ダンジョン・コンサルタント~より良きダンジョン制作のススメ~   作:ダンコン

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はじめての仕事

 

「それじゃあ初仕事だけど、まずはボクの仕事を見て、どんな感じなのかなーって慣れるところから始めようか」

 

「らじゃっス、博士」

 

 第三研究室へと戻り、皿うどんの食べすぎで気持ち悪くなったマルファスの体調が戻るのを待っている間に消化が終わり、元通りのスレンダーな体を取り戻したレーヴェが敬礼で従う。

 

 マルファスが研究室の隅に被せられた布を取り払うと、そこには台車に乗せられた檻が鎮座しており、中には4人の人間の男女が意識を失った状態で倒れていた。

 

「彼らは8つのダンジョンをクリアして、最短で魔王城に挑戦してきたパーティだね。せめてあと倍はダンジョンを巡ってレベリングしないと魔王城は厳しかったなぁ。生け捕りに出来そうだって連絡が来たからイビルメイジくんに眠らせて捕まえてもらったよ」

 

「へー」

 

 檻の前でしゃがみ込み、興味深げに冒険者たちを眺めるレーヴェ。

 あっけなく捕らえられたとはいえ、アイアン級ダンジョンで働いていたレーヴェがこれまで見たこともない、高レベルの冒険者だ。

 今の状態でも、下手すれば寝返りでも打ってぶつかるだけでレーヴェは呆気なく経験値に変わるほどの実力差がある。

 

 そんな怖いもの知らずのレーヴェにマルファスは物怖じしない良い人材が入ったと評価を上げていた。

 

「今回は……49番ダンジョンからの依頼だ。ダンジョンマスターが代替わりしたから、基本設計は変えないまま、新しいトラップをいくつか入れたいって話だね」

 

「それで、こいつらどうするんスか?」

 

「今回の要望は一人用の罠で、とにかく血とかを派手に飛び散らせて、それを見た仲間が怯え竦む感じにしてほしいってことだから、全員起こしたらひとりずつ順番に罠にかけていくよ」

 

「マジっスか!? アタシ、冒険者死ぬところ初めて見るっス!」

 

「そっかぁ……あんなにお肉食べてたけど本当に大丈夫?」

 

「へっちゃらっス!」

 

「頼もしいね。もしダメならお手洗いが向こう、入り口の横にあるから使ってね」

 

 マルファスは犠牲となる人間たちには目も向けず、レーヴェを気遣う。

 レーヴェは平気だと上機嫌に笑うばかりで、ダンジョン内で死ねば生き返るとはいえ、二人して人間を残虐に殺すことに対する躊躇や慈悲は一切なかった。魔物なのでこんなもんである。

 

「あ、でも起こすんスよね? 魔王城に来られるぐらいなんだから危なくないっスか?」

 

「あー、そうだね。レーヴェ君もいるし、今回は全員罠に拘束したまま起こそうか」

 

 マルファスによって研究室の奥から檻が乗っているよりもさらに大きな台車が運ばれてくる。

 新開発された4人分のトラップ──眠り続ける冒険者たちの処刑台だ。

 

「今日は見ているだけにしてもらうつもりだったけど……せっかくだから一人目だけは運ぶのを手伝ってもらおうかな? 好きな子を選んでいいよ」

 

「それじゃあ……リーダーっぽいこの男がいいっス。なんとなく昔アタシを殺した剣士に似てる気がしなくもなくもない気がするんで」

 

「お、良い見立てだね。報告だとレベルはその子が一番高かったみたいだよ。じゃあ足の方を持ってくれるかい」

 

「うぃっスー」

 

 檻を開け、眠り続ける20代ほどの剣士の男をマルファスとレーヴェが二人がかりで持ち上げ、一つ目の罠へと運び入れる。

 

「これは鉄の処女(アイアンメイデン)という罠で、見ての通り内側にたくさんの針が付いていて、閉じたら串刺しになる罠だね。これに限らず、今回の罠を実際にダンジョンに配置する時は触手を忍ばせた触手トラップとして運用する想定だ」

 

 鉄の彫像を開くと大小様々な針が顔を覗かせ、罠にかかった者の凄惨な末路を予想させる。

 針のついていない部分に剣士を立て掛けるようにして配置した後、鉄の処女(アイアンメイデン)の針を指先で撫でているレーヴェにひとつクイズを出した。

 

「さて、触手を忍ばせて中に引き込むとはいえ、見るからに怪しい針だらけの彫像だ。普通は近づこうとはあまり思えない。ではどうやって触手が反応する距離まで冒険者をおびき寄せればいいと思う?」

 

「んー、そりゃ近づきたくなるようにする……アイテムとか他の仕掛けを動かすスイッチとかを置くんじゃないっスか?」」

 

「正解! 今回のダンジョンはそこまで広くなくて、別の仕掛けを置く余裕はないからアイテムを設置する感じになるね。鋭いじゃないか、レーヴェ君」

 

「馬鹿にしすぎっスよー、アタシのダンジョンにだってアイテムでおびき寄せる罠はあったっスし。基本っスよ、基本」

 

 むくれたような反応を見せるレーヴェだが、当てられた喜びが隠しきれておらず、その表情は笑顔だった。

 

「これは失敬。でもトラップの位置だけ覚えてその狙いとかを理解しようとしてくれない魔物も多いから、レーヴェ君は優秀だよ」

 

「まーそう言われたら悪い気はしないっスけどー」

 

 レーヴェはチョロかった。

 

「うっ……? 俺は、一体……」

 

 やんややんやと上司と部下のコミュニケーションが盛り上がっていると、その騒ぎで鉄の処女(アイアンメイデン)に拘束された剣士が目を覚ました。

 マルファスは「レーヴェ君」と短く名前を呼んで下がるように手招きし、レーヴェも拘束されているとはいえ目を覚ました剣士に身の危険を感じて大人しく従った。

 

「みんな……!? おい、お前ら起きろ! 魔物だ! クソっ、ほどきやがれ!」

 

 剣士の視界からは完全に開いた鉄の処女(アイアンメイデン)の扉に付いた針は見えず、怯えよりも魔物に拘束されている状況への怒りが勝っていた。

 

「う、ぅん……?」「っ……なんだ……?」「ここ……どこ……?」

 

 剣士の呼びかけに檻の中の3人も次々と目を覚まし、自分たちの状況を理解して騒ぎ立て始める。

 

「シー……これから説明しますからまだお静かに。まず剣士の君! 君に体験してもらうのは鉄の処女(アイアンメイデン)! 殺傷能力に間違いはありませんが、皆さんに注目していただきたいのはその後! 扉が完全に閉じ、絶命した後に彫像の目の部分からきちんと血が流れ落ち、涙のように見えるかという部分です!」

 

「殺傷……? 絶命って……テメェ、俺に何する気だ!?」

「ひっ……!」

 

 マルファスの異様な雰囲気に呑まれた冒険者たち。そのうちの一人が鉄の処女(アイアンメイデン)の針に気づき、それが即死罠であることを察して短い悲鳴を上げた。

 

「この鉄の処女(アイアンメイデン)は派手に血が飛び散ったりはしません。そのため、他の三つと比べると心を折るという点では及ばないのですが……しかし、血の涙を流す鉄の乙女というビジュアルは宗教的で美しく、だからこそ見たものの想像力を掻き立て、悍ましさを感じさせてくれる! そこに期待して作った新作なのです!」

 

 丁寧な口調に改め、自身の作品について嬉々とした様子で語るマルファスだが、そこに嗜虐心は存在しない。

 人の怯えや怒りに心が動くほど、彼は人に関心はなかった。

 

 傍らのレーヴェも特に反応を示すことはなく、呑気そうにマルファスの語りをそうなんだー、と聞き流すだけだ。

 

「いくらでも語ることはありますが、百聞は一見に如かずと言いますからね。早速味わっていただきましょうか」

 

「お、おい、何する気だ! やめろ! 放せ!!」

 

「スイッチはセンサー式になっています。今はそれをオフにしていますが、オンにすると──」

 

 マルファスが指を鳴らした瞬間、一瞬で鉄の処女(アイアンメイデン)の扉が閉まり、短い悲鳴の後、扉の隙間から血が流れだし、床を深紅に染める。

 そしてしばらく後、乙女の目の部分からも涙のように血が流れ落ちた。

 凄惨な処刑現場を目撃した仲間たちがそれぞれ悲鳴と怒りの声を上げていた。

 

「……うん、成功だね。足元の血だまりのインパクト。その後、静かに流れる血の涙……静かな恐怖を煽ってくれる」

 

「博士、これ開けてみていいっスか?」

 

「いいよ。実際のダンジョンでは血の量から死んでることが明らかだから、死体が目に触れることは想定していないけど。せっかくだから見てもらおうか」

 

「あいあいさー」

 

 軽い調子のまま、血だまりをちゃぷちゃぷと踏みしめてレーヴェが鉄の処女(アイアンメイデン)の扉を開く。

 べちゃりと剣士の死体が血だまりに倒れ、それを足でひっくり返せば穴だらけで見るも無残な身体が晒された。

 

「ふむ……せっかくなら顔は原型を留めていた方が死に際の恐怖の表情が分かって、覗いた人の恐怖を煽れるかな? レーヴェ君はどう思う?」

 

「特にこだわりとかないんスけど……でも顔にちっちゃい穴がぶつぶつ空いてた方が気持ち悪いんじゃないっスか?」

 

「そうだねぇ。うん、小さい針に変えればコストカットにもなるし、そこは改良しよう」

 

 呟きながらマルファスは踵を返し、檻へと向き直った。

 仲間の処刑とグロテスクな死体、部屋に充満した血の匂いにひとりは嘔吐し、残る二人は怒りを募らせ、口汚くマルファスたちを罵る。

 

 マルファスそれを聞き流し、吐瀉物に塗れて震えている女の僧侶に目を付けた。

 気力を失っている彼女は目撃した冒険者の心を折る、という目的を達しており、これ以上見物させる意味はなかった。

 

 檻の扉を開けると怒りに燃える二人が飛び出そうとしたが、マルファスが手を上げるだけで一歩も身動きが出来なくなっていた。

 

 そのまま僧侶の女へと近づき、首を振る女に手をかざすとその体が浮かび上がり、次なる罠へと運ばれていく。

 これから身に起こる絶望を予期して泣き叫ぶが、体の自由が聞かないまま、僧侶は牛を象った鉄のオブジェの中へとしまい込まれた。

 

「これは真鍮の牡牛(ブレイズン・ブル)という罠で、内部に人が閉じ込められると加熱される。そこそこの時間を掛けて高熱になり、その間、閉じ込められた人間の悲鳴が内部で反響し、ダンジョン中に響き渡るんだ」

 

「丸焼きっスか。タイムリーっスねー」

 

「うん。だから余計に心配してたんだけど……平気そうだね?」

 

「だから言ったじゃないっスかー」

 

 マルファスとレーヴェが談笑している間にも真鍮の牡牛(ブレイズン・ブル)は加熱され、僧侶の悲鳴が聞こえてくる。

 檻に目を向ければ格闘家らしき男は何度も檻を叩き、魔法使いらしき女は目をつぶり、耳を塞いで現実から目を逸らそうとしていた。

 

 マルファスは次は魔法使いの方を、今度は一番派手な方を使ってみようと考えつつ、真鍮の牡牛(ブレイズン・ブル)で絶命するまでの時間を計っていた。

 

 

 


 

 

 

 その後、しっかりと3人目で残った格闘家の心を折り、改善点の発見と完成度を確認できたマルファスは満足げに頷いた後、棚からスライムの詰まった瓶を取り出し、それを床に放った。

 

「なんスかそれ?」

 

「スライムたちから摂取した体の一部を改造して作った、人間の死体や遺留品だけを溶かして清掃してくれるスライムモドキだよ。普通のダンジョンと同じで0時になれば人間の死体は教会に転送されるけど、それまで放っておいたらこの研究室じゃ邪魔だからね」

 

「あー、確かに普通の部屋っスし、死体転がってるのは気になるっスもんね。けど便利なもんっスねー」

 

 みるみるうちにスライムモドキに吸い込まれて引いていく足元の血だまりを眺めながら、レーヴェが感心している。

 四つの凄惨な処刑を見た後でもその態度にはなんら変わりがない。

 マルファスは内心で引かれなくてよかったー、と安堵の溜息を漏らした。

 

「ところで博士、魔王城ってどれぐらいの魔物がいるんスか?」

 

「え? うーん、どうだろう。全部合わせたら300は下らないんじゃないかな」

 

「300……やっぱ前いたダンジョンの比じゃないっスね……」

 

「うん。……あ、もしかして知らなかったかい? 魔王城ではダンジョンの経験値は配布されないよ」

 

「うぇ!? そうなんスか!?」

 

「色々事情があるから、経験値がもらえるのは直接倒した子だけだねぇ」

 

 他のダンジョンでは24時間ごとにダンジョンのトラップ等で倒された冒険者たちに応じた経験値が、その時点で生存していた魔物たちに配布される。

 なおレーヴェはほぼ毎回死んでいたため、経験値を入手した経験はほとんどなく、レーヴェが生き残っている時は他の魔物もほとんど生存しているので得られる経験値は雀の涙、未だにレベルアップした経験はない。

 

 しかし、ラストダンジョンである魔王城に限っては例外であり、経験値の配布はなく、直接冒険者を倒した者しか経験値は得られない。

 そのため魔王城勤務の裏方たちは低レベルで配属され、上がらないまま今も魔王城で働いている者もそれなりにいる。が、レーヴェと同じレベル1はさすがにいない。

 

 魔王城で経験値配布が行われないのは、()()()()()()()、魔王城の魔物のレベルが上がりすぎて攻略不能になっては困るためだ。

 レベルが上がりすぎても隠しダンジョンなど別の配属先はあるにはあるが、そう頻繁に異動が発生しては困るため、こういった措置が取られている。

 

「楽してレベル上げられると思ったんスけど……そんなウマい話はないっスか」

 

 見たこともない高レベルの冒険者なら、いくらダンジョン内の人数が多くてもレベルアップができるのではないかと期待していたレーヴェはがっくりと肩を落とした。

 

 

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