ダンジョン・コンサルタント~より良きダンジョン制作のススメ~ 作:ダンコン
「うーん……ブライ君、残念だけどこの造りだと認可は下りないねぇ」
49番ダンジョン、その奥にあるボス部屋。からさらに奥の管理部屋にて、レーヴェは申し訳なさそうに口を開いた。
「ナンダト!? 夜ナベシテ考エタ力作ダトイウノニ……!?」
「ボス部屋に行くのに絶対に行けない部屋に即死罠満載の迷路っていうのは、このダンジョンの難易度に対してちょっとねぇ。しかも確定即死罠まであるし」
「シカシ、確定即死罠ハヒトツダケダゾ……ソレデモダメカ?」
「配置するアイテムを不死鳥の羽とか、確定蘇生アイテムにしたならワンチャン通るかもしれないけど、シルバーランクのダンジョンには特別な理由がない限り配置できないからねぇ」
「ムムム……ソウカ……想像以上ノモノニ仕上ゲテクレタカラ、ソレヲ活カセルヨウニト考エタノダガ……」
「気に入ってくれて嬉しいよ。そうだな……じゃあこういうのはどうだろう? どこかに隠し部屋を作って、そこにアイテムと今回の罠をそれぞれひとつずつ配置するんだ。触手センサーを床感知式にして、アイテムをさっと取ってすぐに逃げれば回避できるようにする」
「ソレナラ認可ガ出ルノカ……!?」
「うん。元々ボクの考えた罠自体にセンサーを仕込んだ作りはもう2ランクは上じゃないと通らないだろうし、罠の難易度を下げつつ、隠し部屋でアイテムを見つけて油断した相手を狙った配置……ってことにすれば許可出ると思うよ」
「オオ……!」
シルバーランク、下から3番目の難易度のダンジョンのマスター、ストーンゴーレムのブライと親し気に会話する上司を尻目に、レーヴェは物珍し気に管理部屋の中を見渡していた。
今日はレーヴェも初仕事として立ち会った罠たちの納品日だった。
研究室に残ってもまだできる仕事がないということで、マルファスと共にレーヴェも49番ダンジョンへと転移し、その納品に付き合っていた。
事前に送られた先日の映像を見たブライは大いに気に入り、本来であれば一部の罠を差し替えるだけの予定のはずが、今日の納品に合わせて新罠専用の部屋の案を考えていた。
しかし、それは回避不可能な、何としても新作罠に冒険者を嵌める造りであったため、マルファスによるやんわりとしたダメ出しが行われた。
ダンジョンの作りはランクごとにルールが設けられており、ダンジョンの作りを変更する際にはダンジョン管理課への設計図を送付して申請を行い、変更前の書類審査と実際に変更した後には実地、二度の審査が通らなければ認可は下りない。
申請自体は何度送っても良いが、あまりにテキトーな内容であれば注意が入り、査定や今後の申請に響く可能性がある。
ブライの考えたようなランクに見合わない難易度であったり、冒険者にとってハイリスクローリターンなダンジョンの申請はダンジョンの在り方を理解していないとして、注意が入ってしまう内容だった。
ダンジョン管理課としては困った客と化しているブライだったが、マルファスは自分の考えた罠で心を動かしてくれたということが嬉しく、ダンジョンメイクの依頼は受けていないというのに事細かなアドバイスを行っていた。
「ダガ……セッカク初メテ自分デ考エタ部屋ダトイウノニ、没ニナルトハ悲シイモノダナ……」
「そうだね……うーん、どうしても通したいって言うなら方法がないでもないけど、ちょっと面倒くさいよ?」
「オオ! 方法ガアルナラ是非聞カセテクレ!」
「隠し部屋にするところは同じだけど、この迷宮を隠し通路にして裏ボス部屋を作るんだ。そして裏ボス前には回復の泉を設置して、確定即死に掛かった冒険者が回復できるようにする」
「裏ボス……ソンナ方法ガアルノカ!」
「うん。昔の魔王城勤務でレベル上がりすぎて引退して、暇してるプラチナゴーレム君がいたはずだから、人事を通してお願いしてから、ブライ君が面談をして……って変更申請まで色々と手間が掛かるけど」
「プ、プラチナゴーレム、カ……」
「裏ボスは表ボスの部下って形になるけど、基本的にレベルがかなり上で、かつダンジョンの雰囲気壊さないために同系種族の魔物だから気まずくって中々裏ボス配置申請してくる人がいないんだよね。でも細かいことは気にしない良い人だよ?」
「ムムム……少シ考エテミルトシヨウ……今日ノトコロハ予定通リ、罠ノ差シ替エダケデ頼ム」
「あはは、わかったよ。それならボクが設置を見届ければその場で許可を出せるから安心して」
「ウム……話ニ付キ合ワセタノニスマンナ」
「いやいや。ブライ君の情熱を感じられて嬉しかったよ。さて、それじゃあレーヴェ君、手伝ってもらえるかな」
話がまとまり、マルファスが待ち惚けていたレーヴェに声を掛けた。
初めて入る別のダンジョン(魔王城を除く)とはいえ、特に気になるものもなかったのか、ダンジョン内の映像を何となしに眺めているだけだったレーヴェはすぐに視線を切ってとてとてとマルファスに走り寄った。
「らじゃっス。結局、何処に置けばいいんスか?」
「事前に渡しておいた資料通りだよ。即死罠4種、計16個。転送石の種類を間違えないようにね」
「ちゃんと覚えてるんで大丈夫っス」
「それじゃあレーヴェ君は初めてのダンジョンだし、せっかくだから入り口から順に回っていこうか。ブライ君、ダンジョンはきちんと封鎖してあるよね?」
「問題ナイ。冒険者ガ残ッテイナイコトモ確認シテイル。レーヴェ殿ニハ退屈ダッタカモシレヌガ」
「お気遣いなくっス」
元のダンジョンでは万年下っ端で新入りにもどんどん嘗められていっていたのに、ダンジョン管理課勤めになるとこうも丁寧に応対してもらえるのか、とレーヴェは複雑な気持ちになった。
「ブライ君は紳士だからね。初めての仕事相手としては最適だと思って連れて来たんだ。中にはめちゃくちゃ言ってくる魔物らしいダンジョンマスターもいるよ」
それを見抜いたマルファスが苦笑すると、ブライが嘆かわし気に体を震わせた。
「アア。オレモソウイウ輩は多ク見テキタ。同ジ魔王軍ダトイウノニナ……」
「魔物なんてそんなもんだと思うっスけど。ブライさんはいい人なんスねぇ」
ブライとレーヴェのレベル差はざっと30程だが、物怖じしない性格であるレーヴェは委縮した様子もなく自然体で、和やかに会話をしながら、三人は転送罠を利用した仕掛けでダンジョンの入口へと転移した。
「もう拳一つ分右……あと指二本分……うん、そこだ」
ギミックの停止したダンジョン内をダンジョンマスターであるブライとダンジョンコンサルタントであるマルファスの解説付き案内で進み、時折すれ違うダンジョン勤務の魔物たちと挨拶を交わしながら、罠の入れ替えを進めていく。
かなり細かいマルファスの指示に、そんなに変わるものなのかと疑いながらも素直にレーヴェは従い、15個目の罠の入れ替えが終わった。
「残リ1ツ、隣ノ通路ダナ」
「そうだね……うーん、ブライ君。押し売りだと思われたくないんだけど、この辺りの通路は大分傷んでるから修繕依頼するか、自分たちで魔力を流して補修した方がいいね。多分このままだと再来月の監査で突っ込まれるよ」
「ソウカ……仕方アルマイ。後デ魔力ヲ込メテオコウ……ドノ辺リガ一番傷ンデイル?」
立ち止まったマルファスとブライの間で、まだ理解が及ばない会話が始まったため、レーヴェは先に古い罠の回収を済ませておこうとひとりで先に通路を曲がった。
ゴーレムらしい石造りのダンジョンの曲がり角の先には、床のスイッチを踏むと炎を吐き出す竜の石造型の罠が配置されている。年季が入った石造は所々が欠けており、その足元には宝箱が設置されている。
回収用の転移石を取り出し、明らかに盛り上がった床のスイッチをギミックが停止しているとはいえ、一応踏まないように右端に進路を取ったレーヴェだったが、踏み出した足の下の床が沈みこみ、カチリと音がした。
反対側の壁を見ると、よく見れば怪しい隙間が空いており、矢が飛び出す罠であることが分かった。
「二段構えの罠っスか……まんまと引っかかっちゃったっスねぇ」
こんなだから3年近く勤めていたダンジョンでさえ罠で事故死するんだなー、と溜息を吐くレーヴェ。
そして、彼女が気づかないうちに停止しているはずの罠が作動し、無数の矢が油断しきった彼女の身体目掛けて発射され──
「ね、ブライ君。魔力の循環が上手くいってないから、供給を止めても魔力が残留して、こんな風に仕掛けが動いちゃってる」
発射されるはずの矢は、罠が仕掛けられた壁を半分通り抜けた状態のマルファスの透明な手に握りしめられていた。
「ム……面目ナイ……レーヴェ殿、怪我ハナイカ?」
「あ……うっス、大丈夫っス。というか博士、よく気づいたっスね?」
「ダンジョン勤務じゃなくてもダンジョンについては毎日考えてるからね。罠が作動したかどうかぐらいはすぐにわかるよ。でもごめんね、せっかく自主的に動いてくれたのに……部下の成功体験が……はぁ」
「スマヌ……」
勝手に死にかけたレーヴェを叱るでもなく、マルファスはブライの方に向けて少し恨みがまし気な溜息を聞かせた。
「あはは、冗談、冗談。レーヴェ君には悪いけど、実際に事故が起きかけたおかげで重大さが伝わってくれたみたいで良かったよ。日頃の点検はもう少ししっかりお願いね」
「アア……」
たじたじになるブライと楽し気なマルファス。
あまりにあっさりとしているため、九死に一生を得た感覚の薄いレーヴェだったが、疑わし気に談笑しているマルファスを見つめていた。
(博士……今、矢が飛び出てから掴んだように見えたっスけど……気のせいっスかね?)
壁矢罠は珍しくもなく、レーヴェのいた66番ダンジョンにも設置されていた。
単純な仕組みだが、気づかずに発動すればかなりの速度で発射される矢の回避は難しい。
そんな仕掛けをマルファスは罠が発動し、レーヴェに到達するまでの僅かな間に空中で矢を掴み取った……そんな風にレーヴェには見えた。
(ま、気のせいっスか。アタシにはそんな速さの矢が飛んで来ててもほとんど見えないっスし)
飛び出す寸前で止めてくれたのだろうと結論付け、談笑するふたりを他所にレーヴェはもう一つの罠のスイッチを踏まないように注意して、しっかりと回収を果たした。