小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第19R みんなで応援しよう!

 

 

 

 

――――キィィィィィン……

 

 

 

「また来ちゃった」

「今度は私もいます!」

 

 Vサインをするクロノちゃん。

 前回はパスポートとってなくて来られなかったもんね。

 

「いや……うん。来ちゃってよかったのかなぁ……」

 

 あの後、突然現れた(なんでも一時帰国していたらしい)アイちゃんに連れられる形で愛英にきてしまった……え、飛行機のチケット代?

 

「ふふふ……それを聞いてくれるのを待っていたよ、ワトソンくん」

 

 そう! なんと今回の遠征費は!!

 チーム随行員としてトレーナーさんが出してくれているのです!!!

 

「違うぞ」

「えっ!? 違うの!!!???」

 

 だってチケット買っとくぞって言ってたじゃん!

 

「俺は『行きたいヒトのチケットをまとめて買う』と言っただけで、あとで請求するからな?」

「うわ代理購入(クロノスキーム)だ!!!」

「仮にも1勝クラスが国際線ごときでブーブーいうんじゃない」

「しょ、賞金は無限にあるワケじゃないんですよぉ!」

 

 うぅ……こんなことなら自分で買ってエコノミークラスにすれば良かった……ビジネスクラスでムフフとか言ってたおバカな私……。

 そんな私の嘆きを無視して、トレーナーさんは全員注目と手を広げる。

 

「はい。さっきヒシミラクル学生の言ってくれたとおり、今回の飛行機代はみなさんの負担となります……が」

 

 が?

 

「チーム随行員の滞在費についてはURAから補助金を獲得する(ぶんどる)ことに成功しました!」

 

 おおー……。

 あっ、拍手した方がいいかな?

 

「あのねきみたち。補助金とるのってメチャクチャ大変なんだからね?」

 

 トレーナーさんは肩を落として大げさなため息。

 大変なのは分からなくもないんですけれど。私全部無料だと思ってたしなぁ……そんな上手くいかないことは分かってるけれどさ。前回もお金取られなかったのはファインちゃんが招待(ホスト)してくれたからってのが大きいだろうし。

 

 というかふと思ったのですが。

 

「ねえアイちゃん。いまってトレセンに在籍しながら留学もしてるんだよね」

「そうね、きっとそういうことになってるんじゃないかしら?」

「アーモンドアイ学生の扱いは休学だな。わずかな在籍費はかかるが、ヒシミラクル学生が心配するほど高額じゃないぞ」

「ちょ、私がお金のことばっかりみたいな言い方やめてもらえません?」

 

 もちろんお金は大事ですけれどね?

 

 それに、いくら日本のトレセンに払うお金が少なくても。愛英のトレセンに滞在したり、トレーニング施設を借りたりでの費用はかかるわけで……もしかしたら日本のクラシックみたいに登録料も必要だったりするよね、きっと。

 

「……? どうしたのミラクル?」

「あいや。やっぱスゴいなーって」

 

 なんていうか、れっきとした差ってヤツ?

 才能とか競走能力とか、そういう話以前の違いってヤツを感じちゃいますよね。

 

 ……これって、どっちなんだろう。

 アイちゃんはトレセン学園の「普通」なのか、それとも「普通よりスゴい」のか。

 

 もしアイちゃんが普通なら。

 私が思ってたよりもトレセン学園の普通は普通じゃない。

 

 デビューするだけじゃ普通になれない。

 未勝利を脱出しても普通とはいえない。

 

 それなら、私は普通になれるのかな?

 

 

 


 

 

 

 

 さてさて、ニューマーケットレース場にやってきました。

 

 もちろん目的はアイちゃんの目指すブリティッシュ・チャンピオンズシリーズのフィリーズ&メアズ第一戦「1000ギニーステークス」の観戦、というか応援。

 

 というか、それにしても……なんか周りのヒトの雰囲気が日本と違うような……。

 

「そりゃそうだ。このエリアはドレスコードだからな」

「えっ?」

 

 そ、そう言われてみれば確かにトレーナーさんも正装だ。

 G1レースだし気合い入ってるんだなーくらいにしか思ってなかったけれど。ドレスコードってことはそういう格好しないと入れないエリアなのか~……。

 

「って、私たちはいいんだっけ? これいつもの学生服なんですけれど」

 

 でも通過出来たってことはOKなのかな。そんな私にクロノちゃんが指を立てる。

 

「学生服は基本的に正装扱いされますし、パートⅠ国ということもあって日本の中央トレセン学生服は格がかなり高いんですよ?」

「へー、そうなんだ」

 

 改めて周りを見回すと、ドレス姿やシルクハットの人たちばかり。あっあそこの学生さんは愛英トレセンの生徒さんたちかな?

 

「ちなみに今日はどんな相手が出るの? ていうか1000ギニーってどんなレース?」

 

 私の言葉に、クロノちゃんは待ってましたとばかりにスクラップブックを取り出す。

 いつみても大きいね、それ。

 

「1000ギニーSは200年の歴史を持つレースです。距離は8ハロン1608メートルで――――……」

 

 いろんな地方紙や現地のレース雑誌から収集したらしい情報を並べて整理してみせるクロノちゃん。すごい情報収集能力……あっでも謎の数字(オッズ)のメモも相変わらず書いてありますね、ここは触れないでおいて……うん?

 

「なんかアイちゃんの人気低くない?」

「レースは歴史の積み重ねですから。このような例外的な選手は評価されにくい傾向があるんです」

「ふーん」

「ですが、その例外からこそ歴史は始まるんです。どんな一歩も最初は未踏の一歩。私たちはもしかすると、歴史が生まれる瞬間に立ち会えるかも……いえ、立ち会えるに違いありません!」

 

 わあ、目をキラキラさせて楽しそう。

 スクラップブックからはみ出している「アイちゃんの名前と数字が書かれた謎の紙きれ」がなければいい話なのになー。

 

「こ、これはトレーナーさんから預かっているだけですので……けっしてそんな、やましいものでは……」

 

 いやいやいや、そんなモジモジしながら言うシチュエーションじゃないからね?

 勝ちウマ投票券は20歳になってから!

 

「てかトレーナーさん。関係者購入ってマズいんじゃ?」

「あー。いわゆる『担当賭け』文化ってヤツでな。同じレースに出走するトレーナー同士でやるんだよ」

「うわ不健全な匂いしかしない」

「近代レースは、もともとウマ娘同士が『賞品(トロフィー)』を出し合って賭けをする決闘(マッチ)レースが元になって発展してきた過去があるからなぁ」

「ええ……」

 

 でもそれって昔の話じゃん。

 そういうのが今でも残ってるって、どうなんだろうね。

 

「ちなみにブックメーカー(ノミ屋行為)が許されていない日本では完全に違法(アウト)だから、決して真似しないように」

「いやしませんて」

 

 そんなことを話しているうちに、あっという間に発走時間を迎える。

 1000ギニーSの距離は8ハロン……ほとんどクラシックG1の初戦「桜花賞」と同じ距離。

 

 

『私のレースを、観に来なさい!』

 

 

 アイちゃんはああ言ってくれたけれど。ここで、なにをみせてくれるのだろう。

 

 観たら思わず走りたくなるようなスゴい走り?

 栄光を確固たるものにする圧倒的な競走能力?

 

「でも私は、アイちゃんが強いこと知ってるんだけれどな」

 

 他のウマ娘のことは、正直知らないけれど。外国だし。

 けれどアイちゃんが、海外でも通じちゃうんじゃないかって私は思ってる。

 

 スカウトされなかった私と違ってさ、なんて。そりゃ少しは考えちゃうよ。

 

「クロノちゃん」

「なんです? ミラクルさん」

「もしもだよ? アイちゃんが今、ここ(ニューマーケット)じゃなくて日本(桜花賞)にいたら……どうなったのかな」

「分かりません」

 

 即答だった。

 

「未来のレース結果は、分かりません」

 

 ゲートが開く。たったひとつの冠めがけてウマ娘たちが飛び出していく。

 

 未来のレース結果は、分からない。

 うん。そうなんだけれどさ。

 

 でももう、桜花賞に出たアイちゃんの姿を、レースの結果を。私たちが見ることはないわけで。

 それは未来というより「もうあり得ない」レースの話。だからクロノちゃんは、分からないの一言で済ませたのだろう。

 

『クロノジェネシスは、常にレースを見つめているウマ娘だ』

 

 トレーナーさんの言葉を思い出す。

 クロノちゃんは歴史(レース)を、アイちゃんは勝利(ゴール)を。ただひたむきに見つめている。

 

 じゃあ、私は?

 

「うん、うん! 完璧な足取りです。このまま!」

 

 興奮を隠せないクロノちゃんの声が聞こえる。きっとここで、史上初という歴史が生まれる……ってことに興奮してるのであってるよね?

 

「そんなに上手くはいかないぞ」

 

 トレーナーさんの言葉と同時に、先頭を走っていたウマ娘がじわり後退。

 入れ替わるように飛び出してきたのはその後ろに控えていたウマ娘。まるで後退する(タレる)のを知っていたかのようなタイミング。

 

「先頭の選手は彼女のラピッドだからな、当然だ」

「らぴっど?」

「ペースメーカー。今飛び出したのと先頭の選手は同じチームで同門の出身。互いの手の内は完璧に理解している」

「え、じゃあチームプレイってことですか? それってズルなんじゃ」

「いや? チームプレーというより、仲間でライバルってのが正しい関係だ。例えるなら、レースで友情トレーニングをするようなもんだ」

 

 ゲームみたいな例えするじゃん。

 まあ、おかげでなんとなく分かったけど。

 

「こういったレース文化の違いは、気候やバ場同様、日本のウマ娘に立ち塞がる壁のひとつと言えるな。だからそれを乗り越えられるかどうかが……」

「がんばれー! アイさぁーん!」

 

 トレーナーさんの話を遮るクロノちゃんの声。

 そうだ確かに、今は応援しなくちゃ!

 

「がんばれ! アイちゃん!!」

「いけーっ、そんまま差せッ!」

「ちょっと乱暴な応援だね?!」

 

 そして私たちの声が届いたのか、アイちゃんはグッと加速!

 

「うわっ!?」

 

 もしかして、もしかしてこれ……!

 

「本当に、勝っちゃうんじゃ――――!」

「いえ勝ちます! 勝って!!」

「うん。これはいけるな」

 

 そのままヌルッと差し切って、ゴール。

 

「よしっ! トレーナーさん!」

「うんうん。やったな」

 

 トレーナーさんとクロノちゃんがハイタッチ。

 驚きが広がっていくニューマーケットレース場のスタンド。

 

 「やっぱりアイちゃん。すごいなぁ……」

 

 そうしてウイニングランをするアイちゃんが、ピシッとこっちを指さす。

 

「えっ?」

 

 なにその意味深なサイン。ていうか誰を指さしてるの?

 振り返るもそれらしき人影はなし。トレーナーさんとクロノちゃんが私を見る。

 

「……えっ、わたし?」

 

 思わず自分を指さした私に、アイちゃんは頷いて表彰へと向かう。

 

「えっトレーナーさん今のって」

「よーし表彰行くぞー」

「ちょ無視!? いやいやいや!」

 

 慌てて引き留める私に、トレーナーさんは一言。

 

「きみも流石に、気付いてはいるだろ?」

「いや、それは……」

 

 アイちゃんがこのレースを見せようとした意味。

 アイちゃんが私に送ったサインの意味。

 

 ――――G1(ここ)まで上がってこい。

 

「……私、どこにでもいる普通のウマ娘ですよ?」

 

 

 もちろん、そんな私の呟きを否定するヒトも肯定するヒトもいなくて。

 

 そんなこんなで、アイちゃんは1個目のG1を獲ったのでした。

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