「えー続きまして第6議案……次のページを見てください」
あー、うー……次のページってどこだろう?
こういうのはページ数で言ってよね。ちょっと他のページを覗いてた間に分かんなくなっちゃうから。
「ミラクルさん、8ページです。8ページの最初から」
「うわチョー助かる。ありがとクロノちゃん」
隣の席に座っていてくれるクロノちゃんには感謝感謝。
てか、知り合い居なさすぎて私が隣に座ったんですけれどね。
そうこうしているうちに、階段教室の壇上に上がった生徒が話をはじめる。
「はい。美化委員会のラストワンダリングです。第6号議案は、西排水系統の更新工事についてです」
さて。なーんで私がこんな面倒くさい会議に参加しているかというと、ずばり高等部2年生だからです。
そう、春を迎えて学年が1個あがったので、私は高校2年――――フツーの学校なら、部活動やらバイトで1番楽しい季節! 受験勉強がだんだん近づいてくる怖ーい季節でもあります。
「……よって、相見積もりの結果。西京建設(株)さんに工事をお願いすることになりました。予算は表6-2の通りで……」
そして私は進学希望の受験勢! しかも競走ウマ娘枠の推薦を使うつもりなので、なにか学園からの評価が欲しい! ってなると、やっぱり王道は委員会なワケでして。
え、内申点狙いの委員会活動はセコい? んまーそうかもしれませんが、いいじゃないですか。委員会のお仕事はちゃんとするつもりですし。
あ、ちなみにクロノちゃんは広報委員会でバリバリ新聞記事とか書いてるらしいです。すごいね、やる気に満ちあふれてるね。
「……以上となります。予算の決議をお願いします」
「それでは第6号議案について、賛成の方は拍手をお願いします」
パチパチパチ……と拍手が階段教室を埋め尽くす。
拍手してる生徒を数えるって無理だと思うんだけれど、こういうので見るからに拍手が少なかったらどうなるんだろうね?
なんにせよ、これで委員会合同会議も終わり。ていうか委員会って想像以上にお金使ってるんだね、ビックリだよ。
「はー、クロノちゃんお疲れ~」
「はい。お疲れさまでした」
「んじゃチームいこ!」
そうして立ち上がろうとした私たち。
「すみません。クロノジェネシスさんでお間違いないでしょうか?」
そこにやって来たのは、なんだか物腰の柔らかい小柄なメガネのウマ娘。
クロノちゃんは首を傾げる。
「はい。そうですけれど……、っ!」
「ああ、すみません。
「あのドリームジャーニー先輩がここに!?」
びっくりするクロノちゃん。このヒトすごいひとなんだ?
「すごいなんてものじゃないですよ! 強豪集う宝塚・有マの両グランプリ・レースを制覇ですよ?! ジュニア期とシニア期の最優秀ウマ娘にも選出されてるんですから!」
「わお。それはすごいね」
宝塚記念も有マ記念も、私ですら知っている大レース。最優秀ウマ娘ということは、きっと最優秀ってことに違いない。
そしてレースの歴史が大好きなクロノちゃんにとって、そんな偉大な先達はもう涎が出るくらいのスゴいウマ娘に違いなくて……。
「あわわ……ええと! はじめまして! クロノジェネシスと申します!」
「ええ、はじめまして……それで、少しばかり、クロノジェネシスさんのお耳に入れたいことがあるのですが……」
「そ、そんな。私なんてまだデビューもしていないですし……でもでも、これって歴史に名前を残した競走ウマ娘から直々にお話しを聞くことが出来るチャンスだよね……?」
「クロノちゃん、落ち着いて落ち着いて!」
多分、というかゼッタイ用事があって来てるから!
「あっそうでした。すみません……ええと、それでなんのご用でしょうか?」
どうにか落ち着きを取り戻したクロノちゃん。
それに応じるように、ドリームジャーニー先輩は眼鏡をくいっとサマになってる感じで持ち上げた。
「ええ。はい。今日はクロノジェネシスさんに、お伝えしないといけないことがございまして……」
それから、急に声量を絞ると周りをちらちらと見るジャーニー先輩。
「その、少しばかり申し上げにくいことなのですが……」
どうやら周りに聞かれたくない話らしい。
ふーむ。これは私も外した方がいいかな。
「じゃあ私、さきチーム行ってるからね」
「いえ。ヒシミラクルさんにも是非、聞いて頂きたいお話なのです」
えっ? 私にも聞いて欲しい?
……なんで私の名前知ってんの??
「こちらの写真に、覚えはありますね?」
そうして場所を変えた先、カフェテリアの隅っこにて。
ジャーニーさんが差し出したのは、一枚の写真。
「…………」
そこに何が映っているのかに気付いたクロノちゃんが、頬を引きつらせる。
うわ、これって……。
「そんな顔をなさらないでください*1」
ジャーニー先輩は少し寂しそうな顔をしながらそう言うけれど……。
「こ、こここれは、ちが、違くて……」
ああー、クロノちゃん顔真っ青。
そりゃそうだよね。この間のニューマーケットレース場、
「これはその、トレーナーさんから預かっていただけなんです!」
「ほう。そうなのですか*2」
クロノちゃんの狼狽しまくった釈明に、鷹揚に頷いてみせるジャーニー先輩。
「確かに、担当賭けであることを明確にした上で現地のブックメーカーから購入したのであれば違法性はありませんね。とはいえ……」
ピラ、と写真を摘まんで振ってみせるジャーニー先輩。
「こういった写真をみて、あらぬ誤解をする方はいらっしゃるかもしれません*3」
「…………ヒエッ」
クロノちゃんの細い肩がピストンで圧縮されたみたいになる。
え、えぐい。エグいよジャーニー先輩。そんなのほとんど脅しじゃん!
こうなったら――――ええぃ、ままよ!
「むん!」
「み、ミラクルさん?!」
「おや。どうされましたかヒシミラクルさん?*4」
前と後ろから視線が集中――――うんごめん、身体をせり出して割って入ったのはいいけれど具体的なことはなんも考えてなかった!
でもまあ、こういう時こそ、誠心誠意というのが大事なのを私は知ってるんですよね~。
「ジャーニー先輩」
「なんでしょう?」
先輩の視線が突き刺さる―――――いやこわ!?
少しでも妙な動きをしたら私、神戸港に浮いちゃうかもしれない……けれど!
私はゼッタイ、見棄てない!
だってクロノちゃんは、仲間だから!!
「彼女は――――クロノジェネシスは、誓って賭博をやっていません!」
「ええ。もちろんそれは理解しておりますとも*5」
「それなら……」
「ですからこれからは、
「……!」
「――――――レース予想やめます!」
「そうか。
「そうじゃないんです! 今回は『マジ』なんです!!!」
クロノちゃんの悲痛な叫び(文字にするとあんまり伝わらない)を聞いて、ようやくトレーナーさんは顔を向ける。
「クロノジェネシス学生、一体どうした?」
「じつは……」
クロノちゃんの説明をひとしきり聞いたトレーナーさんは、白々しく首を傾げる。
「なんで俺が買った投票券でクロノジェネシス学生が詰められるんだ???」
「あいえ、それは、そうなんですけれどもぉ……ッ!」
「クロノちゃん」
青くなったり圧縮されたり熱くなったりでへにゃへにゃになるクロノちゃんに、私は肩ポン。
「トレーナーさんは『そう言うしかない』よ」
だって実際、勝ウマ投票券を買っているのはトレーナーさんなんだから。
それどころか、こんな状況になっても
「すみませんトレーナーさん。私のせいで……」
うんうん。そこは本当に反省しようね?
「いや、
そうかな……?
あー、そうかも?
同じチームのウマ娘が勝ってよろこぶのは普通のこと。
そこに
だから今回の件は、目立つ舞台(アイちゃんの出るレース)で目立つ格好(トレセン学生服)を着た状態のクロノちゃんが勝ウマ投票券を持っていたのが良くなかった――――
「だから、次からはバレないようにしなさい」
――――いや、そうはならんよね!?
「いいえ! 私はレース予想をやめます!!!」
おっエラい!
エラいよクロノちゃん!
「もうレース予想はしません! 私は
「いやきみ今年デビューなんだから
ものすごく当たり前のことを言うトレーナーさん。
だけれどクロノちゃんは首をブンブンと振った。
「ダメですッ! レース走ったらレースの予想しなきゃいけないじゃないですか!!」
「え」
「ほう?」
「なので私は、
「ええええッ?!」
いきなりすぎる急展開!
「ま、まってよクロノちゃん! それじゃ私はどうやって勝ち上がったら……じゃない、クロノちゃんはどうやって勝ち上がるつもりなの?」
困惑する私に、クロノちゃんは引きつった笑みを浮かべてサムズアップ。
「知らないんですか? ミラクルさん」
最初から先頭で、最後まで先頭ならイチバンなんですよ。