拾って調教したサメが最近反抗的過ぎるので、新しい奴隷でも見つけようと思う 作:ポプ子
「──まさかあの『絶影』が数年ぶりに復帰だとは。今度は一体どんな風の吹き回しなんだ?」
新エリー都に位置するルミナススクエアのとあるカフェ。そこで俺はノックノック(SNS)のアカウントを通じて古い友人であり、かつての仕事仲間もである依頼屋と久しぶりに顔を合わせていた。
「別に大した話じゃねぇよ。近々、新しい奴隷でも見つけてまた一から人生をやり直そうと思っていてな。その為にも先ずは大量の金が必要なんだ」
「……それの何処が大した話じゃないんだよ。それにお前、新しい奴隷って言うがサメのシリオンの嬢ちゃんは一体どうしたんだよ? 当時、お前に懐いていて全く傍から離れなかっただろ?」
「あぁ、エレンの事か。そうだよな、あの頃は本当に天使みたいな可愛げがあったよな……なのに、今はどうしてあんな反抗的に育っちまったんだか……」
「……あー、取り敢えず、仕事の話に戻るか。依頼主はとある大物美術館のオーナーで、数年前に発生したラマニアンホロウの共生ホロウの影響で高層商業ツインズタワー『バレエツインズ』に当時落札したばかりの美術品を今でも対エーテル物質の特殊金庫の中に取り残しているらしい。ここまで言えば分かると思うが、依頼内容はその美術品を傷一つ付けずに回収する事だ」
「復帰一発目の仕事が忘れ物の回収とは随分楽で助かるな。しかも金払いが良いところ、かなりの代物だときてやがる」
「その辺りは俺たちに関係なければ興味もない話だ。だが、今までこの依頼を受けてきた連中は全員消息を経つか、重度の後遺症を抱えながらあのビルから帰ってきた。俺がお前を気に掛ける事は普段ないが今回だけは特別に忠告してやる。お前、初日からこんな依頼を受ける気なのか?」
「──はっ、一体誰に口を聞いてやがる? 俺はホロウレイダー『絶影』だぞ。たった数年のブランクなんざ俺には一切関係ねぇよ」
「そうだったな。お前はそういう奴だったな」
古友との懐かしいやり取りに俺らは不敵に笑い合うと最近身近にいい奴隷になりそうなガキ(ホロウ災害によって親を失った遺児)でも居ないか幾らか話を聞いてみた。
「確かに俺の周りにはお前の希望する良さそうな奴は何人か居るが……お前、本当にあのエレンとか言う嬢ちゃんの事は大丈夫なのか?」
「あっ? エレン? 多分大丈夫だろ。アイツは何だかんだ言って同年代の中でも達観しているヤツだからな。一度でも一人暮らしを経験させてやったら嫌でもその魅力に気が付いてくれるだろうよ。それに…………アイツもいい加減俺の奴隷として解放させてやる年頃だからな。いい男でも見つけて自分の人生を歩んで欲しいんだよ──」
俺はカップのコーヒーを口にしながらウッドデッキからの景色を眺めるとウエディングドレスを着ながらにこやかに笑っているエレンの姿を鮮明に思い浮かべた。
「……どうなっても俺は知らないからな」
古友はそう言って溜息を着くと自分のパソコンを操作しながら俺のスマホの『絶影』アカウントに奴隷(遺児)リストの一覧をデータに纏めて送信してくれた。
本当、コイツには感謝してもしきれないぜ。
◆◇◆◇
『新たなご主人様からご依頼が届きました。
「はぁ、ほんとダルすぎ……」
友達3人からの質問攻め、部活動からの執拗い勧誘、他校から吹っ掛けられた謎の因縁、そしてバイト先からの業務連絡──高校生であるエレンはかつてない程の疲労感に襲われながら今にもベットの中に蹲りたい一心で自宅へと帰っていた。
「ただいまー。……叔父さん居ないの?」
帰宅すると開口一番叔父さんからの出迎えが日常になっていたエレンは何も反応が返ってこないことに一瞬固まると家の中を探し回って叔父さんの所在を確かめ始める。
「ここにも居ない……そう言えばあの時、仕事に復帰するって言ってたっけ?」
叔父さんとの今朝の会話を思い出しながらエレンは不機嫌そうに口に含んでいた棒付きキャンディーを噛み砕くと自分の部屋に戻ってベットに蹲るように横になる。
「……叔父さんが居ない日なんていつぶりだろ」
自分以外誰も家に居ない静かな空間。思い返せば家に帰ればいつも叔父さんが自分を笑顔で出迎えていてくれていたとエレンは再び思い出すと自分で自作した叔父さん抱き枕(顔写真をただ貼り付けた枕)を胸元に引き寄せてアイデンティティである太い
「……叔父さん、あたしのこと絶対邪魔だと思ってるよね。一人暮らし進めて来たって事は多分そう言う事何だろうし。はぁ、さっきからなんでこんな心臓が痛いわけ……っ」
ズキッズキッと胸が締め付けられる初めての感覚にエレンは戸惑い困惑しながらもその
「……叔父さん、あたしに言ってくれたよね。お前は俺の奴隷で、俺の所有物だって。あの時のあたし、その言葉が嬉しくてその日は一日中寝れなかったんだよ? 尾ビレを馬鹿にされた時だって叔父さんが尻尾にペイントのロゴを入れてくれたからさ、次の日からは誰にも馬鹿にされなくなってあたしも普通の学校生活を送れるようになったんだよ? あたしが勝手に叔父さんの仕事場に着いて来て沢山怒られた時だって怪我はないか?とかエーテル侵食は大丈夫か?とか自分の怪我なんて一切気にしないであたしの事を一番に心配してくれて、あたしを巻き込まない為にホロウレイダーの仕事まで辞めちゃってさ…………本当に、なんで叔父さんはそんなにいつも優しいわけ? 全然……意味分かんないだけど……っ。あたしのこと奴隷って言うくせに奴隷みたいな仕打ち一度もした事ないくせに……言ってることとやってることこれぽっちも全然違うじゃん……奴隷ならあたしをもっと酷く扱ってよ……あたしをもっと物みたいにこき使ってよ……奴隷のあたしを家族みたいに大切に扱わないでよ──お願いだから、
溢れ出す感情の濁流にエレンは苦悶の表情を浮かべながら叔父さんの抱き枕をこれでもかと強く抱き締めると叔父さんへの想いを家族ではなく、一人の女性として初めて口に出した。
ブーブー♪
次の瞬間スマホからの通知音が鳴ってエレンは急いで確認してみると『久しぶりに古い友人と飲みに行ってくる』と叔父さんからのメールを目にしてようやく我を取り戻した。
「……はぁ、マジで最近自分の制御が効かなくなってる……。顔でも洗いに行こ……」
フラフラとした足取りでエレンは洗面所に向かうと鏡の中の自分を見てあまりの醜さに呆れてしまった。
「ひどい顔……叔父さんが見たら心配するかも」
ボサボサの黒髪に皺が寄りまくった白の制服、そして暗く歪んだ暗鬱な瞳。自分が如何に一人の叔父さんに執着しているのか改めてエレンは実感すると冷たい水でサッパリと顔を洗い流して乱れていた心を落ち着かせる。
「……お腹空いた。確か、テーブルに書置きか何かあったっけ」
叔父さんを探し回っていた記憶を頼りにエレンはキッチンへ向かうと『生姜焼きの残りが冷蔵庫にある。足りなかったらこの金でも使ってくれ』と叔父さんからのメモ書きを目にした。
「これだけあれば足りるって……いつもありがとう、叔父さん」
決して本人の前では素を出さないエレンだがこの時ばかりは感謝の気持ちを口に出しながら冷蔵庫から6人分の生姜焼きを取り出した。
「えーと、ご飯は……あれ、なんで叔父さんのパソコンがここにあるの? 仕事の連絡用にでも使っていたとか?」
おかずの相棒である白米を探していたエレンはキッチンスペースに置かれている叔父さんのパソコンを見つけると思い付いたパスワードを試しに入力してみる。
「あっ、開いた。あれだけ自分の生年月日をパスワードにするのはヤバいって教えてあげたのに。まっ、あたしには好都合だから別に良いか」
エレンはそのまま画面を操作していくと叔父さんのホロウレイダーアカウント『絶影』にログインして今日行われた叔父さんと依頼屋との会話ログを幾つか盗み見ていく。
「ルミナススクエアのカフェで待ち合わせ……なんか想像していたイメージと全然違うんだけど」
スパイ映画でのお決まり、依頼屋との取引は人気のない路地裏で秘密裏に行われると思っていたエレンは現実との落差に呆然と会話ログを眺め続けると最後の会話まで一気に画面をスクロールさせる。
「あれ、依頼屋からファイルが送られてる。もしかして依頼内容の詳細? 叔父さんの久しぶりの依頼……少しぐらい見ても別にいいよね」
叔父さんを引退させてしまったのは自分のせいだと思い込んでいたエレンは数年ぶりに復帰する叔父さんの活躍を誰よりも一番待ち望んでいた。そのせいなのか、そのファイルを叔父さんの受ける最初の依頼だと思い込んでしまったエレンは躊躇せずにそのファイルを──クリックしてみた。
「──えっ、なに……これ……?」
そこにはかつてのエレンと同じホロウ災害によって両親を無くした遺児達の顔写真。『奴隷リスト』と名ずけられたプロファイル資料が映っていた。
ノックノック(SNS)アカウントをスマホ⇔パソコンで連携していた結果起きた事故。
叔父さん、どーすんのコレ?(鼻ほじ)