違和感を感じても気にせず読み進めてください。
休憩室で目を覚ますと同時に、体調不良を自覚した。熱を測ると三十九度五分。高い。症状は口の中の苦み、頭痛、めまい。咳はない。しかし立つのも一苦労。仕事はとてもできなさそうだ。
セリナは来ていない。近頃は夏風邪が流行っているので、私が大怪我でもしない限りは駆けつけなくて大丈夫だと言ってあるからだ。病棟が忙しいし、セリナにうつすとまずいから、と。
アロナに「体調を崩したときのためのメールの送り先と文章、テンプレ通りに連絡をお願い」と伝え、元気よく了承される。作っておいたほうがいいと何人かの生徒に言われて素直に作っていた自分に感謝する。おかげでスムーズに連絡ができた。
と言っても、今日は終日シャーレで事務仕事の予定だったので、送る相手はリンちゃんだけだったが。すぐに「わかりました、先生は日頃働き詰めですから、ゆっくり休んでください」という返事が来て、心が温まった。少しして「後半はアオイの伝言です」と付け足され、ますますほっこりした。
それから、当番の子にも休みだと知らせないと。今日は…ミサキだ。
「ミサキ、ごめん。高熱が出ちゃった。当番は中止で。お給料はもちろん出すね」少しして「わかった」。……埋め合わせに今度顔を出そう。
ともかく休まないと。何か食べたほうがいいかと思ったが、食欲もないし、一人で食堂まで歩いていく自信がない。眠気が結構あるので、少し休んでからにしよう。
今は寝よう。寝て、治そう。ベッドに潜って目を閉じる。ヒナタに偉そうに言えないな、私は。きっと、疲れが溜まっているところに菌が入ったのだろう。自分で言うのもなんだけど、日頃から、……………………
強烈な頭痛と共に目を覚ます。……まぶたがうまく開かない。一苦労して開けると、視界は磨り硝子を何層も通したようだった。なんとなくの色ぐらいしかわからない。全開になった窓から、藍色の薄明かりが射し込んでいる。夕方か、それとも朝方か。
だんだん目が冴えてきた。磨り硝子は一層だけになる。万全とは程遠いが、さっきよりはマシになった。でも、視界と引き換えに、頭痛はもっと強くなった。吐き気もひどい。
……頭が、働かない。スマホを見ると、午後四時。夕方だった。今になって気付いたが、雨の音がする。結構降ってるみたいだ。
思考が鈍る。脳の電池が切れたかのようだ。考えることができないということだけが考えられるような。かなり、辛い。
頭痛の波が来る。
「……う」
しばらくとどまり、去っていく。
「……っふう」
病気になるのはいつ以来だっけ。…大人になってから無い気がする。働き過ぎで倒れたことは何度もあるけど、病気はなかった。いや、あったっけ……?
だめだ。深く考えられない。
……こんなに、心細くなるものだったかな、病気って。小さい頃に戻って、一人で留守番をしているような気分だ。
あるのは雨の音だけ。
「…………寂しい」
「気持ち、わかる」
「うん……えっ?」
「後ろ。窓際」
寝返りを打って後ろを見ると、窓際の椅子にミサキはいた。感染対策か、マスクをしっかり着けている。
ミサキは藍色の光に照らされて、椅子に対して横に体育座りし、体を椅子の背に預けていた。倒れないように、椅子の背を壁につけている。
いくつもの光景がフラッシュバックした。ミサキの、助けてほしいというモモトーク。倒れたミサキをホテルに運び込んでベッドに寝かせ、解熱剤を買ってきて戻ると、窓際にミサキが座っていたのだ。
「心配した。辛そうだけど、顔を見ると少し、安心した」
「ミサキ。大事な忘れ物でもしたかな?」
「はぁ。よく覚えてるんだね。細かいセリフまで」
「
「シャーレに常備薬あるでしょ。私もよく使わせてもらってるし」
「ははっ。……あの時と同じだね、ミサキ」
「立場はまったく逆だけど。……まあ、冗談を飛ばす元気があるようでよかった」
「違うよ。ミサキが来てくれて安心したんだ」
ミサキの赤い目が、ふっと窄んだ。
「怒らないの?先生。無断で来ちゃったけど。私にうつるかもよ」
「まさか。来てもらって追い返すなんてとんでもないし、それに、貸しもあるし?」
「……ふふっ」
おや?
マスクの下でミサキが、ふふっと笑った。初めて見たかもしれない。
「……何さ。私が笑うと変?」
「いや。珍しいから」
「今日だけだよ。こういうの」
「そっか。……ミサキ、なんか今日」
「ご飯はいつ食べたの」
「昨日から食べてない」
「栄養をつけないと。食べやすいのを作ってくる。ありもので」
「ミサキ、料理できるんだ」
「私、姫、ヒヨリ。この中の誰が、普段やると思う?」
「納得です。おねがいしますミサキシェフ」
「はいはい」
ミサキはつかつかと歩いて行った。
また一人になったが、もう寂しくはなかった。
しばらくしてミサキは戻ってきた。
「できたよ。薄めの味噌うどん」
「わあ。良い匂い」
「はい、ベッドに座って」
「うん」
ミサキは私のすぐ隣に座ってきた。藍色の光がミサキの白い肌に色を付けていて、なんだか水槽の中の魚みたいにすら思えた。
しかし本当に近い。離れるよう言おうかと思ったが、マスクはしているし、厚意を無下にするのも何なので、黙っておくことにした。ミサキにうつしてしまったら、その時は私が看病しよう。
ミサキはうどんを箸で取り、私の口元に差し出してきた。
「はい、どうぞ。あーん」
「…え」
「…あっ」
ミサキは焦って言う。
「これは違う。その、ええと。昔、姉さんがよくやってくれたから。私、小さい頃は今以上に病弱でよくダウンしてたから、その」
「う、うん」
「絶対、スクワッドの皆には内緒。いい?」
「もちろん」
「ん。……ごほん。……はい、あーん」
いただいた。
……味噌ってこんなに美味だったのか。一口ごとに、活力が注がれるようだ。
いや、ミサキが食べさせてくれるからだろうか?多分、そうだ。うどんは見る見るうちに減っていき、すぐになくなった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様。気分はどう」
「すごくよくなった」
「水、どうぞ。やかんで持ってきたから、枕元に置いておく。薬も」
「何から何までありがとう」
「別にいい。眠れそう?」
「わからない。朝から八時間寝たし」
「……仕方ない。眠れるまでいてあげる。ほら、横になる」
「うん」
どっちが大人なのやら。
「何度も言うけど、今日だけだから。……はい」
そう言われ、手の平で目を塞がれた。人の手のアイマスクだ。ミサキの手は低血圧らしく冷たくて、高熱の体にはとても心地よい。
優しく話しかけてくる。
「先生はいつも、無茶しすぎ。遠くで見ててもわかる」
もとよりウィスパーな声質ゆえ、視界を塞がれたうえで声を聴くと、ものすごく眠気を誘われる。
「みんなが必要としてくれるから頑張らないと、って、いつも思うんだ。私の生きがいなんだよ」
「生きがい、か。まあ、程々にしなよ」
「最近はなにか、ある?ミサキの、生きがいになりそうな事は」
「熱で倒れてても生徒の心配?筋金入りだね。……まあこの生活だから、考える暇がない」
「そっか」
「でも、生きがいかはわからないけど」
「……けど?」
「聞きたい?」
「聞かせてくれるなら」
「その、姉さんがよく看病してくれたって、さっき言ったでしょう」
「うん」
「私は、ほんとに頻繁に熱を出してた。あの環境だったから、余計。死にそうになったことも何度かあった」
「……」
「でも毎回毎回。姉さんも、姫も、ヒヨリも、訓練の時は私にずっと寄り添ってくれたし、訓練じゃないときは夜通し、そばにいてくれて」
「うん」
「どうして、私が倒れるたびにそんなに世話を焼けるのか、ずっとわからなかった」
「わかったの?今は」
「少しだけ。おかげさまでね」
「はは。そうか、私か……」
看病する側は初めてだったのか。
「生きがいかはともかく。弱った人の世話は、嫌いじゃないかも」
「お医者さんに、なるかい?」
「学籍もない私には無理。エリートがなる仕事なんでしょ」
「医者も色々だよ。今度一緒に調べよう」
「ふふっ。きっと、私は忘れてる」
また笑った。本当に珍しい日だ。家族だからだろうか、アツコに笑い方が似ている。
「まさか。ミサキはすごく義理堅いから、忘れてないさ」
「そうだといいね。…ねえ、先生。アズサは元気?」
「うん、とても。この間、任務で来てもらった。大活躍だったよ」
「そっか。…先生は聞いたことある?アズサの、花の話」
「聞いたことないな」
「そう。昔ね、アズサが…」
聞き取れなくなってきた。
ものすごく、眠い。
「………先生………」
返事ができない。間違いなく、脳の半分は寝ている。
「…五時か……………………もう…帰……と」
手のひらが、外される。
青く照らされる、ミサキの顔。きれいだ。ただただ。
「さよなら。…またね、先生」
「はっ!」
真っ暗な中、目を覚ました。
嘘みたいに体調がいい。悪いところと言えば、寝汗で寒いことぐらいだ。熱を測ると、平熱。
「……ミサキ」
やかんとコップが枕元にある。夢じゃなかったみたいだ。
「今日だけ、か。ふふ」
心の中は、ミサキへの感謝でいっぱいだった。
……おや、足音が聞こえる。
三人か四人だ。誰かな。熱を出したことはほぼ誰にも言っていないけど。
ドアが開かれる。アツコとヒヨリだった。ミサキから聞いたのだろう。
「……あ、起きてたんだ。先生、大丈夫?」
「おかげさまでもう、体調は元気だよ」
「えへへ……大人も熱を出すんですねえ」
二人に続いて、ミサキが入ってきた。
「ミサキ!」
「様子を見に来た。もう大丈夫なの?」
「うん。おかげさまで」
「そう」
「今日は本当にありがとう、ミサキ」
「え?」
「?……ミサキが看病してくれたから、おかげで……」
「先生?何を言ってるの?」
「え?」
「え?」
三人とも、不思議そうな顔をする。
「今日、ミサキは私たちとずっと一緒にいたよ?」
背筋が少し冷える。寝汗とは違う、冷気。
「ええと、アツコ。冗談だよね?」
アツコの代わりにヒヨリが言う。
「いえ、アツコちゃんの言うとおり、ミサキさんは今日ずっと一緒に行動してました。三人一緒に、ブラックマーケットで傭兵のバイトをしてまして……」
「……えっ、でも、来たよ。ほら、これ、枕元のやかんとコップ。ミサキが持ってきてくれたんだ。食器は片付けてくれたからないけど、うどんも作ってくれて」
「ごめん、先生。私、そういう冗談は苦手なんだけど」
ミサキは怯えた顔をしている。
「……」
空気が凍る。
「……その、発言してもいいですか」
ヒヨリが言う。
「うっすらですけど、確かにしますね。味噌うどんの匂い。ミサキさんの得意料理……その、慣れ親しんだ匂いなので、わかります」
「……うん。私も感じる。ミサキは?」
ミサキは震えだした。…そして否定は、しなかった。
「いやいやいやいや。ちょっと、やめてよ本当に。嘘、嘘でしょ。先生が持ってきたんでしょ。全部。やかんもコップもうどんも」
「ええと。私、味噌うどんがミサキの得意料理だって今知ったんだけど」
「……ひいいいい!!」
ミサキの恐怖は沸点に達した。しゃがみ込み、顔を手で隠してしまった。ヒヨリはただ困惑し、アツコは何やら目を閉じて考え込んでいる。
「ミサキ、大丈夫だよ、その、落ち着いて……」
「落ち着けるわけないでしょ!というかどうして先生は平気なの!?得体の知れない、私に似た誰かに物を食べさせられて!毒でも盛られたんじゃないの!?」
「え、あっ、あああああ!わっ、食べちゃった!私、二時間近く前に食べちゃった!どうしよう!どうしよう!」
「つ、辛いですねえ、苦しいですねえ。雑誌で読みました。きっとドッペルゲンガーです、本人の知らないところでそっくりさんがうろついて、そのそっくりさんが本人に会うと……」
「ヒヨリ!黙って!黙れ!」
「もごもごもごもご」
ヒヨリはミサキに口を塞がれた。
「皆、落ち着いて」
アツコの澄んだ声が響いた。私を含めたみんなが口を閉じる。
「安心して。私、わかった。多分、この考えは合っていると思う」
「ひ、姫ちゃん」
「わ、わかるの?姫」
「アツコ……」
「今から先生に二つ質問をする。大丈夫だと思うけど、確認のため」
「はっ、はい」
アツコはまっすぐ私を見る。
時折彼女は、子供と思えないような振る舞いを見せることがある。今のように。
ロイヤルブラッドというもののなせる業なのだろうか。
「一つ。ミサキは何時に来たの?」
「四時。もっと早いかもしれないけど。私が目を覚まして、そうしたらそこにミサキがいた」
「……うん、わかった。二つ目の質問。ミサキは、いつも通りだった?」
「……」
────絶対、スクワッドの皆には内緒。いい?
あの時のミサキの言葉が頭にこだました。
「答えてほしい。先生」
「……ミサキ」
ミサキを見る。どうしたらいいかわからない、という顔。
いいのだろうか、言っても。
ミサキの言葉が蘇る。
────生きがいかはともかく。弱った人の世話は、嫌いじゃないかも。
やっぱり、あのミサキはミサキだった。どう思い出しても、本物としか思えない。
そしてアツコは、この謎の答えがわかるという。
生徒を信じるのが私の仕事だ。ミサキという生徒は、スクワッドの仲間や私に、困ってほしいとは思わないだろう。
「いつもと違う感じだった。初めて見る部分が、とても多かった」
「うん。やっぱり当たってる。ふふっ、一回やってみたかったんだ」
「な、何を?」
アツコはずんずんと自信たっぷりに歩き、テーブルの近くの椅子に座り。なぜか、いつもの仮面を被り。
「……探偵さん」
推理を、披露し始めた。
「まず、ここに来ていたミサキが何なのか。結論から言うよ」
「……ごくり」
私たち三人が息をのむ。
「それは。本物のミサキじゃない」
「いや、それは当然で……」
「でも。ある意味本物のミサキより本物」
「えっ」「え……」「えぇ!?」
「わけが分からないよね。人にものを伝えるときは、結論から言うと伝わりやすいけど…この場合では間違いだね」
アツコは楽しげだ。…止んでいた雨が、また降ってきた。窓に、いくつもの水滴が伝う。
「あ、あれですか!やっぱりドッペルゲンガーですか!?」
「いや、もっとちゃんと説明できるものだよ。私たちみんながよく知ってる」
「私たち……私、も……?」
ミサキは視線で説明を求めた。
「すこし、蒸し返すみたいになってしまうけど。……エデン条約のことを思い出してみて」
「エデン条約!?」
流石に予想していない単語だった。どうしてあのエデン条約が、今回の件に繋がるというのか?
「アツコ。さっきから私、全然わからないんだけど」
「すぐわかるよ。……ごめんね。あの時は先生を、皆を、私たちが傷つけた」
「いいんだ、アツコ。君たちも、そしてもっと多くの人にとっても、色々なしがらみから解放されるのには、必要なことだったから」
「ありがとう、先生。どうしても説明に必要なんだ。……その時の私たちの作戦については、覚えてるよね?」
ミサキが答える。
「忘れるわけない。……アツコの力で、あのユスティナ聖徒会の
「そう。そして先生はその計画を逆手にとって、私たちが負けた。それで、このことの何が関係するのかというと」
「うん……」
「今日ここに来た偽ミサキはね、
ミサキの
「……えぇ!!?」
一同は、驚愕した。
「え、でも、……何も繋がりませんよ!?だって、その、沢山出てきますけど……アツコちゃんはもう、アレは使えないじゃないですか!」
アツコは余裕の態度だ。
「一つ一つ答えていくね。ミサキの
「自然!?せ、先生、その……そんな、その辺に勝手に湧き出してくるものなんですか!?
「うん、割といる……」
「いるんですか!?」
「いるのか……」
ミサキは頭を抱えた。
「ごめんね、そういえば二人は知らなかったね。相性?とかで、
「ああ、そういえばアツコには言ってたね…」
そうなのだ。
アツコは本当に強い。広い範囲の仲間の傷を癒しながら、最前線で敵の注意を引き、フィジカルと技術で翻弄する。同じことができる生徒は二人といない。そんなわけでアツコに助力してもらう機会は多く、自然発生した
それから、島にいたユスティナの
「し、しかし見た目はどうなんですか?私が知る限り
「だからさっき先生に質問したんだ。来た時間について、ね」
「はい?」
ミサキは目を閉じ、記憶を辿った。
「……今日の四時は、雨だから日の入りが早くて……」
「そう。ちょうど西を向いたこの窓から、青白い光がよく差し込む。それに先生、高熱だったんだよね?視界がぼやぼやしてなかった?」
「うん、磨り硝子を通したような視界で…言われてみたら…ミサキが、水槽の中にいる魚みたいに思えたっけ。それは気のせいじゃなくて、本当に光ってて、でも藍色の光と、高熱の視界のぼやけで完全には判別できず……あぁっ!」
「せ、先生、どうしました!」
「マスク!あのミサキ、ずっとマスク着けてたよ!」
「……まさか」
「肌の露出を減らして、より効果的に偽装するためだろうね。
時間。マスク。私の体調。この三つの武器を巧みに合わせて、私を騙して見せたというのか?
それも、自立意志などないはずの、ミサキの
「その、ここまで来ておいてなんですけど。服と肌は分かるんですけど、目の色は?」
「実体そのものはあるからね、カラーコンタクトかな。それか、ヒエロニムスみたいに変わった色の
「でも、ユスティナの信徒は、ガスマスクのゴーグルが光ってましたよ」
「
「コンタクト……ちょっとまって、もしかすると…」
このシャーレには実に様々な、需要不明の備品がある。例えばゲームセンターや栽培室のように。
そしてこの休憩室の、洗面台の下の棚には……。
「間違いない、赤のコンタクトが一箱減ってる。誰も在庫を使った事がないから、すぐわかった」
「確定だね」
「う、うーん、アツコちゃん、ミサキさん……私、あと一個だけ、大きな疑問があるんですけど」
「何かな、ヒヨリ君」
すっかりワトソン役にされている。
「その、そもそもの話なんですけど、どうしてミサキさんの
「私も、そこが一番気になる。だって、私の感情、は……」
ミサキは言いよどんで、俯いた。
「ミサキ……」
「ミサキ。この件については『誰が』『どのようにして』まではわかったよね。あとは、ある意味一番重要な『なぜ』だけ」
「……」
「これを話すには、ミサキの覚悟が必要」
「か、覚悟?」
「そう。覚悟は良い?」
「……」
ミサキは押し黙り、私の顔を見た。
「先生……」
「……大丈夫?ミサキ」
彼女の瞳に、意志が光った。
「……うん。やっぱり、何でもない。……アツコ、私、覚悟は良いよ」
「わかった。…おそらくだけど、ミサキの
「……」
私を含めた三人は、理解が追い付かない事に慣れつつあった。
「
「……アツコ、ちょっと、まさか」
ミサキは何やら焦りだした。
「ここからが本番」
語りに熱が入りだす。
「あと必要なのは感情と、目的意識。ユスティナの
「やめ……」「ヒヨリ、ミサキを抑えてて」「はい!」「むっ、むぐ……」
「先生は知らないだろうけど、しばらく前に、ミサキが話してくれたんだ。別行動中に高熱で倒れて、先生に助けてもらった事」
「う、うん」
「そして今日、先生が高熱で倒れた。同じ形で恩返しする機会が来たんだ。でもミサキは言うんだ。病弱な体の私が行っても、うつされて迷惑をかけちゃう、って。結局、夜にみんなで行こうって感じで話は落ち着いた」
「うん……」横目でミサキを見る。必死に振りほどこうとしているが、背後をとっているヒヨリには勝てないみたいだ。
「ミサキはおそらくこう思った。もしも自分がもっと丈夫な体だったら。いや、いっそ、いつかの
アツコは言葉を切る。ミサキが奇跡的にヒヨリの拘束を脱したが、ちょっと遅かった。
「そして、その体で先生に、飛び切りの恩返しをしにいけたら、ってね」
────はい、どうぞ。あーん。
────これは違う。その、ええと。昔、
────仕方ない。眠れるまでいてあげる。ほら、横になる。
そうだ。思い返せば、あまりにも普段のミサキのキャラと違う。
同時に、なぜだかとてもミサキらしかった。
そのわけが、これだ。
「ミサキの、『先生に恩返ししたい、尽くしたい』って部分だけが切り離された
ミサキが羞恥で絶叫している。かわいい。……そうか。
「ああ、そうだ。感情と目的意識がミサキで、出力したのが私、って感じなんだけど。もしかして私に似てる部分とかあった?」
「……うん!何回か笑ったんだけど、笑い方がアツコそっくりだった。あと、アズサの花の話もしてくれた」
「確定だね。その話を直接聞いたのは私だけ」
「ウワアアアーーーー!ヒヨリ!私を殺せ!姉命令だ!」
「い、嫌ですよ!怖いですよ!……えへへ、その、もしですよ?私が高熱を出したら、ミサキさんは」
「うりゃあああああ!」ミサキはヒヨリに飛びかかった。「ひいいいいいい!!」ヒヨリは回避し、逃げ惑う。
「あ。あと、五時だから帰らなきゃ、って言ってた」
「完全に日が沈めば、淡く発光してるのがバレちゃうからだね」
「綺麗に繋がったね」
「素直なミサキ、私も見たかったなぁ。先生ずるい」
「ははは」
その時だ。
窓がコンコンと、叩かれた。
二階のベランダである、窓の外。肌が青白く光る、もう一人のミサキが。ヘイローは継ぎ接ぎで、隙間から青い光が少し漏れている。
そのミサキは私に手を振り。
体が少しずつ、光に分解されだした。
────ふふっ。きっと、私は忘れてる。
────さよなら。…またね、先生。
そうだ。
形はどうあれ、目的を完全に果たした
彼女は確かに、こう言い残した。
「……上手く生きなよ、私」
そうして、消えた。
雷が一つ、鳴り。
嘘のように、雨は上がった。
ミサキ「先生が高熱だって」アツコ「……そっか」 完
だれのお話が好きですか?
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コユキちゃんが私を泣かせた
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ミサキ「先生が高熱だって」〜
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ミユとの絆レベルが100の状態で〜
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二年生コユキは諦めない
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シャーレに来たシグレが多忙で〜