小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第11R かため!こいめ!おおめ!

 

「抽選漏れ?」

「すまん。抽選漏れで除外された」

 

 

 や、トレーナーさんが悪いわけじゃないのは知ってますけれど。

 そっかぁ抽選漏れかぁ……。

 

「ちなみに、次の未勝利2000メートルって……」

「いちばん早いのだと、次の小倉2週だな」

 

 うぇ……分かっちゃいましたけれど、やっぱりジュニア期最長距離のレースって番組少ないんですねぇ……。

 

 しかも小倉って。考え得る中でも(URA加盟レース場で)一番東京(トレセン)から遠い場所じゃん。

 

「うーん……まあ、そこに申し込んでください」

「分かった。なら、今のうちに遠征の話をしておこう」

「はい。……はい?」

 

 遠征の話?

 あ、言われてみれば確かに、私の遠征は初めてなのか。

 メイクデビューは東京で、その後に函館と札幌の未勝利戦には出ているけれど、あれは合宿先でトレーナーさんもチームのみんなも一緒に居たから……。

 

「知っての通り、このチーム〈クエーサー〉は名義貸しチームだ」

「はいはい。つまり1人で行けってことですね?」

「いや。それは無理」

「うん?」

 

 首を傾げれば、なんのためにトレーナー契約がないと出走権が与えられないと思ってるんだとトレーナーさん。

 ……あー、そりゃそうだ。監督者だもんね。

 トレーナーがレースの監督してないのはダメだよね。

 

「じゃあ、もし他のチームメイトと他レース場で出走日が被ったら(ブッキングしたら)……?」

「その時は『トレーナー補』をつけて監督させることになる」

「とれーなーほ?」

「ブーケ」

 

 思わずオウム返しになる私に、トレーナーさんはちょいと視線で合図。

 呼ばれたブーケさんがやってくる。

 

「ブーケは、カレンブーケドール学生は俺が裁可したチームのレースに限ってトレーナーのレース監督を代行することが出来る」

「え、ブーケさんサブトレさんだったんですか?」

「違いますよ?」

 

 ???

 どゆこと?

 

「未来のサブトレ候補、といったところかな。トレーナー資格を持っている訳ではないから、あくまで俺の仕事を代行できるだけだ」

「もちろん。私だってひとしきりのお勉強はしていますから。安心してくださいね?」

「……ま、そういうことだ」

 

 ブーケにはもっと自分の興味分野の勉強をして欲しいんだがなとトレーナーさん。

 おっとぉ……? その発言、なんか溝を感じちゃうぞ?

 

「あは。サブトレーナーを雇える状況になってから言ってくださいね?」

「そもそも名義貸しチームを手伝う酔狂なヤツはいないだろう」

「うふふ。ここにひとり居ますけれど……不思議ですね?」

 

 そして素早く反論するブーケさんは目が笑ってない。

 うーんこれはさっさと話題を変えるに限るね!!!

 

「ちなみに! レース場の下見(スクーリング)とかは出来るんですか?」

「出来るが、それやると宿泊日数増えるから遠征費増えるぞ?」

「……?」

 

 えん、せい、ひ?

 

「えっお金かかるの?」

「きみは何を言っているんだ」

 

 当たり前だろうとトレーナーさん。

 いや、うん。そりゃかかりますよね……。

 

「…………ちなみに、おいくら万円?」

「新幹線使うなら宿込みで6万弱くらいだな」

 

 たっか!

 おこづかい20ヶ月分じゃん!(月3000円の場合)

 

「……もうちょっと安くなりません?」

「夜行バスにするとか? 行きは論外として、帰りもおすすめしないぞ」

「で、ですよね……」

「まあ一応、他チームや専属トレーナー向けのバス移動に便乗するとか。色々方法はある」

「便乗! いいですね便乗。それでいきます!」

「まあ、最終的にはきみが判断することだから。俺は口出ししないが……」

 

 えなにその言い方。

 絶対、ゼッタイになんかあるじゃん。

 

「なんにせよ、最低でも宿泊費用はかかるからそこは準備しておいてくれ」

 

 詳しくはこれを見ろと宿泊施設の利用申請書を渡してくるトレーナーさん。

 レース場付属の宿泊施設で、食事をはじめ各種サービス充実って書いてあるけれど、それなりにお高いんですね……。

 

「ちなみに、レース前日は絶対にここに泊まるルールだから。ここだけは削れないからな」

「はーい……」

 

 いまさらだけど、レースってなにかとお金がかかる……。

 まあ、そこは言っても仕方がない。とりあえずお母さんにお願いしよっと。

 

 

 

 


 

 

 

 

「はぁ~~~」

「まーま! 元気だしなって!」

「博多観光してくればいいんじゃない?」

 

 ハートちゃんもロンも、他人事みたいに言ってくれちゃってさぁ……。

 

「いうけど私もこないだ新潟いったよ?」

「そういやそうだった」

「学割あるけど、やっぱり高いよねぇ~」

「いやほんと、それ……」

 

 私はガックリと肩を落とす。

 抽選漏れで未勝利戦に出られないってのもあるけれど、遠征になると未勝利戦に出るのにもお金がかかるっていうのが地味に痛い。

 

「もしこれで負けたら遠征費払っただけってことになるんだよね~」

「ちょいちょい、私がそれなんだからやめてよー?」

「いーじゃんハートちゃんは1勝クラスなんだしぃ~?」

 

 やれやれと私のため息に、新潟遠征で負けたハートちゃんがツッコミ。

 まだ私とロンは未勝利クラスなので、こういう話ではハートちゃんがイジられ役になっていることが多い。

 

 ……正直、こんな感じに軽く言っちゃって大丈夫なのかはちょっと不安なんだけれど。

 でも、同じチームに所属しているのにレースの話を一切しないってのも、ね。

 

「あ~やめやめ! どうせ抽選漏れなんで私今日チートデー!!」

 

 てなわけではちみー買います!

 

「あっずるい!!」

「やけ食いだねぇ」

「ふっ、レースの予定が決まっている淑女の皆さま方、ごめんあそばせぇ~!」

 

 くるくる周りながら私ははちみースタンドへ。

 

「はちみはちみはっちみー♪」

 

 いやはや。今日もはちみースタンドは大盛況ですねぇ。

 ささっと最後尾に並んで、順番を待つ。

 

 ……にしても、なんか今日はスーツ姿のお客さん多くない?

 まあ府中も東京の端っこだし、そんな日もあるのかな。

 

「かたぁあめ、こぉういめ!」

 

 うん?

 なんかスゴい変な声聞こえたんだけれど。しかも目の前から。

 

「……お客様?」

 

 スタンドの店員さんが困った顔。

 うん、やっぱり今の声って私の目の前に並んでる鹿毛のウマ娘さんのだよね。

 

「かたぁ↓あめ↑こぉ↓う↓いめ!」

「えっと……お客様、その……」

 

 わぁ。すごいイントネーションの乱高下。まるでジェットコースター。

 

「あれ? ごめんなさい。私としたことが、間違えてしまったようですね。ええっと……」

 

 私の前で注文をしているウマ娘さんが、慌てた様子でポシェットから革の手帳らしきモノを取り出す。なにかもメモを確認しているよう。

 

 ……ふーん?

 さてはシロウトだな?

 

「ちょいちょい、こーいうのはもっと力を抜いてやるものですよ?」

「えっ、そうなの? でも、はちみー(JIRO HONEY)呪文(スペル)は力強くって聞いていたから……」

「えっそれは初耳ですね」

「そうなの?!」

 

 びっくりするウマ娘さん。

 両耳につけたクローバーの耳飾りが揺れる。

 

「そうですよ~。まあ見ててくださいな」

 

 それではみなさん、ご唱和ください!

 

「はちみーの~、かため、こいめ、おおめ!」

 

 

 

「んん~! おいしいね!」

「あはは……ならよかったぁ、てかゴメンね?」

 

 巨大な「おおめ」はちみー(サイズはなんと私の顔くらい!)をそれぞれ抱えて、私たちは公園のベンチに座っていた。

 

「ううん。気になさらないで? 私、こんなに大きなお皿をもったの初めてで、とっても楽しいの!」

「これはお皿というか、使い捨ての紙バケットだけどねぇ……」

 

 どうやらこのウマ娘さん。どこか遠くの国から来たらしい。

 観光かな? それにしては日本語上手すぎって感じだけれど。

 

「でもこのはちみー(JIRO HANEY)、いくらでも飲めちゃうね!」

「でしょでしょ? まー、私も最近はこんなに大きいの飲んでなかったけれどねぇ~」

 

 やっぱり最近は、レースに向けての調整とかでわりと真剣に食事管理とかしてましたから。

 あっコラそこ、カフェテリアの調整用メニュー食べてただけとか言わないの!

 

「調整メニューってことは、もしかして現役の競走ウマ娘さん?」

「あっうん。そうだよ~」

「すごーい! 私ね、日本のレースについてと~っても興味があるんだ!」

「へえ~……」

 

 海外のウマ娘さんって、日本のレースに興味持つんだ……。

 

「お名前を伺っても?」

「え、あー……まだジュニア級(かけだし)だし、聞いたことないと思うよ?」

「いーのいーの。だって、これからスターになるんでしょ?」

「あー……ヒシミラクルです」

「よろしくね。ヒシミラクルさん! サインを頂いてもいいかしら?」

「えっサイン?!」

 

 そんなの考えてないですよ!

 ……あーでも、サインかぁ。

 

 私がサインを書く日がくる? てか来た?! いま!!

 

「えへへ……ペンと色紙あります?」

「こちらをどうぞ」

「あっどうも」

 

 なんか親切なスーツ姿のウマ娘さんが色紙くれた!

 てかいいのかな? まあいいか、さっそく書いてみよう。

 

「ひ、し、み、ら、く、る……っと。えーと」

 

 確かこういうのって、相手のお名前を書くんだよね?

 

「お名前は?」

「ファインモーション、だよ!」

「はいはい。『ファインモーションちゃんへ』っと」

 

 そうして、私の競走人生初となるサイン色紙をファインモーションちゃんへと渡す。

 受け取ったファインモーションちゃんはわぁ~と目を輝かせるばかり。

 

「ありがとう! 大切にするねっ!」

「う、うん。よろしくお願いします?」

 

 といっても私、まだ未勝利クラスですけれどねぇ……。

 

「ねぇねぇ。レースのお話、聞かせて聞かせて!」

「ええ? 私の話なんて面白くもないかと思いますけれど……」

 

 そこからはまあ、いろいろお話ししまして。

 ハートちゃんとロンと一緒にチームに入ったこととか、アイちゃんがすっごく強いこととか。

 

 ……さすがに、クロノちゃんが地方レースに賭けてることは言えないれど。

 

 まあとにかく、楽しい競走生活を送っているんですよと。

 

「わぁ~……いいなぁ……」

「ファインモーションちゃんは、走ったりしないの?」

 

 ウマ娘さんだし、別に脚が悪そうな様子もないしと私が聞くとファインモーションちゃんは少し困った顔。

 

「うーん。日本ではね、走らないようにって言われてるんだ」

「へぇ~……なんか大変だね」

 

 やっぱりどこの国でもそうなんだね。

 日本でもトレーナーと契約しないとトゥインクル・シリーズ出られないし。

 

「本国でだったら、思いっきり走っても良い場所もあるんだけれどね」

「へー。どんな場所?」

直卒近衛連隊(ガーディアンズ)の近く!」

 

 ふーん。がーでぃあんず? ってたぶん地名だよね。

 そこでなら走っていいってことは、なんかいいコースがあったりするのかな?

 

「そっかぁ。じゃあ、ファインモーションちゃんともいつか走ってみたいねぇ」

 

 

 うん。いやさ。

 本当に、なんというか。話の流れだったんですよ。

 

 その……あの…………はい、スミマセン。悪いのは私です。クーは悪い子です。

 

 

「じゃあさ、走ってみない?」

「へ?」

「だって抽選漏れしちゃって、しばらく走らないんでしょ?」

「あ~、まあそうですね?」

 

 まあ別にだからといって走りたいわけでも……と続けようとした私の手をとって、ファインモーションちゃんは立ち上がる。

 

 

 

「じゃあいこう! 私の故郷――――アイルランドへ!」

 

 

 

 

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