小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第02R ようこそ名義貸しチームへ!

「……とかなんとか言ってたけれど、結局入っちゃったなぁ」

 

 

 いやうん。これには理由があるんですよ?

 

まずはお試しで!

最初の1ヶ月は月謝を頂きません無料!

 

 

 いやいやいや騙されるなよ私!

 「最初の月は無料」ってU-MAXTじゃん! ABEUMAじゃん! NETKEIXじゃん!

 動画サブスク解約できないヤツじゃん! そういやウマチューブプレミアムも解約してないじゃん私!!

 

 

「よし、まずウマチューブプレミアムを解約しよう。うん」

 

 スマホを取り出す。ロックを解除してアプリを立ち上げる。

 そして、プロフィールから解約画面へ。

 

「……いやでも、解約したらオフラインで音楽聞けなくなるし……」

 

 Wi-Fiないところで音楽聞けなくなるとか生きていけなくなるのでは?

 

「うーん、うーん……」

「そんなときこそ統計ですよ! ミラクルさん!」

「うわひゃああ?!」

 

 メッチャビビった! ちょっとやめてよと飛び退く私。

 彼女は私と同じ芦毛のウマ娘。左耳には綺麗な装飾、後ろ髪の一部は編まれて赤いリボンが添えられている――――クロノジェネシスちゃんは、そんな私に構わず人差し指を立ててぴとっと頬に当てた。

 なんか肘に片手を添えてしれっとポージングしてるのがムカつく……。

 

「統計にこそ答えがあるのです。[設定]から[スクリーンタイム]を選択して下さい」

「えっ、えっと……?」

 

 言われるままに画面を操作。すると見たことのない画面が現れる。

 

「うわ、なにこれハイテク」

「その画面で各種アプリの稼働時間を確認することが出来るんです。そしてミラクルさんのウマチューブ利用時間は……」

「……うわー、思ってたより多い…………」

 

 ちょっと現代の若者動画漬けすぎないかぁ~?

 いや私のことなんだけど。

 

「おっと、もうこんな時間ですね」

「あ、うん。そろそろトレーニングの……」

 

 時間だね、と言おうした私。

 なのにどうしたことか、クロノジェネシスちゃんは教科書サイズの端末を取り出した。

 

「ええっパッド持ってるの? すご~!」

「4K対応ですからね」

「あーよんけー、よんけーね。それってすごいの?」

「ええ凄いですよ。ぜひ今度4K画質でライブシアターを観てみて下さい」

 

 ライブシアター? という顔をする私に知らないんですかとクロノジェネシスちゃん。その指がスペシャルウィーク選手の顔写真が貼られたアプリアイコンへと伸びるけれど、すぐに引っ込んだ。

 

「あっもう出走時間。さきにこっちを……」

 

 そうして開かれるのは配信アプリ。再生ボタンを押せば画面に現れるのはレース場。

 

 

『豊原13レース。2勝クラスダート1600。個人協賛「帝都造営活動12周年記念」です』

「個人協賛?」

「はい。地方レースではお金を払えばレース名の命名権を買えるのです」

「ふーん。このテイトゾウエイ? って誰?」

「さあ……寡聞にして存じ上げません」

 

 私たちの掛け合いを無視して実況は言葉を並べていく。

 

『帝都造営先生。活動12周年、おめでとうございます。ちなみに作品は完結させましたか? 読者のみなさまが待っていますよ』

「結構ディスるじゃん」

「お知り合いの方が個人協賛金を出しているのでしょうから、いわゆる『身内ネタ』というものでしょうね」

 

 それでは出走ですと実況が告げて、何事もなかったのかのようにレースが始まる。

 すると私たちの前の扉がガラガラと開いた。

 

「あー、クロノジェネシス学生?」

 

 出てきたのはトレーナーさん。

 そう、あの悪名高き名義貸しチーム〈クエーサー〉のトレーナーさん。

 

「なんですかトレーナーさん。いまいいところ……」

「うんうん。外聞が悪いから中で見ような」

 

 

 

 

 

 

「よし! いいところでムチ入った!」

 

「良い調子! そのまま、そのまま!!」

 

「あ”っ!? 止まる! 止まるな!!」

 

「沈むッッ! いや沈むな!!」

 

「…………」

 

『ゴールインッ! 1着はヨイハルスプラウト、2着にどうやらワンダリングシスカ……』

 

 

 

 あーうん。これは外聞悪いっすわ~。

 というかもしかしてこれが素なのかな? そんなことないよね??

 

「えーと。クロノジェネシス、ちゃん……?」

 

 私はガクッと肩を落としたクロノジェネシスちゃんに声をかける。

 いやだって、流石にこの流れで「さーてトレーニングするか~」は無理でしょ?!

 

「…………」

「えっと、あの。クロノジェネシスちゃん?」

 

 ガタリ。

 いやちょっと無言で立ち上がるのやめてもらっていいですかね? フツーに怖いんですけれど。

 

「トレーナー……」

 

 

 そしてクロノジェネシスちゃんは懐に手を入れて、

 隠し持った「ナニカ」を……トレーナーさんへと、突きつける!

 

 

「今日の分です」

「お金!?!?」

「確かに受領した」

「受領した!?!?」

 

 えっ、えっ、え!?

 

「いやいやいや! これゼッタイダメなヤツですよね!?」

 

 子供が大人にお金渡すとかダメでしょ!

 

「ヒシミラクルさん! 安心して下さい。私コレでも、払い出してる(トレーナーさんからもらう)方が多いですから!」

「あ、そうなの?」

 

 そっかぁよかった~……。

 

「……ってなるか!!! もっとダメだよ大人からお金もらったら!!!」

 

 それってあれじゃん!

 エンコーとかじゃん!

 

「大丈夫です! ちゃんと合法です! ……トレーナーさんが買う分には」

「買う『分』には!?」

「地方レースは管轄省庁が違うからね。実際合法だよ」

 

 いや、いやいやいや……。ダメでしょ。

 勝ちウマ投票権の購入は20歳になってから!

 

「俺は20歳になってるから」

「代理購入もダメですよぉ~!」

「いやいや。俺は俺の意思で買ってるから」

「じゃあ今のお金は! お月謝なら封筒で渡しますよね!?」

「よし、トレーニングはじめるか」

「あっ逃げた」

 

 んも~っ。と私がなっていると、扉がガラガラと開く音。

 

「おじゃましま~す」

「あっミラ子真っ赤じゃん。どうしたの?」

 

「お、2人も来てくれたんだな。ようこそチーム〈クエーサー〉の情弱ホイホイ1ヶ月サブスク無料キャンペーンへ」

 

 まさかのハートちゃんとロンが登場。

 昨日が昨日だったから来ないと思ってたのに……。

 

「いやまあ。私らも一応危機感はもってるし?」

「教官の指導とどんな感じに違うかも気になるしねぇ」

 

 ……あー、まあ。

 そうだよね。

 

 私たちは「勝てない私たち」から普通の競走ウマ娘、レースで勝ち負け出来るウマ娘になるためにこのチームの門を叩いたんだ。

 そう考えれば、地方レースの勝ちウマ投票券購入にあーだこーだ言っているヒマはないわけで。

 

 

 ……いや、本当にそうかな?

 

 

「よし。じゃあ練習行くから3人は俺についてこい。クロノジェネシスは、今日も資料室にいくか?」

「はい。そうさせていただきます。トレーナーさん」

「おし、じゃあこれ」

 

 そう言ってトレーナーさんはポーンと革製キーホルダーを投げる。

 クロノジェネシスちゃんはそれをキャッチ。

 

「なにそれ?」

「資料室の鍵です。閉架書庫はチームに所属しているウマ娘でないと入室できなくて……それで、こうして契約を結ばせて頂いているのです」

「え、そんな理由で契約料払ってるの?」

「あー。クロノジェネシスはトレーニング・レース出走を一切しないことを条件に仮入部させてるんだよ」

 

 トレーナーさんからの補足が入る。じゃあクロノジェネシスちゃんは実質無料なんだ……。

 およ? これは使えるな? 私はポンと手を叩く。

 

「あ~、じゃあさっきのお金はワイロってこと? おぬしも悪よのぉ~?」

「なっ……! ワイロなんてとんでもない!」

 

 うりうり~としてやると、クロノジェネシスちゃんは真っ白な顔を真っ赤にした。

 

「あれは綺麗なお金だしれっきとした勝ちウマ投票券購入代金です!!!」

「――――はい、ビンゴぉっ!」

 

 このウマ、尻尾を出しましたよ警部!

 

「やっぱり買ってた! はい有罪! 有罪でーす!」

「無罪無罪! 競走無罪! レースに罪はありません!!!」

「レースじゃなくてあなたの罪の話をしてるんですぅ~~~!」

 

「おーい。バカやってないでトレーニングいくぞ~」

「いやバカて。トレーナーさんも指導してくださいよぉ~」

「なんかミラ子楽しそうだねぇ」

「順応してるねー」

「いやいや、いやいやいやいや……」

 

 

 


 

 

 

 

「ふう。ウォーミングアップはこんなもんかな。って、うわぁ……」

 

 私は思わずため息。なにせ目の前には沈んでいく太陽。

 柔軟体操にミニハードル。そこら辺の機材を使って脚を温め終わったつもりが、もうトレーニング時間が終わってしまう。

 

「ヒシミラクル。ちょっといいか?」

 

 と、案の定トレーナーさんがこっちにやってきた。しまったぁ、いつもは教官による集団トレーニングだから時間管理されているけれど、今日からは全部自分でやらないといけないんだったぁ……。

 

「あのぅ、トレーナーさん」

「なんだ?」

 

 こうなったら……お父さん直伝のあの技を発動するしかない!

 

 ――――秘技! ゴマすり!!

 

「私って、今日がチーム練習初めてじゃないですか?」

「そうだな」

「だからこう、ちょっといいこととかあってもいいかなって。思うんですよねぇ」

「ふむ。で?」

「トレーニング時間の延長とか、そういう初回入会特典とかは……」

「いいぞ」

「やっぱりダメですよねぇ……ってあれ?」

 

 いいの?

 

「いいぞ。なにせきみ、まだウォーミングアップしかしてないだろ」

「えっ、本当にいいんですか? 日が暮れちゃいますよというか日が暮れてますよ?」

「いやだから、今からナイター申請出してくるけれど、それでいいよな?」

 

 あれー? いいんだ。

 呆気にとられた私を無視して、トレーナーさんは後ろを向く。

 

「よーし、ハートリーレターとビロンギングスは初日だからいい加減にして上がれよー」

「はーい」

「わかりましたぁ」

 

「じゃ、俺は申請出して野外ライト灯けてくるから。気にせず続けてくれ」

「えっ。あ、はい」

「ブーケ、俺が外してる間コイツのこと見といてやってくれ」

「はぁ~い」

 

 そうしてトレーナーさんは立ち去る。あとに残されたのはお淑やかな雰囲気に包まれたウマ娘。左耳には花束のメンコ、カレンブーケドールちゃん。

 

 あー、ブーケドールさんの方がいいのかな?

  一応彼女、このチームのリーダーらしいし。なによりドリームトロフィー走ってる大先輩だし。

 

 そんな彼女が近寄ってくると、こちらの顔をまじまじと見つめた。

 

「えっと、なんでしょう?」

「……意外そうなお顔ね」

「へっ? そうですかねぇ?」

「『名義貸し』なんだから、もっと放任されると思ってた?」

「あー、まあ……それはそうかな……そうかも……」

 

 というか、ぶっちゃけもっと適当だと思ってた。

 だって名義貸しって無理矢理デビューするためのものだし。トレーニングとかちゃんと見て貰えるとは思ってなかったし。

 

「監督責任があるの。だから、教官のトレーニングだとナイター練習は出来ないでしょう?」

「あ~」

 

 そういうことだったんだ。

 

 教官たちは学園の職員だから、17時で帰ってしまう。

 だから集団トレーニングも17時まで。もちろん練習コースは閉鎖かチームへ貸し出されて使えなくなる。

 

「そう考えると、名義貸しってのも大変なんだなぁ……」

 

 あ、だから月謝(おかね)取るのか。

 なんだか今さら過ぎる事実に気付いてしまう私。

 

 そうだよね、教官と違って、トレーナーさんはナイター練習まで見てくれるから、月謝がかかるんだよね。

 ……と、そこで疑問がひとつ。

 

「カレンブーケドールさん。ここのトレーナーさんって、スカウトとかしないんです?」

 

 トレーナーは競走ウマ娘と契約して、レースに勝たせるのがお仕事。

 そして、レースの賞金の一部(といっても1割くらいらしいけれど)はトレーナーのもので、その賞金を使ってトレーニング機材を買ったり遠征したりすると聞いている。

 

 そういう意味では、私らみたいな「スカウトされない=実力のないウマ娘」ばっかり抱え込んでたら、いくら月謝をもらっていても成り立たないような……。

 

「そう、そうなのですミラクルさん!」

「うわ急に近いですねっ!?」

 

 ぐいっと寄ってきたカレンブーケドールさん。お手々を両手で包まれる。

 

「あのヒトったら、月謝の額を低く設定してるせいで毎月赤字なの!」

 

 そして明かされる衝撃の事実。

 えっ……契約書(初月無料)に書いてあった金額、結構高かったと思うんだけれど。

 

 あれで低いの?

 マジ???

 

「チーム部屋の賃貸料、学園への施設使用料の支払い、他にも保険の支払いとか、いっぱいい~っぱい、あるのに!」

「えっあっ。それはその、大変ですね……」

 

 いやというか圧が。

 圧が、圧がすごい。

 

 気圧された私の相づちを同意と受け取ったらしいカレンブーケドールさんはまだ続ける。

 

「それでね。私はいつも私がレースで獲得した賞金を使って下さいって言ってるんだけれど、あのヒトったら頑として受け取ってくれなくて……」

「え? いや……それはまあ、そういうものじゃないです? ヒトとして……」

 

 学生から現金を受け取る大人とか絵面がヤバすぎる。さっき見たから、なおさら。

 ……やっぱりこのチーム、ヤバいのでは?

 

「心配しないで。ヒシミラクルさん」

 

 心を読まないで!?

 

「あなたはこのチームを利用しに来たの。だから契約した、そうでしょう?」

「それは……」

 

 それは、その通り。

 

 チーム所属ウマ娘に与えられるトレーニング施設の優先使用権、今日みたいなナイター練習、夜間・早朝外出(ロードワーク)の許認可。そしてなにより――――

 

 

 

 ――――トゥインクル・シリーズへの、出走権。

 

 

 

 それが欲しいから、私はここへ来た。

 この名義貸しチームと契約した。

 

「たっぷり私たちを利用してくださいね。出来れば来月も……」

 

 

 このままだと3人分の追加保険料で破産ですし。

 

 

 

 は、破産……?

 いまゼッタイ聞いちゃいけないタイプの言葉を聞いたのですが。

 

 

「……えっとぉ。聞かなかったことにしても?」

「なにも言ってないけれど?」

「へ?」

 

「 な に も 、 言ってないけれど?」

「…………」

 

 

 すぅ――――――、はぁ――――。

 

 

 あ~、そういう。

 そーいう感じですか。

 

 

「んぅ~。善処しますねぇ……」

 

 

 どうしよ。本当にやめようかな……。

 

 

 

 

 

 




クロノ「ちなみに、お月謝の問題を一発で解決する方法があります」
ミラ子「……いちおう、聞くだけは聞くけれど」
クロノ「今日はダービ「お疲れさまぁ」聞いてください! 今日はユーイチです!」
ミラ子「いや力強?! てかユーイチて誰ぇ?!」
クロノ「ユーイチはユーイチです!!!」
ミラ子「いや知らんて! 勝ちウマ投票券は20歳になってから! 約束だよ!?」
クロノ「そのための名義貸しです!」
ミラ子「ダメだからねぇッ?!」
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