幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

5 / 15
第5話 市場の同士討ち

太陽の位置と阿求の屋敷の時計で方角は理解できていたから、魔理沙に先導を頼まずとも南の市場に向かうことはできた。もっとも、必死の形相で走り去る住民がすでに多数いたことで現場位置はそこからすぐ把握できただろうが。

 

「魔理沙、初手は俺に行かせてもらえるか?俺の同僚だった場合、会話すりゃ隙が出来るはずだ。

その隙で人質を救出してくれ。略奪という報告が来たってことは、連中の目的は物資だ…抵抗を最小限にするべく人質を前面に出してる可能性はかなり高い。それこそ人里の潰滅が目的なら、略奪なんて表現はされないだろうよ」

「任せな!人質を取るようなクズは中佐のお仲間でも容赦しねえぜ。そこはわかってくれよ?」

「そこは割り切るしかねえ、遠慮なくやってくれ」

 

そう返すと魔理沙はニコリと笑って速度を下げた。本人だけでなく阿求からもある程度聞いたが、ここ幻想郷における【異変の解決者】として場馴れしてるのが良くわかる表情と行動だ。初対面時に攻撃されなかった俺は相当運が良かったんだな…

 

俺だけが生き延びるって最終目標まで考えりゃ、魔理沙が同僚を始末してくれるのはむしろプラスになる。幻想郷の支配なんて無茶な目標を、愚直に果たそうとする無謀に付き合うのは御免だ…それなら俺の同類だろうと切り捨てるべきだ。なにしろアリスの言葉からすりゃ【連帯責任で俺も処刑】ってのが現実的な対応らしいからな。

こんな悪行に走る連中とは付き合いきれない。それで俺の裏にいる存在を調べることが難しくなったとしても、だ。

 

―――そう結論付けて騒ぎの現場に降り立つ。どうやら物資調達が最優先って読みは当たってらしい…阿求の部下が自警団と呼んでいたらしき負傷者こそ数名出ているが、死体は見当たらない。だが連中も俺と同じ制服を着てるのは面倒だな…先に奴らとは別だって自警団と野次馬に示す必要があるな。

 

「自警団だな?回復魔法を行使するから、動けるようになり次第応援を呼んでくれ」

「へっ!?誰だアンタ!?」

「……いや、信用して良さそうだ。痛みが引いてく…お前さん、同じ格好だがあいつらの仲間じゃないんだな?」

「少なくとも俺はそのつもりだ。連中は俺を同僚と思ってるかもしれんがな」

 

俺の侵入経路から近い負傷者に回復魔法を行使する。自警団を名乗るだけありそれなりの状況判断は出来るのだろう、この状況で回復魔法を使われた相手を敵視することなく護衛役と共に戦場を離脱していった。

そして魔理沙も上手く伏兵になってくれたようだ。異変の解決者として名も顔も知られてるそうだから、ギャラリーに騒がれると厄介だったんだが。その心配はいらなかったようだな。

 

(…指揮官は少将か。後は俺と同格の中佐に大尉、少尉。残りは工兵とスパイで6人…俺一人じゃ厳しいが、魔理沙なら少将以外は一蹴できるだろう。

となると…俺は数で押されないよう確実に処理できる奴から潰すのが合理的か)

 

そう腹を決めながら歩み寄るが、連中もただの考えナシじゃないみてえだな。俺を視認しても警戒を解かない。案の定少尉が少年を人質に取っていて、大尉と工兵が市場の商品から物資を奪い、中佐とスパイが背中合わせで周囲を威嚇している。指揮官の少将は何やら大掛かりな魔法を行使する準備に入ってるな…状況から予測すると、撤退目的の空間魔法か?

まあ、サッサと逃げてくれるならそれが一番いい。人里の被害が減りつつ俺の身代わりとして使える同僚が何人か残るからな。

 

「少将、派手に動いた価値はあったようです。制圧可能な者が一人釣れました」

「俺のことか。まず先に確認したい、アンタらは俺の同僚か?それとも…敵対勢力か?」

「敵対勢力だと?

そのような予測に至ったのは何故か、答えよ中佐」

 

威嚇の銃口ごと俺に向けた女性の中佐に問い返すと、魔法陣を描いていた少将が手を止めて俺に視線を向ける。

この対応からすると俺の同僚ってのは確定だろう。だが無警戒で受け入れるほど不用心じゃない、か。それなら魔理沙が少尉を一撃で仕留められる準備の時間だけでも稼がねえとな。

 

「少佐が地雷を踏んで爆死したのを確認してる。少なくとも俺には設置位置が知らされてない以上、少佐も同じだろうよ。

ただ、地雷を設置したのが誰なのかがわからない。敵がいるのか、フレンドリーファイアなのかだ。将官の少将なら設置地点を知ってるのか?」

「………運の無い奴だ。

設置位置を知るのは大将だけだろう。少なくとも私は知らされていない…合流できていない中将には確認の取りようが無いが、中佐のような動きをするリスクがある以上伝える気はないはずだ」

「…っ!」

 

少将のその言葉に女性中佐と背中合わせにしていたスパイが反応した。

…ああ、そういうことか。となると、俺みてえに【目標を放棄】する手駒がいる可能性も大将は考慮に入れているわけか。そして、この連中はすでに大将の指揮下にいる―――つまり総司令官が略奪にOKを出したってことかよ。達成が困難な目標とはいえ、手段を選ばないのは気に入らねえな…!

 

「…まあ少佐のことは仕方ないとしよう。

だが、このやり口はどうなんだ?階級を持つ以上、俺らは軍人。一般人を守るべき立場だろ」

「口のきき方がなっていないな中佐。そして軍人たるべき指針を忘れたか?

 上官の命令は絶対だ。そして我々が守るべきはここの住人ではない。

 今だけ不問にしてチャンスをやる…殿としてこの場に残り撤退を援護しろ」

「ハッ、ごめんだな!!」

 

最高のタイミング―――少将だけでなく周囲の警戒に回っていた女性中佐とスパイ、そして人質を取っていた少尉も俺の返答に注意を向けたその時!

 

「魔符【スターダストレヴァリエ】!!」

「なっ!?」

 

魔理沙が少尉の背後から高速で突っ込んできて、すれ違いざまに人質の少年を掻っ攫う。そしてまき散らした星形弾で連中の足止めもしてくれている…!これ以上ない魔法だな!

ここまでやってくれたんだ、俺も魔理沙の助けにならねえと!

 

「このガキ…っ!?」

「させるか!」

「ぶっ…!」

 

物資の強奪に回っていた大尉だが人質を奪われたことを即座に理解し、魔理沙を狙い拳銃を構えたが遅い!俺の相棒(ベレッタ)の速射で倒れ伏す!

 

「中佐!?すでに裏切って!?」

「チッ…中佐、後は任せる!」

「は…!?」

「逃がすかよ!【マスタースパーク】!!」

「―――ッ!!?」

 

そして状況の悪化を理解し即座に撤退しようとした少将だが、人質だった少年を手早く自警団に預けた魔理沙がとんでもない魔力密度の大技を放つ!!下準備の段階で手を止めていた少将の魔法が発動することは無く、魔理沙から見て少将の背後にいたスパイごと巻き込んで少将は消滅した。

 

「ボサっとしてんじゃねえぞ!」

「ぐえっ!」

「な、なんてことにっ…!」

 

その大火力に動揺した少尉にも銃弾を2発撃ち込んで黙らせ、後は女性中佐と工兵!敗北を悟った工兵は逃走を図ったようだが、俺に背を向けてる時点で甘い。まだ射程内だ!

 

―――ここまでは、俺は幸運に恵まれていた。魔理沙・アリス・阿求の助けで運を使い果たしたのか、想定外も過ぎる援護が入るのだ。

 

「悪い、遅くなった!呪札【無差別発火の符】!!」

「ぎゃあっ!?」

「がああぁっ!?」

「はあっ!?

 オイ妹紅!?なんで中佐まで燃やしてんだよ!」

「えっ!?同じ格好なのに片方味方なの!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()強者が、俺も略奪者と誤解して女性中佐ごと火炎魔法で攻撃してきた!!この騒ぎに気付いて急行したことで、情報のすり合わせをせずに援護したらしい…!

 

き、消えねえ…熱い、このまま俺は焼け死ぬのかよっ…!!

 

「し、死なせません!」

「………!?」

「っ!?増援か!?」

 

そして必死に地面に転がって炎を消そうとした俺を、猛スピードで掻っ攫う者がいた。そいつが強引に俺を捕らえた際に、俺が乗馬の後ろ脚に接触したことで。俺は短い時間、失神する羽目になり…予想だにしない状況に置かれることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はっ!?」

「き、気付きましたか。無事でよかったです…!」

 

目覚めると、そこは人里ではなく森の中。水音が聞こえるが、俺は何をして…っ!?

 

「っ!?ぐっ…」

「む、無理しないでください!なんとか炎は消し止めたんですが、火傷までは応急処置しかできなくて…!」

「…ああ、そうだったな。まさか連中ごと燃やされるとは」

 

飛び起きようとして体中あちこちに鈍痛が走り、立ち上がり切れず膝をつく。

だが、これだけ応急処置してくれてるなら…

 

「…俺に与えられた魔法にだけは感謝しねえとな」

「え…!?回復魔法、ですか?」

 

自身に回復魔法を行使する。火傷の跡は残るだろうが、しばらく休めば鈍痛は消えるだろう。そうなれば問題なく動ける…それに服もギリギリ使用に耐える程度の焼失で助かった。露出狂扱いされない程度には収まっている…まあ合うサイズの服を調達できれば着替えたいが。

 

「あ、あの…」

「…君は、騎兵だな?どういう立ち位置なのか聞かせてくれるか?」

「はっ、はい!

その、わたし人里近くの命蓮寺で少しお世話になっていまして。市場のあの人たちが仲間だってことは頭で理解してたんですが、あんなことに手を貸す気になんてなれなくて。

でも同じ服なので見つかったらあの人たちにも自警団の方たちにも狙われそうだったので…近くの屋根の上から様子を見てたんです」

「命蓮寺、か」

 

阿求が勧めてくれたところだな。実際に彼女…騎兵を一時的にでも保護してくれたというのであれば信用していいのだろう。それこそ騎兵は決着がつく直前まで動かなかったのだから、今からでも保護してくれるかもしれない。

 

「様子をうかがってたってことは、俺が上官命令に抗ったのも見えてたか?」

「はいっ、それを見たからここまで逃げてきました。

わたしと同じで、支配なんて無理だしやりたくないって考えてくれるかもって…」

「そういうことか…

俺と同じ考えの同僚(なかま)もいるんだな」

「―――ッ!それじゃ…!」

「ああ、俺もハッキリ言って支配なんて無理な目標に向かいたくない。

騎兵ちゃん、よろしく頼む」

「はいっ…!よろしくお願いします中佐さん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――って聞いてる。信じられないなら阿求に確認してくれ」

「霧雨のお嬢ちゃんの言うことは間違ってねえと思いますぜ慧音さん。事実おれはあの兄ちゃんに回復魔法を使ってもらったから応援を呼びに行けたわけですし」

「おい、その呼び方は止めろ。魔理沙でいいぜ」

「あー…悪かったな魔理沙の嬢ちゃん」

「そうか…つまり仲間割れだった可能性が高いのか」

「…本当に悪かった魔理沙。到着が遅れて焦り過ぎてたみたいだ」

「まったくだぜ…!中佐が無事だといいんだけどな」

「私の方でコントロールできる範囲の炎は消したけど…」

「それで、魔理沙に同行していた方の中佐を最後に攫って行った少女には誰も心当たりがない、と」

「馬で突っ込んで来ましたから、目撃情報を洗えば出てくるんじゃないですかい?目立ちますし」

「そうだな。魔理沙、妹紅。もう少し手伝ってもらってもいいか?」

「私は元々そのつもりで来てるよ。魔理沙はどうする?

中佐ってのを探したいなら無理強いはしない、私のせいだしね」

「…いや、闇雲に探しても見つけられない気がする。だからこっちを手伝うぜ。

そのかわり、中佐か馬の女の情報が出たらすぐ私にも教えろ。いいな」

「構わない。

それなら妹紅、情報収集ついでに命蓮寺に寄ってくれないか?魔理沙以外の魔法使いの意見も聞きたいからな」

「任せて慧音。むしろ魔理沙が持っていくかい?」

「そうだな、これは私が持って行っていいか?聖に聞いてみるぜ」

「念のため、一つだけここに置いて行ってくれ。どの駒にするかは任せる」

「それじゃコイツだ。私はもう行くぜ!」

 

居ても立っても居られないようで、【少尉の駒】を残し魔理沙は荒らされた市場を後にした。

…本当にやっちゃったなあ。異変の中心にいそうな奴をみすみす見失わせちゃうなんて…

 

「…妹紅もあまり気にするな。状況からすれば、救援が間に合わなかった私が一番悪い」

「慧音はそれこそ最前線に出てくるのも問題でしょ?焦った私が魔理沙に関しては悪いよ。

でも、軍人将棋とはねえ…随分とマニアックなのを魔術に使うもんだ」

 

戦闘が終わった市場に残されたのは、軍人将棋の駒。

逃げようとした工兵を追撃した魔理沙が気付いて回収したことで、自警団で手分けして全員分集めたわけだ。

 

「少将・中佐・大尉・少尉・工兵・スパイ…

 中佐の駒は2枚使えるはず。だとしたら魔理沙の言う中佐ってのも…」

「おそらくはそうだろうな…

 これが魔理沙にとって、どんな意味を持つのか。もう理解はしてるはずだが…」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。