「ありゃ~、やっちゃった!? コンティニューは?」
「目覚まし時計はもう使い切っちゃいましたから、これで育成終了です」
「そんな~。やっぱり格ゲーと違って育成ゲームって難しいわね~!」
「そんな訳で! 今回は『ウマ娘プリティースタリオン10〈editon2026〉』を先行プレイさせて頂きました!」
「あのクロノデュワールの日本ダービーも収録済み! みなさん是非買って、私のユーイチの勇姿を眼に焼き付けてくださいね!」
「それでは、ラブミー♡ ラブユー♡ ラヴズオンリーユーと~?」
「さすらいの軸流士、ぷらす11……じゃないクロノジェネシスがお送りしました!」
(それでは本編をお楽しみください)
「お、ミラ子じゃん」
「あ、ロン! 割と久しぶり~」
ホントびっくりなんだけれど。ロンがチーム移籍してから全然会ってなかったんだよね。
いや、そりゃお互い現役の競走ウマ娘だし選択科目とかも合わなかったら顔合わせる機会が少ないのも納得ちゃ納得なんだけれどさ。
「何週間空いたっけ?」
「1ヶ月は経ったよ」
「やば」
うひゃー早い早い。時の流れって早いねぇ。
LANEはちょいちょいしてるからそんな感じないけれど。
あ、ちなみに今日は
「じゃあ出席取りますよー」
そう言いながら担任の先生が次々名前を呼んでいく。
あ……いま名前飛ばした。
「(そっか、あの子やめちゃったんだ)」
そりゃそうだよね。
だってクラシック期の秋からは未勝利戦なくなっちゃうし。
だから、このタイミングで地方とかに移籍したりするのは全然ある話。
……未勝利のロンは、障害転向って形にしたから、もう少し走れるだろうけれど。
「ヒシミラクルさん」
「あっ、はーい」
そんなこんなで私の名前も呼ばれて、少し減ったクラス全員の名前も呼ばれて。
「というわけで、今月のHRは来週開催の聖蹄祭について。実行委員の皆さん、よろしくお願いしますね」
担任の先生が口にしたのは、毎年開催される「聖蹄祭」について。
うん? 来週開催?
「ミラ子~? もしかして忘れてたんじゃない?」
「ま、まさかぁ~」
茶化してくるハートちゃんに震える声で返事をして、それから前に出て行くハートちゃんの背中を見送る私。
……うん? なんでハートちゃんが前に?
そんな私の疑問に応えるように、ハートちゃんをはじめとするクラスメイト数人が黒板の前に並ぶ。
「はい! というわけで待ちに待った聖蹄祭がやってきました!」
そこから、私たちの出し物は~なんて話を進めていくハートちゃんたち実行委員。
え、ハートちゃん実行委員なの? 聞いてないんだけど。
「言ってなかったからねぇ」
「え、ひっどぉ。私たちの仲じゃんか」
ハートちゃんが実行委員やるっていうなら、普段みたいなテキトー参加じゃなくてちゃんと手伝ったのに。
「だってさ、邪魔できないじゃん?」
「え?」
「ミラ子、菊花賞目指してんのに」
「あ~……そんなこともありましたねぇ」
でもまあ、結果はトライアル・レースの神戸新聞杯で6着。
優先出走権はもちろん、掲示板すら逃す始末なワケでして。
「短い夢だったよ。うん」
「短い夢て、まだ菊花賞はじまってもなくない?」
「うーん……」
そりゃね? 別に優先出走権がなくても登録できますよ?
でもさ、私ってまだ3勝クラスなんだよね。つまり非オープンウマ娘。
「菊花賞、登録すると抽選になるっぽくてさ」
レースは18人まで。
なぜなら、ゲートの枠が18個しかないから。
そして、菊花賞はG1レース。
たくさんのウマ娘たちが出たいと思ってる、夢の舞台。
「クロノちゃんの予想だとさ、20人以上登録するのは確実なんだって」
あくまで記者インタビューで「菊花賞を目指す」って言ってるウマ娘の情報だから、実際はもっと多いかもしれない。
「それで当然、優先出走権もってる子と、オープンの子から枠が埋まるワケじゃん?」
何人のオープンウマ娘が登録するのかは分からない。
だからもしかしたら、オープンだけで埋まってしまうかもしれない。
「あ~そっか。トライアル負けると出られる保証ないんだ」
「そそ」
しかも私、クラシック登録してないから追加登録必要だし。
「じゃあミラ子はどうすんの?」
真顔で聞いてくるロン。
どうすると言われても、ねぇ。
「んー。とりあえず当初の予定通り、オープンウマ娘に
今年はクラシック期。来年はシニア期。
来年にしっかり単位を取れば、高等部を卒業……つまり、大学受験をする権利が得られる。
「それで、予定通り競走ウマ娘枠を使って大学に進学! って感じだね」
「なるほどねぇ」
そう。私が〈クエーサー〉に入ったのは、あくまで実績作りのため。
……本当はさ。
スカウトされたかったし、スカウトされた自分の
けれど私はスカウトされなくて、トレセン学園の「普通」になれなかったから。
それでも。
しかたなーく名義貸しチームに入った私は、ここまでこれた。
「まー、スカウトもされて? 菊花賞の挑戦権まであと3人ってところまでいけたし?」
いつか子供や友達に「今週は神戸新聞杯? あ~あれ走ったんだよねぇ」なんて言ってさ。
勝てなかったんだけれどねとオチつけてさ。
「…………てかあと1勝はしないといけないんよね、しんど~」
これでおしまい! って出来ないのが、なんとも世知辛いですなあ……。
そうして、あっという間にやってきました聖蹄祭!
「わぁ~お、出店がいっぱいだぁー!」
いやぁ、いいですねえお祭り。お祭りですよ。
普段は何もない中庭エリアが屋台で埋め尽くされて、学園内にはお客さんで溢れてて!
「あっちでリギルが執事喫茶やってるんだって!」
「そマ!? 夢女子工場かぁ~?」
おぉう。執事喫茶とな?
やっぱりG1ウマ娘を溜め込みまくってる名門チームは違いますなぁ……。
「『ばんえいゾリを曳いてみよう!』10時の回まもなく締め切りでーす。あと3人でーす!」
「あっちの方でライブやりまぁ~す! みんなー、みにきてね☆」
「アストンマーチャンをよろしくお願いします」
「ハスカップ食べてみませんか?」
「いやぁなんか。やっぱトレセンって凄いところだね」
「今さらすぎなくない?」
「だねえ」
私の呟きに、ハートちゃんとロンが同意。
クラスの出し物? 一応シフトくらいはやりますけれど……。
「にしてもハートちゃん、うちのクラス良くまとめられたねぇ」
「あーまーね。いろいろ意見出たけれど、みんな最後には協力してくれたから」
それにしても意外なのは、ハートちゃんが聖蹄祭の実行委員に入ってたってことだよね。
〈クエーサー〉に入ってから、ずっと真面目に練習してたのに。
「あっ、二人ともアレみて!」
そんなハートちゃんが指さすのは、賑やかな屋台のひとつ。
「およ? 『にんじんクレープ』?」
名前はおいしそうだけれど、甘さの方向性が違わない?
「大丈夫じゃない? 見た感じホンモノのにんじんじゃなさそうだし」
「砂糖細工って感じかねぇ」
「ほーん。んじゃ、いっちょ味見してやりますかぁ!」
「ミラ子ミラ子、カロリーカロリー」
うぇえいいじゃんロンてば、そんな現実的なこと言わないでよ!
ここ2週間、神戸新聞杯向けの調整で余計なもの一切食べてないんだからさ!
「そんなことしてるとオープン遠のくぞぉ~?」
「ぬぬぬ~~~今日はチートデー!」
「毎日がチートデーでしょ」
「ひどい! そんなことないもん!」
ロンとやいやい言い合っていると、ハートちゃんが一言。
「じゃあ3つ買ってくるわね。ロンも食べるよね?」
「まぁ、そうねぇ。よろしくぅー」
……あれ?
さっさかと屋台に向かっていくハートちゃんを尻目に、私はロンへ耳打ち。
「ハートちゃん、今日どうしたの?」
「どうって?」
「いやなんか、今日……てか最近変じゃない?」
「あー……」
ロンは少しだけ迷ってから、隠しても仕方ないかと肩を竦める。
「辞めるんだよ、ハートちゃん」
「え?」
「だから、退学するの。トレセン学園を」
「あー……聞いちゃった?」
「うん。まぁ」
学園のエントランスホール。
今日はお客さん向けにたくさん机が並べられてフードコートみたいになっている場所で、にんじんクレープを頬張りながらハートちゃんが言う。
「じゃあ、まずはごめん。黙ってて」
「あいや、別に怒ってるとかじゃ」
「ミラ子にはさ、集中して欲しくて」
ほら、神戸新聞杯に向けて、頑張ってたからさと。
どうやら、退学が決まったのはつい最近のことらしい。
「ほら、もう去年の夏以来勝ててないじゃん?」
ハートちゃんはつらつらと説明していく。
メイクデビューで勝って以来、勝てていないこと。実家からは勝つことを求められていること。努力はしていたこと。それでも勝てなかったこと。
「だから、地方に移って、とりあえずもう1勝してほしいって」
そうして中央を、日本ウマ娘トレーニングセンター学園を辞めることになった。
……辞める、てのは言いすぎかな。
たぶん転校とか、移籍とか。そういう言葉が相応しいのだろうけれど。
「トレーナーさんには?」
「もちろん伝えてる。転校先に紹介状も書いてくれるって」
ああ、じゃあ本当の話なんだ。
ハートちゃんがやめるって実感が急に追いついてきて、頭がクラクラする。
「……そっ、か」
あ、やば。
なんか言わなきゃいけないのに。
言葉がみつかんないよ。
「でさ。実行委員やろうって思ったのもそこから」
「うん」
「中等部はなんとなく過ごしちゃったしさ。高等部もレース漬けだったからさ」
「うん」
「メイクデビュー1着って以外に、もう少しなにか欲しくて」
「うん」
「それで、そういえば学園生らしいこと、してないなぁって」
「うん」
ハートちゃんの実行委員会がどんな活動だったのかは分からない。
活動を始めたのは夏休みが終わってからだろうし。
クラスの半分以上がレース関係で離脱してる状態で、どこまで企画できたのかも分からない。
わかんないよ、そんなこと。
「ミラ子、ホントにありがとう」
にんじんクレープの味なんてもう分からない。
ただ飲み込んだ唾の苦さだけが、歯の裏っかわにこびりく。
「あんたが〈クエーサー〉に誘ってくれたからさ、1勝できたよ。わたし」
――――ああ、だめ。
ちがう、ちがうよこんなんじゃ。
でも、でも。
じゃあ私に何が言えるの?
別にハートちゃんと、ハートリーレターと同じレースに出たこともない。
ただ名義貸しチームに誘って、一緒にトレーニングして、レースに勝ったら喜んで、負けたら残念て言い合って。
……それなのに、私たち。
いつの間にか、全然違うところにいた。
……――――
「やだ」
「ミラ子?」
ちがう、ちがうちがう!
わたしが言いたいのは!
「
「なら! わたしが――――!」
走って。
走って。
走って。
「――――――――トレーナーさん」
チーム〈クエーサー〉のチーム部屋。
振り返ったトレーナーさんは、ため息。
「ヒシミラクル学生。やけくそで勝てるほどG1は甘くないぞ」
「んなこと分かってます!」
でも。でも。
これしかないじゃん!
だって普通の私には、走りしかないじゃん!
「なにをすれば勝てますか」
なにをすれば、ハートちゃんの同級生をG1ウマ娘にできますか?
「ヒシミラクル学生」
「ああもうっ、分かってるんですよ!」
こんなの子供の
「でも悔しいんですよ、なんも出来なくて、悲しむのだってハートちゃんを傷つける!」
だったら!
わたしは!
どうすれば!
それからすこし経って。
トレーナーさんも居なくなっていて。
これ見よがしに置いてあるのは――――URAの
クラシック登録と、菊花賞への出走申し込み。
「ああもう、ほんと……ほんとうにあのヒト……!」
そこに貼り付けられた付箋紙には、トレーナーさんの直筆。