幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

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第8話 失われた駒

「―――以上、報告になります。

…こちらの駒は、提出した方がよろしいでしょうか?」

「そうだな…念のためだ、私が保管しておこう。管理者から提出を求められるかもしれん」

「はい、お願いします飯綱丸様」

「2件立て続けに発生している以上、今後も続発するかもしれん。守矢にも情報を回す、哨戒の白狼天狗で手に負えんのが出てきたら風祝にも出張らせろ」

「はっ!皆にも伝えます!!」

 

綺麗な敬礼を返して犬走が退出する。慎重な犬走が対応してくれたことで大きな情報が入って来たのは僥倖だろう。これが射命丸だと余計な尾ひれを付けた記事にしてから報告してくるせいで、精査にムダな時間を取られるのだ。その手間が無いだけで私の仕事は楽になる。

 

「典、可能な限りで構わんから管理者の動向を探れ。我らのテリトリーに直接侵入できる相手だ、何かしら動いているだろうよ」

「はーい」

 

哨戒中の白狼天狗だけでなく、河童や山童の目も潜り抜けて妖怪の山に侵入した2名…一人は抵抗しその場で処分、一人は犬走の警告に従い下山するという対極の行動を取ったことでカラクリは解けた。だが同時に博麗の巫女や守矢の風祝に対処させるのに一手間かかることも察せた。

 

(それに犬走が少々厳しいと感じたのなら、余計な被害が出る可能性もある)

 

守矢の件がようやく落ち着いたことで、人員再配置に取り掛かった矢先にこれだ。頭の固い面倒な老害をようやく黙らせたというのに、被害が出てはまた騒ぎ出すのが目に見えている。今回は抵抗した駒が弱かったことで事なきを得たが…

 

「ヒコーキやタンクが送り込まれると、あらゆる意味で面倒になる」

 

記事にしようとする烏天狗と分解・調査しようとする河童と山童で衝突が起きかねん。そうなる前に迅速に対処したいところ。

となれば、空間移動に長ける管理者に押し付けるのが最適解、奴等にしても放置はできない科学兵器なのだから。だが我らが天敵・摩多羅隠岐奈の傘下を妖怪の山に入れるのも反発を招く…となれば紫を早期に捕まえて抗議するのが最善だろう。

 

(典が手早く接触してくれると助かるんだが)

 

犬走椛から受け取った騎兵の駒を乱雑に扱いながら、守矢神社への伝令を呼び出す飯綱丸龍だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――となるとやっぱり、裏にいるのは油断ならない相手になるのね?」

『うん、将棋の駒を核にしてるなら創造だけじゃなく造形の要素も入ってくるから。少なくともこの2系統のどちらかは最上位魔法を扱えると見ていいわ!それか、創造と造形の複合魔法なんていうそれこそ神レベルの魔法を2系統扱えるってことになる。どちらにしても強力な子供をけしかけてくるだろうし、私も今からそっちに』

「来ないでちょうだい。下手すると母さんが黒幕と決めつけて霊夢や魔理沙が動くから」

『ふえ~ん!アリスちゃんが冷たいよ夢子ちゃ~ん』

『アリスの言う通りです、神綺様は自分の立場をもう少し考えてください』

『うわ~ん夢子ちゃんまでひど~い!』

 

…相変わらずこの魔界神は。過保護なのも大概にしてほしいわ…

 

霊夢と萃香は重要視しなかったから、タンクの文字が刻まれた駒は私が持ち帰ることにしたわ。もっとも霊夢は『紫に何か言われたら素直に渡しなさい』と釘を刺してきたけれど…そう考えてるなら最初から私に持たせないべきなのよね。相変わらず霊夢は幻想郷を支配する側としての自覚が薄い…私が口を出すことじゃないから指摘はしないけど。

 

『うう~…でもアドバイスはいつでもできるから、何かあったらすぐ連絡してね!

あ、それと造形の方に関して詳しく知りたかったら、幻想郷の畜生界にいる袿姫ちゃん…埴安神袿姫に聞いてみて。私の創造魔法に引けを取らない造形術の使い手だから、いろいろ教えてくれるはず。私の娘って名乗れば歓迎してくれるから!』

「畜生界?無許可で向かうのは面倒なところなのよね。

地底に伝手がありそうなのは、誰かいたかしら…」

『こちらから袿姫様に連絡してもいいけれど?アリスの護衛もついでに頼めるし』

「夢子も私には過保護よね…油断できない状況なのは理解してるから大丈夫よ。本格的に動くなら背中を任せる相手は用意するわ。

それじゃ、また何かあったら連絡するかもしれない。今日は助かったわ、ありがとう」

『アリスちゃんのためならこのぐらいなんでもないわ!もっと頼ってね♪』

『もし戦力が必要になったらすぐ連絡を頂戴。魔界の問題は今日中に片付けておくから』

 

その言葉を最後に魔界との通信を切る。予想通り最上位の創造魔法、もしくは造形魔法の使い手が中佐の裏にいるということがハッキリしたわ…こういう【生命創造】に関する魔法に関して、魔界の創世神である神綺(母さん)より優れている存在なんてそういない。その母さんをして【最上位】の魔法が行使されていると断言した―――まあ、創造・造形系統特化で自身の戦闘力はそれなりなんて可能性もあるけれど、迂闊に私単独で敵に回すのは得策ではないでしょう。

 

(そうなると…魔理沙と一度合流するのが手っ取り早いかしら。情報交換に応じる気はあったし、魔理沙が同行を拒否したとしても魔理沙の知人を紹介して貰えば最低限の戦力にはなる。

後は、母さんの教えてくれた埴安神袿姫ね。地底に伝手がある勢力となると…お騒がせ者のイメージしかないけれど守矢神社になるかしら)

 

間欠泉と同時に地底の怨霊が地上に出てきた異変において、黒幕…というか元凶だったのが地底と接触した守矢神社だったということはあまり情報収集をしない私でも知っている。ただ私は守矢神社もその拠点が位置する妖怪の山の面々ともほとんど交友が無いから、協力を頼んでも簡単に首を縦に振るとは思えないのよね…その点を踏まえても、幻想郷において顔の広い魔理沙との合流が最優先、か。

 

(―――そういえば、少佐の遺体と中佐は断定してたわ。後々押収される可能性も考慮すれば、探してみる価値はありそうね)

 

今の時点であの場所に【駒】が残っている可能性に気付けるのは、私と魔理沙と中佐だけ。証拠品として確保しておけば、後々役立つかもしれない。都合よくここから人里に向かうなら少し寄り道するだけの場所だから、回収しておきましょうか。

 

そう結論付けたアリス・マーガトロイドも、自室を出て人里へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………そう上手くは行きませんよね」

 

駒を動かしてたった二日で、もう半数近くの駒を失ってしまった。それでいて相手側の駒は一つも減らせていない。極めつけは自爆なんていう最悪な結果も一件出てしまった。

元々こういうボードゲームは得意じゃない。そもそも、相手になってくれる人がいないのだから上達するはずもない。

 

「それに、この階級付けも適当な気がしますし」

 

ボクの手元に残った相手側の駒―――大将の駒に博麗霊夢、中将の駒に霧雨魔理沙といったように、幻想郷の住民たちをデフォルメしたような幻が浮かんでいる。でも、彼女たちにルール上負けてしまうヒコーキの駒に八雲紫と摩多羅隠岐奈があてがわれていたり、鈴仙・優曇華院・イナバより蓬莱山輝夜の方が階級が下の駒に浮かんでいたりと、どういう基準で設定されているのか皆目見当が付かない。

 

「どうして、ボクが。

 いまさらボクに、力を与えられても。

 …遅すぎます。しかも、こんな不完全な」

 

ボクに異変の元凶なんて荷が重すぎます。でも、こういった形でも力を使わないと…問答無用で退治されてしまう。異変の解決者は、乱暴ですから。

 

博麗霊夢、霧雨魔理沙、十六夜咲夜、魂魄妖夢、東風谷早苗、鈴仙・優曇華院・イナバ…異変の解決者として活動することが多い幻想郷の住民は軒並み高い階級にあてがわれています。その誰もが、異変解決の邪魔をするなら通りすがりの妖怪でもスペルカードルールで容赦なく負かしていく乱暴者。

スペルカードを作ることすらできなかったボクでは、相対した途端ボロ雑巾のようにやられてしまいます。そして、突然こんな大きい力を持たされたボクなんて…真っ先に怪しまれてしまう。

 

「だから、力を使い切って、力が無いように見せる」

 

そうしないと、ボクが殺されてしまうから。

人間が妖怪になったら、問答無用で処分されてしまいます。

つい最近、その実例があったことを…ボクは知ってしまった。

 

「でも、そのせいで人里が…」

 

死者は出なかった。でも、次もそうなるかはわからない。

 

「………ボクに死ねと、言うのでしょうか」

 

そうでなければ、今さら無力なボクに力が与えられるはずがありません。

 

「誰が、ボクを消そうとしているのでしょう。

 とっくに、消されてしまったはずなのに。

 ボクがひっそりと暮らすことは、許されないというのでしょうか」

 

その問いに答えるモノなんて、ここにはいない。

でも、声に出さずにいられなかった。

 

 

 

「どうして、ボクはここに残されてしまったのでしょう」

 

 

 




次回から更新ペースを落とします。隔日で更新することになると思います。
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