腹ぺこ少女は夢を見る   作:黎川暁明

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既に通算UAが600を超えました。皆さま、読んでくださりありがとうございます。感想、質問、どしどし書いていって下さい。いつかのタイミングでグラトナの外見も絵にしてみたいな〜

今回短いです、ごめんなさいね。
軽く読めるぐらいで頑張っていきたいです。


第三話

 夜の森は、夜の海よりもずっと暗い。

 夜空に瞬く星の光も、冷たく照らす月の光も、木々に遮られて届かない。光の代わりに漂うのは湿った土と獣臭、そして血の匂いだ。

 そんな森の中にグラトナは居た。彼女は、寒さのあまり朽ちることなく積もっていた落ち葉の上にしゃがみ込み、先ほど狩ったばかりの老いた野犬を喰っていた。と、獣が耳をそうする様に、ピクリと肩を揺らした。

 舌で口元についた赤黒いものを舐めとる。満腹ではない。けれど腹の内から喚く“飢え”は、さっきよりも静かだ。

 

――まだたりない。

――まだ、わたしはよわい。

 

 海辺で見た巨大な影が脳裏をよぎる。グラトナは海から離れる前に振り向いて海を眺めた。そのわずかな時間に海の中を駆けて消えた影。それが何かは知らなかった。だが、思考する前にグラトナは理解した。

その謎の生物が持つ底知れない強さをグラトナに理解させるのに十分だった。

 

「アレをたべるには、わたし(グラトナ)は弱すぎる」

 

 それは理屈じゃなく、本能が叩きつけた警告だった。

と、森に一筋の風が吹いた。ふと風が吹いた方向を向けば、落ち葉の山の奥で別の生き物の気配が跳ねる。

 

 グラトナは微かに口の端を持ち上げ、小さく息を吸う。獣の匂い。生きている匂い。獲物の……匂い。

 

「……ごはん」

 

 次の瞬間には駆けていた。足は落ち葉の下にある大地を踏み締め、闇を裂くように前へと進む。獣も逃げる。だが、逃げるという行為は“食べられる側”の証拠だと、幼い彼女は本能的に理解していた。森を抜け、月光の元に二つ影が跳ねる。

 大きく跳ね、飛びつく。獲物の頭を地面に叩きつけ、捕らえる。獲物が悲鳴を上げる……寸前に喉元に噛みつく。

 

 数秒獲物は暴れたが、すぐに静かになった。まだ熱いそれを、小さい口を精一杯大きく開けて食べていく。最後に残った赤い水溜りと白い骨の上で、グラトナは天を仰いだ。

冷たく光る月と、静かに瞬く星が、グラトナを見下ろしている。

 

「……足りないな」

 

 小さく息を吐いて、グラトナはそう呟いた。多少静かになっても、腹の奥で“飢え”はまだ騒がしいままだ。

 量の問題だけでもない。もっと大きいもの、もっと速いもの、もっと強いもの。そしていつか、もっと“おいしいもの”。全部、食べたかった。

 

 世界にある全てものは、全部他のナニカのエサ、ゆえにいつかグラトナ自身もナニカに食われるだろう。

 それが怖いとは思わない。ただ、強くなって食われる前に食う。それだけだ。

 

「……もっとつよくなる」

 

 幼い声が、夜闇に溶けて消えていく。グラトナは再び歩き出す。新たな獲物を求めて、飢えを満たすために。

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