幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

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第1章 中佐
第1話 どうしろってんだ


―――ここは、どこだ?

 

目覚めたのは、見知らぬ森の中。

 

(…俺は、誰だ?)

 

何故ここにいるのか、そもそも俺は誰なのか。それすらも理解できない。

記憶喪失―――そんな言葉が浮かぶ。

 

「………いや、それはおかしい」

 

本当に記憶喪失だというのなら、()()()()()()()()()()()浮かぶはずないだろう。言葉とその意味を理解できたということは、俺が記憶喪失だということは無い。なにより―――

 

「使い方を、覚えてる」

 

腰のホルスターから抜いた拳銃(ベレッタ)…この使い方はしっかり理解できている。そして…

 

「グゥルルル…!」

「………」

 

―――野良妖怪。人を食料として襲いかかる存在。

目を覚ます前にコイツが俺に気付いてたら、俺は食われていたのだろう。

 

「ガァッ!!」

「ちっ…!」

 

どうやら人語を解さない…いや、解するのかもしれないが俺を食料としてしか見ていないらしい。

敵意剝き出しのまま俺に駆け寄ってくる!迷う時間など無い!!

 

「悪く思うな、正当防衛だ」

「ギャッ!?」

 

バックステップしつつ安全装置を解除、そのまま目を狙って2発連射!!

俺の腕は相当良かったらしい、見事に両弾共に野良妖怪の眼球を潰した。しかし俺も二足歩行の獣にしか見えない野良妖怪を甘く見ていたことで。

 

「ガァァァッ!!」

「っ!?ぐっ…!」

 

反撃…盲撃ちの形だったため直撃は辛うじて避けたが、2発撃たれた光弾の片方は左腕を掠めた。それでも服の袖の一部を蒸発させ腕に軽い痛みが走る。さっさとトドメを刺さねえとな…!

この程度なら、俺一人で片が付けられる。視覚を失いただ暴れるだけの野良妖怪の攻撃範囲から外れつつ、詠唱…!

 

『我が求めに応え、落ちよ雷』

「ゴォアァァァッ!!」

 

雷撃魔法。拳銃(ベレッタ)と同じく、俺の攻撃手段として()()()()()力。

落雷の直撃を受け黒焦げになった獣の野良妖怪は、断末魔を上げながら地に倒れ伏した。

 

「…窮地は脱した、か?」

 

少なくとも俺が感じる限り、別の気配はない。だがこんな晴れた中落雷の魔法なんざ使った以上、視覚的にも聴覚的にも目立っただろう。

連戦になる前に、少しでも現状を把握すべく…俺のものだと思われる地面に転がっていた鞄を拾い上げ中を確認する。今の交戦で消し炭にならなかったのは運が良かった。

 

中身は携帯食料に空の水筒、予備の銃弾に鞘付きのアーミーナイフ。そして折り畳み式手鏡と歯ブラシに魔力回復薬が入っていた。最低限のキャンプ用品ってところだろうか。

そして折り畳み式の手鏡を覗き込んだとき、俺は顔ではなく襟に視点が引き寄せられた。

 

「…階級章」

 

唯一と言っていい、俺自身の情報だろう。これが()()()()()()だということは、ハッキリと覚えていた。

そしてこれが引き金になったのか、俺の目標がフラッシュバックする…!

 

 

 

『この理想郷の、支配を』

 

 

 

その声を思い出したと同時に、高速で近付いてくる魔力を感じ。

それはすぐに俺の前に降り立った。

 

「おっ?これは面白そうな奴を見つけたぜ!」

(…いや、無理だろ)

 

降り立った金髪の少女は、俺よりずっと上の魔法使いだった。

 

 

 

 

 

それに気付いたのは偶然だったんだぜ。今日は人里の有名な和菓子屋の創業記念日でちょっとした安売りになるから、朝イチでひとっ飛びして名物饅頭と日持ちする焼き菓子を買って帰るところだった。こういう日を忘れてたりするから霊夢は抜けてるんだよなー、早苗と妖夢は来てたし。もっとも妖夢は点数限定の表示を見て顔を青くしてたけどな。幽々子に要求された量を一人で買われちゃ即売り切れになるぐらいもうわかるだろうに。

 

そんなこと思いながら飛んでた帰り道。地上からダンダン!!って聞き慣れない音が聞こえたと思ったら、その音がした方向で落雷魔法が使われたんだぜ。スペルカードに組み込むには向かない魔法系統だからかなり気になって、最高速でその魔力反応に向かう!そして辿り着いた先には、黒コゲの死骸と見慣れない服装の男がいた。

 

「おっ?これは面白そうな奴を見つけたぜ!」

 

―――これが、新しい異変の初まりだった。

 

 

 

 

 

…下手に逃げた方が不信感を持たれる。そして俺にも理解できる言葉を話した。

だから俺は、対話を試みることにした。

 

「…魔法使いだよな?少し話をさせてもらえないか?」

「おう、構わないぜ。そいつはお前がやったのか?」

「ああ、正当防衛のつもりだったが…マズかったか?」

「いや、野良妖怪ならいいんじゃないか?霊夢は『仕事取るんじゃないわよ!』ぐらいは言うかもしれないけどな」

 

霊夢…やはり覚えがない。そして目の前の少女にも覚えがない。そして反応を見る限り、彼女も俺のことは知らないようだった。

…弱ったもんだな。こんな明らかな不審者を見逃してもらえるかどうか…上手く誤魔化せる気がしない。

 

「それで、お前は?魔法使いらしいが、初対面だよな」

「そうらしい、俺は【中佐】だ。

…信じられないのは重々承知で言うが、俺の記憶にはかなり欠落があってな。失礼なことを言うかもしれんが許してもらいたい」

「は?記憶の欠落だあ?」

「ああ、今そこの獣を始末するような【戦闘に関する記憶】は頭も体も覚えてる。だが自分の名前だとか、ここが何処なのかとかが思い出せない。

…君の知る限りで、こんな風に【記憶の一部分だけを奪う魔法】ってのに心当たりはあるか?」

「んー…どこまで信じていいんだか。まあ、そういった魔法もあるとは思うぜ。それこそ使用制限がかけられても不思議じゃないレベルの高位魔法になるけどな。

でも、お前自分のことチュウサって言ったじゃねーか。名前を覚えてないなんて嘘ついてんじゃねえよ」

「中佐は俺の名前じゃない、この階級章から俺は中佐だったって判断したんだ」

 

襟の階級章を指差して会話を試みる。野良妖怪と違って問答無用で攻撃!とはならなかったが、いつそうなってもおかしくねえ。回避行動にだけはすぐ移れる体勢で彼女の言葉を待つ。

 

「階級章?よくわからねえけどそれさえあればお前のお仲間の判別は付くってことか?」

「そうだな…少なくとも将官・佐官・尉官の階級章は覚えてる。この服も階級章が付いてる以上制服だろうしな」

 

ここで左腕の掠り傷を思い出し、あえて彼女の目の前で行使する。詠唱無しで回復魔法を扱えることを見せる…ヒーラーとして利用価値があることを示すのだ。役立たずではないってことを理解してもらえれば、生かしてくれる可能性もあるはず…そんな淡い希望だ。

 

「へえ、回復魔法も使えるのか。それ系統で自分の記憶を戻す魔法は覚えてないのか?」

「………駄目だな。行使できるのは中位回復魔法ぐらいまでで、そんな高位魔法は使えそうもない。

雷撃魔法もさっきのが最大火力だ。死にたくなかった以上手加減なんてできねえからな」

「ふーん…」

 

…少なくとも【まだ】敵意を持ってはいないようだ。俺が思い出してしまった【支配】という目的…これを隠し続ければ見逃してくれる可能性はまだゼロじゃない。だが逃走を計れば逃げ出す理由があったとして処分されてもおかしくない…

彼女が俺に対して、どう対応してくれるかだ。

 

「…パチュリーに聞きに行ってレミリアに気付かれると、こんな面白そうな奴絶対に確保するよな。聖って手もあるが寺に着く前に見つかって自警団あたりに追われると面倒だし…となると距離も近いしあいつだな」

 

何やら小声で考えをまとめていたようだが、結論が出たらしい。

 

「いいぜ、面白そうだから信じてやる。だから私の知り合いの魔法使いのところまで付いて来いよ。

もしかしたら私より詳しいことがわかるかもしれないぜ?」

「…君より上のレベルの魔法使いがまだいるのか?」

「実力で負けてるつもりはないぜ!ただ私は【普通の魔法使い】だからな、貴重な魔導書とか高位魔法の術式とかはまだ会得してない方が多いんだよ。アリスは強力なコネがあるから、そういった資料を持ってたりするかもしれないぜ」

「…アリス、か。やっぱ俺含む人間関係の記憶は全く残ってないみたいだな。

君に並ぶほどの魔法使いなら有名だろうが、全く思い浮かばない」

「それこそ私も結構名は売れてるんだぜ?知らないのか?」

「すまない、心当たりがまったくない…

 君の名を教えてもらってもいいか?」

「霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ。名字で呼ばれたくないから魔理沙って呼びな」

「そうか…信じてくれてありがとな、魔理沙。よろしく頼む。

 飛行魔法は覚えてる、速度は追いつけないかもしれないが…案内を頼んでいいか?」

「そうこなくっちゃな!いいぜ、付いてこい」

 

切り抜けた、少なくともこの場は。

支配だなんて俺には無理な目的だが、生き延びるためには情報収集は必須。案内してもらえるなら断る理由がない。

なにより、階級章がある以上俺にも【同僚】がいるはずなのだ。まずはそいつらとの合流を図るべきだろう…俺が誰なのかを、知っている可能性が高いのだから。

 

箒に乗って飛び上がった魔理沙を追って、俺も飛行魔法を行使する。問題なく作用した魔法で、魔理沙の背中を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まったく、どういうことかと思ったら。これが奇術のタネってこと?」

 

幻想郷に()()存在してはならないモノ。それが立て続けに二機も急に現れた。即座に私が対処に向かい、片方を処分したとほぼ同時に二機目が出現。謀られた!?と一瞬焦ったけれど、藍が即座に対処に向かってくれただけでなく隠岐奈も二童子を引き連れて出張ってくれてたわ。流石にこれは隠岐奈も私に任せっきりには出来ないと判断したようね。

 

早速スキマに入って藍と隠岐奈たちに合流。

 

「紫様、お疲れ様です」

「紫が謀られるとは珍しいな、平和ボケか?」

「藍が対応してくれたのだからそう言わないで頂戴。これでも冬眠明け早々に急行したのよ?」

「ええ…もう春告精が見当たらなくなるぐらいですよ紫様」

「まあ…梅雨はまだまだ先でしょうけれど」

「言われてるぞ、紫」

「舞も里乃も言うようになったわね…」

 

冬眠を知らないから好き勝手言えるのよ。冬眠から起き出す苦痛は本当に辛いんだから…お布団が全力で引き留めてくる。下手な大妖怪よりずっと強敵だわ。

 

「それで?どういうことだ紫。()()()()()の侵入を許すとは」

「侵入されたわけじゃないわ、博麗大結界も何一つ変化なし。

 そして、元凶はこれだったわ」

 

奇術のタネを隠岐奈に見せると、すぐに納得したようで。

 

「そういうことか。

 舞、里乃。墜落地点を捜索して同じものを回収してこい」

「えっ…こんな小さいのを!?」

「ちょっと時間はもらえますよね…?」

「橙、来い」

「何でしょう藍さま!」

「舞と里乃に協力して、これと同じものを探し出せ」

「お任せください!」

「見つけたのが橙だったら現物は舞か里乃に渡しなさい。再利用されることはないと思うけど、この異変が解決するまでは私と隠岐奈で1つずつ預かる方がいいでしょう」

「わかりました!」

「そうだな、元がこれなら我らが直接介入する必要はない。もっとも、6つほどあまり表に出したくないのもあるが…」

「それぐらいなら目撃されても問題は無いわ。異変解決はいつも通り…人間に任せましょう」

 

少なくとも、この2つだけ再利用されなければ異変で片付けられる範囲だわ。後は霊夢に任せましょう。




最低限の情報は出しましたが、主人公について今回だけで察せた読者様は凄い。
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