小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第32R 優勝おめでとう!

 

 

「「「かんぱ~い!」」」

 

 

 アツアツの鉄板の上、カチャンとぶつかる3つのグラス。

 

「ミラ子! あらためて菊花賞、ほんっとにおめでとう!」

「うふふ、ありがとねぇ」

「まさか勝てるなんて思わなかった!」

「いやぁ~それほどでも……展開が向いたってヤツ~?」

「プロっぽい発言だねぇ」

 

 当日もさんざん泣いてたのにまた泣き出しそうな調子のハートちゃんに、いつもと変わらないおっとりマイペースなロン。

 といっても伝え合う言葉なんてほとんど出尽くしちゃってるワケで、あっという間に鉄板から聞こえてくるジュワジュワという音だけに。

 

「あそーだ。言い忘れてたけれど今日は私の奢りね!」

 

 まあ? これでもG1ウマ娘になったわけですし?

 度量の深さってヤツをね、みせないといけませんってワケね。

 

「「……」」

 

 ところが2人は顔を見合わせると、それから小さく吹き出す。

 

「えっ、えっ? 私そんなに変なこといった?」

「いやっ、ふふっ。ミラ子さぁ……」

「ホントホント、そーいうのは回らない寿司屋とかで言ってよ!」

「ええー! 2人ともそういうこと言っちゃうの~?」

 

 いちおう目の前で焼かれてるの、全部盛りのデラックスお好み焼きなんですけど?

 1枚頼んだだけで私の1月分のお小遣いが吹っ飛ぶのに!

 

 むぅ~っとしてみせる私に、応じるように2人が笑って。

 私もいっぱい笑って。

 

「あはは、あーあ……おわっちゃうね」

 

 だからその言葉は、スルッと出た。

 

「うん。終わっちゃうね」

「だねぇ」

 

 私たちが、3人でワイワイやっていたあの頃は。

 もう「あの頃」って呼ばないといけないくらいに過去の話。

 

「ミラ子、頑張ってね」

「うん。ハートちゃんも頑張って」

 

 私たちの道はバラバラになる。

 でも私たちが一緒に走っていたあの日々は、なくならない。

 

 きっと……ううん、ぜったい。

 いつまでも、輝いているんだ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

小賢しミラ子の借り物競走

 

〈完〉

 

 


 

 

 

 ってなったら良かったのですけれど。

 まあ現実はそんな上手くいくはずもなく……。

 

 

「はーあぁ、宿題めんどぉ~」

 

 今日も今日とてお勉強。

 え、なんで勉強かって?

 

「そりゃあもちろん、オープンウマ娘になったからに決まってるじゃあないですか!」

「誰に向かって説明してるんですか?」

 

 ちょいちょい、クロノちゃんてば野暮だなぁ~。

 

「そんなの、未来の私に向けてに決まってるじゃん?」

 

 そう。3勝クラスの状態でレースに勝利した私はついにオープン昇格!

 これで目標だった「オープンウマ娘になる!」を達成したのです!!!

 

 

☆目標達成☆

「オープンクラスに昇格」

Congratulations!

 

 

「でもねぇ、オープンウマ娘になるだけだと帝農工には合格できないんですよ!」

「確かに……スポーツ推薦枠で進学した生徒が勉強面で苦労するというのはよく聞く話ですものね」

「でしょでしょ?」

 

 だからこっからは勉強ガチ勢!

 

「見てるか~未来の私~? レース直後から勉強している私を見習え~?」

「……でもミラクルさん。私が見る限りは手が動いていないような……」

「んー。これ見終わったらやるからさ」

 

 トレーニングだってウォーミングアップから気合い入れろって言うじゃん?

 

 

ガララララッ!

 

 

「ミラクル! トレーニングにいくわよ!!」

 

 およ。その声はアイちゃん。

 

「ってあら? ミラクルは?」

 

 ふっふっふ……見つけられるなら見つけてみなさい!

 

「そこです。ソファの裏」

「クロノちゃん!?」

 

 なんで言っちゃうのさ!

 

「ミラクル!!!」

 

 ギュン! とアイちゃんがソファから身を乗り出してくる。

 ギラギラお目々が影に光っててホラー風味!

 

「……な、なんでしょうか?」

「トレーニングにいくわよ!」

「えいや、私は菊花賞明けで休養中なんで…………」

「そうなのね!」

 

 ヒュン! と引っ込むアイちゃん。

 ふう、九死に一生を得た……。

 

「次のレースは!!??」

 

 と思ったらギュン!!!

 

「えぇーと……」

「ジャパンカップなんてどうかしら!」

「来月のG1じゃん! なんで!?」

「そんなの決まっているわ!」

 

 それからアイちゃんは決めポーズの髪をかき上げる動作……をするためにソファの向こうに身体を引っ込めてしまう。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

「あっこれ私が起き上がらないと始まんないヤツ?」

 

 仕方がないので私が秘密の空間(ソファと壁の間に生まれたいい感じのスペース)から起き上がると、アイちゃんは髪の毛をファサ……とかき上げた。

 

「私がジャパンカップにでるからよ!」

「うん知ってた」

 

 ではおやすみなさーい。

 

「ミラクル!!!」

「んもー。今年のジャパンカップは流石に無理だよぉ~」

 

 調整もなんもしてないんだからさぁ。無理無理。

 ていうかもう今年は休ませて~って感じなんだけど。

 

「ですけれどミラクルさん。菊花賞に勝ったウマ娘は同年の〈有マ記念〉に出走する場合が多いですよ?」

「えそうなん?」

「はい」

 

 菊花賞と同じ長距離戦なのと、ダービーからの宝塚記念と比較して調整期間がありますからねとクロノちゃん。

 

「うーん。まあ仮にそうだとしても、今週いっぱいは保留にしたいかな」

 

 どのみち、トレーナーさんから「次の目標は?」って聞かれるだろうし。

 

「そのタイミングにでも考えるってことで、とりあえず今日は休ませて~」

「分かったわ!」

 

 それじゃあねミラクルと言い残して、アイちゃんは更衣室へと向かっていく。

 

「そういやクロノちゃんはトレーニング行かないの?」

「あ、今日はトレーナーさんに座学を申し込んでいるんです」

「え追加オプションの(お金払うヤツ)?」

 

 はいと頷くクロノちゃん。

 

「菊花賞で、私に足りないモノがいっぱいあるって分かりましたから」

「そうなの?」

 

 クロノちゃん、ジュニア級のウマ娘としては完成してると思うんだけれど……?

 

「いいえ。歴史に蹄跡を残すウマ娘になるためには、まだ『ファクター』が足りないと分かったんです!」

「ファクター?」

 

 オウム返しになっちゃう私に、そうですファクターですとクロノちゃん。

 

「勝利を生み出す『最後の一欠片(ピース)』……歴史をつくるウマ娘は、皆さんそれを持っているのではないかと思うんです」

「なにそれ。聞いたことないけど」

「ええ! なにせ私がいま、新しく考えましたから!」

 

 胸を張るクロノちゃん。

 新概念だったかぁ~。

 

「私はこれを予想(メソッド)に組み込むことで、さらなる高みを目指すつもりです」

 

 うんうん。向上心があっていいね。

 

「でも予想に組み込んだところでその一欠片(ファクター)は手に入らないよね? どうするの?」

「うっ、そうなんですよね……」

 

 そう。なにせクロノちゃんの目的は自分の名前(クロノジェネシス)を歴史に名を刻むこと。

 つまりクロノちゃんは自分でそのファクターをゲットして、勝利を掴まないといけない。

 

 単にレースに勝てばいいってワケじゃない。

 

「……と、とにかく! わかりませんがファクターを見つけるんです!」

 

 そのためには出来ることを全部やってみよう! ってことね。

 いやあスゴいね。やっぱりクロノちゃんはスゴいよ。

 

「というわけで私は座学が始まるまでここで予想をしますので……」

「あやっぱり予想も『出来ること』の中に入ってるんだ」

 

 私はトゥインクル挑戦始めてからマンガとか読む回数減っちゃったけれど、やっぱりクロノちゃんはレースのことが大好きなんだなぁ。

 いっぽうの私といえば、菊花賞が終わったからってダラダラダラ……。

 

 ……なんかこのまま一生ダラダラしてそうだよね、私。

 …………いやまあ、最低限の成績さえ保ってれば推薦獲れるだろうし、別にそれでもいいのかなー、なんて。

 

「ヒシミラクル学生?」

 

 と、トレーナーさんの声。

 私は改めてむくりと起き上がる。

 

「はいはーい。なんでしょ」

「…………なぜそこにいる」

 

 えっ? ああソファの裏から起き上がったこと?

 

「いやぁすみっこぐらしにはちょうど良いというか?」

 

 ほら、今って暑くもなくギリギリ寒くもないいい感じの時期じゃないですかと言えば、よく分からなさそうな顔をするトレーナーさん。

 

「まあいい。今日は渡すモノがある」

「あ~……次の目標シート、ですよね?」

 

 ご存じの通り、私ヒシミラクルはオープンウマ娘。

 そして名義貸しチーム〈クエーサー〉で立てた目標が「オープンウマ娘になること」なので、次の目標を決めないといけないんですよねぇ~……。

 

「いや。ファンレターだ」

「へえファンレター……ファンレター!?」

 

 びっくりして跳ね上がった尻尾が壁にゴチン、痛ぁ!

 

「ふぁ、ファンレターてあれですよね? ファンからのレター!?」

「そうだな」

「私ってファンいるんですか!?」

「そりゃ、菊花賞で2桁人気とはいえ10人気だからな。それなりにはいるだろう」

「オッズも思ったほど伸びませんでしたもんね」

「クロノジェネシス学生。ワイドで万券いってるのは普通に伸びてるから変なこと言わないようにな」

「ちょいちょい! 話そらさんといて!」

 

 今は私のファンがいるって話でしょ!

 

「え、本当に? 本当にいるんですか私のファン!」

「そうだぞ。ほら」

 

 そう言いながらトレーナーさんがいくつかの封筒を取り出す。

 

 えーとその数、ひいふうみい。

 あっ、思ったほど多くない……。

 

「……まあ、そんなもんですよねぇ……分かってましたよええ…………」

「それで? 読むか?」

「そりゃ読みますけれど」

「どうぞ」

 

 トレーナーさんから手渡された封筒には「ひしみらくるへ」と書かれた文字。

 〈クエーサー〉の私書箱になってる宛先は筆跡が違うからご両親に書いてもらったのかな。

 もうそれだけで、中身を見なくてもあったかい気持ちが伝わってきて。

 

 私は封筒を胸に抱えて、それから口元を押さえる。

 

「ヒシミラクル学生?」

 

 強く唇を噛み込んで、口を真一文字に結んで……。

 いや! 無理無理ガマンできるわけないって!

 

「……ウソならウソって、今いってくれます?」

「流石にこんな金のかかるドッキリはやらないよ」

「あちょっとごめんなさい。ホント顔見ないで貰っていいですか?」

 

 うずくまって、みんなから見られないように顔を隠して。

 あ~~~やば。私いま、メチャクチャ気持ち悪い顔してる!

 

 ああ、でも。ほんと良かったなぁ。

 走って。走ってみてよかった。

 

 深呼吸して。私は立ち上がってトレーナーさんをまっすぐ見る。

 

「トレーナーさん」

 

 それから、腰を折り曲げてお辞儀。

 トレーナーさんの顔が見えないくらい、しっかり折り曲げる。

 

「走らせてくれて、ありがとうございました」

 

 本当に、本当にみんなのおかげだ。

 ハートちゃんにロン、クロノちゃんにアイちゃん、ブーケさん。

 そして私に名義を貸してくれたトレーナーさんのお陰で、今の私がある。

 

「全てきみの決断だ。よくやったな、ヒシミラクル学生」

「はい!」

「ちなみにお祝いの花も届いてるんだが……」

「えっまだあるんですか」

「うん。花はトレーナー宛てに届くことが多いんだが、受け取るか?」

「もちろんですよ!」

 

 もらえるものはもらっておかないとね!

 

「だそうだ、ブーケ!」

「はぁ~い♪」

 

 なんだかご機嫌そうなブーケさんの声がトレーナーさんに応じると、扉の向こうから大きなお花が現れる。

 ……うん? 大きなお花?

 

「わあ! 立派なお花ですね!」

 

 楽しそうに声をあげるクロノちゃん。

 いやあの、デカくないですか……?

 

ドンッ

 

「これが本当の花束(ブーケドール)ですっ♪」

「いやデカすぎ!?」

 

 ていうか花束の土台にガッツリ封筒差し込まれてるし!

 さっきのトレーナーさんが持ってきてくれた封筒よりもずっと数多いし!

 

「……えっこれは、ワンモワサプライズってヤツですか……?」

「実況映えしそうな競走名ですね」

「クロノちゃん茶化さないで」

 

 いやこのサイズは……流石にもらってもどうしようもないというか……。

 

「さて。ヒシミラクル学生」

「はい?」

「なにか弁明はあるかな?」

「はい?」

 

 えっ何に対する???

 あれトレーナーさんなんか無表情なんだけれどなに?

 

「えっ、えっ……?」

 

 トレーナーさんは花束を指さす。

 

 そこには…………。

 

 


ヒシミラクル選手へ

 

菊花賞優勝おめでとう!

11億円ちゃんファン一同より


 

 

「は…………?」

「ヒシミラクル学生」

 

 トレーナーさんの冷たーい声。

 手元にはスマホ。画面には見知ったウマチューブチャンネル。

 

「まずは事実を確認させてくれ。きみがこの『生涯収支ぷらす11億円チャンネル』を運営しているのは本当か?」

「いえ違いますけれど」

「……」

「…………」

「………………」

 

 えっ。これどういうこと?

 

「あのー……」

「ああ。怖がらなくていいぞヒシミラクル学生。俺はきみがこれを運営していないことを知っている」

「あそうなんですね?」

「だってきみ、こんなにレースの予想正確に立てられないでしょ」

「いやヒド!!???」

 

 ヒドくないですかそれはいくらなんでも!

 

「まあ、恐らく誰かが勘違いしたんだろう。ヒシミラクル学生がウマチューバーだと」

「いやなんで!? てか私もフツーに見てるチャンネルなんですけれどそれ!」

「うん。俺も軽く見たけれど、ヒシミラクル学生とは思えないほどレースへの愛と蘊蓄に溢れていたな」

「うっそれは分かります。ものすごい知識量ですよねこの人」

 

 私とトレーナーさんが言葉を交わすのを横に、ブーケさんがニッコリしながら言葉を紡ぐ。

 

「でも、そうしたらどうしてこんな勘違いが生まれてしまったのでしょうか……?」

「うーん。俺も調べてみたんだが……」

 

 そう言いながらトレーナーさんは端末を操作。現れるのはとある掲示板サイト。

 

「ここのスレで『11億円=ヒシミラクル説』なるものが流布されていてな」

「11億円=ヒシミラクル説……?」

 

 横から覗き込む私とブーケさん。

 ほーん。うーん……。

 

「なんかこのスレ、話が飛躍してません?」

「掲示板なんてそんなもんだよ」

「どうやら『11億円』さんは、レース予想が得意で、恐らく現役の競走ウマ娘で、チーム〈クエーサー〉の関係者なんですね?」

 

 掲示板の書き込みをざっと見たブーケさんに、トレーナーさんは頷く。

 

「うん。それでどうも『11億円』の活動開始時期がヒシミラクル学生の活動開始時期に近いらしくて、11億円はヒシミラクルなんじゃないかという噂が広まっているらしい」

「いやそれはもう風評被害を通り越した何かじゃないですか!」

 

 んもー!

 

「とりあえず誤解は解かないとなぁ……ちょっと考えるから、いったん何もしないでいてくれるか?」

「あー、まあネットって下手に動くとすぐ燃えますもんねぇ~」

 

 とりあえずそういうことで話がまとまって。

 あーあ、にしてもネットでそんなことになってるなんて知らなかったよ。

 

「やっぱりG1ウマ娘ってのは大変だ……ねぇクロノちゃん」

 

 っていない?

 チーム部屋を見回すと、そそくさと扉へ向かうクロノちゃん。

 

「あれ? クロノちゃん、このあとトレーナーさんと座学なんじゃ」

「あっ……えーと。用事を思い出したので失礼しますね……」

 

 レース予想が得意な芦毛のウマ娘がチーム部屋を後にする。

 私と同じ時期に〈クエーサー〉に仮入部したウマ娘が尻尾を巻いて後にする。

 

「「……」」

 

 思わず顔を見合わせる私とブーケさん。

 トレーナーさんは一言。

 

 

「ブーケ、いけるか(捕まえられるな)?」

「もちろん♪」

 

 

 う、うわぁ。

 なんか大変なことになっちゃったぞ???

 

レース描写

  • もっとレース展開がわかると嬉しい
  • もっと他の出走ウマ娘視点が欲しい
  • もっとチームメイトの視点が欲しい
  • もっと一般通過ファン視点が欲しい
  • 俺たちは賭場に来たんだ!オッズ!
  • 脳内再生するから実況全文寄越せ。
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