幻想郷を支配?…いや無理だろ   作:KAGENARI

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第9話 手段を狭めた誤解

大佐の先導に従い視認されにくい森道を進むことしばらく、夕日が空を茜色に染める頃に俺たちは目的地に辿り着いた。階級章のデザインに一手間加えた柄の軍旗が、森に囲まれた夕暮れの平地にたなびいていた。

 

(…タンクが二機か。魔理沙とアリスの反応からすると、これを所持してるだけでも討伐対象になる。おまけに魔理沙やアリスを敵に回したり、俺を焼き殺しかけたあの長い白髪の少女に機関部を炎で狙い撃ちされたら破壊されかねん。どこまで戦力たり得るのか…)

 

そして何より位置が悪い。というかどうやってこんな森の中まで移動させたんだ…?タンクを集合地点に一度まとめるためだけに空間魔法でも使ったってのか?

…有り得るな。あの略奪の目的が、空間魔法の行使による魔力回復薬もしくはその材料の確保だった可能性がある。少将はそれらしき魔法を使えるようだったしな。

 

「…大将閣下。中将以下5名、到着いたしました」

「ご苦労」

 

―――脱落者の大半は俺と魔理沙で撃退した連中らしいな。中将は総勢22名と言ってたが、ここに集合してるのは今合流した俺らを合わせて13名。市場で片付けたのは5人だから、合流できてない可能性があるのは俺と騎兵ちゃんがトドメを刺したか確認できなかった工兵を加えて4名か。

 

(市場にいた女性工兵がこの場にいない今なら、誤魔化せる可能性はある。

だが大将が索敵魔法あたりで俺が敵対したことを察知出来てたら…騎兵ちゃんを頼って逃げるしかない、か)

 

騎兵ちゃんもそのつもりらしく、俺のすぐ後ろに控えている。

…男性工兵の視線が俺に刺さってるが。これだけで嫉妬でもしてるのか?だとするとあの工兵は騎兵ちゃんと何かあった記憶を持ってる可能性がある。余裕があれば確認しておきたいところだな。

そして、振り返った大将が一同を見渡し。この場に集結した者全員の視線が向く。

…大将が女性とはな。これも、【男性の実力者】は貴重って幻想郷の影響なのだろうか。

 

「まず私から謝罪を。不用意な私の命令で、6人もの同志を無駄死にさせてしまった…すまない」

 

その口から真っ先に出た言葉は、謝罪だった。

…数が合う。どうやら魔理沙はきっちりトドメまで刺してくれたようだな。

 

「そして、残りの3名も合流できず果てている。今ここに集まった者が、残存戦力のすべてだ」

「…大将閣下は、我らの生死を把握できると?」

「その通りだ。位置は大まかにしか把握できないが、同志が散ったことは即座に察知できる…どうやら私にだけ備わった能力らしい」

 

その言葉に騎兵ちゃんが小さく反応する。つまり俺と騎兵ちゃんは、連中がくたばったタイミングで市場にいたことが大将に把握されているということだ。しかしそこを追求する気が無いらしい大将は言葉を続ける。

 

「ここにいる皆で、我々の目標を果たす。幻想郷の、支配を」

 

これだけの戦力で幻想郷を支配?…いや無理だろ。

 

それをここにいる大半…少なくとも中将と共に合流した者はそう理解している。だが大将の命ならどれだけ理不尽だろうが従う者もいる…すでに覚悟を決めている中将、市場で魔理沙が消滅させた少将、曇りなき瞳で大将を見つめる女性大尉といった面々だ。

 

彼らの目を搔い潜って亡命を図ることになるのか…それは大将の判断で決まる。

幻想郷ではなく、俺らを生み出した存在に刃を向けてくれるかどうかだ。

 

「これ以上の戦力低下は防がねばならん。

 故に、これより全軍を持って侵攻を開始する」

 

そして、そんなに甘くないことを即座に言い放たれる。

大将は、命令に殉じる気だ。

 

「お言葉ですが閣下。この戦力で、幻想郷への侵攻など」

「それは重々承知の上だ、だがやらねばならん。

 我々を生み出した存在が、我々を処断することなど造作もないだろう。

 少佐が我らの地雷で爆死したことが何よりの証左。

 そうでなければ、地雷の設置位置を私以外に伏せるはずがない」

 

…そういうことか。大将は同志の生死は把握できると語った。それが()()()()()として認識するように与えられた能力であったことで、少佐と地雷が同時に斃れたことでフレンドリーファイアと判断できたってことだろう。

同時にそれは、俺らの裏にいる存在は俺らを生存させる意思は薄いってことを意味する。大将が地雷設置位置を把握できているのであれば、それを派遣した全軍に周知させることも出来るはずなのだ。フレンドリーファイアによる自滅なんて最も避けるべき損害なのだから、設置位置の情報を自軍に伏せる必要などない。それを意図的に伏せる理由なんざ、最初から俺たちの全滅を前提に派遣したとしか思えない。

 

逆に言えば、全軍で反逆されても一蹴出来るだけの力を派遣した奴は持っているということだ。それ以外にあの威力の地雷の設置位置を周知しない理由がない。

それならば、命令を遂行すべきだと。大将はそう判断したってわけだ。

 

「異論があるならば対案を出してもらおう。誰か意見はあるか?」

 

覚悟の決まった眼で大将が全軍を見渡す。

…誰も反論しないか。仕方ない、目立つのは避けたかったが…

 

「大将閣下、よろしいでしょうか」

「中佐、発言を許可する」

「俺はここに集結する前に、幻想郷の住民に助けられています。そして、その者は俺より格上の魔法使いでした。

俺はその場で処分されてもおかしくない不審者だったのにも関わらず、地理情報などを渡してくれるなど好意的に接してくれました。

…好意的な先住民より、俺を捨て駒として使い潰す派遣者を優先するというのは納得できない。俺は協力者と共に俺らを生み出した存在を探し出し、始末したい。俺の得た情報を全て話す代わりに、別行動を取らせていただきたい」

 

真正面から大将を見据える。このまま従っては絶対に勝てない戦に付き合わされるだけだ。全軍から敵視される以上、堂々と大将に反発したくはなかったのだが…何かアクションを起こさなければならない場面だった。

 

―――少なくとも、騎兵ちゃん一人なら作戦中に単身離脱すること自体は難しくない。ここで俺が粛清されることで大将に対する反感を全軍に持たせれば、騎兵ちゃんだけでも負け戦から逃がすことはできるはずだ。

 

「中佐のその姿、すでに原住民と交戦したということか」

「はい。人里にて自警団の先制攻撃を避けきれませんでした」

「すまなかった。私の命で人里で略奪を行った部隊と同一視されたことで中佐も先制攻撃されたのだろう。

だが、その提案は受け入れられん。中佐が信用できるからこそ、だ」

 

大まかな位置しか把握できないという言葉に嘘はないらしい。俺と騎兵ちゃんが派遣した部隊と反目し衝突していたことまでは、大将には把握されていないことがこれではっきりした。

 

そして、大将のその返答に数名が俺に対し敵意の視線を向ける。俺に対する内部の監視を強くするための方便か。なかなかのタヌキらしいな、大将も。

だが、続く言葉は予想外のもので。

 

「我々を生み出した存在に敵意を持つのは当然だ。私も納得はしておらん。

だからこそ、中佐を別行動させるわけにはいかん。反逆者としてみすみす粛清される運命を辿らせはしない」

「…どちらも勝てない戦であるのに違いはないのでは?」

「少なくとも中佐にとっては違う。

いま私に伝えてくれたであろう。中佐にはこの地において【協力者】と呼べる者がいる…敗走した後に頼れる者がいるのだろう?

それならば、まずは我々に力を貸してくれ…見える敵からは逃げられても、見えない敵からは逃げることすら難しいのだから」

 

真剣に俺が粛清されることを避けようとしている…それは言葉だけではなく表情でも察せた。これはつまり。

 

「大将閣下は、すでに粛清された同志を知っていると?」

「…そうだ。人里に略奪を向かわせた6名と、派遣された途端に撃墜されたヒコーキ2機、敵拠点近くで破壊されたタンク1輛、到着した位置が悪く現地住民に討たれた騎兵。ここまでは交戦の結果戦死を遂げたことが私には理解できた。そして不運にも地雷を踏んで爆死した少佐も、私には死因が察せた。

だが、ただ一人。中尉だけは本当に【周囲に誰もいない位置】で斃れたのだ…私が目を離した、わずか数分の間に」

 

その言葉で、全軍に緊張が走る。

 

「目を離したということは、もしや」

「そうだ…私が最初に合流できたのが女性の中尉だった。私が目覚めた場から最寄りの位置にいた中尉…この軍旗の下に真っ先に到着していたのが彼女だった。

状況を確認したところ、同志の大まかな位置が把握できるのは私だけという予測がついたのでな。軍旗を集合地点として彼女に留守を任せたのだ。

…中尉に次いで最寄りの位置で少将と大尉が合流していたのを確認した私が、出迎えるために森道に入った途端に中尉が戦死したことを理解した。まだ森道に入ったばかり、1分もせずに森中で開けたこの場に戻ったのにもかかわらず…中尉の亡骸すらなくなっていた」

 

…それはたしかにおかしい。少なくとも俺は少佐の遺体を見つけている。

中尉の殺害だけなら大将が森道に入ったわずかな時間で可能だとしても、遺体の処理はそんな短時間では無理だ。それこそ高位空間魔法などが使用されない限り。

 

「別れ際に、中尉は口に出してしまった。『私を生み出した奴より大将に付いていきます!』と。

…おそらく、私への見せしめとして中尉は犠牲になった。戦力的にも、中尉であればそれほどの痛手にはならないという判断もあったのだろう」

「大将閣下でも、中尉粛清の手段は見破れなかったということですか」

「情けないが、その通りだ…これ以上私の迂闊な行動で粛清者を出すわけにはいかん。

故に中佐、貴官の意見は通せない。非情な我々の創造主から守るために」

「了解しました。俺も何も知らないまま死ぬ気はありません…ひとまずは大将閣下に従います」

「感謝する」

 

…可能性として頭の中にはあったが、本当に俺らの粛清を簡単に行えるとはな。

こうなっては一度合流しちまった以上迂闊な別行動は取れない。それこそ中佐と騎兵なんて戦力としては中途半端、見せしめにされる可能性が高くなる…乗馬による機動力以外が俺より劣る騎兵ちゃんなら尚更だ。

しばらくは、大将の指揮下で情報収集に努める以外の選択肢が無いようだな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

「おかえりなさいこいし様!」

「お姉ちゃーん!ちょっと聞いてよ!」

「うるさいわね…なによ?」

「気に入った死体ができたから、持ち帰ろうとしたの!

 でも帰ってくる途中でこれに変わっちゃったのよ!どういうこと!?」

「はあ…?意味わからないこと言ってるんじゃないわよ。私は死体に興味ないから、勝手にしなさい」

「なによー!!わからないから聞きに来たのにー!

 いいもん!神奈子さんと諏訪子さんに聞いてくる!」

「あ、こいしさまー!?」

「騒々しいわね…最初からそうしなさい」

「…なんだったんでしょう、将棋の駒に見えましたけどあれ」

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