魔槍を継ぐ者   作:ゴリリッチ

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島津寮には、増築工事が行われておりますので悪しからず













入寮

 川神市に存在する、川神学園。

 一番上のSクラスからA~Fといった具合に分かれており有数のマンモス校。

 同時に、川神市には川神院があり武の聖地と呼ばれ県外からの進学者も多い学校でもあった。

 その為、学園周辺には複数の寮が存在している。

 

 その一つ、天然温泉も出る小規模な寮があった。

 

「ええっと…………これは、こっちに。こっちにはアレを……」

 

 段ボールの封を開けて、黒木一郎は荷解きを行っていた。

 104号室。ここが今日から、何事も無ければ三年間お世話になる彼の部屋。

 扉を開けて作業していれば、不意に近づく気配に一郎は顔を上げた。

 

「おっ、最後の一人が来たな!」

「えっと、こんにちは?」

「おう!俺は、風のような男、風間翔一!よろしくな!」

「はい。僕は黒木一郎といいます。よろしくお願いします、風間君」

「おっ!一繋がりだな!仲よくしようぜ、イチロー!」

 

 頭に赤いバンダナを巻いた少年、風間翔一は人好きのする笑みを浮かべて部屋に入って来ると一郎と肩を組んだ。

 

「聞いたぜ、イチローって遠い所から来たんだろ?」

「そうですね。九州の方から来ました」

「九州!あっちはあっちで良いよな。あったけーし、旨いものも多い!」

「風間君は、九州の方に行ったことがあるんですか?」

「おう!冒険ってのは、風の向くまま気の向くままに、ってな!」

「成程」

 

 快活に笑う翔一に、一郎は一つ頷いた。

 無邪気なタイプ。子供っぽいといえば聞こえは悪いが、裏表がなくそれでいて人を惹き付ける無自覚なカリスマのある人柄。

 現に、一郎も若干ながら絆されている。

 騒がしい翔一に相槌を返しながら一郎が荷物の整理を進めていると、新たな来客が。

 

「騒がしいな。何やってんだ」

「おお!ゲンさんじゃねぇか!」

 

 顔出したのは、目つきの悪い男子。

 威圧的な雰囲気もあり、初対面では相手を委縮させてしまう態度だろう。だが、生憎と一郎は相手の見た目や雰囲気だけで委縮するような軟な肝っ玉をしていない。

 ぺこりと顔を出した少年へと向き直って頭を下げた。

 

「初めまして、黒木一郎です。この部屋に今日からお世話になります」

「……おう。俺は、源忠勝。そっちの風間も言ったが、ゲンで良い」

「はい。よろしくお願いします、ゲンさん」

 

 にこやかな一郎に、忠勝は変な顔をする。

 自覚している事だが、己は人受けが宜しくない。そんな態度と見た目をしていると理解していた。

 だが、目の前の相手はそれが無い。不快に思った様子も怖がる様子もない。

 忠勝が逡巡する一方で、翔一が声を上げた。

 

「なあなあ!腹減らねぇか?飯食いに行こうぜ!」

「あ?……まあ、良いけどよ。他の奴は来るのか?」

「うーん……なんか、ガクトとモロは電車でどっか行ったらしいし、ヤマトは京に引っ張られて春バーゲンに行ってるっぽくてな。モモ先輩は連絡つかねぇ。ワン子は……どっか走ってるんじゃねぇか?」

「……まあ、良いか。新入りに街の案内位はしてやるよ」

「おっ、ナイスアイディアだぜゲンさん!っという訳で、これからイチローへの街紹介をしていこうじゃねぇか!」

「あ、はい…………良いんですか?」

「良いって良いって。暇してたとこだし」

「まあ、後々時間がねぇ時に色々言われても迷惑だしな」

 

 快活に笑う翔一に、ぶっきらぼうに腕を組む忠勝。

 良縁に恵まれた。一郎は今の自分の境遇に感謝しつつ、立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒木一郎の戦闘スタイルは、空手。より突き詰めるなら、暗殺武術とその他古流武術に空手という軸が存在している様なものか。

 師をして天才と言わせた才覚は、その一方で決して努力を怠らない。

 

「ふっ……ふっ……ふっ……ふっ」

 

 一定のペースで呼気を吐き出しながら、一郎は街を駆けていた。

 ただのランニングではない。ダッシュとランニングを交互に繰り返しながら行う高強度の心肺機能トレーニングである。

 一郎、というか彼の師匠の受け売りだが武術というのは高層建築に似る。

 どれほど優れた建造物も、その基礎が出鱈目であったのなら崩れるのは必定。故に、その基礎固めをどれ程の強者となっても続けるのだ。

 

 一時間未満のイカレタ疾走が終わり、寮へと戻ってきた一郎。その頬からは汗が一筋流れる程度で、疲れの色は欠片も見受けられなかった。

 両の扉を開ければ、ちょうどよく階段を降りてくる女子が視界に入る。

 

「おはようございます、椎名さん」

「おはよう、黒木」

 

 椎名京。現在、この島津寮に住んでいる唯一の女子生徒だ。因みに、女子部屋は二階であり三部屋空いている状態だったりする。

 

「直江君を起こして貰ってもいいですか?」

「当然。そのままお楽しみになるかもしれないけど」

「出来れば、朝食が完成するまでには来てくださいね」

「保証は出来ない」

 

 そう言って男子部屋の一つに消えていく京を見送って、一郎は自分の部屋へと向かった。

 着替えその他を手に、風呂場へと直行。汗はあまり掻いていないのだが、身嗜みの為にシャワーを浴び確りと体を拭きあげてから制服へと着替える。

 ジャージを選択籠へと入れて、その足で向かうのは台所。

 ランニングに行く前に浸けていた米の様子を確認して、スイッチオン。そこから、冷蔵庫に昨晩から入れておいた鍋を取り出して、火にかけつつ中に昆布を取り出す。

 

 本来、島津寮には寮母が居るのだが、だからといって住んでいる者達が何もしなくて良い訳ではない。

 一郎の場合は、料理。発端は入寮して二日後の事だ。夕飯を各自で調達する必要になり、そこで食事は体作りにも直結するからと自炊を申し出たのだ。

 結果として、食材の補充などを時折頼まれるがこうして食事を用意する事となった。当人も楽しんでいる節があり無理強いではない。

 

 現在、島津寮に入寮しているのは五名。そこに+αとして何人か入って来る事を加味して作る量はだいたい八人前程度か。

 余ったとしても、ご飯なら冷凍すればいい。何より、その想定は基本的に無駄足となる事が殆ど。

 

「おはよう、黒木ちゃん。今日も早いわね」

「おはようございます、島津さん」

 

 調理の手を進めていれば、着物姿の女性がやって来る。

 この島津寮の寮母である、島津麗子だ。

 女傑であり、主に平日の寮の管理は彼女の仕事となっている。

 

「無理しなくて良いんだよ?黒木ちゃんも、朝頑張ってるんだし」

「いやー……あはは。元々、実家でもやってたんです。急にやらなくなると僕自身、ちょっと違和感がありますから」

「まあ、良いなら良いさ…………うん、美味しいね」

 

 寮母に太鼓判を貰い、一郎は笑みを浮かべる。

 台所から良いニオイが漂う頃、寮の居間には寮生たちが集まっていた。

 

「はぁ……毎度のことながら、朝から心臓に悪い…………」

「そのドキドキのままに、手を出してくれても良かったのに」

「いや、そもそもそういう関係じゃないから」

「それじゃあ、そう言う関係に成ったら良いのね?大和、結婚を前提に付き合いましょ」

「お友達で」

 

 そっけない態度も素敵、と頬を染める京に対して、居心地悪そうにするのは直江大和。因みに、二人のやり取りが始まった時点で忠勝は台所へと向かい朝食の準備を手伝いに行ってしまった。

 

「うぃーっす。今日も朝からヤマトも京も元気だな」

「まあ、風物詩みたいなところはあるよね。寧ろ、やらなくなったら天変地異の前触れになるんじゃない?」

「ガクトもモロも言いたい放題言ってくれるな!?」

 

 今にやってきたのは、体格の良い男子と片目が隠れるほどに前髪の長い男子。

 島津岳人と師岡卓也の二人だ。因みに、岳人はこの寮の持ち主である島津家の人間であり寮母の息子に当たる。

 二人が来たところで、ちょうどお盆に料理を乗せた一郎が台所から出てきた。

 

「あ、おはようございます島津君、師岡君。今日はどうしますか?」

「俺様は、食べるぜ。黒木の飯は、筋肉に良いからな」

「僕は大丈夫。食べてきたからね」

「分かりました。それじゃあ、並べていきましょう」

 

 並べられていく料理たち。一郎が作る料理は、和食が中心となる。ついでに、割合的には豚肉を使った料理が多かった。

 程よい焼き加減の塩じゃけに、目玉焼き。サラダに昆布の佃煮。白いご飯に味噌汁が並んで朝食の完成となる。

 その配膳の中で、一郎は声を上げた。

 

「そう言えば、風間君は知りませんか?また、冒険でしょうか?」

「いや、キャップならそろそろ来るんじゃないか?」

「おっすお前ら!おはよう!」

 

 大和が答えると同時に、翔一が居間へとやってきた。その後ろからポニーテールの少女も続く。

 

「おっはよーう!良いニオイがするわね!」

「おはようございます、一子さん。朝ご飯いりますか?」

「ご飯大盛りが良いわ!」

 

 元気一番の彼女は、川神一子。“武神”川神百代の妹である。

 島津寮の朝は、だいたいこの面子となる。ここに百代が来たり、翔一が冒険で席を外したりするが、それ位か。

 

「では、いただきます」

「「「「「「いただきます(まーす)!」」」」」」

 

 これが、寮の朝の一幕である。

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