私の生徒解釈   作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv

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注意!最後は晴れますが、結構シリアスです。
最終編までのネタバレが含まれます。
また、先生の内面が深く描写されるため、公式先生との解釈違いに注意してください。


ミユと先生のお守り

「うーん」

河原に座り込んだ先生が、両手に持った小石を見比べ、困っている。もう悩みだして一時間は経っていた。

「絶対、この二つのどっちかなんだけどね、私にぴったりの石は」

どちらも、白に黒いつぶつぶの花崗岩。やや大きいのと、小さいの。

先生はもうすっかり、小石の世界のとりこになっていた。私レベルになるまで引き込んだ訳じゃないにしても、ちょっと責任を感じてしまう。

「…ああダメだ!決められない!こうなったらもう、ミユに選んでもらうしかない!」

「わ、私が選ぶんですか!?」

「そう!この道の先輩だし、ミユが選んでくれたら間違いはないよ」

「そ、そこまで言われたら…」

私は悩んだ。悩んで悩んで悩んだ。

 

そしてまた一時間が経った。

私はついに決心し、その石を指差した。

「…決めました。この、小さい方で」

「わかった!ありがとう、ミユ」

「どういたしまして」

全くの直感だった。石を選ぶときはいつもそうだけど。直感的に、先生には小さいほうの石が合う気がした。

先生はポケットをまさぐり、何やら小さな、濃いピンクの布袋を取り出した。

「ふふ、このために持ってきておいたんだ。お守りの袋!」

「お守り、ですか?」

「雑貨屋さんで買ってきたんだ。いい布でさ、石を、これに入れれば…ほら!これでどんな不運も跳ね除けてくれるはず」

その手があったか、と思う。

しかしもう一工夫できそうだ。

「でも、先生。私が思うにですけれど…」

 

発砲音。

 

私も先生も撃たれてない。先生は素早くいつものタブレットを取り出した。私も狙撃銃を構え、索敵する。見つけた。

「向こう岸の森の茂みだね。ミユ、まだ撃たないで」

「はい」

短く返事をする。先生が森へ呼びかけた。

「…いるなら出てきてほしいな!今のは威嚇射撃だね?」

その通りだった。着弾音はしなかった。恐らく空に撃ったんだ。

「…ここだ」

茂みから二人の生徒が出てくる。

見たことのない風体だ。制服を着てはいるが、汚れていてしかも継ぎ接ぎだ。学校に通っている生徒には見えない。

生徒じゃない?しかし、ヘルメット団やスケバンというわけでもなさそうだ。

背の高い方の生徒が問いかける。

「お前がシャーレの先生か?」

どことなく強迫的で追い詰められた様子のアサルトライフルを構えた小柄な子と、堂々とした、スナイパーライフルを持つ大柄な子。スカートの代わりに、迷彩模様のズボンを履いている。偽装のためだろうか。

健康状態が悪そうだ。かなり痩せている。

「そうだよ」

「生徒を助けてくれるというのは、本当か?」

「そうだ」

「どんな生徒でも、だな?」

「うん。私はすべての生徒の味方だよ」

「そうか。それが本当なら」

大きい子が親指で、後ろの茂みを指差す。

「先に私たちが行くから、一分経ったらついて来い」

「…どうしてそんなことを?普通に話してくれたら、私は聞くよ」

先生の問いは無視される。

「来なかったら、お前の言葉は嘘っぱちで、今後は私たちの敵と見なす」

それだけ言って、二人は茂みの中へ進んでいった。

 

「先生、どうするんですか?」

「どう見ても、何か事情がある子たちだったね。行くしかない」

…そうだよね。

…そうじゃないと、私たち(Rabbit小隊)の時だって。

「罠だったらどうするんですか?森の中じゃ、あの子たちに敵意があった場合、とても逃げきれませんよ?」

「大丈夫。ミユが守ってくれるでしょ?一人で来いとは言われてないからね」

「…なるほど」

というか私、気付かれてなかった。先生のすぐ隣にいたんだけど。

「先生。無茶は、しないでくださいね」

「うん、わかってる」

絶対わかってない。

先生はいつも、いつも。

「ミユなら気付かれないはずだから、先行してもらっていいかな。出来れば話し合いで解決したいから、狙撃は最終手段でお願い」

「…わかりました」

「早速お守りの効果があったね」

「えっ?」

「一人じゃ怖いけど、ミユがいてくれるから。お守りが幸運を引き寄せてくれたんだよ、きっと。…そろそろ時間だね」

「先生、ご無事で」

「うん」

私は河原の浅瀬を渡り、茂みの中に入った。

 

 

 

「…さて。アロナ、プラナ、よろしくね」

シッテムの箱に話しかけ、前を向く。仕事の時間だ。生徒を助けるのが、私の仕事だ。

茂みへ進入する。虫の声と、木々のざわめきだけが聞こえる。

草を踏みしめ、歩く。

「…流石の私でも、茂みの中のミユの場所はわからないな」

私生活でさえ存在感が希薄で、仲間からも、果ては自動ドアからすらも気づかれないミユ。私がそんなミユに気付けるのは、それなりの訳がある。哲学の共鳴、とでも言おうか。ミユはこのことを知らない。いや、気付いてて言っていないだけかな。無事終わったら聞いてみよう。

しかし、この深い森の中では、その共鳴はできないようだ。

でも、近くにいる。そして万一の時には、必ず私を守ってくれるだろう。ミユは凄腕のスナイパーな上に、自然の達人だ。

ミユがいて、本当によかった。

森へ、深入る。ゆっくりと。ゆっくりと。

 

「…ううん」

恐らく、そろそろ五百メートルは進んだと思う。

「ただのイタズラ、だったら一番いいんだけど、あのやつれ具合はな」

ミネと一緒に森を探索した時のことを思い出す。森で遭難したという連絡を受けて二人で探しに行ったのだが、結局ただのイタズラ電話だった。ミネは電波を逆探知して、彼女らの志を救護しに駆けていった。

しかし、困っている人なんて最初からいなかった、というのが一番いいことだと私は思う。勿論、今回はそうではないのだが。

 

…見つけた。探していた二人は、並んで待っていた。木の少ない、森の中の小さな広場に。

「…来たな!そのまま動くな、シャーレの先生」

二人とも、銃を向けてくる。容赦ない。シッテムの箱と、ミユがいるからいいものの。二人の後ろには、粗雑な作りのツリーハウスがあった。もしかして、ここで生活しているのか。山から下りないで。

私はシッテムの箱を手に持つ。これでいつでもミユに指示を出せる。

「うん、来たよ。約束は守ったから、話を聞かせてほしいな」

「…いや、話なんてない」

「どういうことかな?」

二人は銃を下ろす。そして、大きい子が、

 

「来てくれるだけでよかったのさ!」

代わりにスタンガンを構え、私に向けた。

「ミユ!」

同時にミユの狙撃で、大きい子の手からスタンガンがはじけ飛んだ。一瞬の事だった。

大きい子は驚愕する。小さい方の子は怒り狂い、私に銃を向けたが、それもミユに撃ち落とされる。

「これで…」

終わりではなかった。

小さな子は茂みの方へ横っ飛びし、木に繋がるロープを引っ張った。

「先生!」

ミユの声。

私は避けられなかった。

私はなにか大きなものに背中をぶん殴られ、宙を舞った。

シッテムの箱は、銃撃しか防げない。

肺の空気がすべて抜けた。息が苦しい。頭から地面に飛び込みそうになり、夢中で腕を地面にかざし、頭部を保護して着地した。

後ろが見える。罠だ。丸太。ロープで吊り下げられた丸太が背中にぶつかったのだ。

ロープと丸太は緑に塗装されていた。ミユは遠くにいたから気付けなかったんだ。

…傍にいてもらえば。しかし、後悔しても遅い。

シッテムの箱は手を離れ、どこかに行ってしまった。

肺が酸素を求め、激しく咳き込んだ。視界が揺らぐ。めまいがする。

必死に状況を見る。大きい子が私の頭に照準を合わせている。

そして、茂みから出てきたミユが、大きい子を狙い。

小さい子は、ピンを抜いたグレネードを持ち、じっと私を見ていた。

いくらミユでも、この距離で何もさせず二人とも無力化するのは、無理だ。ミユがどちらかを撃てば、もう一人が…。

大きい子が言う。

「おい、狙撃手のウサ耳。もし撃てば、この大人の頭を撃ち抜くぞ。それか、手榴弾で粉々になるか。絶対に、動くな」

「…銃を下げてください。そうすれば、私も下げます」

「話が通じないな?私たちが絶対有利なんだぞ。言葉を選べよ」

咳を抑え、深呼吸する。喋れそうだ。

「望みは、何かな?」

「あんたの身柄だ。ウサギに用はない」

「事情を聞かせてほしいな。こんな強硬なことをする訳を。その方がきっと、私は力になれる」

「だめだ。あんたは権力があるだけの嘘つきだ」

「…一人で来いなんて、行ってなかったでしょう」

ミユは二人を睨み、言う。

「…もしかして君たちは、ここで暮らしてるのかな?」

「…」

大きい子が、黙ってこちらを見る。聞いてくれるみたいだ。

「服装や、家の様子からして、完全に山の中で暮らしてるんだね。そうでしょう?私のことは多分、ラジオか何かで知ったのかな。電池をたくさん持ってきて、ストックして。台風とかに備えられないと、まずいしね」

「だったらなんだ」

「私はね、本当にいろんな生徒と日頃関わっているんだ。だから知ってるよ。時に、人を信じることは、何よりも難しいことだって。不幸な目に遭い続けてしまうと、誰だって、大人だって、そうなるんだから」

「続けろ」

「そんな時に手を差し伸べるのも、私の仕事なんだ。…ごめんね、味方を連れてきたりして。でも。正直に言うよ。怖かったんだ、君たちが」

「…」

「一人じゃとても、この森の中に入れなかった。私は意気地なしだ。君たちはきっと、とても勇気を出して、私を呼びに来てくれたのに。特に、君はね」

小さい子を見て、話す。その子は怯えた目で私を見る。

「私に期待してくれたんだよね。でも裏切ってしまった。本当に、ごめんよ」

アドレナリンがもう切れてきたのか、背中がひどく痛い。

「それで?」

「でも、君たちを見捨てるのはもっと嫌だった。だから、その子にも来てもらったんだ。…君たちと、その子、そしてその子の仲間たちは、少し似てるんだ。本人にはどうしようもない事情で、学校を解体されてしまって。でも、自分たちの信念を曲げず、抗議することにしたんだ。だから、長いこと、公園で暮らしているよ。君たちと、ちょっと似てるんだと思う」

「…わかった」

大きい子は、銃を下ろした。

「あんたは信用できる。イヤなプライドを感じない」

「ありがとう。嬉しいよ」

「…私たちは、ここから遠くの、小さな学園に通ってた。田舎過ぎて、在校してるのは、私たち二人だけだった」

私はゆっくり立ち上がった。

「うん」

「でもな、ある日…ヴァルキューレが、近所で起きた放火事件の犯人が、私たちだと言ってきた。誓って言う。冤罪だ。私たちは、カイザーの大人に捕まって、とても、ひどい、ことをされて、言われて…私たちの学校も、燃えたのに」

「…酷い」

ミユが言う。

このあたりでもヴァルキューレの腐敗はすさまじかった。多分、この子たちの件にも、背後にはカイザーがいたのだろう。

その子は涙をこらえ、続けた。

「ああ。…長いこと勾留されて、してもない罪の自白を迫られた。私たちの小さな学校が無くなって、散々追い込まれて、そこの小さいのは、心を病んでしまったんだ。私たち二人とも、社会から逃げて、とにかく地元を離れて。それで二か月前に、ここの山に流れ着いた。そして、ラジオで先生の話を聞いた」

「…私を人質にして、連邦生徒会に抗議するために?」

「…そう。本当に、ごめんなさい。先生」

大きい子は声を震わせ、頭を深々と下げた。

「いいんだ。よく話してくれたね。今まで、よく頑張ったね」

その子は嗚咽し、膝をついた。

「大丈夫。シャーレに任せて。二人の母校のことは、責任をもって捜査する。そっちの君には専門家のケアが必要だね。…でもまず、二人は美味しいものを食べて、お風呂に入って、寝るべきだ!さ、山を下りよう。そっちの君も…」

私の考えはあまりに甘かった。

「お前みたいな大人が」

小さい子は。

私の足元目掛け、グレネードを

 

 

 

「一番信用できないんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生!」

ミユは私の右腕を掴んで、強く強く引っ張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…白い天井。

「ここは」

身を起こす。…少し右肩が痛む。

ここは病室だ。私はベッドで寝ていたんだ。

そして、私のベッドの傍らに。

「…」

ミユがいた。私の顔を、ただじっと凝視している。

私が起きたことに大きく反応しないあたり、もしかして運び込まれてからずっと、私の顔を見ていたのか。

「先生」

「ミユ」

「先生のタブレットは無事です。枕元にあります。先生は一時間半ほど眠っていました。先生は手留弾によっては、特に怪我をしていません。私が先生を引っ張って、地面に倒して覆い被さりましたから。右肩はごめんなさい、強く引っ張り過ぎました。筋肉が痛んだだけで、全治一週間だそうです」

「その」

ミユは淡々と続ける。口を挟ませてくれないらしい。

「あの丸太の罠も大丈夫でした。私が先生を背負って下山している際、しきりに『誰にも言わないで』とうわ言を言っていました。ですから誰にも言っていませんし、このことは知られてません。私は救急車に一緒に乗る必要があったので、小隊の皆には『先生の内密な用事で』とだけ言って、抜けてきました」

「…」

「最後に、あの二人はひとまず、ヴァルキューレが保護しました。小さい子は酷く暴れるので、鎮静剤を打っています。処遇については、先生との面談ののち、指示を待つそうです。私たち(Rabbit小隊)の時と同じですね」

ミユは一息つき、言う。

「先生が死ぬところだったこと以外は」

「…」

重い沈黙。

何も言えない。言えるわけもない。生徒を守ると見得を切っておいて、これだ。

ミユに打たれたって文句は言えない。

ミユは私を見つめ、やがて、眉間にしわを寄せた。

「先生。私、こんなに怒るのは初めてです。あの二人にも、先生にも、不甲斐ない自分にも」

「ミユ、ごめん」

「ごめんで済むわけがないでしょう?先生。どうしてですか?浮浪者に攫われた時も、シャーレが乗っ取られた時もそうでした。先生は、笑顔で人を信じ続けて、そのうち騙されて死ぬんでしょうね。…どうしてですか、先生」

「ミユ…」

「どうして、私なんかを信じて任せたんですか?」

ミユは体を震わせる。かすかに、歯を食いしばっている。

「ミユは、私を守ってくれたよ。それに…」

それに。…どう言葉を紡げばいいのか、わからない。

私は大人だ。だからミユ(こども)に、ちゃんと言葉をかけないといけない。安心させないといけない。

なのに、何も言えない。

「今日、確信しました。先生、あなたは立派な、尊敬できる大人です。でも、それは先生としての部分だけです」

言葉は厳粛に続けられる。

「あなたは一生このままです。周りに言われて直るなら、もうとっくの昔に直っているはずですから。性根から、そうできています。あなたは生徒を、人を助けることにしか興味がない。自分自身の人生には何の感慨もないんです」

「ミユ、私は」

「私には、いや、私だからわかります。どうして先生がこんな人なのか。それは、先生は臆病者だからです。私と同じではなく、私の何十倍もです。目の前で子供が傷つくのが、この世の何よりも怖い。だから毎日毎日、寝る間も惜しんで生徒に尽くすんです。先生が、いつも存在感のない私に気付けるのも、恐怖ゆえです。霞沢ミユは周りから気付かれないことで、いつも傷ついているんですから。それが怖いから、異常なほどに気を張って、私に気付く…」

何か、言わないと。

「でも」

ミユの頬が紅潮する。

「私にはわかります。先生の、先生でない部分…あなた(・・・)は、いつも怖がって、隠れています。自分の人生の全部を、先生の部分(・・・・・)に負わせて、逃げて。あなた(・・・)は、いつも隠れて怯えている」

ミユの目が潤む。

「そんなことはないよ、ミユ。私は、大人だから」

「嘘です。わかるもん、私、…だって、だって」

 

 

 

「先生は今、泣いているじゃないですか」

 

 

 

言われて初めて、気付いた。頬に暖かい液体が伝っていることに。

咄嗟に、手で隠す。

嘘だ。

そんなはずはない。

生徒の前で泣くなんてことは。

ダメだ。止まれ。

止めないと。

ミユは容赦なく続ける。

「…それが、あなた(・・・)の正体です。普段は大人がどうとか言っているけれど、本当は、何よりも、自分自身が傷付くことに怯える子供なんです」

「ミユ」

「先生。最後に泣いたのは、いつですか」

「っ」

それは思い出せないぐらい、遠い、遠い昔だ。

お腹を撃たれて手術して、死んだ自分が現れて、高い空から落ちても、一度も泣かなかった。

それなのに。

「…先生。う、うう」

ミユは私を抱きしめて、私の胸に顔を埋めてきた。

「…やっと、話せました。ほんとの、先生と」

私の何かが、壊れた。

私はおそらく生まれて初めて、自分自身を見失った。

 

 

 

気が付くと、私の心は病室に帰ってきていた。

ミユは私の胸元に密着したまま、腫れぼったい目で見上げてくる。

「…落ち着きましたか、先生」

「…うん」

「バレちゃいましたね。自分自身にすらバレてなかったのに」

「…もう先生やめようかな」

「ダメです。皆先生を必要としていますから」

「…」

あなた(・・・)以外に務まると思っているんですか?」

「まあ正直、ある意味私の天職だと思う。シャーレの先生」

「私もそう思います。…でも本当は、やめてほしいです。このままじゃいつか本当に死にますよ」

「…うーん」

「努力して、なんとかなりそうですか」

「絶対無理」

十五歳の少女にこんな弱音を吐く自分がいることが、ちょっと面白い。

「そうですよね。もう無理です。一日中、物理的に拘束しない限りは」

「ごめん」

「先生がこうでなければそもそも知り合えてませんから、私達」

「…ミユ、なんというか、私への態度変わってない?」

「大丈夫ですよ。皆の前では以前の通りにしますから」

「う、うん…」

身から出た錆である。

「…先生。一つだけ、約束してほしいです。大丈夫、可能なことですから」

「何かな?」

「死ぬな、とは言いません。でも、もし、死ぬかもしれないような事をするなら、必ず、私たち生徒を頼ってください」

「肝に銘じるよ」

ミユは押し黙った。

「…ほ、ほんとだよ」

あなた(・・・)は、嘘つきですからね」

「…」

前のミユが恋しくなってきた。もう二度と、以前のように甘えてもらえないのだろうか。いやまあ私のせいなんだけど。

「先生。私、河原で言いそびれていたことがありました。お守りを出してください」

「あ、うん」

枕元のスーツのポケットから、お守りを取り出した。

「失礼しますね」

ミユはお守りを開いて、小石を一つ入れようとする。

「待って!それは、ミユの一番のお気に入りの石だよね」

「そうです。いつも持ち歩いていたものです」

ミユは躊躇なくお守りにそれを入れ、封をしてしまった。

「これで、お守りは私たち二人の物です。これを、先生が持つんです」

「…いいの?」

「私には、私のやるべきことがあります。先生もそうですよね。でもこれがあれば、いつでも私達は一緒です」

「…」

「これに誓ってください。先生、そして、あなた(・・・)も。絶対、約束を守ってください。いえ、これはもう、契約です」

「け、契約」

この学園都市にやってきてから、契約がらみの大事件に覚えがある。二件ほど。

キヴォトスでは、契約という言葉はとんでもなく重たい。ミユはまさか、わかって言っているのだろうか。

「…破ったら、私が何をするか、私自身もわかりませんからね」

ミユは軽く睨んでくる。…もう取り返しはつかない。

「…うん、誓う。絶対、一人で死んだりしない」

改めて誓ってしまった。

「…もし、どうしても死んでしまうような日が来たら。必ず。私がお供しますから。最後まで」

怖いことを言っているが、反論する資格は私にはない。

「…その、本当にごめん。私なんかのために」

「…ふふふ。ほら、今は休んでください。疲れが取れたら、とりあえず今日は帰りましょう」

ミユの笑みは前とは違う。なんというか、底知れない。

「はい…」

「おやすみなさい、先生」

「おやすみなさい…」

 

 

 

その晩、シャーレのオフィス。

すさまじく存在感を感じるお守りをデスクに置き、考え事をしていると、急にシッテムの箱の電源が点いた。

「先生。本日はお疲れさまでした」

「お疲れさまでした」

「…ごめん、アロナ、プラナ。心配かけたね」

「怖かったですよ!先生、シッテムの箱に紐とか着けてください!なんでいつも裸で持ち歩くんですか!」

「いやなんか、理由はないけど着けてはいけない気がして…」

「理由になってません!」

「はは…」

 

「先生。どうか体に気を付けてください」

 

プラナが言う。

 

「これからは直接的に、ミユさんの命も背負うのですから」

 

「………ちょっと待ってプラナ。まさか」

 

 

 

 

 

「肯定。こちらでは、シロコさんでした」

 

 

 

 

 

ミユと先生のお守り   完

だれのお話が好きですか?

  • コユキちゃんが私を泣かせた
  • ミサキ「先生が高熱だって」〜
  • ミユとの絆レベルが100の状態で〜
  • 二年生コユキは諦めない
  • シャーレに来たシグレが多忙で〜
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