小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第18R わたしって有名人!?

 

 

中京レース場 1勝クラス

ドリフトさきいか特別

芝・左・2200M

 

 

 

 こ、これが高低差3.5メートル……!!!

 スタート直後、1周目には楽々乗り越えたはずの坂!

 

 

『先頭いまだにガッキヤサン、ここで内からヒシミラクル進出』

 

 

 あ~~~! やばい、やばい間に合わない!

 クロノちゃん予想(メソッド)の通りなら、坂に突っ込む前に2バ身まで詰めてなきゃって話なのに……!

 

 ええい今は考えないっ。

 ゴールまで残り2ハロン(400メートル)。急坂はここから約150メートル――――最低でも、減速しない(タレない)

 

 

『ガッキヤサン粘るッ。さらに外からパワァオブドリーム、イーブイハイブリド突っ込んでくる!』

 

 

 あれヤバ。みんなタレるどころか加速してない?!

 いや、これ。あれだ……私の踏み込み(パワー)が、たりない?

 

 い、いやまだ! まだまだまだ!!

 坂登りきった、あと1ハロン!!!

 

「のぅわああああ~!」

 

『ガッキヤサン、内ヒシミラクル外パワァオブドリームいっせん! 並ぶ!』

 

 

『パワァオブドリーム差し切ってゴォーッル!』

 

 

「ふぅ、ふぅ……はぁあぁああああ~~~……!」

 

 ああー! 届かなかった!!

 いまのはゼッタイ、届かなかったよ~……。

 

 急ブレーキは身体に悪いので1コーナーまで流す感じで減速、乳酸が溜まらないように脚は止めずにスタンド前へと戻る。

 ……直近の1勝クラスで距離が1番ながいからって、特別レース(普通のレースより賞金が多いので有力ウマ娘が集まりやすい)を選んだのは間違いだったかなぁ。

 

 あー……にしても身体が熱い。さっきまで風で冷却されてたのが、全部身体の内側に向かっていく感じ~……。

 

 てか、ちょっと苦しくなってきた……うっぷ。

 酸素、さんそだー、さんそもってこーい……。

 

 そんなこんなで肩で息をしていると、ファサリ……とかけられるタオル。

 

「お疲れさまです。ミラクルさん」

「ああうん……クロノちゃんありがとねぇ……」

 

 それで、一応聞くけれど結果は……。

 

「2着です。惜しかったです」

「ああ、そう……やっぱダメかぁ」

 

 まあ終わったものはしょうがないので、地下バ道に戻ろうとする私。

 

「あ、まってくださいミラクルさん」

「ふえ」

「今日のは特別レースなんで、表彰がありますよ!」

 

 あ、表彰……まー確かに、いちおう2着ではあるもんねぇ……。

 

『それでは表彰をおこないます』

 

 お、なんかターフの上に勝利者インタビューとかで使われる背景が置いてある。

 「背景」ってなんだよって思うかもだけれど、これホントに背景としか言えない見た目してるんだよねぇ。

 

 はいはい、それで私は2着ですからパワァオブドリームちゃんの脇ですね。入着(センター)とはいえ端っこです。

 

「中部スポーツの甲斐です。パワァオブドリーム選手、優勝おめでとうございます。今回のレース、前走の――――……」

 

 

 うーん。

 しっかしやっぱりというか、なかなか上手くいかないもんです。

 

 そりゃ前走と違って明確に弱点がある子はいなかったし、なにより今回の最終直線は自分のパワー不足が露呈したし……。

 

 というか、やっぱりスパートかけるの遅すぎ?

 でも3コーナー前から加速し始めたらスタミナ尽きちゃうしなぁ。

 

「――――刊トゥインクルの音――――です。ヒシ――――にお聞きします」

 

 いやいや、やっぱり坂で減速気味なのが問題だよね。

 あれ? でも本当に減速してたのかな? ここら辺、あとでしっかりVTRを……。

 

「ヒシミラクル選手?」

「えっ? あっはい。なんでしょう」

 

 うわやっば。記者さんの質問だ。

 どうせ2着なんだからほっといてよー……。

 

「惜しくも2着でしたが、次に繋がるレースだったと思います。特に3コーナーからのロングスパートには類い希なるレース運びの才能を感じました!」

 

 たぐいまれなる、レースはこびの才能?

 

「あー、あれはですね。友達に助言をもらったというか……」

「ほう! トレーナーさん以外からもセカンドオピニオンを授かっていると! そのような豊富な人脈をお持ちなのですね!」

「あいえ、人脈というか。たまたま(同じチームで)知り合ったというか……」

 

 なんか大仰な言い方だなぁこの記者さん。

 まあそりゃ、面白おかしく書くのがレース記者の仕事なんだろうけれど。

 

 えーと、とりあえずちゃんと言うべきことは言っとかないとね。

 

「えっと。私ってちょっとマイペースといいますか。早めにスパートかけないと間に合わないというか~……てか、間に合わなかったんですけれどね」

 

 

 


 

【負けて強し!この選手】

ヒシミラクル(2着)

◆次走への課題を語る彼女

に明確な勝利のビジョン。

距離延長なら勝利確実か。

(中京土曜9R芝2200)

 


 

 

 

「あばばばば……! へんな記事になってる!!!」

 

 お父さんから来たLANEの写真を慌てて見せると、トレーナーさんは良かったじゃないかと他人事。

 

「というかこれ旨いな。レースの副賞だったか?」

「あ、そうなんですよ。黒くて変だけれど、ちゃんとサキイカって感じで~……じゃなくて! この記事!!」

「うん? まあこんなもんだろ。負けて強しのコーナーに取り上げられるのは期待されている証拠だな」

「いやいやいや……そうじゃなくてですね~~~私の言ったことと記事の内容が全然違うっていうか~~~!」

 

 納得いかないんですよ。分かりますよねこの感覚!

 私の主張に、トレーナーは理解を示したような示さないような顔。

 

「レース記者が求めるのは『売れる記事』だからなぁ」

「そうですよ。レースが近づくにつれて陣営の発言がどんどん自信ありげになっていくのには、記者の忖度もあるんです。特に重賞レースの予想をする時、直前週のチームコメントは参考にしすぎないのがよいですね」

「クロノジェネシス学生。たぶんヒシミラクル学生は本当に困ってるから茶化すのはやめような」

「あっ、ごめんなさい……氷晶冠賞典でトップオブシスカは来ませんね。そもそも北談の記者は伝統的なシスカ推しで、提灯記事ばかり……

 

 あー。今日のクロノちゃんは役に立たない感じかな。

 なんか地方レースのJpnG1があるみたいで、さっきからずっとサキイカ片手に新聞をめくっている。

 

「はっ……ごめんなさいミラクルさん! イカおいしいです!!!」

「あ、うん。よかったねクロノちゃん」

 

 さて。話を戻しまして……。

 

「それでトレーナーさん。次走なんですけれど」

「うん。あーそうだ、その前に」

 

 トレーナーさんは思い出したように一言。

 

「ぼちぼちクラシックG1始まるぞ。皐月賞に出るにはどうすればーみたいなこと言ってたよな?」

「あーいや。あれは会話の流れというか……」

 

 ていうか、その時にトレーナーさんが言ってた「2勝クラスになって弥生賞で優先出走権を獲得」ってのが達成できてないじゃないですか。

 

「一応、3月末の若葉Sを狙う手もある」

「ええ……?」

 

 皐月賞って4月のはじめだよね。無理くないそれ?

 ていうか、トレーナーさんって私に出て欲しいのかな。クラシック。

 

「出て欲しいわけじゃないぞ」

 

 いや心読まんといて?

 

「よく揉めるんだよ。『勝てたらクラシック行こうと思ってたのに!』ってのはチームトレーナーがよく受けるクレームのひとつだからな」

「あー……」

 

 そういうことか。まあ確かにね。

 クラシックG1ていったらやっぱ競走ウマ娘の夢だし。

 

 同世代のウマ娘たちの、その中でも中央に入れるウマ娘の――――頂点。

 

 きっとそれは、本気で考えている子ほど簡単には口に出せなくて……それでギリギリになって言い出したときには、登録期限が過ぎていたと。

 

「まあ。地方のウマ娘で問題になって以来、追加登録料払えばいつでも出られるようにはなったからな。気が向いたら言ってくれ」

「ふーん……追加登録料ですかぁ」

 

 ここでもお金の話なんだなぁと思う私に、ちなみにこれ追加登録料なとプリントを渡してくるトレーナーさん。

 

「――――うん? 桁数おかしくないですかこれ?」

「おかしくないんだな、これが」

 

 うわ。私のお小遣いの……えーと。

 とにかく金額がデカすぎて現実味がわかないくらいに値段が高いですね。

 

「まあ。心配はいらない。優先出走権(トライアルレース)獲る(走る)ってことは重賞の賞金をもらってるだろうから。それで登録料を支払えばいいんだ」

「あ~、そういうことですか!」

 

 つまりはURAが出してくれた賞金でクラシック登録料をURAに支払うと。

 うーん。考えたヒト頭いいな。

 

「トレーナーさん。『これは雑談なんですが』」

「きみ俺の使い方を覚えてきたな? よくないぞそういうの」

 

 トレーナーさんが顔をしかめる。

 まーまー、本当に雑談ですから。

 

「クラシックを勝つと進学・就職に有利です?」

「有利な時もあるし、有利でない時もある」

 

 詳しくは学生課の進学支援担当に聞いてくれとトレーナーさん。

 丸投げだけれど、まあ無料の『雑談』なんてこんなもんかな。

 

「分かりました。じゃあ聞いて、それからちょっと考えてみます」

 

 さーて、どうしようかな~。

 

 

 


 

 

 

 ……なーんて。

 考えていた時期が私にもありました。はい。

 

 

 

 そう、それは翌日のお昼休みのことです。

 

 

 

「共鳴しろ! "ワタシ"の情動(パトス)に!!」

 

ドギャ、ガコッ!

 

「こ、こらっ! タニノギムレットさん貴女またやって、すぐに直しな……もう直してる!?」

「ん、当然だろう? この世は全て破壊と再生(スクラップ&ビルド)輪環の理(サステナブル)なき秩序(エントロピー)理想(イデア)とは呼べない……」

 

 

 

 そしてその後、午後の体育でバスケをやった時のことです。

 

 

 

「ミラ子、あと30秒!」

「守り抜けばこっちの勝ちだねぇ」

「よーし。じゃああとはガチガチに引きこもってやれば……」

 

「Mission……〈勝利〉を、完遂する」

 

「あっやば、3ポイントくるッ!」

 

 

ガコンっ

 

 

「すげえジャンプ力だ!」

「きゃー! クリスエス様かっこいいー!」

 

 

 


 その日、ヒシミラクルは思い出した……。

 オープンウマ娘の恐怖を……。

 たったひとつの新聞記事に浮かれていた、自分の小ささを……。


 

 

 

「あ~~~……」

 

「ミラ子が伸びてる……」

「ウミラウシだねぇ」

 

 いや、なんか。

 すっかり忘れてたけれどさ。

 

私がやろうとしてること(クラシックを目指す)って、スクールカースト上位に食い込むってやつだよねぇ~~~……」

「どしたの急に」

 

 そう。世の中にはスクールカーストってのがあるんです。

 みんなも知ってるよね? スクールカースト。

 

 いやこれね。すごいんですよ。

 トップの王様グループがあるとかじゃなくて、とにかく目立つ子がクラスの空気を作っちゃうの。

 例えばさ、いつも目立っている子が聖蹄祭で「お化け屋敷をやろう」って言ったとするじゃん? そしたらもう、クラスの空気はお化け屋敷一色になるんですよ。

 その状況で「タピオカ屋さんやりたい」って発言したらさ。もう針のむしろなワケです。

 

 こーいう時に私らみたいな目立たない子に出来るのは、お化け屋敷をやるかクラスの出し物に参加しないかのどっちか。

 

「いや~、うん。ギムレットちゃんやクリスエスちゃんとバチバチはないよ」

 

 G1出走ってことはあの子たちとぶつかること。

 お化け屋敷を持ってる子たちに、タピオカ屋さんをぶつけること。

 

 

「やっぱ。オープンクラスにまでいければ、それで十分だよねぇ」

 

 

 

ガララララッ!

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

「えっアイちゃん?」

「ミラクル! 私のレースを、観に来なさい!!!」

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