺した人間ですよ? 魔導具を盗み出すぐらい大したことではありません。……そして、盗み終えればいよいよ王国を攻略します」

「だが、仮にすべてを収集したとしてあの王女に勝てる保証はない」

「勝つ必要はないでしょう。時間が立てば彼女はこちらに構っている余裕がなくなる」

「どういうことだ?」

 

 顎に手を当て思考を巡らせるナタリア。

 その姿を見て千司は内心でため息を吐いた。

 正直に言って、ナタリアは期待外れである。

 

 マフィアのボスという事で多少の教育は受けているのかと思えば、その様子は感じられない。頭の良さなら魔法学園のギゼルやリゼリアの方が優秀だろう。

 

 ギゼルは王国貴族で言わずもがな。

 リゼリアも偏りはあるが馬鹿ではない。

 

 おそらくこの幹部会の中で頭の切れる者はエルドリッチとフィリップぐらいなものだろう。

 

 そして千司の予想に応えるように、フィリップがナタリアに助け舟を出した。

 

「魔王討伐、ですか」

「えぇ、あの王女の実力なら間違いなく勇者と共に出張るでしょう。そこを襲えばいい」

「戻ってきた時はどうする?」

「帝国や共和国と手を取ればいい。魔王が消えれば次なる脅威は世界最強のアシュート王国となるのは必然。交渉のしようはいくらでもある」

 

 適当に嘯く千司であるが、事実本当にどうでも良かった。

 何しろそんなことをするつもりは毛頭ないのだから。

 

 そう、千司がラクシャーナ・ファミリーの力を借りてやり遂げたいのはただ一つ——ロベルタの遺産の収集である。

 

(約束は守ってあげないとね~、俺は優しいから!)

 

「なるほど、大尉殿もこれを聞かされドミトリー殿を呼んだ、と」

「そうなりますね」

 

 フィリップの言葉に同意を示すエルドリッチ。

 妻と娘を取られているからなのかは知らないが、手助けしてくれる分には文句はない。

 

(あれが、家族を大事にするような玉には見えないが……まぁいい)

 

「フィリップ、お前はどう思う?」

「試す価値はあるかと。まぁ、何はともあれ実際に一つ簒奪してもらい、その結果いかんで彼の策に乗るのも……まぁ、私は面白いと感じましたがね。何より大尉殿も動くのでしょう?」

「えぇ、私が推薦した人物ですから。当然お手伝いするつもりです」

 

 二人の言葉を受け、ナタリアは沈黙。

 何事かを考えるように熟考し、千司を見つめた。

 

「わかった。ならば実際に一つ奪い取って力を示してもらう。策を話せ」

「ありがとうございます。まぁ、詳しい戦力を把握しないと細かいところまでは詰められませんが——」

 

 そう言って、千司はナタリアたちに『ロベルタの遺産簒奪計画』の概要を語り始めるのだった。

 

 

  §

 

 

「では、失礼します」

 

 概要を話し、承諾を得た千司は会議室を後にする。

 その後ろにはつまらなさそうな顔で千司の肩に顎を乗せるアリアの姿。

 

 ぴったり頬をくっつけてくる彼女は、妙にいい香りを漂わせながら愚痴をこぼす。

 

「また殺せなかった」

「この会議で殺人を起こすつもりはなかったからこれでいいんだよ」

「よくない! 殺したい殺したい殺したい!」

 

 ぐにぐにと頬を押し付けてくるアリア。

 きめ細かでさらさらとした肌に一瞬女として意識してしまう千司。

 

 頭のおかしい彼女を意識したことに軽く自己嫌悪を抱いていると、ずっとここで待機していたのか、ミリナが現れてため息を零した。

 

「……やっぱりそういうご関係で」

「違う」

「そう」

「違うって」

「いいじゃん、えっちしよ」

「しないって」

 

 言い合っているとミリナは(おもむろ)にスカートに手を突っ込み——きらりと輝くナイフを手に襲い掛かってきた。が、その切っ先が千司の肌に触れることはない。

 

 いち早く反応したアリアが足で止め、そのままナイフを回収。

 

「……チッ」

「危ないなぁ、何やってんの?」

「失礼、手が滑りました」

「そりゃあ大変な滑り方をしたなぁ。……返してやれ」

「えっ、殺さないの?」

「今ここで殺しなんぞすれば、さっきの会議が無駄になるからな」

「そん……な……」

 

 まるでこの世の終わりと言わんばかりに膝から崩れ落ちるアリア。

 そんな彼女からナイフを受け取ったミリナはふんっ、と鼻を鳴らし千司を睨む。

 

「絶対殺す」

「無理だろうけど頑張れ~、まぁ、成功したらエルドリッチの家族もお前の婚約者も死ぬことになるんだが」

「どうせもう生きていないくせにっ」

「……ほう?」

 

 声を震わせながらもナイフをスカートの下に戻すミリナに、千司は片眉を上げる。

 そして、彼女の表情を観察しながら歩き始めた。

 

 いつまでも会議室の前で立ち話をするわけにも行かない。

 ひとまず来た時に案内されたエルドリッチの部屋に向かうと決め、崩れ落ちたアリアを無視して歩き出すと、ミリナが隣に。

 

 そして後方でのそのそとアリアが起き上り、ふらふらした足取りで付いてきた。

 

(おい護衛)

 

 と、思いつつ、千司は先ほどの話を続ける。

 

「それで、何故そう思った」

「お前が人質を生かしている姿を想像できない」

「なるほど。エルドリッチもそう考えてるのか?」

「大尉は……わからない。昔から考えを隠す癖はあったけど、最近は——お前と知り合ってからは特にわからない。……ただ、この話題に食いついてきたという事は、やはり――ッ」

「馬鹿か。勝手な勘違いでまた(・・)裏切られるのは面倒だからなぁ。まったく、こちとら誠実な取引を持ち掛けているというのに、お前らときたら」

 

 やれやれと首を振る千司に、ミリナの額に青筋が走る。

 

「まぁいい。雑魚が喚いて絡んでくる分には可愛いものだからな。よかったな、容姿が良くて。醜ければ殺してたぞ~?」

「私が、雑魚……? ただ強い護衛を連れてるだけの癖にッ」

「何とでも言え、ミリナ・リンカーベル。絡んでくるのも自由だが、重要な場面で邪魔はしないことだな。面倒だと判断すれば婚約者は即殺すし、お前も殺す。——おぉ! そうなればあの世で好きなだけイチャイチャできるじゃないか! いやぁ、俺は優しいなぁ!」

「そ、その時は私が殺していい? いい? いいよねドミトリー!」

「あぁ、もちろんだ!」

「いひっ、いひひっ。やった、やったやった!」

 

 醜悪な笑みを浮かべる千司とアリアに、ミリナは苦虫を嚙み潰したような表情で俯くことしかできなかった。

 

 それからしばらくエルドリッチの部屋で待っていると、会議を終えた彼が戻ってきたので、計画のすり合わせと、今後の動きの打ち合わせを行い……一通りの準備の確認が終わったので、千司とアリアはラクシャーナ・ファミリーの屋敷を後にした。

 

 

  §

 

 

 レップランドでの用を済ませた千司は、着替えさせたアリアを連れてレストーの街に戻ってきた。

 

 帰りも当然全力ダッシュである。軽く肩で息をする千司に対し、アリアは汗一つ流していない。彼女は街に入るなり周囲をキョロキョロ見回して「懐かしー」と呟いた。

 

 因みに彼女を連れ帰ってきたのはエルドリッチたちとのメッセンジャーになって貰うためと、レストーでとある仕事を頼みたいからである。

 

「宿はどうするんだ?」

「北区に当てがあるからそこ行ってみる」

「顔バレてたりしないだろうな」

「大丈夫、顔隠してる人間を相手に商売してる宿だから」

「……ならいい。が、気をつけろ。この街にはお前の元上司もいるんだからな」

「へーきへーき、そんなへまはしないからー」

 

 間延びした声を返すアリア。

 正直不安がないわけではないが、彼女は平素の態度に対しその仕事ぶりは優秀の一言に尽きる。ストレス発散のはけ口さえ用意すれば、ライカの次ぐらいには使い勝手の良い駒であった。

 

「殺す時は北区の人間か、街の外の旅人で我慢してくれよ。さすがに住民殺して警戒レベルが上がると色々面倒だ」

「いひひっ、そこで殺し自体を我慢してくれって言わないドミトリー好きぃ♡ ……ねぇ、ほんとにえっちしないの?」

「しない」

「殺さないからさぁ」

「……あー、それじゃあこの仕事が終わったらな」

 

 そんな死亡フラグ染みたことを口にする千司に対し、アリアは喜びを表現するかのように抱きつき、上目遣いにギザギザの歯を見せて笑う。

 

「いひひっ、やった、やったやったっ! 愛してるよ、ドミトリー」

「はいはい」

 

 軽く頭を撫でて、その容姿を『偽装』で変化させてから千司はアリアと別れる。

 北区へと歩いて行く彼女の背を見送り、千司が向かったのは大通り沿いの宿屋『遠方の海』――ロベルタが宿泊する宿であった。

 

 フロントに軽く会釈した後、千司は最上階の部屋へ。

 数度、あらかじめ決めていた回数扉をノックすると、覚えのある声が聞こえてきた。

 

「せん――メアリーか?」

「あぁ、入るぞ」

 

 中に入れば、そこには毛布にくるまる小柄なエルフ。

 どういうわけか彼女の頬には涙のあとがくっきりと残り、頬も痩せこけていた。

 

「む、また顔を変えたのか?」

「あぁ、訳あってメアリー・スーはもう使えないからな」

 

 因みに今の顔はドミトリー。

 部屋に入り誰の目も無くなったので、千司は顔を『奈倉千司』の物に戻す。

 

「それよりどうした。頬も痩けて……食事は?」

「食欲が湧かぬのじゃ」

「何故……それに何を泣いていた」

 

 千司の問いかけに、ロベルタは目元をゴシゴシと拭いながら抱きついてくる。

 そして、胸元に顔を埋めたまま――悲しみに染まった声で、告げた。

 

「うぅ……、シルフィの……シルフィの泣き声がするのじゃ」

「……シルフィ?」

「優しい、優しい子なのじゃ……はよう、はよう助けて、そして……やや子(・・・)を踏みつけにして生きる、この街の住民を皆殺しにするのじゃ……っ!」

 

(やや子……つまりは、ロベルタの遺産。シルフィと聞いて思い出せる遺産といえば『シルフィの右腕』だが……あれはこの町よりずっと北の領地の辺境伯が所有していたはず……いや、そういうことか)

 

 少し考え、一つの結論に達した千司は、即座に思考を切り替えて、目の前で泣きじゃくる幼い少女を慰めることに尽力するのであった。

 

(こいつの好感度は上げとくに超したことはないからなぁ)

 

「大丈夫、俺がみんなを、ロベルタの元に帰してやるからな」

「頼むのじゃあ……」

 

 ロベルタが泣き止むのを待ってから千司は計画が順調なことを告げ、彼女に追加の資金を渡して魔法学園への帰路につくのだった。

 

 そうして、長い休日が終わる。

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