小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第34R トレセン!ファイヤー!

 

 

「ラヴズさん、ちょっといいでしょうか?」

 

 栗東寮。

 トレセン学園に併設されている学生寮の片方。

 

「あら? どうしたのクロノちゃん。そっちは……」

「ヒシミラクルでーす。どもども」

 

 そこからひょこっと顔を出したのはラヴズオンリーユーさん。

 クロノちゃんの同室で、デビューも同じ年の同期。

 あとネットに詳しいらしい。ここが今日のポイント。

 

「いやあ急でごめんね? 実は、ちょーっとラヴズちゃんの知恵を借りたくて!」

「そうなの? 私に手伝えることがあればいいのだけれど……」

 

 初対面でいきなりお願い事ってちょっと気が引けるよね。

 でもまあ、ネットは最初が肝心って聞いたことあるし、これはなるべく早くに動いていかないとって思うからさ。

 

 

「ネットで炎上する方法、教えてくれない?」

「…………はい?」

 

 

 うん。

 まあ、そうなるよね。

 

「えっと、とりあえず順を追って説明すると……」

「あ、ううん。いいわ、事情は概ね理解できたから」

「本当?」

 

 いや~話が早くて助かるよ~。

 と、おや? ラヴズちゃんの視線がこっちを見ていない。

 

「ねえ、クロノちゃん?」

「はい」

 

 あっクロノちゃんの目がまた死んでる。

 あー……これはアレだな? 同室のラヴズちゃんは知ってるな?

 

 

 


 

 

 

「うわあ、本当にUMAの被り物だ……」

 

 愛英チェスター・レース場で目撃されたという伝説のUMA(未確認生物)をモデルにした被り物。

 ……いや、11億円チャンネルでよく見てはいたけれど、まさかこれを私が被ることになるなんて思いもしなかったなぁ……。

 

「思ったよりぶよぶよしてるね」

「シリコン製なんです。洗いやすくて便利ですよ」

「へぇ~」

 

 まあずっと使ってると汚れるもんね。

 

 それじゃあこれを被ってっと……。

 

「おぉ~なんも見えない」

「マズルの先端……えーと鼻の穴から見るんです」

「あっこうかぁ」

 

 じゃあ前を見ると結構UMAが上を向いてる感じになる?

 ああでも、このUMA草食動物あるあるな目が頭の側面についている感じだから、別に上を向くとかは関係ないのかな。

 

「うん。おっけー、あーあーあーテステス」

 

 聞こえる? と方向転換してラヴズちゃんのいる方へ向ける。

 穴の向こうのラヴズちゃんは片手で半分のハートマークを作った。

 

「バッチリ! 聞こえてるわよ」

「おっけー。んじゃ始めますかぁ~」

「その前にミラクルさん。もう一度確認させてね?」

 

 うん? なんでしょう?

 

「正直ね。ミラクルさんがリスクを冒す必要はないと思うの」

「あー……」

 

 いや正論、正論ですよ奥さんそれは。

 

「でもさー。現実にコレが届いちゃってるしさぁ」

 

 そう言いながら私が指さすのは(見えてないけれど)テーブルの上に置かれた花束。

 もちろんそこには「優勝おめでとう!」の文字が添えてある。

 

「これさ。本当ならクロノちゃんが受け取るべき気持ちじゃん」

 

 確かに、文面としてはヒシミラクルを祝っていてくれている。

 けれどそれは、あくまで11億円チャンネルを私が運営してるって誤解に基づくもので。

 

「やっぱ、私が受け取るべき気持ちじゃないんよ」

 

 あと、クロノちゃんにこんなこと程度でレース予想(すきなこと)やめて欲しくない。才能もあるんだからさ、もったいない。

 

「これは、クロノちゃんが受け取るべき日が来たときに、ちゃんとクロノちゃんへと届いて欲しくて」

 

 もちろん、返品ってのは難しいだろうし、お花も枯れちゃうだろうけれど。

 それでも、宛先が間違ってますよっていうのは教えてあげたい。

 

「……ってことだけれど、クロノちゃんは顔出しする気、あるのかしら?」

「いえ、顔出しは……さすがにその、どうかなと」

「意気地ナシ」

「ぐっ……!?」

 

 ラヴズちゃん。同期同室らしい直球エグコメント。

 こんなの一発K.O.だよ!

 

「ミラクルさんがファンのラヴを正しい場所に届けてあげようって言ってるのに、あなたはそれを受け取らないの?」

「いえあの、私は、えっと……」

「あとね。2人とも気付いてないかもだけれど」

 

 そこで言葉を止めるラヴズちゃん。

 

「ちょっとミラクルさん。被り物とってもらっても?」

「あ、はいはい」

 

 がぽっ、と。

 うひょー涼しい。

 短時間しか被ってなくても結構ムレるね~これ。

 

「この掲示板のコメント、2人ともちゃんと読んだのかしら?」

「え? そりゃ読みましたけど」

 

 なんかずっと11億円さんがヒシミラクルだって前提で話が進んでるよね。

 ちょっとしたホラーだよコレ。

 

「はぁ~~~~~~」

 

 ところがラヴズちゃん。ながーいため息。

 

「いい? もっとよく見て?」

「ええ……?」

 

 


 

30:名無しの軸流士

 

⑪がヒシミラクルかはともかく、ヒシミラクルが頑張ってるのはマジ

 

 

894:名無しの軸流士

 

うおー我らがミラクル!奇跡を起こした!

 

 

895:名無しの軸流士

 

すげーやべえ!めっちゃ嬉しい、自分事みたい!

 

 

899:名無しの軸流士

 

前走あんなにパッとしなかったのに、本当にミラクル起こすじゃん

 


 

 

「いい? みんなは11億円さんだけじゃなくて『ヒシミラクル』も応援してるの」

 

 だから、あなたもちゃんと声に応えなきゃダメなのだと。

 配信者にしてオンライン・コミュニティの運営者でもあるラヴズオンリーユーちゃんは言う。

 

「確かに、入り口は11億円さんと勘違いしたからかもしれない。けれどヒシミラクルさんのレースをみて、応援したくなって、声援を、ラヴを送ってくれたヒトがいることは確かなの」

「まぁ~、それはそうかもですけれど」

 

 テーブルの上に置かれた花束をチラリ。

 ……何度みてもデッカいよねコレ。

 

「デッカい(ラヴ)、だなぁ……」

 

 私、そんなのを送られるようなウマ娘じゃないんだけれどな。

 

「いいえ。だってあなたは、G1ウマ娘だもの」

「あはは……そりゃどーも」

 

 まあ、本当に実感はないんだけれどね。

 

 もちろん勝つには勝ったけれど。

 クリスエスちゃんギムレットちゃんが来なかったこと。

 当日の一番人気だったノーリーズンちゃんがズッコケて競走中止になったこと。

 

 そういう色んな要因があってのマグレ勝ちだと思うし。

 

「それにね。G1ウマ娘じゃなくたって……ラヴは、思いもよらないところで見守っていてくれているの」

「……」

 

 まあ、確かに。そうだよね。

 応援してくれたヒト、喜んでくれたヒト。

 そのヒトたちのために、胸は張らなきゃダメか。

 

「うーん。ラヴズさん、配信(これ)ってサムネを設定できますよね?」

「もちろん。配信後にも設定できるわよ」

「えっと、固定のサムネにしたくて。その写真をとってもらえます?」

 

 それから、私はテーブルにおいてある花束を抱える。

 ホントにデッカいので、バランスを崩さないように上手い具合に抱えて……。

 

「こんな感じの、サムネにしたらいいんじゃないですか?」

「いいわね! 喜んでる感じが伝わると思うわ♡」

 

 それじゃあとスマホを向けるラヴズちゃん、待って待ってと私は止める。

 

「着替えてくるから、勝負服に!」

「えっ?」

 

 応えるんなら、全力で応えなきゃ!

 

 

 

 


 

501:名無しの軸流士

 

保守

 

 

502:名無しの軸流士

 

 

 

503:名無しの軸流士

 

 

 

504:名無しの軸流士

 

 

 

505:名無しの軸流士

 

おは保守

 

 

506:名無しの軸流士

 

httu.mmm.umatube.com/@race_de_plus110171

 

 

507:名無しの軸流士

 

は?

 

 

508:名無しの軸流士

 

おいおい

 

 

509:名無しの軸流士

 

えええええ!?

 

 

510:名無しの軸流士

 

貼りに来たら既に貼られてて芝

 

 

511:名無しの軸流士

 

サムネヒシミラクル!?

 

 

512:名無しの軸流士

 

⑪降臨キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

 

513:名無しの軸流士

 

⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪

 

 

514:名無しの軸流士

 

えまじで⑪ヒシミラクルなん?!

 

 

515:名無しの軸流士

 

やはりな

 

 

516:名無しの軸流士

 

⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪

 

 

517:名無しの軸流士

 

スレ急に加速してウケる

 

 

518:名無しの軸流士

 

そりゃそうだ!祭りじゃ!

 

 

519:名無しの軸流士

 

お礼参りじゃ!!!

 

 

520:名無しの軸流士

 

知ってた

 

 

521:名無しの軸流士

 

うそだろお前

 

 

522:名無しの軸流士

 

⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪

 

 

523:名無しの軸流士

 

enani

 

 

524:名無しの軸流士

 

いやタイトル草

【緊急配信】11億円の正体を発表するよ!

>>httu.mmm.umatube.com/live?v=kjhghfds2oeri

 

 

525:名無しの軸流士

 

発表するよ!

(サムネにクソでか花束を抱えた勝負服ヒシミラクル)

 

 

526:名無しの軸流士

 

これ某住所を公開するよ!のパクリ……

 

 

527:名無しの軸流士

 

ヒシミラクルまじで⑪だったのか

 

 

528:名無しの軸流士

 

「身元を特定されました助けてください」に続くんでしょ(適当

 

 

529:名無しの軸流士

 

サムネでバラしてるんだよなぁ・・・

 

 

530:名無しの軸流士

 

のりこめー

 


 

 

 

 がぽりとUMAの被り物を被る私。

 

「ラヴズちゃん。いけるよ」

「ええ、それじゃあ始めましょうか」

「クロノちゃん」

 

 ほとんど見えない視界で、UMA鼻の穴からみえるのはクロノちゃんだけ。

 

「……はい。はじめましょう」

「よしっ」

「じゃあカウントするわよ? 5、4、3……」

 

 すっと深呼吸。

 ゲートが開く前みたい。

 

 

「みんな、見えてますかぁ~?」

 

 

みえてる

バッチリ!

師匠おつかれさまです!

菊花賞おめでとう!

88888

めでたい

勝負服かわいい

やったね!

単勝おさえてたよ!

 

 おお~、コメントってこんなにすぐ来るもんなんだ。すご。

 てかコメント読み上げソフト便利だね。科学のちからだね~。

 

「いや~、今日は急な配信でゴメンね!」

 

いえいえ

いつでも全裸待機してます

天秋予想の補足?

 

「あー……予想ね、ええと。最初にみんなに伝えないといけないことがありまして……」

 

 さーて。覚悟をきめろーヒシミラクル。

 リアルタイムに反応を見極めるために配信にしてるんだから。

 

「まず、こちら!」

 

 そうして私はくるっと回転。

 見えないけれどカメラをもったラヴズちゃんが私を中心にぐるりと移動。

 

 これでうまーい具合に背景に映り込むはず。

 

あ!

クソでか花束!

サムネのですね

でかすぎんだろ・・

 

 よしよし。おっけーだね。

 じゃあまずは感謝の言葉を……。

 

「みんなからの花束、届きました! ありがとうございます!」

 

 ちなみにこれ突発配信の理由ですと言って、コメントにいくつか返事をして。

 ……うん。よし、これなら大丈夫かな?

 ラヴズちゃんを見るように顔を動かせば、カンペに「GO!」の文字。

 

「じゃあ、それでは……今日の重大発表をします」

 

はい

はい

どうぞ

⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪⑪

ついに…

 

 

 そして私は、がぽっと被り物を脱ぐ!

 

 

「私は、ヒシミラクルです!」

 

 

 そしてそれを画面外に待機しているクロノちゃんにパス!

 

おおお!

師匠の真名解放

11億円ちゃん!

ついに!

 

 

「ですが! 私は11億円ではありません!」

 

 

はい?

ええ?

どゆこと?

11億円事件!?

 

 

 

 


 

 

 

 ずっと、温かいものをもらってばかりだ。

 

 レースに、レース場に連れて行ってくれた両親に。

 

 部屋に大量の資料を持ち込んでも許してくれたラヴズさんに。

 

 一緒に予想を楽しんでくれて、便宜をはかってくれるトレーナーさんに。

 

 

 そして今日、わたしはまた貴女からもらってしまった。

 

 

「それじゃあ紹介します」

 

 でも、私はまだ「相応しい私」になれてないから。

 だから今日は――――まだ、仮面を被る。

 ボイスチェンジャーの電源をいれて、誰も知らない、私になる。

 

 いつか、本当の私――――クロノジェネシスになれる日まで。

 慣れ親しんだUMAの仮面を被って、前に出る。

 

 

「11億円さんです!」

 

 

8888

こっちがホンモノってこと!?

じゃあヒシミラクルじゃないんだ

そっかー

推しが増えた!

 

 

『ご機嫌麗しゅう。清廉なる軸流しを愛する諸君。11億円だ』

 

 顔が炎みたいに熱い。

 これは温かいものを貰ったからじゃなくて、恥ずかしいから。

 だってだって、ラヴズさんにミラクルさんの前でこれやるんだよ?

 でも、やらなきゃ……そうしなきゃ私は、仮初めの私にすらなれない!

 

ちっちゃい

かわいいー

ヒシミラクルと同じくらい?

156より下か

師匠ちっちゃかわいい!

 

『まずは諸君に謝罪を。そして我が同胞(はらから)であるヒシミラクルへの声援に感謝を』

 

とんでもない!

こっちこそゴメン

ちょっと先走っちゃったね・・・

でも⑪ぶれない流石っす

勘違いしてた、ごめん!

 

『そして諸君が気になっている吾輩の正体だが……』

 

ん?

おお

流れ変わったな

 

『……それは、今年。しかるべき舞台で明らかになるだろう』

 

なんと

つまり!?

G1ですか!

有マ記念!!!

 

『ふっ。覆面ウマ娘が有マ記念に出られるはずもあるまいて』

 

つまりほかのG1

まだデビューしてないんですか?

JC?

マイルCS?

中山大障害か

 

『諸君、時を待たれよ。必ずや』

 

 

特定した。クロノジェネシスさんですね?

 

 

『え』

 

 

 時が、とまった。

 

 

チーム〈クエーサー〉に

所属しているウマ娘で

芦毛のウマ娘って3人なんすよ

 

ヨイハルアグレッサ

ヒシミラクル

クロノジェネシス

 

んで、ミラクルさんはここにいて

アグレッサさんは身長170越えなんで

 

 

『…………』

 

 

「く、クロノちゃん……」

「ミラクルさーん? とどめ差さないであげて?」

 

 

 

 

 


 

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