ダンジョン・コンサルタント~より良きダンジョン制作のススメ~   作:ダンコン

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エロトラップダンジョンの不正 後編

 

 人として死を迎え、魔物として生まれ変わったギランはスケルトンとなってからの十数年で初めて、ずっと抱えていた弱音を吐露した後、剣を抜いて拘束されたままの4人の女冒険者の首を刎ねた。

 

 人間だった頃の自分であればしたであろうことをなぞった、真似事の娯楽部屋は潰れ、ダンジョンの不正は正された。

 

 そして、ギランは血のついた剣を床へと放り捨てた。

 

「オレはこれからどうなるんだ」

 

「抵抗はしないのかい? さっきの冒険者たちと今の冒険者で4人。レベルも多少は上がってるだろう?」

 

「この場を凌げるならそうしてたがよ、ダメだな。多少レベルが上がったぐらいじゃ勝てる気がしねえ」

 

 戦闘に入るものとばかり考えていたレーヴェは気が抜けたが、マルファスは感心したように言葉を漏らす。

 

「通常のスケルトンにはない観察眼だ。人間だった頃の経験かな? 

 

「最期は野垂れ死にだがな。犯罪者を長くやってれば磨かれた。そうじゃなきゃすぐに捕まってた」

 

 しばらく沈黙し、マルファスは見えない指を三本立てた。

 

「ボクが提示できる選択肢は三つだ。ひとつ目はダンジョンマスターを降りて、はぐれの魔物になること。虚無感を抱えたまま働くより、外で新しい生きがいを探してみるのもいいんじゃないかな。魔王軍ははぐれの魔物がすることに基本的に関与しないし、自由の身だ」

 

「オレを見逃すっていうのか?」

 

「そう取ってくれても構わないけれど、知っての通り魔物が担当するダンジョンの外で死ねば復活することはない。大半のはぐれの寿命は短いものだ。君も恐らくそうなるよ」

 

「…………」

 

「人間だった頃と同じように野垂れ死んで、『回生』して今度こそ魔物として生まれ変わるといい」

 

 ギランが人としての意識と記憶を保っているのは、人間の死体から生まれた『天然』のアンデッドであるが故の幸運だ。

 魔物として死に、ティアマトの元で新たに『回生』すれば彼の人としての人格は全て失われるだろう。

 

 魔物に囲まれて雌伏の時を過ごし、ダンジョンマスターとなって不正に手を染めてまで取り戻そうとした、人間としての自分を捨てる選択肢をギランは選べなかった。

 

「ふたつ目はこのままダンジョンマスターを続けてもらう道」

 

「ああ? ……オレは冒険者を殺さずに監禁してたんだぞ? ダンジョンの糧じゃなく、個人の糧のために利用するのは禁止されてる。魔物の反乱防止のためだろ?」

 

「さっき言ったように此処じゃ冒険者を長く生かして飼うことはできない。君がスケルトンメイジであれば魔力タンクとして利用することもできるけれど、スケルトンウォーリアーになった君はもう魔法を伸ばす方向に進化することはないからその心配はいらない。冒険者がダンジョン内で遭難しながら数日生き延びる程度のことはよくあることだよ」

 

 ギランが手を下さずとも冒険者はあと数日のうちに衰弱死していた。

 そうなればダンジョンが得るはずだった経験値の帳尻は合い、ダンジョン、ひいては魔王軍に損害は発生しない。

 

 仮に衰弱死させず、今のようにギラン自身の手で殺害し、ギランに経験値が集中することになっても一定以上のレベルに達すれば別のダンジョンに異動になるだけで、此処で力を蓄え続けることもできない。

 

 だから構わない、とマルファスは言い切った。

 

「吸血鬼のダンジョンなんかでも見せしめを兼ねた罠として冒険者を入り口に並べたりすることはあるしね。あれも運が良ければ数日は生きていることもあるから。此処も隠し部屋じゃなく堂々と飼うなら、そういう罠として活用しているってことで認可してあげられるよ。まあ、そうなると人間側で脅威度を上げて、今よりも冒険者の数は減るかもしれないし、これまで通りこっそりやるのがいいかな」

 

 人間がこの場にいれば、顔を顰めるような残忍な提案だが、ギランは呆気に取られるだけで、嫌悪感を示すことはなかった。

 その反応もマルファスが便宜を図ろうとする理由だった。

 

 生前、犯罪者として生きてきたギランは魔物になった人間ではなく、既に人間の記憶を持つだけの魔物であるとマルファスは見ていた。

 

「そして三つめは、魔王城──兵器開発課の魔物研究局で働く道だ。前例はあるとはいえ、君は貴重な存在だからね。これまでの前例は魔王城で働くことはなかったし」

 

「……それはつまり魔物どもの実験動物になれってことか?」

 

「データ取りはされるだろうけれど、ボクたちと変わらない程度の自由は約束されるよ。実験台になるのは捕えた冒険者の方だね」

 

「魔物となった君は人間だった頃と同じものに楽しみを見出すことは難しい。けれど、魔物だからこそ楽しめるものを見つけられるかもしれない」

 

「……魔物に人間を殺す以外の楽しみがあるのかよ」

 

「ボクはダンジョンに関することならなんでも楽しいよ。レーヴェ君はどうだい?」

 

「この仕事も嫌いじゃないっスけど、でも人間を直接ぶっ殺せたことはないんでやってみたらそっちの方が楽しいかもしれないっス」

 

 レーヴェは正直だった。

 

「……あ、今のは言わない方が良かったっスか?」

 

「うーん、まあ魔物の多様性ということで」

 

 現場(ダンジョン)からのたたき上げ(レベル1)だとそういうものか、と苦笑してマルファスは再びギランに向き直り、透明な腕を差し伸べた。

 

「少なくともここで人間だった頃の郷愁に耽るより、人間だった頃には足を踏み入れることがなかった魔王城で働くというのは新鮮な体験じゃないかな」

 

「…………」

 

 ギランは視線を横にずらし、女冒険者たちが囚われていた壁を見た。

 死体は既に転移し、そこには血だまりだけが残っている。

 

 彼女らを捕えた直後、ギランは対話を試みた。

 なんでもいいから人間同士で話がしてみたかった。

 だが、自分の正体を口にしても冒険者たちは一切取り合わず、信じようとはしなかった。

 

 ギランは対話を諦め、冒険者たちの痴態を見て溜飲を下げようとした。

 人間だった頃はそうやって、生意気なことを言った女たちが乱れていく姿に興奮したが、肉のない骨の身体では何も感じることはなかった。

 

 視線を戻してマルファスを見つめる。

 自分と同様、その風貌は魔物そのものだ。

 炎の瞳から感情は窺えない。だが、それは自分も同じことだ。

 そう思うと、不思議とその炎は同じもの(同族)を見る目で自分と視線を合わせているように見えた。

 

 ずっと感じていた孤独が慰められるような気がした。

 

「……まともに話せる奴がいない此処や外よりは、そっちの方が楽しめるかもな」

 

 ゆっくりと腹の前まで持ち上げたギランの右手が、見えない右手に取られる。

 ぶよぶよの空気に包まれるような、不可思議な感触だった。

 誰かの手を取ったことのないギランには、それが人間の手とどう違うのかは分からなかった。

 

 

 

《hr》

 

 

 

 こうしてエロトラップダンジョンで起きた不正は暴かれ、人間の記憶を持つスケルトンという希少種が発見された。

 

 マルファスの迅速な働きにより、ただちに人事を通してギランは魔王城兵器開発課魔物研究局に異動となった。

 

 後任のダンジョンマスターにはダンジョン内で最もレベルの高いスケルトンソルジャーが起用され、同時に新ダンジョンマスターからダンジョン管理課にダンジョンの改装依頼が出され、54番ダンジョンはエロトラップダンジョンと化す以前の、スケルトンたちが跋扈するに相応しい様相へと戻されることとなる。

 

 そして、その作業中に取って付けたようにお約束は発生する。

 

「──博士、産休は取りたくないんで助けてほしいっス」

 

 レーヴェが触手罠の回収に失敗し、無数の触手に体中を弄られながら空中に持ち上げられていた。

 

「即死罠はないから任せてみたけど……まだまだ練習が必要だね」

 

 幸いにしてレーヴェが掛かった触手罠は、本来は手前の淫霧罠を踏んだ冒険者を捕えるための罠で、媚薬生成機能はない。

 そのためレーヴェはサービスショットを提供するだけで済んでいた。

 

「面目ないっス」

 

 マルファスが触手罠を回収したことで着地したレーヴェは乱れた衣服を気だるそうに直して謝罪した。

 アンデッドに性欲がないという話はしたが、レーヴェには羞恥心はないのだろうかとマルファスは疑問に思ったが、セクハラかと思い口にはしなかった。

 

「……もうしばらくはボクと一緒に回ろうか。特にこの先は『感覚遮断落とし穴』があるから危険なんだ」

 

「なんスかそれ?」

 

「レーヴェ君みたいなタイプが引っ掛かると一番危険なタイプの罠かなぁ」

 

 




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