幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

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誤字報告により4話の脱字を訂正してます。いつも迅速な報告ありがとうございます。


第7話 勝ちの目は

「騎兵ちゃん、バレてるかもしれないが俺が連中を始末したことは隠してくれ。

そこさえ隠せればそう簡単に粛清はされない」

「もちろんです…!」

 

あちらが上官である以上、俺たちのことはもう把握されている。つまり今から逃げ出せば敵対者と断定できる状況証拠になってしまうのだ。騎兵ちゃんの乗馬を頼れば逃げ切れるかもしれないが、騎兵ちゃんだけならともかく俺も乗せて駆けることによる負担を考えると避けるべきだろう。

 

それなら無理に抵抗せず会話を試みるべき…絶対に勝てない相手だからこそ、俺と騎兵ちゃんが()()()()()と思い込んでる可能性に賭ける方がいい。逃げるなら完全に決裂した後だ。

騎兵ちゃんも俺の判断に反論は無いらしく、先制攻撃を避けられるように身構える。とりあえずはあちらの出方次第…!

 

緊張感を保つことしばらくして。俺たちの上官が姿を現した。

 

「―――攻撃する気はない。我々はまず合流を優先すべきだ…同行してくれないか、中佐。無論騎兵と共にだ」

 

中将。市場の指揮官だった少将の言葉が事実なら、まだ大将の指揮下にいないはず。そして後に続いてきた面々は大佐と中尉…俺と騎兵ちゃんで対応できる戦力じゃない。

 

「こちらとしてはとてもありがたい申し出ですが、見ての通り俺はすでに【敵】に顔が割れています。運良く逃げ切ることは出来ましたが…合流すると中将たちまで敵視されるリスクがあります。そこを含めても俺と彼女を加えていただけますか?」

「構わん、戦力は少しでも多い方が良い…我らの目的を思えばな。

大佐、中尉。異論はあるか?」

「いいえ。私からも頼みたい…中佐、来てくれないか?」

「僕もいいっすよ。人手は多いに越したことはないっす!」

「ありがとうございます。

 あらためて、中佐です。よろしく頼みます」

「あ、騎兵ですっ!よろしくお願いします!」

 

…少なくとも、中将たちは俺が少将の部隊と交戦したことは把握していない。階級が上の中将と大佐だけでなく中尉も好意的に俺を見ていることから推測できる。もし俺がすでに敵対してることを知っているのであれば、この状況で排除される可能性があるのは中尉だけだからだ。後ろ弾の危険がある中尉が反対しない以上、現時点では中将の部隊に参加しても危険はない。

 

「移動中に貴官の経緯を報告せよ。このまま大将閣下の部隊と合流する」

「っ!どこに駐屯しているのか、確認できているのですか」

「私が確認済みだ。目を覚まして迷っていたところ、案内してくれた親切な天狗に出会えてな。千里眼を持っているそうで、おそらく目印として掲げてくれたであろう軍旗を彼女が見つけてくれた」

 

俺の問いに女性の大佐が答える。なるほど、軍旗か…阿求の話からすると幻想郷にあるのは不自然なモノだ。そこに俺らの同僚がいることはまず間違いないだろう。

 

「もし軍旗の元に大将が不在だった場合は、集結地点から捜索を出す形になりますか?」

「そうならないことを願いたいがな。

…話が逸れてしまったか。貴官は誰と交戦したのだ?」

「…目覚めた際に出会えた現地民の協力で、人里に入ることは出来たのですが。

彼女が私用で離れてすぐ自警団に不審者として通報されたらしく、先制攻撃で火炎魔法を撃ち込まれました。その際救出してくれたのが彼女で、回復魔法の効果が出るまでこの川辺で待機していた状況です」

「わ、わたしは目覚めて一晩お世話になったお寺がありまして。そこのお役に立とうと人里に足を延ばしたら中佐さんを見つけて…とりあえず逃げて来たんです」

 

俺だけでなく騎兵ちゃんもだが、よくもまあこれだけ堂々とデタラメ言えるもんだ。ところどころは嘘じゃないが。

 

「現地民にも協力的な者がいると?」

「いえ、俺に助力してくれた彼女の方が例外でしょう。事実、自警団よりも強硬的な【有事の解決者】が存在するという情報を得ています。この人数で統率の取れた行動をするだけでも、異分子として警戒されると考えるべきだと考えます」

「…中佐がその格好じゃ、僕はやられてるっすね。初撃で火炎魔法とか、防げる気がしないっす」

「で、ですが人里に侵入しない限りは自警団の攻撃は無いはずです。逃げるわたしの追撃は早々に断念してましたから」

「その名の通り防衛にしか動かないということか。もっとも、制圧が必要になる以上は交戦を避けられんだろうがな」

 

…大佐はこちら側に引き込むのは無理だな。親切な天狗と出会えているにもかかわらず、人里の制圧が必須と判断してる―――つまり幻想郷を敵と割り切ってるってことだ。支配という目的に殉じる気なのだろう。

それこそ、俺と騎兵ちゃんの方が特殊なのかもな。

 

「それと、移動中に少佐の遺体を発見しています。周囲の状況から察するに地雷を踏んだことによる爆死だったのですが、誰が設置した地雷なのかが不明です…中将は、地雷の設置位置の情報を持っていますか?」

「…いや、我も記憶にない。大佐と中尉はどうか?」

「申し訳ありません、中将。私も知らされていません」

「僕もっす、となるとちょっと警戒しなきゃマズそうっすね…」

「そうだな…中佐、そのポイントは何処だ?」

「人里から見て北東に少々飛行した草原です。現在地から見るとこの方角になります」

 

だいぶ西日になっているが、まだ太陽が出ている時間で助かった。騎兵ちゃんに救出された際に気絶していた俺だが、太陽の位置から現在地と人里の位置を把握できたからだ。日が沈んでいたら騎兵ちゃんが【意識のない俺】を連れて逃走したことが明るみになり、そこから俺と騎兵ちゃんの虚言を見透かされる危険があった…本当に綱渡りになってるな。

 

「この点は大将閣下に問い詰めねばならんな。敵対勢力の設置した地雷であればまだいいが、我らの設置した地雷では少佐が浮かばれん」

「俺に協力してくれた少女の精神面も考慮して、少佐の亡骸は打ち捨てましたが…回収に出向くべきでしょうか?」

「いや、軍旗の元に集結するのを優先する。間違いなく我らの方が戦力不足、この状況で戦力分散はなるべく避けねばならぬ。回収に向かうとしても、戦力を一度集結させた上で別動隊としてだ。少人数で動いて殲滅されるリスクは負えん、中佐がすでに先制攻撃されているのだからな」

「了解です」

 

…これを理由に離脱というのは難しそうだな。俺が衣服を損傷させてる以上、交戦したことを伏せることはできなかった。その結果少人数の遊撃隊として騎兵ちゃんと脱走するって手が使えなくなったワケだ。軍旗の元に集合したのがどれだけの人数になるのかにもよるが、主力とは別の部隊に志願して抜けるのが一番手っ取り早かったんだが。

 

もっとも、大将が略奪を命じた部隊の情報をすでに得ていた場合はその場で粛清も有り得るのだから楽観が過ぎる考えだがな。

 

「中将、もう一点こちらからよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「この地…幻想郷に派遣された部隊の規模を中将は把握していますか?

俺は交友関係と地理関係を意図的に記憶から消されたように感じます。先ほどの様に、対面すれば同僚だという判断は付くのですが…先に友軍たる戦力の規模は把握したい」

「中将、私からもお願いできますか?中佐の表現は的確で、私の記憶も同様に調整されたような不自然さがあるのです。中佐が言うのであれば騎兵も同様のはず…中尉はどうか?」

「あ、僕は先に中将に話した通りなんすが。中将より大佐たちに近い感じっす」

「…ということは、中将は記憶が?」

「大佐にも移動中に確認すべきだったな、我の浅慮を許してくれ。

我は地理関係は皆と同様だが、対人関係に関しては皆より多くの記憶があるようだ。少なくとも、この地に派遣された部隊の者に関しては全員憶えている」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

中将から大きい情報が出た…!しかも大佐も先に同意してくれたおかげで条件も予測できる。

将官は俺らの情報を持たされて創造された可能性があるってことだ。

 

「この地に派遣されたのは大将閣下と我に、少将2名。佐官・尉官と騎兵は男女各1名の2名。後は工兵が3名とスパイ1名の総勢22名だ」

「なっ…!?たったそれだけなのですか!?」

「いくらなんでも少なすぎる…!これじゃ捨て駒としか思えねえ」

「い、イヤな言い方しないでくれっす中佐!でも、なんでそんなに少ないんすかっ!?」

「あ、あんまりです…!こんなの、無茶振りにもほどが」

「黙れ」

「「「「「…!」」」」」

 

その一言は、俺らより格上だということをあらためて理解させられる凄みがあった。俺より上の大佐すら、息を飲み黙らざるを得ないほどの。

 

「…我も無謀な人数だとは理解している。だが、軍人を名乗る以上…この階級章にかけて命令は絶対だ。

そして、我も不満があるからこそ大将閣下との合流を図っている。正確に言えば、大将閣下も我と同じ考えであることを期待している。

―――我々を派遣した存在に、大将閣下も不満を持っていることを願っている」

「「「「「―――ッ!」」」」」

 

それは、俺にとって予想外の言葉。

もし中将の期待通りに事が進めば、一気に戦力が増えるってことだ…!

 

「故に、今は不満を抑えて我に続け。

 …ただ、期待通りに行かぬ場合は覚悟を決めろ。我はもうその覚悟はしている」

「了解。少なくとも中将は信頼できます。

 …急ぎましょう」

「中佐の言う通りですね。それこそ大将に不満があれば、私は中将に尽くします。

 引き続き軍旗の位置まで先導させてください」

 

俺と大佐がそう返すと、中尉と騎兵ちゃんも無言で先導する大佐に従い進み始める。

3人の視界に入らないよう振り返ると、騎兵ちゃんは希望を持った瞳で頷いた。

―――薄いが勝ちの目は、あるらしい…!

 

 

 

 

 

 

 

「―――そうですか…彼女の仲間には出会えたようですが、難しい立場のようですね」

 

まずは慧音から頼まれたことを済ませるため、私は命蓮寺に足を延ばしたんだぜ。ラッキーなことに聖がすぐ捕まったから、市場の騒ぎ含む自警団からの情報を伝えたらこの反応だ。

 

「彼女だって?まさか馬の女を知ってるのか!?」

「はい、昨日こちらで一泊していった少女のことだと思います。

彼女は記憶がはっきりしていないようで、騎兵と名乗っていたのですが。愛馬を召喚出来ることは私も確認していますので間違いないでしょう」

 

記憶がはっきりしていない、ビンゴだぜ。おそらくあの女も中佐の仲間、なら次に聞くべきは…!

 

「聖、軍人将棋って知ってるか?私もついさっきまで知らなかったんだが」

「む?随分と珍しい遊戯の名が出たのう。

時代を考えるとこの寺の者は知らんのではないか?」

「そうなのか?そりゃどういう意味なんだマミゾウ」

「その遊戯が成立した時代じゃよ。一般的な将棋と違うて、世に出てから百年とちょいぐらいしか経っておらんはずじゃ。その時期はこの寺の者は封印中じゃろ?」

「そうですね…私は外界にいた時期もありますが、軍人将棋という言葉は初耳です。

そもそもそういった娯楽自体に、あまり馴染みがありませんので…」

「つまり珍しいゲームって考えりゃいいんだな?

 マミゾウは知ってるんだよな?ならこれから何か感じないか?」

 

そう言って持ってきた駒を出す。人質なんて取りやがった気に食わねえ奴のを置いてきたが、これから何かわかればいいんだが。

 

「む?軍人将棋の駒かこれは」

「市場で暴れてた連中の数と合うんだよ。足りない一つは自警団に置いてけって言われてな」

「…もう魔力は全く感じませんが、これを核として召喚した、もしくは生み出したということでしょう。

マミゾウさん、その軍人将棋の駒に…騎兵はあるのでしょうか?」

「あるぞ。そこから考えれば決まりじゃろうな。

あの小娘も、お主の言う中佐もな」

 

…やっぱそうなるか。中佐の正体、というか元はこんな小さい駒だってことだ。

それなのにあれだけハッキリした人格と魔力を持ってた。ちょっと女の敵っぽいけど面白い奴だった。

このまま放っておく気にはなれねえぜ。

 

「とりあえず、お前らにまで中佐を探してくれとは言わねえけど。その騎兵って女が戻ってきたら私を呼んでくれないか?」

「わかりました。手の空いた者を向かわせましょう」

「それか儂の部下の狸かナズーリンの鼠を派遣してやるわい。一晩泊めただけとはいえ、あっさり見捨てるのも薄情だからの」

「おう、頼むぜ!」

 

手掛かりはなかったけど、中佐の方から戻ってくれば呼びに来る。それだけでも十分だぜ!

後は、馬の女が逃げた先を探してみるか。

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