幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

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第2話 格上ふたり

魔理沙に追随して飛ぶことしばらく、森の中に佇む一軒家の前に降り立った。どうやらここがアリスなる魔法使いの家らしい。先行してくれていた魔理沙は何の迷いもなくドアをノックする。

 

「アリスー!ちょっと出て来てくれよ!」

 

魔理沙が声をかけると同時に、ドア脇の椅子に腰掛けていた人形がこちらへ振り向いた。

 

「…魔理沙が男を連れてくるなんて初めてね。彼氏の自慢なら他をあたってもらえる?」

「アホか!そんなワケねーだろーよ!

ちょっとコイツ面白そうなんだよ、だからアリスにも軽く調べてもらいたいんだぜ」

「いや、手が空いてないのなら他を当たるが。人形越しで会話する程度には忙しいのだろう?」

「あら、驚かないのね。

いいわ、少し待ちなさい。話をする価値はありそうだから」

 

どうやら俺からも反応したのは正解だったようだ。他を当たるとは言ったが実際のところ魔理沙以外に当てがない状況、アリスに断られるとまた魔理沙を頼ることになったからな。あまり特定の相手に借りを作り過ぎるのも考え物だろう…俺のような不審者はな。

 

「ま、見ての通りだぜ。アリスは今は人形遣いをやってる魔法使いだ」

「凝った人形だな…通信機能なんて実用性を持たせつつ、外見もここまで可愛らしく整えるとは」

「…なんだ?中佐はロリコンの気があるのか?」

「そうだな…少なくとも魔理沙も守備範囲には入ると返しておこうか」

「なっ…!?ってかそれどういう意味だよ!?」

「魔理沙はロリとまでは行かないけれど、まだまだお子様体形ってことでしょう」

「うぐっ…!」

 

魔理沙とこんなくだらないやり取りをしていると、ドアを開いてこれまた精巧な人形と見紛うような美少女が出てきた。

 

「面白い男なのは本当のよう。少なくとも退屈な会話はしないで済みそうだわ」

「あまり期待されても困るがな…アリスと呼んで構わないのだろうか?」

「ええ、人形遣いのアリス・マーガトロイドよ。アリスで構わないわ。

ちなみに、私も守備範囲に入るのかしら?」

「入らない男の方が少ないだろうよ、アリスならな」

「フフ、悪い気はしないわね」

「まさか中佐は女の敵か?やっぱ私が退治してやろうか?」

「最初にこの方向に話を向けた魔理沙が怒るなよ…」

 

まあ、魔理沙のおかげで第一印象は悪くないようだ。これぐらいの怒りは許容するべきか。

 

「俺も一応自己紹介しておこうか。どうやら俺は中佐だったらしい魔法使いだ…どうも意図的に記憶を奪われているようでな、魔理沙がアリスなら何か手がかりになりそうな資料とかを持ってるかもと言って案内してくれたんだが」

「意図的に記憶を奪われた?その割には問題なく会話できているようだけれど」

「目覚めてからまだ君たちとしか会ってない以上、まだ判断するのは早い気もするが。

どうやら対人関係と地理関係だけを記憶から消し去られてるように感じる。階級ではない俺の名前や多数いるはずの同僚は全く思い出せんし、魔理沙を追って飛行してもこのあたりの地形に全く見覚えが無い。だというのに武器や魔法の使い方は問題なく覚えてるし、アリスやこの人形を可愛らしいと感じるような感性は持ってる」

「ま、本当は覚えてるのにとぼけてるって可能性もあるけどな!」

 

…魔理沙がへそを曲げちまった。正直に答えただけで別に手を出そうとは思ってないんだがな。

まあ、これを口に出すと余計拗れそうだから黙っておくが。

 

「でも魔理沙も何も感じないから私のところに来たわけね」

「…まあな。ってことはやっぱアリスも何も感じないってわけか」

「少し本格的に調べてみようかしら…中佐、ちょっと失礼するわよ。少し屈んでもらえる?」

「ああ、構わない」

 

言葉に従いアリスの前で屈むと、背伸びしたアリスが俺の眉間に指を当てて来た。どうやら俺に他者から魔術的な介入がないのかを探査してくれているらしい…成程、人形の手入れや魔力補充に手馴れてるアリスならこういった生物に対しての状態チェックも得手な部類に入るということか。

 

「………やっぱり何も感じないわね。その方が厄介な気もするけれど」

「そうか?その方が面白いと思うけどな」

「要するに、俺に対して記憶の操作がされてるような魔力反応はないってことか」

「その通りよ、少なくとも私も魔理沙も感知できないレベルの記憶改竄魔法なんて禁呪レベルになる…でもそんな高度な魔法を行使してるにしては効果が中途半端だわ。対人関係と地理関係だけ奪うことに何か意味があるのかもしれないけれど…」

「そこまで細かく記憶を奪えるのなら、もっと合理的な奪い方をいくつも思い付くってわけだ」

「少なくとも、私ならこんな組み合わせの奪い方はしないわね」

 

そう言いながらアリスが指を離す。こうなるともう一つの可能性の方が高くなるな…

 

「ってことは、だ。中佐は記憶を奪われてるんじゃなくて、元々これが普通って可能性もあるよな?」

「そうね。元々中佐に名前は無かった、それどころか…」

「ついさっき目覚めたときが、俺の誕生。

 人間じゃなくホムンクルスやゴーレムに近い存在ってことだな」

「あら、随分あっさり受け入れるのね」

「そりゃな、俺自身の記憶が無いんだから受け入れるも何もない。

だがそうなると…俺みたいなのがこの先何人も出てくる可能性があるってことになるんだが」

「ええ、だから私は厄介だと思ったのよ。魔理沙はそうじゃないようだけど」

「面白そうじゃねえか!中佐みたいな奴が何人もいるんなら、それを生み出してる奴が何か企んでるんだろ?新しい異変だぜ!」

「…まあ、魔理沙の無謀は今更だったわね」

 

アリスの反応で俺の疑問が確信に変わる。魔理沙にも少し危機感を持ってもらうために聞かせとくべきだよな…

それで俺が果たさなきゃならない目標ががますます困難になるとしても。

 

「アリスから見ても、俺ぐらい自意識がハッキリしてる創造生物は稀少なんだな?」

「ええ、私は人形の完全自立を目標に幻想郷で過ごしているけれど。人形の意識に関してはまだ上海が限界…中佐のような人格なんて創れないわ」

\シャンハーイ/

 

名前が聞こえて反応したのか、アリスの背後に控えていた可愛らしい人形が声を出して反応した。敵意は無く俺もこんな格上の魔法使いを敵に回したくないので、優しく上海の頭を撫でてやる。すると心地よさそうに目を閉じて大人しくなった…これだけでも俺からすればすごい人形だと思えるんだが、()()()()()()()()()だって可能性があるのだ。

 

「ハッキリ言ってしまうと、私の知る限りだと中佐レベルの生命を創造できるような存在は母さんぐらいよ。つまり本当に中佐が記憶を失った魔法使いでないのであれば、中佐の裏にいるのは魔界神と並ぶレベルで創造魔法を扱える存在になるわ」

「………いやちょっと待ってくれ。今母さんと魔界神が同一人物だって聞こえたんだが?」

「別に隠してるワケじゃないから。私の実の母親ではないけれどね」

「…本当にアリスなんて気軽に呼んでよかったのか?」

「そこは気にしないでいいわ、少なくとも魔界神の立場を継ぐ気はないしね」

 

魔理沙だけでも俺よりずっと格上の魔法使いだってのに、同レベルのアリスがいて、そのバックには魔界神なんて桁違いの存在が控えてるらしい。

やっぱ無理だろ、支配とか。

 

「はっ、神様なんて幻想郷にはもうゴロゴロいるじゃねえか。神綺は魔界にいるけどよ、早苗のところも神様だし、隠岐奈もそうだし、この前のアビリティカードのアイツもだろ?そもそも幻想郷にいるんならスペルカードルールを知らないはずないしな」

「まあ、そうでしょうけど。

…中佐はスペルカードルール、覚えてるのかしら?」

「………なんとなくは。たしか決闘法か何かだよな?

さっきそれを思いっきり無視して野良妖怪を返り討ちにしちまったが」

「返り討ちということは先に手出ししたのは中佐じゃないのでしょう?それならそこは問題ないわ。

ただ、なんとなくすら覚えていない中佐の仲間がいた場合は面倒なことになるわよ」

「連帯責任で俺も同罪になる可能性があるんだな?」

「ご明察。その危険性を考えると、中佐はなるべく急いで仲間を探した方がいいでしょうね。申し訳ないけれど、問題が起こってからだと私なんかの擁護じゃ許されないわ」

「そこまでアリスが気を使う必要はないさ。だが俺が思ってるよりヤバい状況みたいだな…

ちなみにだがアリス、俺はこの階級章で自分が中佐だと判断したんだが…似たようなモノ付けてたやつに心当たりはないだろうか?」

「悪いけれど私はあまり人の集まるところには足を延ばさないのよ。だから見たことすらないわ。

まあ、今後目にしたら中佐のことを教えるぐらいはしておいてあげるわ」

「それだけでも助かる、ありがとうな。

魔理沙はどうする?どうやら俺は思ってた以上に厄介者らしいから、ここで見捨ててくれても構わないが」

「何言ってるんだよ、私が中佐みたいな面白い奴見捨てるわけないぜ。それこそ中佐の裏にいる奴に興味があるからな、付き合うぜ」

「…すまないな、地理的な意味で助かる。恩を返せるかどうかは不透明だが」

「気にすんなって!私が面白そうって感じたから勝手にしてるだけだぜ。それこそ霊夢より先に解決できるかもしれないからな」

 

…解決=俺の最期になりそうなんだよな、今のところの情報を整理すると。

なんとかして生き残る術を見つけたいが、魔理沙の協力なしじゃ情報収集すら覚束ないのが今の俺だ。俺の裏にいるのが魔理沙相手に素直に降伏してくれれば…生き延びれるかもな。

 

「それじゃすまないが魔理沙、人が集まりそうな場所に案内を頼んでいいだろうか?

どう転ぶにしても俺の同僚を早目に見つけた方が良さそうだ」

「おう、任せな!とりあえず人里に案内してやるよ」

「アリスもありがとな、何か礼が出来るといいんだが…確約できないんだよなぁ」

「別にいいわよ、中々面白い会話をさせてもらったから」

 

そう言ってアリスと別れようとしたその時だった。

 

 

ドォン!!

 

 

「「「―――っ!?」」」

 

突然の爆発音に全員でその方向に視線が向いた。

 

「何だ!?人里の方だぜ!?」

「…本当に厄介なことになってるようね。

魔理沙、中佐。私も付き合うから少し待ってもらえる?人形の用意をするから」

 

言うが早いかアリスがドアの中に去る。残された魔理沙に俺は尋ねる。

 

「人里であんな爆発音がするのは異常事態なんだな?」

「ああ、弾幕ごっこなら別に不思議でもなんでもないんだけどな…!

爆発は話が別だ。見物客に被害が出るようなのは弾幕じゃないぜ」

 

―――もう、遅いのかもしれない。

俺はすでに、魔理沙とアリスの敵になっているのかもしれない。

 

「待たせたわね、行きましょう」

「おう!」

「…ああ、俺に何かできるとは思えないが。案内頼む」

 

素直に魔理沙から逃げておくべきだったのかもな。

あんな短時間の会話でも、俺は魔理沙とアリスに情が移ってしまっていた。

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