ダンジョン・コンサルタント~より良きダンジョン制作のススメ~   作:ダンコン

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博士とランチ

 

 ダンジョン管理課第三研究室に配属され、出会い頭に九死に一生を得たレーヴェは上司となったマルファスと共に、魔王城地下1階の従業員食堂に足を運んでいた。

 

「遠慮せずになんでも好きなの頼んでね」

 

「はぁ……お言葉に甘えるっス」

 

 ファーストコンタクトこそ命を狙われたが、その勘違いが正されてからはマルファスの態度は随分と気さくで、力こそ全てなダンジョンの魔物とは違っていた。

 ゴブリンほどではないが、決して強い魔物とは言えないレイスであることも関係しているのだろうか、と皿うどんの食券を購入するマルファスを横目で見ながらレーヴェは思う。

 

「あ、肉はやめた方がいいかも。この後の仕事はちょっとグロくなるから」

 

 マルファスの言葉に従い、遠慮なく一番高い豚の丸焼き定食に指を伸ばしたレーヴェをマルファスが制した。

 

「生け捕りにしたパーティーを使って新しいトラップの実験をするんだけど、今回のオーダーは残虐系の即死罠だから、スプラッターになるんだよねぇ」

 

「だから博士も皿うどんなんスか?」

 

「いやボクは普通に好物なだけ」

 

「ならアタシも好きな物食べさせてもらうっス。丸焼きって一度食べて見たかったんスよね。グロ耐性ならあるから大丈夫っス」

 

「そうかい? ならいいけど」

 

 それ以上、強く止めることもなく、注文を終えて皿うどんを受け取ったマルファスと調理に時間が掛かるため手ぶらのレーヴェが席に着く。

 

「どうぞ先に食っててくださいっス」

 

「うん。いただきます」

 

 透明な手で箸を持ち、ローブの中の虚空へと消えていく不思議な食事風景を眺めながら、半分ほど食べ進めたところで自分の分がまだ出来上がらないことに待ちぼうけたレーヴェが口を開いた。

 

「それで、ダンジョン管理課って実際どんなことしてるんスか? ダンジョンじゃ下っ端だったんで、全然知らないんスよね」

 

「あー、基本的にボクらはダンジョンマスターとやり取りしてるからねぇ。それじゃあ簡単に説明しようか」

 

 マルファスは箸を置き、レーヴェには見えない指を三つ立てる。

 

「まずはダンジョンメイクの提案。ダンジョンマスターの代替わりやイベントに合わせて、どういったダンジョンにするかを向こうの希望を聞いてダンジョンの提案をするんだ」

 

「イベント?」

 

「うん。レーヴェ君のいたダンジョンは初心者向けのオーソドックスなダンジョンだから縁がなかったかもしれないけど、海辺のダンジョンだったら地域の海開きに合わせて解放感のある夏っぽくしたり、ハロウィンに合わせて死霊系の魔物を増員して、ダンジョンの雰囲気もハロウィンっぽくしたりするんだよ」

 

「人間のイベントじゃないっスか……」

 

「人間もイベント好きだからねぇ。それに合わせると客入りが多くなるんだよ。客が増えれば危険は増すけど、魔物たちも経験値を得るチャンスが増えるから、一定難易度以上のダンジョンではやってるところも多いよ?」

 

「そういうもんスか」

 

 マルファスは楽し気な雰囲気に誘われて身の丈に合わないダンジョン攻略に挑戦する、そういう間抜けなパーティーも増えるからダンジョン側にも得があると語り、見えない指を一本折った。

 

「それからダンジョンギミックの発案と実験。ダンジョンに実装する新しい罠やスタイルを考えたり、既存のものを改造したり。この後の仕事はこっち寄りだね。ダンジョンマスターから既存の罠じゃ満足できないって要望があったから、新しい罠を開発して提案するんだ」

 

「へー……でも、ダンジョンの難易度は変えられないっスよね。それなのに新しい罠とか導入していいんスか?」

 

「60番台以下、ブロンズ以上のダンジョンは特色を出して差別化することは魔王様とダンジョン管理課も推奨しているよ。難易度に合わせて新しいギミックを作るのがこっちの仕事だ」

 

 現在存在する基本ダンジョンは68個。

 それらは難易度で8つのランクが割り振られており、魔王城に挑戦する資格が得るためには8つのランクのダンジョンをクリアしなければならない。

 該当するランクのダンジョンを初回クリアした時限定でラストダンジョンである魔王城の門が開くことができるオーブが手に入る仕組みだ。

 

 レーヴェが勤めていたのは66番ダンジョン。

 アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、オリハルコン、ブレイブの8つのランクの内、一番難易度が低いアイアン級のダンジョンであり、60番台の8つのダンジョンは全てアイアン級に属する、初心者向けのダンジョンだ。

 踏破者の少ないダイヤ以上のダンジョンは人間側では高難易度ダンジョンとしてひとくくりにされているが、それ以下のダンジョンは人間側でも調査が済んでおり、より細かく星の数で難易度が表されている。

 ちなみにレーヴェのいたダンジョンは星一つの最低難易度で、『ゴブリンの巣穴』と名付けられている。

 

「全然知らなかったっス」

 

「アイアン級は冒険者の登竜門だからねぇ。大昔にこっちで設計したダンジョンをそのままずっと使ってもらってるんだよ」

 

 ダンジョン内で冒険者を倒し、レベルアップしてランクに見合わない強さに成長したものは次のランクに異動となる仕組みだが、万年レベル1のレーヴェは今回が初の異動。

 長く働いていても、ダンジョンの仕組みについて知る機会はなかった。

 純粋に興味深そうに聞くレーヴェに気を良くしながら、マルファスは透明な指を折った。

 

「主な仕事の三つ目。ダンジョンの仕分け……これは一定期間ごとにダンジョンの成果に合わせて、ランク帯を変動させたりする仕事なんだけど、第三研究室には回って来ない仕事だね。新しいギミック開発がメインの研究畑だから」

 

 魔物側の事情を知らない人間界ではダンジョンは生きている、と言われている。

 ダンジョンマスターの代替わりやイベント合わせ、ランク変動による改装が定期的に起こり、様変わりすることからできた定説だ。

 特にランク変動による改装は現在のダンジョンの仕組みが出来た300年前から10年周期で各地のダンジョンで起きていたため、10年ごとに冒険者たちはどのダンジョンが変化したのか、その調査でてんやわんやしている。

 

「うちってやっぱり窓際部署なんスか?」

 

「うぅん! ズバズバ言うねレーヴェ君! まあ間違ってはいないよ。ダンジョンの一斉査定の時期はみんな忙しさにピリピリしてるけど、ボクは無縁だからね!」

 

 上司とはいえ、同じ下級種族のレイスであること、元々マイペースで思ったことをすぐ口に出す性格であることが合わさり、レーヴェは普通に失礼で、上司を早くも嘗めはじめていた。

 

「他にも細かい仕事はあるけど、基本的には新しいダンジョンの形を考えて、それを提案する。それがボクたちの仕事になるね」

 

「なるほどっス。まあやってみるんでやりながら色々教えてくださいっス」

 

「うん、改めてよろしくね!」

 

 その後、マルファスは皿うどんを完食したが一向に食事が運ばれてこないレーヴェに気を使い、おかわりを3つほど注文し、少し気持ち悪くなった。

 

「なんでそんな無理して食ったんスか?」

 

「いや食べ終わった人がいると気を遣っちゃうかなって……」

 

 変わった上司だな、と思いながらレーヴェは念願の豚の丸焼きを完食し、二回目はいいかな、と膨らんだお腹を撫でながら冷静な評価を下した。

 

 

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