幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

10 / 15
第10話 作戦目標

「他に意見がある者は?」

 

俺が引き下がったと判断した大将が再度全軍を見渡す。すると俺に触発されたのか、さっきは反応を返さなかった女性少尉が声を上げる。

 

「自分からも、よろしいでしょうか?」

「発言を許可する。なんだろうか少尉」

「…その。無駄死にを出してしまったという作戦の内容を、聞かせていただけませんか?

少しでも敵の情報を得るために。どのように戦死したのかなどを、わかる範囲でいいのでお聞きしたいです」

「そうだな…私の甘い見通しで出してしまった戦死者だ。責任を認めるためにも把握していることはすべて話そう。

中将と共に合流してくれた皆には確認していないが、我々に支給された装備は最低限でしかない。特に食料が長期の作戦行動に耐えられるような量ではなかった…中将たちの中に、食料に余裕がある者はいるか?」

 

俺含めた5人が首を振る。それを確認した大将は言葉を続ける。

 

「そしてタンクの回収にそれなりの魔力を使ってしまった。先ほど説明したが、ヒコーキは私が確認できたとほぼ同時に迎撃・撃墜されている…故に戦力として確保するために私が空間移動魔法でここに移動させたのだ。その結果魔力回復薬を作戦に参加した内4名に支給された分を私が服用した。

…そのため、食料と魔力回復薬調達のため、人里からの略奪を行う部隊を編成し向かわせたのだ」

「大将閣下ともあろうものが、略奪などという作戦を命じたのですか!?」

「閣下の立案ではない!現場の指揮を執った少将が立案した作戦だ!!」

 

俺らを先導してくれた女性大佐が思わずといった体で非難の声を上げたが、大将に絶対の忠誠を誓っているらしき女性大尉がその言葉を怒声と共に遮る。大佐も失言だと理解しているらしく押し黙る。

大将よりあの大尉の方が離脱に関して問題になりそうだな。大将に堂々と意見した際には憎悪にも近い視線を向けて来たのが彼女だ。まず間違いなく俺を警戒し、監視するだろう。

 

「立案が戦死した少将だとしても、それを認め出撃させたには私だ。大佐の非難は受け入れる…だが、先に言った通りこれ以上戦力を減らすわけには行かないのだ。大尉は矛を収めてくれ。大佐も我々の現状を考慮してもらいたい」

「了解です、閣下」

「…了解」

 

大将の言葉で大尉は再び曇りなき瞳で大将を見つめる。大佐はそれ以上何も言わず引き下がる。

…軽く視線だけで様子をうかがったが、俺どころか大佐レベルの不満を持つ人員すら少数らしいな。少なくとも俺と大佐の反応に共感してくれそうなのはたった一人。騎兵ちゃんに途中から同行した中将と中尉を加えても4名しかいない。

反逆して中将をトップに据え、俺らの裏にいる方を叩く方針に軌道修正するってのも難しそうだ。

 

(…それでも、彼女とは後で接触する時間がほしいところだな)

 

俺に次いで大将に意見を出した女性少尉。

意見を出しただけあって、このまま幻想郷に攻撃を仕掛けるのに乗り気じゃないってことだろう。離脱の成功確率を少しでも上げるために引き込みたいところだが…

 

「だが、伝えた通り作戦は失敗…それどころか全滅だ。中佐と騎兵も巻き添えだろう?本当にすまなかった」

「謝罪はすでに受け取りました、話を進めてください。

時間も惜しいと愚考します」

「は、はい。わたしも逃げ切れたので気にしていません」

「気遣いに感謝する。

そしてこの惨敗は、敵軍の精強さも示している…それゆえ、我々はこれより全軍で敵総大将の首を狙う。

―――作戦目標は、博麗神社。補給が望めない以上、無駄な時間を過ごすことも出来ん。決行はこれから30分後、それまで各々身体を休めてくれ」

「「「はっ!!」」」

 

女性少将と女性大尉、男性工兵がその言葉に素早く敬礼を返す。

…騎兵ちゃんとの関係を聞いておきたかったんだが、奴は大将狂信派らしい。俺から接触するのは避けるべきか。

 

「博麗神社侵攻作戦の詳細はすでに私と少将で詰めているが、意見のある者は私の元へ。中将は申し訳ないが休息前に時間をくれ、修正すべき部分がないか意見を聞きたい」

「御意」

 

そして中将は大将に名指しされ軍旗の下に置かれた簡易机へ向かう。同時に皆が直立不動の体勢を崩し、ひと時の休憩時間を取るべく自由に動き始めた。

 

―――まずは、確実な味方のフォローからだな。

 

「すまない、騎兵ちゃん。俺の意見は通らなかった」

「あ、謝らないでいいですよ。大将閣下のお話を聞いて、ちょっと怖くなっちゃいましたし」

 

振り返り騎兵ちゃんに頭を下げる。だが騎兵ちゃんはあまり気にしていないようで。

 

「中佐さんがわたしの背中を守ってくれるだけで大丈夫です。わたしも中佐さんの背中を守りますから!」

「そうか、ありがとな」

 

何も変わらない笑顔で返してくれた。俺は本当に出会いに恵まれてるな。

…だが、そんな暖かい感情に水を差す奴もいて。

 

「馬鹿者が。守るべきは大将閣下だ。

この不届き者のために働くなど労力の無駄だ。貴官は修正が必要だな」

「なっ…!?」

 

不機嫌な声に振り返ると、大将狂信者筆頭のらしい女性大尉が騎兵ちゃんに侮蔑の視線を向けていた。

…流石に不快だな。とっくに目立っちまった以上、俺の立場をハッキリさせとくか。

 

「修正なんざさせるかよ」

「がっ!?」

「ちょっ!?中佐さん!?」

 

問答無用でボディーブロー叩き込む。俺がこうも簡単に手を出すとは思ってなかったようだな、舐められたもんだ。騎兵ちゃんの慌てた声が後ろから聞こえるが、コイツには余計なことをしねえように牽制を入れておく必要がある。

油断して屈む格好になった大尉に続けて踵落としを叩き込み、そのまま顔を踏みつけて冷たく言い放つ。

 

「騎兵ちゃんは俺の命の恩人だ。修正するってんなら俺を潰してからやってみやがれ」

「き、キサマぁっ!!ぶっ!?」

 

顔を踏みつけられてもうるさく喚いたので、地面にめり込むよう体重をかけて黙らせる。だが流石にこれは周囲もマズいと思ったらしく。

 

「止めんか中佐!!」

「止めろ、中佐」

「やりすぎっす中佐!」

 

女性大尉とほぼ同時に大将へ敬礼を返していた女性少将と、俺らを先導してくれた大佐、短い時間だが同行していた中尉が俺を引き剥がそうとする。だから俺は少将に向けてハッキリ言い放つ。

 

「大将閣下がこれ以上の戦力低下は避けるべきと仰ったのに、コイツは独断で修正を加えようとした。

そんな命令無視する下級士官は戦場に連れてくべきじゃないでしょう?フレンドリーファイア上等で戦いかねない」

「……貴官の言う通りだ。だが貴官も理解しているだろう、これ以上の戦力低下は防がねばならん。

大尉は私が責任をもって監視する。大尉を放したまえ」

「了解。監視、しっかりお願いします少将」

 

よし、言質を取った。大尉の顔から足を離すと、男性工兵が慌てて埋まった顔を掘り出した。

 

「…ぶっ!き、キサマ…!」

 

口から血と泥を吐き捨てながら、憎悪の籠った視線を向ける大尉に回復魔法をかける。

 

「こんなことで魔力を使わせるんじゃねえよ。戦力不足なんだからな」

「大尉、中佐の言う通りだ。余計な行動は慎むように」

「―――っ!!

了解っ………」

 

そのまま呆れ顔で少将は俺に背を向ける。大尉も自分寄りの立場だと思っていた少将の叱責で分の悪さを理解し引き下がる。

…案外少将も甘いな、俺にお咎めなしとは。このあたりを見ると、俺らは軍人なんて名ばかりだな。まともな軍なら俺と大尉双方に処分がある、どれだけ戦力不足であろうとだ。

おそらく、俺らを生み出した黒幕は軍というものを理解していない。記憶を失わないらしい阿求が【丸暗記した知識】なんて表現してたことを考えると、ここ幻想郷に軍を持つ有力勢力は存在しないということだ。そして、黒幕も阿求と同程度の理解しかしていない―――すなわちそいつも()()()()()()って可能性が高い。

 

「ちゅ、中佐…嬉しいですけどやり過ぎですよ」

「即効性を考えてあえてここまでやった。俺が真っ先に大将閣下に意見した時点であの狂信者に目を付けられるのは確定、なら『隙を見せたら俺も後ろ弾を撃つ』って示しときゃ周囲が止めに入らざるを得なくなる…戦力不足はここにいる全員が理解できてんだ、これ以上俺と大尉が無益な争いをしないよう配慮してくれるだろうよ」

「…そこまで考えてたんすか。中佐、頭いいんすね」

「逆効果になる可能性もあった、そこは考慮しなかったのか?」

「いくら何でも大尉みたいな自己中が何人も軍人を名乗ってるなんざ思いたくもない…あんなのが多数な軍じゃ寄せ集めのゲリラの方がまだマシです。そこを理解してるからこそ、少将も俺をお咎めなしで見逃してくれたんでしょう。

事実として俺たちは寄せ集めの軍でしかない、なら統制強化と軍人としての自覚を持たせるために利用してくれるだろうと予測してました、大佐」

 

周囲にも聞こえる程度の声量で言ってやる。大尉は俺に背を向けたままだったが、遠目にも怒りで肩を震わせてるのがわかった。完全に利用された挙句屈辱的な役回りを押し付けられたんだから怒って当たり前だが、切っ掛けを堂々と自分が与えてる以上何も言えないワケだ。周囲も同じく狂信派だろう男性工兵以外は遠巻きにするだけでフォローしようとしない…俺のように不満を隠さない同僚であっても、今の状況で個人的な修正を行うのはマイナスにしかならないってことは理解できている。突っかかって来た大尉以外は。

 

「…私よりずっと場馴れしているように感じるな。中佐、頼りにさせてもらう」

「場馴れというより協力者による情報提供のおかげです。俺以外に反対意見が出なかった以上、現地住民と協力体制を取れたのは俺と騎兵ちゃんだけってことでしょう。

幻想郷の戦力と住民の好意を知っていれば、俺らを派遣した方に敵意が向くって考えは変わりませんから」

「なんかうらやましいっす。僕も現地住民と話してみたかったっすね…」

「辛くなるだけだ。正直、俺を助けてくれた相手と鉢合わせないことを祈るしかねえのはキツいぜ?」

「…覚悟、決めてるんすね」

「決めなきゃやってられねえよ。大将閣下さえ【俺には敗走後がある】なんて言ってくれたんだ…腹括って生き延びるしかないさ」

「そうかもしれないな…割り切れない性格では、現地住民と接触すると迷いが隙になり、本来の実力を発揮できないまま散りかねない。私も協力してくれた白狼天狗の彼女と相対したとき、迷い無く引き金を引けるかどうかは…正直に言って自信が無い」

「俺もです大佐。だからこそ、攻撃目標が協力者と繋がってないことをお互い祈りましょう」

「…そうだな」

 

大佐はそれだけ返すと、鞄から携帯食料を取り出して口に入れる。食事の邪魔をするのも失礼だと察し、俺もひと時の休息を取るため地面に腰を下ろした。騎兵ちゃんも俺の隣に座りこみ、中尉も俺の向かいにしゃがみこむ。

すると、俺から接触しようと思っていた少尉が話しかけてきた。

 

「その、中佐。先ほどのお話、詳しくお聞かせ願えないでしょうか…?」

「あまり現地住民に情が移る話は聞かない方がいいと思うが。それでも聞きたいのか?」

「はい、私…いえ私たちには情報が足りませんから」

「そうか…騎兵ちゃんには軽く話してるが、中尉はどうする?」

「聞くっす。生き延びるために」

 

さて…ある程度の信頼は置いてもらえる程度に、魔理沙たちのことを話そうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。