私の生徒解釈   作:ブルアカ二次創作@本拠地はpixiv

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一年でだいぶ落ち着いたコユキのお話。ノアも鼻高々。


二年生コユキは諦めない

目覚ましのアラーム音は今日も出番なし。朝四時に勝手に目が覚めた。早く起きるなとは言われてないから、まあいいんだけど。

むくり、と体を起こす。寝た気がしない。

「……ノーアせーんぱーい、今日もコユキはしっかり早起きでーす、っと……」

伸びをして、カーテンを開く。まだまだお日様は弱っちかった。

食堂が開くまで数時間ある。暇だ。

「……ノア先輩から借りた詞集、読も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二年生コユキは諦めない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

髪のセット完了。ツインテールはだいぶ前にやめた。最近はノア先輩みたいな髪型にしている。二年生の制服はユウカ先輩と同じスタイルにした。髪の色を気にしなければ、先輩二人を混ぜ合わせた感じだ。

「ふわぁ…」

まだ眠い。早く寝て早く起きたのに寝不足なんておかしな話だ。歩いて目を覚めるといいけど。

朝ご飯を食べに行く。食堂が開くと同時に来るような生徒は、徹夜明けの人ばかりだった。挨拶もそこそこに、さっとパンを食べて、さっと食堂を出た。

セミナー室に一番乗りし、またカーテンを開く。コーヒーメーカーの電源をつけて豆を入れる。出来上がるまではパソコンに向かい、ルーチンワークなタスクをこなして待つ。主に特許関係の確認だ。

この時間が結構好きだったりする。誰も来ていないセミナー室はどことなく落ち着くから。

 

約三十分後、ドアが開かれる。

「おはよう、コユキ」

「コユキちゃん、おはようございます」

「おはようございます」

二人が来る。いつもの、変わらぬセミナーになる。

「昨日の晩から今朝までに来ていた申請の整理はしておきました。私は外回りをしてきます」

「ありがとう。気を付けてね」

「はーい」

外に出ようとして、ノア先輩に「コユキちゃん」と呼び止められた。

「先生から伝言です」

「……はい」

「『遠慮なく顔を見せてくれていいからね』とのことです。あと、これは口止めされていましたが……『コユキ私の事嫌いなのかなあ』と口を尖らせていましたよ」

胸がちくりとする。顔に出てないといいけど。

「にはは、……じゃなくて、ははは、先生ってたまに、すごい子供っぽいですよね……」

「そうですね。でも、コユキちゃんをとても心配してましたよ?それと、伝言とは何の関係もありませんけど、本日午後五時半に、先生がこちらへいらっしゃいます。どうします?」

「……わかりました。まあ、なんか……踏ん切りがついたら、会います」

セミナー室を今度こそ出る。

……先生が嫌いになった、なんてことはない。

今でも大好きだ。先生に見つけてもらった四つ葉のクローバーは、押し花のしおりにして大事にしている。

会いに行かないのは、ただ合わせる顔がないだけだ。

 

 

 

外回りというのは要するに、いろんな部の視察だ。悪い言い方をしてしまえば、セミナーの中で二番目に好かれているこの私が、各部の様子を探って回る仕事だ。ついでに口頭でないと聞きにくいあれこれの要請や意見も聞いて、メモして、先輩たちに引き継ぐ。

今日回る部活をリストアップすると、嫌な名前があった。

「ヴェリタスに野球部に……エンジニア部も、かあ……はぁ」

どうか何事もありませんように……。

 

願いも虚しく、何事か起こっていた。ついてない。でも知ってた。

オートマタの軍団がものすごい勢いで廊下をマラソンしていた。マラソンというのは比喩ではなく、機械たちが頭に鉢巻を巻いて、この棟の廊下をエンドレスに回り続けていた。ご丁寧に審判役までいる。

隅の方で困り果てているヒビキちゃんに話しかけた。

「いったい何事?」

「あ、コユキ……。光輪大祭の応援プログラムをいじってたら、選手モードが起動してしまって」

「なんでそんなモードが?」

「没にしたんだけど、データの奥底に残滓が眠っていたみたい。ちなみに少しでも危害を加えると武装して団結して猛反撃してくるみたいで。シャットダウンも通じない」

「はあ……」

廊下を一周して、オートマタたちが帰ってきた。なるほどこれは確かにバグの挙動だ。なんか走り方が変だし、なんならたまにぶつかり合って転倒している。一番インを攻めてるやつらは、消火器を蹴り飛ばしたり窓ガラスを破壊したりしている。

……このままじゃ修繕費のために、ユウカ先輩がまた苦悩することになる。私が好き勝手やってた頃、夜遅くまで事後処理をするユウカ先輩の顔が思い浮かんだ。

「……あのオートマタども、破壊してもいい?このままじゃ備品がどんどん壊れちゃうから」

マリ・ガンを構えると、ヒビキちゃんは目を丸くした。

「問題ない、けど……一人でいけるの?」

「昔よりは強くなったけど、さすがにこの数は無理だから支援をお願い。あと……電話しないと」

アカネ先輩に電話すると、すぐに近くの人を向かわせるとのことだった。助かる。向かわせる、ということはアカネ先輩本人は来ないわけだ。損害を出さないために戦うんだから、過剰な火力は困る。

……あとは、援護が来るまで時間を稼ごう。

「んじゃ、次に帰ってきたら仕掛けるよ。準備してね」

「うん……わかった」

足音がだんだん近づいてくる。呼吸を整え、手榴弾を三つ構える。

私は週に二回、C&Cの訓練に混ぜてもらっている。セミナーには護衛のドローンやオートマタぐらいはあるけど、ユウカ先輩とノア先輩本人は、決して強いとは言えない。だから私は強くなりたかった。さすがに先輩方やトキちゃんみたいなすごい才能は無かったけど、今では人並み以上に戦えるようになった。

あと十秒。オートマタが見えたら、この爆弾を投げつけるんだ。もういないネル先輩のことを思い出す。あの人にも教えてもらいたかった。でももういない。あの先輩は負けることを知らなかった。どんな時でも変わらない人だった。……もう教わることはできないけど、心意気を勝手に真似することならできる。

すう、と空気を肺に入れ、叫んだ。

「……ぶっ殺すぞ!!!」

投擲、そして即遮蔽。爆発と電撃と銃弾の炸裂音が響く。同時に迫撃砲の追撃。半数ぐらいはこれで吹っ飛んだだろう。煙が晴れてから、すぐに遮蔽を飛び出して敵の前に躍り出る。

「死ねっ!!!」

装填しておいた特殊マガジンによる赤い拡散光弾四十発を、動くものに容赦なく撃ち込む。無事だったオートマタから肩と右の腿を撃たれ、鈍痛が走る。

ただ痛いだけだ、何の問題もない。

全弾撃ち尽くした。あとたったの三体。サイドアームを取り出し狙いをつける。ノア先輩と同じ型の拳銃だ。

頭部を狙う。一体目クリア。二体目。肩に食らってしまうもクリア。……三体目!

「死ね、死ね、……死ね!」

二発外すも三発目を頭に当て、クリア。

銃口をあちらこちらに向け、索敵。

「……清掃完了。ふぅ……」

オートマタの強さなんて気にしたことなかったけど、弱いんだなぁ。

「……コユキ、その、大丈夫?」

「何発かもらっただけです、手当は自分でやるのでお気になさらず」

「あっうん…………なんというか、人って変わるものなんだね」

「見た目ほどは変わってないよ。じゃあこいつらの掃除と始末書、お願いしますねー」

歩き去ろうとすると、コッコッコッコ、という小気味よい足音が聞こえてきた。トキちゃんだった。

「あっ、コユキ先輩。……その様子を見るに、一人で片付けてしまったんですか」

「まあ支援も込みだったけどね。無駄足させてごめん。あといつも言ってるけど、私にはタメ口でいいから」

トキちゃんはかぶりを振る。

「いいえ、私は一年生ですから」

「……これ以上多くの人の後輩にならないようにしなよ。また留年したら先生悲しむよ?」

「大丈夫です、最近はカリン先輩と一緒に勉強を頑張っていますし、出席日数も足りていますから」

「ならいいけど……」

トキちゃんはじろじろ私を見る。

「……どうかした?」

「もしコユキ先輩が良ければですが、今度……」

ジー、ジーと、トキちゃんのスマホが鳴る。

「おっと、またどこかで事件のようです。話はまた今度で」

「わかったよ」

トキちゃんは風のように素早く走り去った。私もヒビキちゃんに会釈し、その場を立ち去る。

「……よし、次は……」

 

 

「はーあ、終わったぁ……」

ミレニアム特有の大きな窓から、橙の日光が射し込んでいる。

セミナー室を目指して歩く。時刻は五時、ぼちぼち終業時間だ。といっても先輩方はまだまだで、五時あがりは私の特例だ。

……先生は五時半に来るんだったな。ばったり会わないうちに寮に戻ろう。

「戻りましたー」

「お疲れ様、コユキちゃん」

ユウカ先輩は外していて、ノア先輩だけだった。

「お疲れ様です。今日言われたことは大体、セミナーのデータベースに送信しました。それから……」

セミナーへの要望や不穏な噂(たまによその部活へ襲撃を企てる奴らがいるので)について伝えた。

「そんなところです。あ、それからノア先輩、これ、読み終わりました。貸していただいてありがとうございました」

私のデスクの鞄からボードレールの詩集を取り出し、渡した。

「あら、もう読んでしまったんですか?ずいぶん早いですね。どうでしたか、初めての詩集は」

「面白かった……かは正直分からないんですけど、この詩を読んだノア先輩はどう感じるのかな、みたいなことを考えながら読みました。あ、あと、世界観に何故かとても惹かれました」

ノア先輩は眉をひそめた。

「……コユキちゃん。これ、聞こうか迷ってたんですけどね。夜、ちゃんと眠れていますか?」

心配をかけてはいけない。私にそんな資格はない。絶対に。

「いえ。ちゃんとノア先輩……に決めてもらった時間を守って寝起きしてますよ。本当です。どうしてそんなこと聞くんですか」

「夜眠れないときほど、本に集中できる場合はないですから。私の持論ですけどね」

「……そうですよね、わかっちゃいますよね。ノア先輩には、いつまでたっても敵いません」

「ええ。返答が普段より少し早いし、瞬きも増えています。昔よりずっと嘘が上手になりましたけど、私は全部お見通しですよ」

「……」

「一人でいるのが嫌になったら、すぐに言うんですよ?」

「はい」

一人はつらい。私もそうだ。誰だってきっとそうなのだろう。

でも今の私は、先輩たちと一緒にいるほうが辛いんだ。

「……私は、いえ、私たちはね。コユキちゃんをいつでも想っています。それを忘れないでくださいね。難しい事かもしれませんが、甘えたくなったら甘えに来ていいんですから。私たちはいつでも受け入れますからね。わかりました?」

こんなに優しいノア先輩は初めて見た。私が努力していれば、もっと早くに見られたはずだ。

「はい。今日は、その。ホットミルクでも飲んで早寝しますね」

「ええ、それがいいでしょう。本当に、いつでも呼んでもらっていいですからね。ご飯、食べられるならちゃんと食べるんですよ」

「今日のノア先輩、なんだかユウカ先輩みたいです」

「うふふ」

話し込んでしまった。もう帰ろう。

「それじゃあ、私はこれで……」

自動ドアの音。誰か来たみたいだ。

「あっ、コユキ!やっと会えた!」

恐る恐る、振り向く。決して焦燥を顔に出さないようにしながら。

私のよく知っている、いつもと変わらぬ先生。

その後ろに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年生の、私。

今日はシャーレの当番だった。

「あっ、おっきい私!よかったですね先生、ついに会えましたね!」

「はは、そうだね。久しぶり、コユキ。また少し背が伸びたかな?」

「……はい、そうかも、ですね」

耳鳴りがしてきた。小さい私が、不思議そうにこちらを見てくる。

苛立たしい。

「その、ごめんなさい先生。私ちょっと今、気分が悪くて……話すのは、今度でいいですか?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

「……じゃあ、また」

「コユキちゃん……」

ノア先輩を無視して、私はセミナー室を出る。

私は逃げた。

また、逃げたんだ。

 

 

 

寮の、自分の部屋の近くまで来ると、恐ろしい声が聞こえてきた。

あの魔王(AL-1S)の声。

身体と心臓が言うことを聞かない。

まずい。発作だ。

廊下の陰の壁に背を預け、しゃがみ込む。

「ユウカ!次はこちらです!大きいコユキにもアイスが必要です!いつもなんだか寂しそうですから、きっと喜びます!」

ユウカ先輩は困って、なにか言っている。コユキはアリスちゃんが嫌いなんだからダメ。……なんて言えるわけないから困ってるんだ。

あの日の記憶が浮かんでくる。血だまりに倒れたユウカ先輩。あの魔王は、倒れた、ユウカ先輩に……。

吐きそうになるのを必死にこらえる。吐いたら魔王に気付かれる。

ダメだ。落ち着かないと。呼吸を整えないと。ダメ。あの子は私の世界のあの子とは違うんだ。皆に愛される勇者なんだ。私なんかとは比較にならないし、あの魔王とは真逆の存在だ。

それを嫌うなんて、最低なのに。

ユウカ先輩はうまくごまかしてくれたみたいだ。私とは逆の廊下へ二人とも出て行った。すぐに自分の部屋に飛び込む。

「はーっ、はーっ、……」

自分が制御できない。床の上に倒れこんで、胎児のように丸まり、歯をカチカチ鳴らして震える。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい……」

先輩。先生。

私だけ生き残って、ごめんなさい。

みんなの役に立てなくて、ごめんなさい。

一人生き残って逃げてきたのに、ちゃんと生きることができなくて、ごめんなさい。

 

「……」

パニックが治まってきた。一時間ぐらい経っただろうか。

「……」

どうしよう。泣き疲れて、身体に力が入らない。

……とりあえず床を這って、ベッドの上に這い上がった。

今日はもう寝ようかな。うん。そうしよう。ご飯を食べる元気もないし。

私は着替えもせずに、本当にそのまま目をつむる。

そして案の定、眠れない。眠気が全く、来ない。

ワイヤレスイヤホンをつけて、爆音で明るい曲を流す。気分を無理にでも変えるためだ。先輩方の助けも借りようかな。私はフラフラと立ち上がり、部屋の隅のロッカーを開く。

取り出したのは三丁の武器だ。私の世界にいた皆の銃。ユウカ先輩の二丁のSMGに、リオ先輩の使っていた拳銃。遺品だ。ノア先輩の銃は、サイドアームとして常用している。

それから、部屋に飾ってある、しおり。先生の見つけてくれた四つ葉のクローバーだ。

四丁の銃と一つのしおりを、いっぺんに抱きしめて、目をつむる。銃なので当然だが、ごつごつしてて固くて抱き心地は悪い。

銃に、話しかける。

「……先輩。私。毎日頑張ってますよ」

ユウカ先輩は死んだ。『アリスちゃん、やめて』と最期に言っていた。

ノア先輩も死んだ。私を守るために傍にいてくれた。沢山血を流して、でも私を逃がすために、ずっと走っていた。私が泣いたら、ノア先輩は手を繋いでくれた。『私がいなくても、ちゃんとするんですよ』……この別れの言葉は日中でも度々、幻聴として聞こえる。

リオ先輩も死んだ。あなただけでも救う、としきりに言っていた。私に銃を渡し、嫌がる私を無理やり、郊外にあったオーパーツのカプセルの中に入れて、機械をいじって……。背後から、魔王に乗っ取られたオートマタ達に襲われたところで、私の視界は真っ白になり。

目を覚ませば、この世界にいた。

「……ねえ、ユウカ先輩。ノア先輩。リオ先輩。先生……たまには化けて出てきて、成長した私を褒めてくれてもいいんですよ?何なら、理不尽に怒ってきてもいいです。話したいです。会いたいです」

この世界のノア先輩から詩集を借りたのも、そうだ。ノア先輩の趣味の読書。趣味が同じ人がミレニアムにいない、って昔こぼしてた。なんでそれを聞いたとき、本の読み方を教えてほしいと伝えなかったんだろう。

大事な物は失って初めて気づくらしい。全部失った私には、後悔ばかりだ。

「……私もそっちに行きたいなんて言ったら、絶対みんな怒りますよね。だから、そんなことはしません。諦めなければきっといつか、いいことがありますから。だから、私、明日も明後日も、もっと頑張ります。もっとちゃんとします。もっとみんなの、役に立ちます。……だから。だから……会いたい。会いたいです……会いたいよぉ、皆に、会いたいよ……」

 

 

 

その時だった。

イヤホンを貫通するレベルのすさまじい爆発音が響いた。心臓が口から飛び出るかと思った。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

驚愕して振り向くと、そこにはユウカ先輩とノア先輩と、先生がいた。もうもうと煙が立ち込める。

「えっえ、何、なんですか、何事!?」

イヤホンを大慌てで外すと、三人はほっと胸をなでおろした。

「よかった。コユキ、音楽を聴きながら寝てたんだね」

「えっあっ、はい、そうですけど……」

「なんだ……本当によかった。ごめんね。インターホン押したんだけど、コユキが全然出てこなくて。そしたらユウカが『コユキ!まさか…!!』って物凄く慌ててさ。私とノアで抑えようとしたんだけど、ユウカがすぐにグレネードを投げてね。ドア、吹っ飛ばしちゃった」

「ここまで大慌てのユウカちゃんは初めて見ました♪」

「う、うるさいわね!……それに、あんたもあんたよ。全部あんたのせいよコユキ!」

「わ、私ですか!?」

「そうよ!起きてる間、ずっと黙って浮かない顔で仕事して、ご飯も全然味わわずに少ししか食べないで!しかも強くなりたいだの詩集貸してほしいだの、私の知ってるコユキからは絶対出ない事言うし、それに、それに……毎日辛いんでしょ!!見てりゃわかるのよ!なんか私より背が高いけどね、あんたはやっぱりコユキよ!上っ面がいくら変わっても、甘えん坊な私の後輩!……だから、……言いなさいよ。助けてって、言いなさいよ」

ユウカ先輩は、泣いていた。

私も、泣いた。

「あらあら……」

「うーん……ユウカ、ノア。ちょっと二人きりにしてくれる?」

 

 

 

ベッドに二人で並んで座る。

「コユキがやってきた日以来だね、落ち着いて話すの」

「はい……」

先生はベッドの上のしおりに目をやった。

「それ、そっちでも私が見つけたのかな?」

「……はい。私が探しても見つからなかったのに、先生は一発で見つけてくれたんです」

「おんなじだ」

「には、……ははは」

先生が手を握ってくれる。私の手がひどく冷たくなっていたことを初めて知った。

「コユキ。にはは、って笑わないの?」

なぜか、胸の奥に固い秘密として押し込んでいたはずの金庫は、あっさりと開いていた。先生の魔法だろうか。

「……私、その。よそから来ましたよね」

「うん」

「私があんまり目立つと……この世界の私が受けるはずの幸せを横取りしてしまうんじゃないか、って思うんです。怖いんです。全部、怖いんです。先輩や先生と話すのも、ミレニアムにいるのも、夜眠るのも、この世界の、未熟で何もできない一年生の黒崎コユキも……なんの罪もないアリスちゃんも、怖い。……あの日から、私は心のどこかで、自分が存在していていいわけがないって思うようになりました」

「……うん」

「でも、みんな、私を逃がすために戦ってくれました。銃って、キヴォトスの青春の証みたいなところがありますよね。そんな重たくて大事なものを、みんな託されました。ノア先輩の銃はいつも使ってますけどね、敵と戦っている時、たまに、私から見えない遮蔽の陰で、私の世界のノア先輩が敵の行動のメモを取っているような気がするんです。もちろん、敵を片付けて確認すると誰もいないんですけどね」

「……」

「つまり、みんながいてくれないと、私は今ここにいなかったんです。その事実が、私は黒崎コユキとして、ここにいてもいいんだって肯定してくれます。否定も肯定もすぐ近くにあって、心が板挟みなんです」

自分で自分のことをここまで考えていたことに、長々喋りながら驚く。

先生はうんうん頷いて聞いてくれて、私も言葉がどんどん出た。大人って、すごい。

「コユキ。何度も言われたと思うけど。辛かったね」

「……みんなに、会いたいです」

「……この世界の私達と、そちらの私達は似ていたかな?」

「そっくりです……アリスちゃん以外は」

「そうか。でもきっと、コユキにとっては大きく、何かが違うんだろうね」

「はい。たぶん、私の気の持ちようだと思います」

「はは。まあ、何事も大体そうだよね。気の持ちよう」

「にはは、……じゃなくて……はぁ……」

ため息を吐くと、先生は人差し指を立てて言う。

「コユキ、ルールを一つ決めてみない?私の前では、にははと笑うこと。どう?」

「……そんな資格が、私にあるんでしょうか」

「いいんじゃない?もちろん、コユキがいいと思えばの話だけどね」

試しに少し笑う。

「……にはは」

「お」

結構いけそうだ。

「……うん。ははは、よりずっとしっくり来ます」

「じゃあそうしよう!そうだ、はっちゃ!も聞きたいな」

「にはは、それは私がこう、元気にならないと……自然体にはできないかな、って」

「そっか、じゃあ私の元気を分けてあげるよ。何してほしい?私が何をしたら、コユキは元気が出るかな?」

そうだなあ…………。

 

「……今日、い、一緒に寝てほしいな、なんて……」

 

「…………」

物凄く困った顔をする先生を見て、私は噴き出した。

「に、にはは!て、照れてるんですかぁ?まあ?今や私は背もぐんと伸びて、む、胸とかも成長しましたしぃ?先生には難易度高いですよねぇ、にはははは!」

「むう……あ、でも、今日は寂しくないと思うよ。私は消灯まではいるし、それに……」

ドアの外から、私を呼ぶユウカ先輩の声がした。慌ただしく二人とも入ってくる。

「コユキー!ほら!これ見なさい!内緒で買っておいたのよ、今のあなたのサイズで!これ、知ってるんじゃないの?」

「あっ!そ、それは……」

兎のパジャマ。私の世界で、皆でお泊り会した時の……。

「今日は私もノアもここに泊まるから。もちろん拒否権は無いわよ!もう時間も遅いけど、今日は特別に、眠くなるまで付き合うからね!……今までの分、遊ぶわよ!!」

「……はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒崎 コユキ

 

年齢 16歳

 

誕生日 2月14日

 

身長 158センチ

 

趣味 読書、仕事、みんなと話すこと

 

 

 

たった一人でやってきた別世界線のコユキ。

 

自分の世界ではついに知ることのなかった、みんなの色々な部分を知りたいと願っている。人の役に立ちたいという思いがとても強く、すさまじい無茶をやらかすこともしばしば。この世界のコユキやアリスに対しては複雑な思いなものの、いつかは仲良く話したいと思っている。なお、相変わらず才能の自覚はない。

苦難にあっても諦めない。

 

 

 

 

二年生コユキは諦めない   完

だれのお話が好きですか?

  • コユキちゃんが私を泣かせた
  • ミサキ「先生が高熱だって」〜
  • ミユとの絆レベルが100の状態で〜
  • 二年生コユキは諦めない
  • シャーレに来たシグレが多忙で〜
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