小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第23R ここがあの有名な……!

 

 

 そして今年も、夏合宿の時期がやってきた!

 

 

 え? 定期考査(テスト)

 ふっふっふ……――――長く、苦しい戦いでした。

 

「でもまあ? 私ってばレースも勉強もそつなくこなす2勝クラスなんで?」

「赤点回避でよかったねぇ~」

「ロンー? その生暖かい目はなんだねローン??」

 

 あーだこーだと言い合っていると、トレーナーさんから騒ぐなーの声。

 ちなみにここは羽田空港。横田じゃなくて羽田ね。

 

「はい。みなさん注目!」

 

 トレーナーさんが集まったチームメンバーに向けて両手をメガホンにして話し始める。

 

「今年はなんと! チームの9割が参加という空前絶後の夏合宿となりました!!」

「絶後と言わず、来年もこのくらい参加してくれると嬉しいです♪」

 

 しれっとこんな参加率もうないでしょと宣言するトレーナーさんに速攻で釘を刺しに行くブーケさん。なんか、こんな感じのやりとりを去年も見たような……。

 まあでも、実際こんな参加率は二度と叩き出せなさそうだもんねぇ。

 

「とにかく全員、アーモンドアイ学生に絶対感謝の心を示すようにな? わかったな?」

「「「はーい」」」

 

 そう今年の合宿はなんと――――あの超有名なウマ娘育成学校で行われることとなったのです!

 

 

 

 


 

 

 

 そうしてやって来た北海道。新千歳空港からバスに乗ってすぐ(北海道基準なのでいうて20分くらいはかかるんだよね)。

 

 大自然に囲まれたここに――――日本最大級のウマ娘育成学校はある。

 

「ほえー……ここがあの有名な……」

 

 道中でも見かけた同じ形の宿舎に、あるわあるわ運動場(パドック)。そして広々とした(ターフ)。ウッドチップを敷き詰めた全天候型(屋根がついてる)練習コース。

 なにからなにまで規格外で、もう驚きの連続ってヤツです。

 

「じゃあ荷物をゲストハウスに持って行けー。あと代表集合な、鍵渡すぞー」

 

 そうして私は部屋の鍵を受け取り(去年出来たから余裕だろという謎の理由で今年も私がリーダーになった)割り当てられた部屋に鍵を……。

 

「……あれ、開いてる?」

「待っていたわよ! ミラクル!!!」

「むむっ、その声はアイちゃん! いつの間に帰国したの?」

「ついさっきよ! 空港すぐそばだもの!!」

 

 部屋の中で待っていたのはアイちゃんだった。だから鍵が開いていたんだね。

 それにしても空港ってことは、いまさっき帰国したのかぁ~……。

 

「相変わらず、すんごい行動力だねぇ」

「ええ。でもミラクルだって負けてないでしょ?」

 

 んん?

 いやフツーに負けてますが? 私まだ条件戦2回勝っただけですよ??

 

「まー、こっちはボチボチって感じだねぇ……あ、今回の合宿はアイちゃんのおかげってトレーナーさん言ってたよ。ありがとね!」

「気にしなくていいわ。おじさまが私のチームメイトたちと会ってみたいって言うから、むしろ来てくれてありがとね?」

 

 おうふ。「おじさま」が誰なのかは分からないけれど偉そうですね?

 おハイソな雰囲気がビリビリしてきますよもう。

 

「ねえ、アーモンドアイさん。頼みたいことがあるんだけれど」

 

 そこで唐突に切り出したのはロン。急に畏まってどうしたの?

 

 

「バ術競技の先生、紹介してくれない?」

 

 

 


 

 

 

「ようよう、今日も空港からイキのいいサカナが大量に揚がってるな!?」

 

 ビシッと挨拶を決めてくれるのはゴールドシップ選手。

 前人未踏の宝塚記念3連覇を阻止するべく立ち上がったことで有名なウマ娘。

 

「あの、空港からサカナが揚がることはないんじゃ?」

「おいおい社会科の資料集も読んでないのかよ? 鮮度が命なサカナは輸入に航空便を使うんだぜ?」

 

 へ、へぇ……知らなかった……。

 

「って、いやいや。その話って今日の見学ツアーに関係あります?」

「関係ないんだな~それが」

「ないんかいっ!」

 

 てかゴールドシップ選手ってトレセン学園生だよね? なんでウマ娘育成学校の関係者みたいな顔してるの???

 

「よっしゃ! それじゃあ早速、オメーらにはウマ娘スポーツを全部やってもらうぜ!」

 

 はい?

 やってもらうって、見学じゃなくて?

 

「たりめえだろ? お前、レース観戦だけでレースのこと分かった気になるのかよ?」

「ぐふぅ……ッ?!」

 

 あっ! レースエアプ(データ予想)勢のクロノちゃんが!

 いちおう今年デビューの予定なんだから手加減してあげてよ!!!

 

 

「つーわけで、異種格闘技戦の開幕じゃーい!!」

 

 

 ゴールドシップ選手のかけ声と同時にゾロゾロと現れるなんかながーいゴルフクラブみたいな棒を持ったウマ娘さんたち。

 えっ……てっきり大ゾリを曳く「ばんえいレース」とかやらされるのかと思ったけれど、なんか雰囲気ちがくない?

 

「昨年PLリーグ優勝、夕張コークスガールズの皆さん!」

 

 お、おお~。

 よく分かんないけれど優勝はスゴいので拍手。

 

「さて、皆さんはこの服をご存じですか?」

 

 この服、と言いつつ真ん中のリーダーっぽい人が自分の来ている服を示す。

 襟があるちょっと厚手の生地、半袖の先端はほつれることのないように生地を折り返して入念に縫われている。

 

「ポロシャツ?」

「正解です。そして今日皆さんにやって頂くのは『ポロ』という競技です」

 

 ほうほう。つまりポロシャツの語源になったスポーツってワケね。

 で、具体的になにをやるんです? それを聞く前にハイどうぞと謎のながーい棒を手渡される。

 

「えっと。これってどういう……?」

「このラケットを使って、ボールを打ってゴールに入れてもらいます」

 

 そう言いながらラケットを使ってポンポンとボールをリフティングし始めるコークスガールズのリーダー。

 

「あ~、ウマ娘版サッカーってことですね?」

 

 まあ何をやるかは分かったけれど、私に出来るかな?

 ぶっちゃけ、私スポーツってやるより観る側だし。

 

「なになに……フィールドに出るウマ娘は4人まで、チーム内で交代はいつでもOK……てかフィールドひっろ!?」

「ウマ娘専用のスポーツって感じだねぇ」

 

 ルールブックを読んでいると、広い空間を自由に動いて激しく攻守が入れ替わることを前提としているみたい。

 となると、前に行ったり後ろに行ったり、横に行ったりもするわけで。

 

「こ、これは大変そうですねぇ……」

「よし! 基本的なルールは分かったな?!」

 

 それじゃ出発じゃーい! と拳を振り上げるゴールドシップ選手。えマジ??

 

「今すぐやるんですか?」

「たりめえだろ!!!」

 

 えぇ、そんなに当たり前のことですかね……普通は練習とかするもんじゃ。

 

「大丈夫大丈夫。やれば分かるから」

「まずはやってみましょう!」

 

 いやいやトレーナーさんもブーケさんも、他人事みたいに言ってくれますね? まあ他人事なんだろうけれど。

 

「ちなみに、勝ったチームには新鮮スイカ付きスイーツビュッフェ権を進呈します」

「うわ! そーゆうのよくないですよ、そうやってすぐモノで釣ろうとするの!」

 

 トレーナーさんに抗議する私に、なにを言ってるんですかミラクルさんとクロノちゃんが逆抗議。

 

「賭け事は人生のスパイスです!」

「クロノちゃん!!! 本当にいつか捕まるよ!!!???」

「おいおい刑法エアプか? 今回のケースで逮捕は無理だろ*1

「刑法エアプってなに?!」

 

 刑法エアプ(犯罪してないの)は良いことでしょむしろ!!

 

「そうだぞ。今回は俺が賞品として出してるんだから賭けですらないぞ」

 

 トレーナーさんも便乗してるし! もしかしてマトモなのって私だけ?!

 

「ちなみにミラクルさん。歴史を紐解けば、投票券を当てたヒトに主催者から景品が送られるシステムが用いられていた時代もあるんですよ! これは景品レースと呼ばれていて、大正時代に……――――」

 

 わーんそんなウンチクいらないからぁ!

 というか払い戻しが「お金ではなく景品」ってパチンコのやり方じゃんか!!!

 

 

 

 


 

 

 

 

「つ、つかれたぁ~~~」

 

 いやホント、前に走ればいいだけのレースと違ってポロは大変だ。

 攻守はすぐに変わるし、交代制限とかないからみんな全力疾走するし、ボール小さいし……。

 

「ミラ子お疲れ」

「あ、ハートちゃん。おっつー」

 

 私と同じくお風呂上がりのハートちゃんがやってきた。

 そのまま私と同じように、テラスの柵に体重を預ける。

 

 あー……なんか言った方がいいかな?

 

「今日は、疲れたねぇ」

「ホント! 明日筋肉痛にならなきゃいいけれど……」

「お風呂でちゃんと解した?」

「もち。でもさー下手にやると揉み返しとかくるんでしょ?」

 

 こういう時、専属トレーナーとか居てくれたらいいのにな。

 ハートちゃんの言葉は、たぶん半分以上本音で。

 

 私は2勝クラスになったけれど、ハートちゃんは1勝クラスのまま。

 私たち3人組の中で最初に勝った彼女は、もう一年勝ちから遠のいている。

 

「今日、楽しかったね」

「ね」

「アイちゃん負けず嫌いすぎて笑っちゃったね」

「でも、アイさんのお陰で勝てたよね。今日の私たち」

「だねぇ」

 

 そう。即席チームで行われたポロ大会で、私たちのチームはなんとか勝利を収めた。

 いやまあ、同期組(つまり私とハートちゃん、ロンにアイちゃん)をまとめるのメチャクチャ大変だったけれど、まあ私は世代のリーダーですからね。

 

 でも、うん。楽しかったよ。

 みんなで勝てたし。そしてなにより……。

 

「なんかさ、久しぶりだったよね。みんなでワイワイやるの」

「そうかな?」

 

 私の言葉に、首を傾げるハートちゃん。

 そうだよ。もう最近、私とハートちゃん全然お話し出来てないもん。

 

「そう、かも……」

 

 それきり、ハートちゃんは押し黙る。

 

 

 目の前には、都会じゃみられないキレイな星空。

 アイちゃんはきっと、あのキラ星の中のひとつ。

 

 ……もしかしたら、全部の星を見えなくする太陽みたいな存在になっちゃうかもだけれど。

 

 

「ねえ、ロンはどうするのかな?」

 

 沈黙を破るようにハートちゃんが口にするのは、3人組の最後のひとり、ロンのこと。

 未勝利クラス。キャリアはそろそろ二桁いくんじゃないかってくらい。

 

「今日さ、ロンがアイちゃんに言ってたよね」

 

 ――――バ術競技の先生、紹介してくれない?

 

「バ術にいっちゃうのかな」

「あー……」

 

 どうなんだろうね。

 でも事実として、クラシック級の未勝利戦は夏で終わっちゃうワケで。

 そこから先、平地の競走ウマ娘として戦うなら1勝クラス以上に出る必要がある。

 

 つまりは格上挑戦……そういや、クロノちゃんとそんな話をしたっけ。

 

 

『格上挑戦で未勝利脱出ってあるの?』

『未勝利戦で2着を取ったことがある選手であれば、十分に狙えますよ』

 

 でも実際には、未勝利のまま終わった6割のウマ娘が地方トレセンへ転校していく。

 

 

「ずっと、一緒に居られると思ったのになぁ」

 

 ハートちゃんの言葉が、重たい。

 だって2人と同じ場所にいないのは、先に進んでいる私だから。

 

 ずっと一緒だよ、なんて。

 無責任なこと、いえないよ。

 

 

 私は空を見上げる。

 流れ星でも流れてきて、ハートちゃんを元気にしてくれないかなと、願いながら。

 

 

*1
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。(刑法185条「単純賭博」)

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