小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第29R 枠番発表は前夜祭!?

 

 

ガララララッ!

 

 

「ふっふっふ~。今日はみなさんに、重大発表があります!」

 

 チーム〈クエーサー〉のチーム部屋。

 飛び込んだ私はトレーニングの準備をしているみんなを見る。

 

 我が意を得たりとばかりに眼を輝かせたのはクロノちゃん。

 

「神戸新聞杯の枠番発表ですね!」

「あっ……」

 

 そういえば今日だっけ。

 いや、違うんよ忘れていたワケじゃないんよ。

 

 ただね? もっとこうね、大事なことがね?

 

「ウマー・ウォーズ最新作の売り上げが好調らしいな」

「そんな話を今するワケないでしょ!」

 

 トレーナーさんは茶化さないで!

 口先をツーンと尖らせる私に、ブーケさんが微笑む。

 

「勝負服のデザイン、決まったのですね?」

「そうそれ!」

 

 流石は我らがリーダー!

 

「じゃーん! みてみて!」

 

 というわけでさっきコンビニ行って印刷してきたA3用紙をバーン!!!

 

 

「「「おぉ~~~!」」」

 

 ふっふっふ~どうですかこの勝負服!

 芝の上で目立つ青、あっちこっちに散りばめた反射材(キラキラ)

 

「まぁ? まだ絵に描いた勝負服なんですけれど?」

 

 これでも、応援してくれる家族や友達が「あっあそこにミラ子がいる!」って見つけてくれるように……結構いろいろ拘ったデザインなんです!

 ほら、みてくださいよ! プロのトレーナーさんすら感心してる!

 

「この短期間でデザイナーさんもよく仕上げたな」

「ふふ……この私のデザイン(ちから)が満遍なく発揮されたっていうか?」

「ちなみに現物は間に合うのか?」

「うぐっ」

 

 いや実際、そうなんですよね~……。

 

「えーと。神戸新聞杯で優先出走権を獲得できたら、発注する予定です」

 

 …………だって、勝負服思った以上に高いし……。

 

「採寸とかあるだろ。間に合わなくならないか?」

「あっそれは大丈夫です!」

 

 なにせ、こういう事態に備えて、勝負服は身体に自在にフィットするデザインにしてありますから!

 

「なるほど。合理的だな」

「でしょ~?」

「これならふと――――」

 

パシッ!

 

「トレーナーさん? デリカシーがないですよ?」

「いやブーケ、これは」

 

パシッ!

 

 うっわぁ、トレーナーさんブーケさんにハリセンで張られてるよ。

 てかどこから持ってきたのそれ?

 

「言い逃れしない」

「はい」

 

 ブーケさんに「()()()()」されているトレーナーを尻目に、クロノちゃんがまじまじと私の勝負服デザインを見に寄ってくる。

 

「……これが、ミラクルさんの勝負服」

「う、うん……そんなにじっと見られると緊張しちゃうな~……?」

「いいえ。これを軽んじることはできません!」

 

 だってこれは、ミラクルさんの刻む「歴史」そのものなのですから!

 

「おぉう、想いが重いねぇ……クロノちゃんはどんな勝負服にしたの?」

「はい! 私の勝負服は――――」

 

 と言いかけて、クロノちゃんはハッとする。

 

「い、いえ! 長くなっちゃうので今度にしましょう!」

「えそうなの? 別にいいけれど……」

「でもでも、ミラクルさんはすぐに神戸新聞杯ですから!」

 

 うんまあ、それはそうだね。

 そういえばさっき、枠番発表されたって言ってたし。

 

「よし、じゃあ神戸新聞杯の予想、いってみよ~」

 

 

 


 

Nettai.race

神戸新聞杯(GⅡ)

阪神レース場 / 芝右2000m

 

ウマ

出 走 者 名

チーム

記者短評

1

シドニーダイスキ

ベテルギウス

夏合宿を全て

捧げた秘策?

2

テラストリーム

ポールスター

ダービー掲示板

は伊達じゃない

3

サーベルオレ

ズベンエシャマリ

皐月賞2着が

2000で魅せる

4

ヨウセイテール

プルートゥ

2000未経験

距離延長が難

5

グランソサエティ

シェアト

夏レース回避

陣営は強気だ

6

ドッグハレルヤ

シェアト

1勝格上挑戦

秘策ありや

7

メインアタッカー

アルタイル

京都新聞2着

ブランク響くか

8

ヒシミラクル

クエーサー

直近5連センター

抜群の安定感

9

シンボリクリスエス

リギル

ダービー2着

本命文句なし

10

インターナショナル

ゴールドスター

キャリア未知数

紅い蜃気楼

11

ヌスンダバイク

プロミネンス

今回チーム移籍

ここ勝負処か

12

ハイカブリガール

アスケラ

6戦3勝夏ウマ

アガリ最有力か

13

ヘリオスポイント

アンタレス

前走6月6着

立て直し図る

14

サンキューマッマ

ケレス

前走トレ続投

真価試される

15

ノーリーズン

シリウス

名門チーム復帰

狙いは菊花賞

16

ローザスリングエン

シリウス

宝塚記念3着

芝中距離◎

ウマ

出 走 者 名

チーム

記者短評

1

シドニーダイスキ

ベテルギウス

夏レースは回避、合宿を全て捧げた秘策あり?

2

テラストリーム

ポールスター

ダービー掲示板は伊達じゃない

3

サーベルオレ

ズベンエシャマリ

皐月賞2着が2000で魅せるか

4

ヨウセイテール

プルートゥ

2000未経験、距離延長は厳しいか

5

グランソサエティ

シェアト

夏レース回避、陣営は菊花賞へ強気コメント

6

ドッグハレルヤ

シェアト

1勝クラスの格上挑戦。秘策ありか

7

メインアタッカー

アルタイル

京都新聞2着以来出走なし。ブランク響くか

8

ヒシミラクル

クエーサー

直近5連続センター。夏のレースで磨かれた安定感

9

シンボリクリスエス

リギル

ダービー2着。文句なしの本命ウマ娘

10

インターナショナル

ゴールドスター

キャリア未知数の紅い蜃気楼がやってくる

11

ヌスンダバイク

プロミネンス

チーム移籍にて秋シーズン指導。ここが勝負処か

12

ハイカブリガール

アスケラ

6戦3勝。夏のアガリウマ娘最有力か

13

ヘリオスポイント

アンタレス

前走6月の6着。立て直し図れるか

14

サンキューマッマ

ケレス

前走敗北なれどトレーナー続投。真価試される

15

ノーリーズン

シリウス

名門チーム復帰。菊花賞狙い宣言

16

ローザスリングエン

シリウス

宝塚記念3着。芝2000~2200成績良し

 

 

「……これが、神戸新聞杯のライバルたち」

 

 ごくりと唾を呑み込む私。

 では早速、対戦相手をひとつずつ見ていきましょうか。

 

「えーと、とりあえずクリスエスちゃんには勝てないでしょ?」

 

 考えても仕方ないので除外除外。それで~?

 短評を読む限りだとクリスエスちゃんの他に皐月賞2着にダービー掲示板入りが2人、さらに宝塚記念3着!

 

「こ、この中から、3着以内に入らないといけないのかぁ……」

 

 え結構ヤバくない?

 思ったよりずっと難易度高くない?

 そもそも3着まで優先出走権もらえるって話だけれど、これ実質クリスエスちゃんで1枠埋まってるでしょ?

 

「わ、てかよく見たらノーリーズンちゃんもいる……これで2枠埋まったからぁ、あと1枠?」

 

 ……。

 

 ………………。

 

「ミラクルさん、深呼吸ですよ深呼吸!」

 

 私の肩がポンポン叩かれる。

 振り替えればそこには、芦毛の予想屋クロノちゃん。

 

「過去の戦績は重要じゃありません。肝心なのはレース展開です」

「ああうん……そうだね、そうかもしれないけれどぉ~」

 

 ワタワタしている私を尻目に、クロノちゃんは慣れた手付きでホワイトボードに数字入りマグネットを配置していく。

 

「そして、こちらが四角(第4コーナー)における予想展開となります」

「早ッ!?」

 

 えいつの間に予想してたの!?

 

「そんなの先週からです! 具体的には日曜夕方からです!」

「先週のレースが終わってすぐ翌週の予想をしていたんだねぇ……」

「重賞はお祭りですから!」

 

 そうなの? 毎週やってるイメージあるけど。

 

「年にたったの138回(URAのみ)しかないんですよ?」

「うーん多いね!」

 

 まあいいや。本題(展開予想)に戻ろっと。

 ホワイトボードに引かれたカーブは第4コーナーの内ラチ。

 そこにわちゃわちゃと並んだマグネット。私のウマ番(ヒシミラクル)は⑧だから……。

 

「思ったより後ろ、てか最後方じゃん」

 

 おっかしいな、最近はペース上がってきたことで差しより先行寄りの位置につけることが多かったはずなんだけれど……。

 

「流石に出走者の質が違いますからね。それに今回は荒波のレースです」

「というと?」

「宝塚記念で逃げ粘って3着の⑯ローザスリングエン。大外からの逃げは危険行為(内枠との衝突)を回避するために序盤の加速、かつ速やかな内への移動が求められるリスキーな戦術ですが彼女が好走したレースは全て逃げ戦術ですので今回も序盤から仕掛けると予想できます」

「これにみんな引っ張られるってワケかぁ」

「いえ。流石に⑮ノーリーズンは乗らずに控えるでしょうが……」

 

 クロノちゃん、早くも敬称すっぽ抜けでレース語りが加速していく。

 ローザスリングエンさんもノーリーズンちゃんもクロノちゃんの上級生なんだけど……。

 

「――――ハッ! ごめんなさいミラクルさん、⑧ヒシミラクルにはあまり関係ない話を……」

「いやいやいや、全然関係あるから続けちゃって!」

「そうですか? じゃあ続けますね⑯の逃げに外枠(⑩~⑭)の誰かが付き合うことで序盤はなし崩し的にハイペース寄り。ただし今回一番マークされることになる⑨シンボリクリスエスから意識が外れることはないでしょうから中盤の展開は……――――」

 

 楽しそうに色々話し続けるクロノちゃん。

 ともかく色々あって、8番というど真ん中枠番の私は何も動けないまま最終コーナーまで運ばれることになると……。

 

「……という結果で⑨シンボリクリスエスです。今回は銀行ですね!」

「う~~~む、本当に最後まで(わたし)が登場しないとは思わなかった……」

 

 えこれつまりクロノちゃんの予想(メソッド)的には勝てないって話になるのかな?

 

1着(勝ち負け)の話であれば厳しいですね」

「うっ……ちなみに3着以内ならどうでしょう?」

 

 クロノちゃんが顎に手を当てる。

 それから⑧マグネットを掴んでゴールまで持っていって、戻す。

 

「あがり35秒を切れば射程圏に入ります」

「……ラスト3ハロンを35秒かぁ……」

 

 私そんなラストスパートかけられたことあったっけ。

 

「一応、3戦目のあがりが34.9秒ですね」

「よく覚えてるねぇ!?」

 

 さすがにチームメイトの記録は覚えてますよというクロノちゃん。

 いえ私は自分のベストタイムも覚えていませんが……?

 

「うーん。なんにせよこれは、末脚を磨ききる感じで追い込めばいいかな」

 

 とりあえず直前練習(追い切り)メニューは決まったので良しとしましょう。

 

「クロノちゃんありがとね!」

「いえ! お役に立てたのならなによりです!」

「じゃあ他の意見もみてみよっと」

 

 ポチポチとウマチューブのアプリを起動。

 もちろん見るのは、最近よく見てる生涯収支ぷらす11億円さん!

 

「えーと、新着新着っと……あれ?」

「…………」

 

 神戸新聞杯関連の動画が上がってない。

 おっかしいなぁ、確かに枠番発表されたばっかりだけれど、いつもは簡易予想とか銘打ってショート動画とか上がってるんだけれど。

 

「あれぇ?」

「…………ミラクルさん、こちらを」

「うん?」

 

 やけにテンションが低そうなクロノちゃんが差し出してくるのは……。

 

 


【生涯収支】ぷらす11億円【ユーイチ絶対主義!】

@race_de_plus110171

 

☆お知らせ☆

清廉な軸流し崇拝者諸君!

今週はどうしても外せない用事があるんで!!

神戸新聞杯予想はスキップです!ごめんね!!

 

25分前

┌12 ❐1602 ♡1927 |||()2万 

 

 Uのいまを伝えよう

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「うわぁ」

 

 いつものカチコチ漢字熟語にフランクな文語表現で謎のギャップ……。

 ところで勝ウマ投票券買ってる時点で「清廉(心が清らかで私欲がない)」はウソだよね。

 

「11億円さんってUもやってたんだね」

 

 私はあんまりU見ないから知らなかったけれど、配信者ってだいたいマルチにプラットフォーム使ってるイメージあるもんね。

 

「そうですね……なんかこう、配信の予告とかもやってるらしいですよ……」

「ふーん。なるほどねぇ……」

 

 まあなんにせよ、神戸新聞杯の予想はしないらしい。

 セカンドオピニオンとしては使えないかぁ。残念。

 

「うーん。まあ他の予想チャンネルも見てみようかな」

 

 というワケで他にも登録しているチャンネルをぽちぽちする私。

 

「ミラクルさん。その……」

「うん。どしたのクロノちゃん」

「正直に申し上げて……どこのチャンネルも、雑誌も、あまりミラクルさんの評価は高くないかと思います」

「うん。知ってるよ」

 

 ていうか、だから気が楽なんよ。

 

「べつに私ってば、特別になりたいとか思ってないからさ」

 

 一番人気じゃない方がいいって言っちゃうよ。

 やっぱりプレッシャーだし、それってシンドイし。

 

「だから、私が調べているのはむしろ他の評価」

 

 他の……私と一緒に走る凄いウマ娘たちが、どんな評価を受けているか。

 それが今の私にとっては、一番大切なこと。

 

「……ミラクルさんは、強いですね」

「ううん。弱いよ」

 

 私は、クロノちゃんみたいにはなれない。

 

「クロノちゃん。クロノちゃんが言ってたこと、覚えてるよ」

 

 

 

 ――――この偉大なレースの歴史の一部として『競走ウマ娘としての私(クロノジェネシス)』を刻むため。

 

 

 

「あの時はさ、えっすご! としか思ってなかったけれどさ」

 

 いざレースに出てみたら、いやもうなんというか。

 すごすぎ! って感じ。

 

「……私は、逆に」

 

 そのミラクルさんの『普通』がうらやましいです。

 

「ミラクルさんは、評価されることを怖がりません」

 

 周りの評価を受け止めて、自分の立ち位置を理解しようとする。

 

「その姿勢は、なかなか持ち得ないモノです」

「や、そんなんじゃないよ。期待されてない方が安心するだけっていうか~」

 

 だって期待されてなかったら負けてもいいし。

 ううん……これはちょっと格好つけすぎかな。

 

 

 そりゃ、無条件に応援してくれたり、期待してくれる人もいるから。

 その人のためだけには、勝ちたいって思ってるけれど。さ。

 

 

 

 


 

 

 

神戸新聞杯

ヒシミラクル

6着

 

 

 

 

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