小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第01R わたしのミラクル将来設計!

 

 

 私って、なんのために走るんだろう。

 

 

「……トゥインクル・シリーズの賞金には、おおまかに正賞と副賞があります。正賞はレースの主催者がレース文化振興のために出す賞金であり、副賞は協賛企業が……」

 

 お金持ちになるため?

 有名人になるため?

 

「……ちなみに、未勝利クラスを突破した後に挑むことになる条件戦(リステッド)の賞金は概ね1000万円。ここから各種分配や課税を経て、みなさんの元には……」

 

 まあ、お金は大事だよね。

 よーく考えないといけないよね。

 

「……この授業の目的は、みなさんが正しい金融リテラシーを身につけ、よりよい競走生活を……」

 

 でもなんだか。やっぱり。

 自分事のような気が、しない。

 

 空気の抜けた風船みたいにやる気がしぼむ。

 ふにゃりと背骨が柔らかくなって、重たい頭を支えられなくなる。

 

 ……これはそろそろ、眠りの国へご出国かなー。

 

 ふにゃ…………

 

 

 …………。

 

 

「ミラ子ー。ミラ子おきろ~」

「はにゃ……?」

 

 はっ、と起き上がる。なぜか頭の上に乗っかっている消しゴムが、バランスを崩してコロコロ転がる。

 時計を視れば、もう授業が終わる時間。

 

「しまった。私としたことが今日もワープ走法してしまった」

「寝てただけでしょ?」

「ちょいちょい、冷静なツッコミやめなって~」

 

 栃栗毛(あかみがかった)ショートの快活なハートちゃん(ハートリーレター)に、おっとり黒鹿毛ボブのロン(ビロンギングス)

 いつもの友人2人に囲まれる、フツーの放課後。

 

 しかし。今日は違う。

 私、ヒシミラクルのフツーな学園生活は、なんと今日で終わりを告げるのです!

 

 

「さて、じゃあさっそく始めちゃいますかね~。私の競走人生!」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 さて、問題です。ででん!

 

「トゥインクル・シリーズに出走するといいことがあります、それはなんでしょ~?」

 

 くるりと振り返った私、廊下で後に続く2人は困惑顔。

 

「いいことって、そりゃレース賞金が貰えることじゃない?」

「ウマスタとかUのフォロワーも増えるよねぇ」

 

 うむうむ。2人とも模範解答ですねぇ。

 

「でも、それだけじゃないんだなぁ~……」

 

 そこで私は文明の利器スマートフォンをするっと操作。顔認証でふわっと現れるホームページ画面。

 

「じゃーん! これをとくとご覧あれ!!」

「うん。なになに……?」

 

 なに言ってんのみたいな顔していられるのも今のうち、そして実際、2人の顔はみるみる驚きに満ちていく。

 

「て、帝都農工大学の競走ウマ娘枠…………」

 

「…………って、なに?」

 

 

 がくーっ!

 いや知らんのかい!

 

 

「帝都農工っていったらスポーツ工学の名門だよ! 知らないの?」

「知らんし」

「逆になんでしってるの~?」

 

 え?

 いやぁ、それは簡単な話でして。

 

「お父さんの出身校なんだよね」

「あーそういう?」

「うん」

「同じ大学が目標的な?」

「そうそう」

 

 私がうんうんと頷いていると、ロンは自分のスマホでなにかを検索。ハートちゃんに画面を見せると、彼女は大げさに目をひん剝いた。

 

「うげっ、帝都農工って偏差値60越えてんじゃん。えっぐ」

「わたしらじゃ無理だねえ~」

 

 そーなんですよね。帝都農工なんてそうそう入れたもんじゃない。

 

「でも? 競走ウマ娘枠なら?」

「なーる! 楽勝って訳かぁ!」

「……でも、この募集要項に『オープンウマ娘として登録(条件戦を突破していること)』ってあるけど」

「うぐっ……まー、そこを突かれるとイタいのですが……」

 

 そう。流石にトレセン学園に入学して中央の競走ウマ娘になれば門が開かれるわけではない。

 ちゃんとトゥインクル・シリーズに出て、しっかり成績を残さないといけない。

 

「ま、難しそうなら普通受験に切り替えるけれどさ。チャンスは活かしたいじゃん?」

 

 未勝利戦の突破率は3割くらい、オープンウマ娘になれるのはさらに少ない。

 でもそれでも、もしかしたらマグレで突破できたりするかもだし。運良く相手が少ないレースとかもあるだろうし。

 

「確かにねぇ」

「それで早めのチーム所属って訳か」

「そ、コツコツが勝つコツってなワケですよ~」

 

 やっぱりさ。

 親と同じくらいの大学にはいきたいなーって思うんですよ。

 

 親と同じくらいの会社に入ってさ。

 親と同じくらいの歳で結婚してさ。

 親と同じように、子供を育ててさ。

 

「そのくらいの『普通』でありたいなって」

「でもさ、スカウトもないのに契約できるの?」

 

 おっと、そこに気付くとは冴えてますねぇ奥さん。

 

 そう、トレセン学園生は基本的にはトレーナーのスカウトを待つもの。

 選抜レースで才能を見出してもらって、スカウトを受けることで契約、トゥインクル・シリーズへの挑戦を始める……と、されているけれど!

 

「実はスカウト待たなくても契約できちゃうんだな~これが」

 

 そして私が今日向かうチームこそ、そんなスカウトなしで契約できるチームなのです!

 じゃーん、と掲げた契約書。そこに書かれたチーム名を見た2人は首を傾げる。

 

「知らないトレーナーだ……」

「知らないチーム名ねぇ……」

 

 そこに書かれているチーム名は、リギルやスピカ、シリウスやアスケラみたいな有名どころじゃない。

 所属しているウマ娘はいるけれど、G1でメチャクチャに活躍しているワケでもない。

 

「というかさ、これって……」

 

 そうして顔を見合わせるハートちゃんとロン。

 

 

「…………名義貸しトレーナーじゃない?」

 

 

 名義貸しトレーナー。

 その評判はハッキリ言って散々だ。

 

 なにせスカウトを経ない契約。ウマ娘を勝たせる気のないトレーニング。

 もちろん大半のウマ娘は勝ち上がれないし、こういうトレーナーと契約した子はだいたい学園を去ることになる。

 

「でもさ、私たち。このままでスカウトされると思う?」

「「……」」

 

 ビミョーな顔をする2人。

 そりゃそうだよ。だって私たち……こういったらアレだけど、学園にきて現実を思い知った側だもの。

 

「地元じゃさ、私たちってかなーり早かった方じゃん」

 

 けれど、トレセン学園はそれが普通。

 

「ううん。トレセン学園の普通は、普通じゃなかった」

 

 だから私たちは勝てない。

 選抜レースでも、勝率似たり寄ったりなグループでやる模擬レースでも。

 

 トレセン学園の普通じゃない普通は、私たちを「普通のウマ娘」にすらしてくれない。

 

 

「だからね。私は変わるんだ、普通から、すこーし背伸びした普通に」

 

 

 これまでみたいに、漫画の一気読みとかは出来ないかもだけれど。

 スイーツバカ食いして、太り気味になったりも出来ないかもだけれど。

 

 でも、このままじゃ私。普通じゃなくなっちゃうから。

 

 

「ミラ子…………」

「……意外と、考えてたんだねぇ」

 

「いやそこから?! 私だって悩んでるんですけどぉ?!」

 

 

 こうやって、いつまでもみんなと、フザけていたいから。

 

 

 だから私は、トレーナー室の扉に手をかけて。

 新しい一歩を――――!

 

 

 

 

「エバヤンっ! エバヤンいけッ!!!」

「そのままッ!! そのままですッッ!」

『フォーエバーヤングッ! 1着でゴールインッ!!!』

「っしゃあ! 単勝頂きですよトレーナーさん!」

「さすがはエバヤン! 伝説スティールッッ!!!」

 

 

 

 

ピシャリ!

 

 

 

「ふぅー、ふぅーっっ…………」

 

 え? え? え?

 なにいまの???

 

 

「えっと。ミラ子……?」

「帰った方がいいんじゃないかなぁ」

「うっ…………」

 

 いや、いやいやいやいや。

 確かに、なんかメチャクチャヤバそうだったけど!

 この扉の向こうに摩訶不思議な景色が広がっている気がしたけれど!!!

 

「いやッ! わたしはッ!! 変わるんだ!!!」

「勇気と蛮勇はちがうんだよぉ?」

「骨は拾ったげる!」

 

 もう一度扉に手をかけて。

 

 手をかけて……――――

 

 

「開くっ!!!」

 

 

 

ガララララッ!!!!

 

 

 

「……さて。クロノジェネシス学生。今回のレースの要点は?」

「はい。トレーナーさん。今回は有力なライバルをいかに牽制するかが重要で……」

 

 

 よ、よかった~。普通のチームだ。

 

「って! いやいやいやいや!! 騙されませんよッ!!!」

 

 明らかに取り繕ってるじゃん!

 そんな私の叫びを聞いて、トレーナーと思しき男性は肩を竦める。

 

 

「ふっ、バレちゃあしょうがねぇな」

 

 

 ようこそ、名義貸しチーム〈クエーサー〉へ。

 

 

「このチームにトレーニングのノルマはない。こちらでやるのは練習コースの確保とレース出走手続きだけ。必要ならトレーニングメニューも用意するが……こんな場末のトレーナーに大した期待はしないことだ」

 

 

 それでも、きみが走りたいと願うなら。手を貸そうじゃないか。

 

 

「…………うーん」

 

 もう帰っていいですかね?

 

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