「ついちゃった」
気付いたら着いちゃった。
「ようこそ! 連合王国へ! さっそくみんなをお城に案内するね!」
「わ、ワァ…………」
ファインちゃんとっても元気だね。
いやあ、きちゃったね連合王国。プレミアリーグを抱えるサッカーの聖地!
「ちなみにトレーナーさん。私ついてきちゃって良かったんですかね?」
「いいもなにも、きみの繋いでくれた縁だろう?」
えっ、うーん。まあそうかもですけれど。
私なにかしたっけ……? はちみーを買って、サイン書いて、ちょっとレースとか学園の話をしただけなんだけれど……。
「ヒシミラクル学生。学生の身分で繋いだ縁は貴重なものなんだ」
きみはまだ、学生以外をやったことがないから分からないかもしれないがとトレーナーさんは言う。
んー……うん。ピンとこないね。別に同じじゃないのかな?
「そうそう。アーモンドアイとヒシミラクルには、これを渡しておく」
そう言って封筒を取り出すトレーナーさん。
なんか……なにこれ? 変なガムみたいなのくっ付いてるけれど。
「それ、きみたちの紹介状な」
「え!」
なんで私の分まで!?
アイちゃんの紹介状は分かるけれどさ!
「それがないと
「へぇ~……」
海外のトレセンって言われても、あんまり興味ないんだけれど……。
「ブリテン島の方にも宿舎あるから、そこを滞在拠点にしたらプレミアリーグも見に行きやすいぞ?」
「あっ、それは普通に助かりますねー」
やった。じゃあもしかしてホテル代浮いちゃう?
お父さんにサイン持って帰るから! って言って
「ていうか、紹介状なんて用意してたんですね」
「当たり前だろう。アーモンドアイの目標はブリティッシュ・チャンピオンズシリーズだぞ?」
さらに聞けば、トレーナーさんは短期免許の取得手続きもしてるらしい。
「すご……」
「すごいもなにも、担当ウマ娘が海外に行きたいって言ってるのにその準備をせず、月謝だけもらっていたら詐欺だろ」
「いやまー、それはそうなんですけれどね?」
なんというか、トレーナーってスゴいんだなぁとしみじみ。
あ、なんかアイちゃんとっても嬉しそうな顔してる。そうだよね、本当に愛英に来られるなんて思ってもみなかったよね。
「よかったねぇアイちゃん」
「ふふん♪ でもこれは始まりにすぎないわ!」
「そうだな。こっちの
「話早すぎません? テンポ良すぎません?」
そんな私たちの会話を、向かい側のソファでニコニコ眺めているファインちゃん。
……もう今さら驚かないけれど、今私たちが乗ってるのリムジンなんだよね。
「ねぇねぇファインちゃん。さっきお城に向かうって言っていたけれど……」
「うん。お城だね」
「観光じゃないよね?」
「古城に興味があるの? それなら案内してあげるね!」
「あー、じゃあやっぱり今から向かう『お城』はそういうお城じゃないんだね?」
もちろんと返すファインちゃん。
てことは……なんかこう、すごーく偉いヒトとか出てきたり?
「ううん? お母様は公務で都合がつかなかったから、お父様だけだよ。安心してね!」
そっかぁ。安心かぁ……。
「あの、トレーナーさん」
「? どうした、ヒシミラクル学生」
「ファインちゃんのお父さんって、どんな方かご存じです?」
「知りたいのか?」
知りたいのかってなに?!
知らない方がいいってこと?!
うう……でもファインちゃんのことよく知らなかったからこんな大事になっちゃったし、やっぱり知っておいた方がいいよね……?
どうしよう……誰かこう、オブラートに包んで言ってくれるヒトいないかなぁ。
こういう時に頼れるブーケさんは、日本にお留守番。彼女はトレーナー補としてトレーナーさんの代わりにチームのレースをみなきゃいけないからこれは仕方ない。
なんでも知ってそうなクロノちゃんは、パスポート持ってなくてついて来られなかった。なんか楽器ケースに入ってついていこうとしてたらしけど……本当にやめてね、それはグレーじゃなくて
アイちゃんは多分知らないだろうし……うぅ、トレーナーさんに聞くしかないかぁ。
「し、知りたいです」
「王室に婿入りした立場のお方だからそこまで強ばる必要はない*1というのが、ひとりの大人としての回答かな」
「そ、そうですか」
「とはいえブリテン貴族の次男坊ではあるから粗相はないようにな」
ですよねー知ってた。
うわー英語もうちょっと真面目にやっときゃよかったかな。
今のうちに練習しとこ。
「はわゆー、はうまっちいずです。あいむファイン」
「
「ファインちゃんからかわないでぇ!?」
「……ってことで、これお土産!」
「てことで……って、コラッ!」
「あいたぁっ?!」
ポカリとハートちゃん。なんで!?
「急に『アイルランドにいってくるね~』ってなんなのさ! ズルい!!」
「そーだそーだぁー!」
わーん。ロンまで怒ってるよぉ……。
こうなると思ったからすっごくいいお土産買ってきたのに……!
「あ。これクロノちゃんのお土産ね」
「ありがとうございます♪」
「でもホントにこんなので良かったの……? しかもそれ、当たってるよ?」
「なにを言ってるんですか! 外れ券はただの紙きれです!」
「いや、それはそうかもだけれど……」
「ふふ。わぁーい♪ 大切にしますね!」
まーそういう訳で。帰ってきましたよ日本。
かれこれ2週間くらいはいたのかな?
「愛英博物館でしょ、プレミアリーグでしょ? あとなんかちょ~古いお城に、三○のサインに……」
結局半分くらいはブリテン島のほうに遊びに行ってたんだけれど、楽しかったなぁ。
え、トレーニング?
「まぁ~~~、そこそこには? しましたよ?」
「ゼッタイしてないでしょ」
「したってばぁ。トレーナーさんとアイちゃんとずっと一緒に居たんだよ? ロードワークとか筋トレくらいはしてるって」
「ふーん……」
あー、ハートちゃんたら信じてないんだ!
とそこに口を挟んでくるロン。
「で、どうだった? アイちゃんは」
「あー……うん。すごかったよ」
いや本当に、スゴかったというか。
それ以外に言葉がないというか。
「なんか。フツーに世界に通用しそうで、ビビっちゃったかな」
もしかしたら、それは単なる
見知らぬ場所で、慣れないはずの土と芝で。
なのにゴール板を一番に駆け抜けるアイちゃんは。競走ウマ娘アーモンドアイは。
「うん。やっぱ強いよ。信じられないくらい」
半年前まで、私たち3人と同じようにトレーナーさんに学生扱いされていたアイちゃん。
なのに今ではもう、世界に手が届きそうになっている。
……いや、違うのは分かってるんよ。
だってアイちゃん、最初からずっと。ずぅ~っと努力してきたし。
スカウトもされて、それでも海外で走らせてくれるトレーナーさんを探して名義貸しチームの〈クエーサー〉にやってきて。
「それで、トレーナーさんもちゃんと応えてくれたんだよね」
アイちゃんの目標であるブリティッシュ・チャンピオンズシリーズ。
その目標を達成するための名義を貸すために、トレーナーさんは紹介状を書いたり、短期免許を取ったりしてくれていた。
「名義を貸すのも、大変だね」
「あれ? でもこれだとトレーナーさん日本に帰ってこなくない?」
「あー、なんかアイちゃんの短期留学手続きが終わったら帰るって。その後はレースの開催日だけ顔を出すみたい」
まあそうでもしないとチーム回らないもんね。
アイちゃん以外にもメンバーはたくさん居るし。
「あ! そういえばトレーナーさんからブーケさんへのお土産も預かってるんだった。ブーケさんは?」
「そこに伸びてるよー」
「伸びてるの?!」
言われた場所に行ってみれば、そこにはソファに溶けたブーケさんが!
「うぅん……トレーナーさん……」
「ほら、この2週間トレーナー補のブーケさんだけで回してるから。この間なんて午前の東京条件戦を監督してから新幹線に乗ってメインレースの監督したりして……」
「あーそりゃ、そうなるかぁ……」
「……逃がさないですから……離さない……」
「『彩ファンタジア』の歌詞ですよねソレ?!」
もう怖いからお土産だけ放り込んで撤退!
あ、ロンがさっそくお土産開けてる。私も食べちゃお。
「……うん。おいしい!」
「でもさぁ、印象変わったよねぇ」
「うん?」
そんなことを言うロン。
「ほら、名義貸しってあんまりいいイメージないじゃん?」
「あー……まあねぇ」
当たり前だけれど、名義貸しにいいイメージはない。
だって、競走ウマ娘はトレーナーにスカウトされるものだし。G1とかで活躍するウマ娘さんは、たいてい専属だったり、有名チームの所属だし。
だから名義貸しってのは、普通じゃない。
「トレーナーさんはいいひとです」
お土産をパクリとしながらクロノちゃんが言う。
「トレーナーさんが名義を貸してくれたおかげで資料室にも入れましたし、毎日レース予想が楽しいですし、払い戻しもバッチリですし……」
「後半で急にいい話っぽさが消えるからやめてね??」
「あ、そういえばお土産の購入代金渡してませんでしたね。両替もあるんで多めにどうぞ!」
「あっハイ……確かに受領しました……」
うん……いや、ここで受け取らないと私のお小遣い減っちゃうし……。
なんか悪いことしている気分だけれど、いや事実悪いことだと思うんだけれど……。
「こんにちは。理事長秘書の駿川です~」
「うえっ? たづなさん?!」
まさか代理購入がバレた!?
「ヒシミラクルさん。英語の追試案内が来ていますよ?」
「なーんだぁ追試かぁ……えっ追試!?」
おかしいな?!
今学期はちゃんと勉強してるし……ていうか定期テストまだじゃん?
「あーミラ子。こないだ中間テストあったのよ」
「ほら、うちのクラスもデビュー勢増えてるじゃん?」
それで年末は重賞が集中するから、中間テストで救済するんだって。
「あー、へぇ……」
「ミラ子のアイルランド旅行、公欠扱いになってるから受ければちゃんと点貰えるって!」
「英語の本場で遊んできたんだから、もちろん満点、取れるよねぇ~」
「う、うぐぐ……あ!」
いいこと思いついちゃった。
餅は餅屋。
「ファインちゃん……って、こないだトレセンに留学してきた愛英のお姫様?」
「うん。ちょっと行ってくるね!」
そうして私はチーム部屋を飛び出す。
……まあ、もしかしたらさ? レースの本場行ったんだからレースの勉強しろとか、なんなら海外で走ってこいとか言われるのかもだけれどさ?
やっぱり私は、普通のウマ娘。
トレセン学園で追試に追われながら、どーにかこうにか未勝利脱出、そしてオープンウマ娘を目指す普通の競走ウマ娘なんですよ。
「まーでも、いいじゃん?」
だって毎日、楽しいし!