小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

15 / 64
第15R その時ふと閃いた!

 

 画面に映るのは海のような人だかり。

 初詣特集といい駅伝といい、この時期は人混みの映像ばっかりだよねぇ。

 

 けれど、私がみているこの人混みはひと味違います。

 なにせこの人混みは心をひとつにしているのだから!

 

『ここで交代。中樺(なかかば)の8番と、15番を交代です』

『中樺パルパーパス、ここにきて中盤の強化に入りましたね。新浜は怒濤の4トップ体制に耐えきった格好でしょうか』

 

 後半戦始まってしばらくで中盤を交代するのは、さてはて監督の失策か幻惑か。

 どうやら15番の選手はそれなりに人気みたいで、中樺パルパーパス・サポーターは大盛り上がり、対するスタンダロン新浜・サポーターはじっと身構え好機到来を待つ。

 

 一方テレビのこっち側の私はといいますと、おせんべいをかじりながらダラダラ。

 

 うーーーん。あんまり知らないチームが戦っているの、微妙だなぁ。

 なーんか当事者意識が出ないというか、勝手に戦え! って感じ。

 

「クーちゃん。ちょっといいかしら」

「ん~、なに……お母さん」

 

 と、私がぐでーとしているコタツに一枚のプリントを置くお母さん。

 

「あなたのトレーナーさんからね、クラシック登録のお知らせが来たけれど。どうする?」

「どうする……って、未勝利だよ? わたし」

 

 クラシック登録。いやまあ、トレーナーさんから聞いてはいましたけれどね?

 えーとこれ、なんか登録していないとクラシック……つまり日本ダービーとかのクラシック期限定G1戦に出られないらしいんだよね。

 

「どーせ必要になったら追加登録出来るんでしょ? それでいいんじゃない?」

「そうね、そうよね。ちなみに勝負服は?」

「…………あー」

 

 んー、まあ。いちおうコレってデザインは考えているんだけれど……。

 

「いいよ、いいよ」

「いいの?」

「んー。だって、それこそ必要になったらでよくない?」

「お金のことは気にしなくていいわよ?」

 

 いやいやいや。気にしますって、フツー。

 

 だってアレだよ?

 一生涯に一度出るか出ないか……ていうか一生縁なんてないだろう勝負服だよ?

 どのくらいの値段になるかっていったら……年度代表ウマ娘の副賞として勝負服が贈られるくらいだよ?

 

「まーわたしは? オープン昇格できればそれでミラクル? って感じだし?」

「クー、そんなこと言わずに夢はデッカく天皇杯!」

「おとーさん、それ天皇()

 

 天皇杯はいま目の前でやってるヤツでしょ。てかまたお酒飲んでるし……。

 あ、そういやみんなにあけおめLANE送ってないや。

 

 ちょちょいとスマホを取り出し顔認証。

 トークアプリのLANEを開いて……うわ、さすがお正月。通知の数がハンパな~。

 

「あれ? チームのグループに来てるじゃん」

 

 未読メッセージ数が表示されているグループは、いつもの3人組グループではなくチーム〈クエーサー〉の同期LANE。

 まあ夏合宿の時に作ったから、流れでクロノちゃん(今年デビュー予定)も入ってて、厳密には同期というか、チームの仲いい組って感じだけれど。

 

 お、みんな挨拶してる。まめー。

 

「あけ、ま、し、て、お、め、で、とう、っと」

 

 あと「(^_^)/~(顔文字)」かな。……日の出の絵文字の方がいいかな?

 

「まあいいや。送信っと」

 


未デビュー・ジュニア組

 

今年こそ頂点!

 

あけましておめでとうございます。

旧年はお世話になりました。今年もよろしくおねがいします。

 

あけおめことよろ!

 

初日の出見逃した~

 

あれま

 

既読1
あけましておめでとう(^_^)/~

 


 

 即既読つくじゃん、はや~。

 

「さて。じゃあ他のみんなにもあけおめことよろを……ん?」

 

 


ハートリーレター

 

ミラ子今日ってヒマだったりする?

 


 

 

「あー、今日。今日ねぇ……」

 

 寝正月しながら天皇杯の決勝みてるから、ヒマではないけれど……かなーりヒマなほうだよね。

 

「んー、これヒマだよって言ったらどうなるかな」

 

①遊びに誘われる

②聞いただけ

 

 ……や。この流れで②はないか。

 

 まあ行こうかな。別に応援してるチームでもないし。

 

 

 


 

 

 

「やほー、あけおめ」

「あけおめ~て、はや! 実家帰ってたんだよね??」

「いやぁーいうて電車でちょっとだし」

 

 ていうか、ぶっちゃけ中央を受けた理由も「家に近いから」だしね。西東京からだと大井や船橋、川崎って遠いんだよね。

 

「東京勢はズルいなぁ」

「まーまー」

 

 そして現地には予想通り、ハートちゃんだけではなくロンもいた。いつもの3人組だ。

 

「てか。ロンはともかくハートちゃんは帰ってくるの早くない?」

「だって練習しなかったら鈍っちゃうじゃん?」

「うおっガチ勢! ガチ勢がいる……!!!」

 

 これが1勝クラスと未勝利の違い?!

 

「ていうか、早くトレーニングしてこーいって追い出されたわ」

「なにそれウケる~」

 

 すごいなぁ、一家総出で応援されている感じだ。

 

「でも元旦からトレーニングって出来るの?」

「ナイターはないけど、朝からお昼は使えるよ」

「ふーん……トレセンって意識高いんだね~」

 

 ってあれ? じゃあもしかして……。

 

「2人とも、練習してた……ってこと?!」

「私はしてないよぉ~」

 

 否定するのはロンだけ。

 つまりハートちゃんは、本当に練習してた!?

 

「どーだ。私だって1勝にあぐらをかいてないんですよーだ」

「すごいねぇ……」

 

 いや本当に、すごいよ。ハートちゃん。

 きっとこうやって、努力を怠らない選手だけが、2勝3勝と積み重ねてオープンウマ娘になっていくんだろうなぁ……。

 

「あら、みなさん?」

 

 うん? 振り返るとそこには、ほわほわ系ウマ娘のブーケさんが。

 ロードワーク中なのかな? すらっと締まったスポーツウェア。

 

「あけましておめでとうございます」

「「「あけましておめでとうございまーす」」」

 

 挨拶は大事。特に年末年始はね。

 

「あっクロノちゃんも……あけおめー」

「……っは?! はっ、はい。あけましておめでとうございます!」

 

 あれ? なんかスゴい複雑な顔をしてる……?

 

「そ、ソンナコトナイデスヨ???」

「え絶対あるじゃん。その反応はゼッタイなんかあるやつじゃん!」

 

 

そのとき、ふと閃いた!

 

 

①ブーケさんはトレーナー補資格も取れる大学生

②勝ウマ投票券は20歳になってから!

③クロノちゃんの様子がおかしい。

 

①×②×③=!?!!??

 

 

「一年の始まりが良すぎて、運を使い切っちゃったんじゃないかって」

「い、いえ! 一年の計は金杯にありといいますから! 私の一年はまだ始まってないですから!」

「よ、よくないよぉクロノちゃん……ブーケさんまで巻き込むのは本当によくない……!」

「ご、誤解ですミラクルさん! 今日は本当に誤解!!」

 

 ほらこれほらこれっ! とクロノちゃんはショルダーバックから紙袋を取り出す。

 

「ブーケさんと古書店巡り(ロードワーク)をしていたら伝説の手記が見つかったんです! ほらこれが……!」

 

 なにが珍しいのかは分からないけれど、クロノちゃんが取り出したのはふるそーな冊子。

 

「ほ、ほう……」

「これは樺太3冠トレーナー真駒氏の伝記で、自費出版だったことから冊数が本当に少ないんです! 特に元オリンピック選手のハグレモノ氏との出会いから始まる…………はっ!」

 

 我に返ったように語り口調になったことに気づき、ごめんなさい私ったらと頭を下げるクロノちゃん。

 

 ……やっぱり変だ。これゼッタイ変だ。

 だって普段のクロノちゃんなら、こんなに熱くなる前に許可を取るか止めちゃうはずだもの!

 

「……フォーメンションは?」

「⑧-⑨⑫⑰-⑬⑰!!!」

 

 わー、いい返事。

 

「――――って! やっぱりやってるじゃんか!!!」

「わぁぁぁ違うんですっ! 私は買ってません! 私は!!」

「あは♪」

 

 ちょちょちょ……!

 私は思わずブーケさんを引き寄せる。

 

「本当にいいんですか? 本当にいいんですか? というかブーケさんは、むしろトレーナーさんやクロノちゃんを止めるべきじゃないんですか???」

 

 なのにブーケさんときたら、いい笑顔!

 

「なにを言っているんですか? ヒシミラクルさん」

「へ?」

「競走チームなんて経営(まいにち)がギャンブルですよ?」

「身も蓋もない!」

 

 ていうかチームの経営自体は健全じゃ……月謝安いから破産するとか言ってたなこのひとたち!

 

「それに破産してくれた方がトレーナーさんに私の賞金を注ぎ込めますし……」

「やめて! むしろそっちの方が怖いからやめてよぉ!」

 

 目が、目が笑ってない!

 うぅ……新年早々どうしてこんなことに……。

 

「そ、そういえば! 私の小倉遠征ってブーケさんが来てくれるんですか?」

 

 こうなったら話を変えるしかない! 私は目前に迫った未勝利戦について話を振る。

 

「その件ですね。レース被りはないのでトレーナーさんが監督する予定ですが……そういえば、移動手段は決めましたか?」

「あー……そうなんですよねえ」

 

 そう、私の次走は小倉の未勝利戦。

 つまりはここ、東京のトレセン学園から九州の小倉までいかなきゃいけないわけで。

 

「まあ、フツーに新幹線ですかねぇ」

 

 結局、交通費は親が出してくれるってことになったし。

 

「では、トレーナーさんにもそう伝えておきますね」

「はーい」

 

 

 と、とにかく! とにかく私のフツーなクラシック期編、開幕です!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。