小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

37 / 64
第36R 闇鍋ダンスレッスン!?

 

 

 

『勝ちに行かなくても構わない。まずはじっくり、鍛え上げていってくれればいい』

 

 

 日曜日の夜。栗東寮の談話室のテレビ画面には放送中のドラマが映っている。

 

 ただいま話題沸騰中のレースドラマ。栄達を極めた一族(ファミリー)の、その希望(ホープ)幸福(ハピネス)を背負ったウマ娘の物語。

 

 そして今はちょうど、そのウマ娘の相棒になるトレーナーの登場シーン。

 

 あ、ちなみに撮影場所はガッツリ学園(トレセン)内です。URAと学園が製作にガッツリ協力してるからね。学生エキストラとかも募集してたよ。

 

『じっくり? 俺、勝てるウマしか育成する気ないから――――』

 

 それにしても、なんかさ。

 普段使ってる場所がドラマの舞台になってるって、ちょっとくすぐったいよね。

 

 現実なのに現実じゃない、みたいな感じ。

 

 

『――――勝ちにいくっしょ、当然!』

 

 

「「きゃー! かっこいいー!」」

 

 画面の中で金髪のトレーナー(ちょっとチャラ過ぎない?)が堂々と言い放つ様子に、談話室の大型テレビ前で黄色い歓声をあげるウマ娘たち。

 今年入ったばかりの新入生かな。いいなー純粋(ピュア)で……。

 

「うちのトレーナーだったら『勝てなかろうが月謝を払ってくれたらいいぞ』だもんなぁ」

 

 でもさ。みんなは名義貸しチーム(そんなこと)知らないだろうからさ。

 きっとこういうイケメンモテモテトレーナーに「君なら勝てる」とか言われて乗せられちゃってさ。

 

 もちろん、それで勝てれば。

 みんなハッピーエンドなんだけれど。

 

「ミラ子先輩、ちょっとお疲れです?」

 

 にゅっとダンツちゃんの顔が視界の半分くらいに伸びてくる。

 

「うん? ……もしかして声もれてた?」

「ええ。ばっちり」

 

 うひゃー。やっちゃった。

 周りを見るけれど、みんな画面内の俳優が演じるイケメンモテモテトレーナーに夢中で聞いていた子はいなさそう。

 

「疲れてるっていうかさー……」

「有マ記念です?」

「おっさすがダンツちゃん。エスパーだねぇ」

「いえ。この時期にミラ子先輩が悩むコトっていったら、それくらいかと……」

「いやいや~。クリパやりたいな~、カロリー調整どうしよー、みたいな悩みかもよ?」

 

 と、ちょっと茶化してみたら余計に心配そうな顔になっちゃうダンツちゃん。

 あれま。うーん失敗か。

 まあ私が逆の立場だったら「この子ムリしてそう!」ってなるよねぇそりゃ。

 

「じゃあ、ちょい聞いてよ。この間さ……」

 

 

 


 

 

 

「えーと、いちおう専門家としての助言も聞きたいんですけれど」

 

 私がそういうと、トレーナーさんは少しだけ考える。

 

「……俺がみている限り、健康状態(コンディション)に問題はない。レース選択(ローテーション)の話をするのであれば、ステイヤーズSで確実に賞金を積み増す選択もある」

「あいえ、別に賞金とかはいいんで……」

 

 有マ記念に向けたファン投票の結果が発表されて。

 私、ヒシミラクルは出走圏内ということが分かって。

 

「いずれにせよ。ヒシミラクルが出走したいと思うかどうかの問題だぞ?」

「それは、まあ。そうなんですけれど」

 

 いやていうか。出るのは流れ的にそうなんだよねぇ~。

 

 アイちゃんは出て欲しがってるし。

 菊花賞ウマ娘はだいたい出るって話だし。

 

「菊花賞勝ったからって有マ勝てるもんなんですかね?」

「それを俺に聞かれても困る」

 

 いや困らんといて?

 トレーナーでしょ?

 

「といってもなぁ……今回はとにかくクラシック級が豊作すぎてなぁ」

 

 そう言いながらファン投票上位のウマ娘が書かれたプリントを見せるトレーナーさん。

 

「ファン投票の上位10位のうち、シニア級は1位のナリタトップロードに4位のジャングルポケット、5位のエアシャカール、8位のダンツフレームと9位のアグネスデジタル」

「……たくさん居るように見えますけれど」

 

 あとやっぱり私の名前は上位10位にはいないんだね。

 いや、分かってますよ? 分かってましたよ?

 

「上位10位はシニア級でほぼ独占してもおかしくないくらいなんだよ。なにせグランプリはファン投票だからな」

()()()()()()()()?」

「普通、長い間活動した方がファンが増えるだろ?」

「ああ~~~」

 

 そりゃそうだ。当たり前。

 そっか、だからトップロードちゃんが1位になるんだね。

 

「その通り。ナリタトップロード選手は怪我で戦線離脱することもなく走り続けていて、とにかくファンが多いからな」

「……で、そんな人気投票に私たち世代(クラシック)が半分も入ってくるのはスゴいことだってことですね」

 

 私の確認に、トレーナーさんは首肯。なるほどねぇ……。

 そしてちゃっかり10位に入っているアイちゃん。さすがとしか言えないね。

 

「正直、アーモンドアイは5位には入ると思ったんだけれどな」

「ジャパンカップも勝ったのに、上手くいかないもんなんですね」

 

 ジャパンカップの前にも話してたけれど、やっぱり海外G1を勝つってそんなにスゴいことじゃないのかな?

 

「これは微妙(センシティブ)な話になるが、やっぱりクラシックは国内で活躍して欲しい! ってファンは多いからなぁ……」

 

 ほら、3位にスティルインラブ選手が入っているだろう? とトレーナーさん。

 

「スティルインラブは今年のトリプル・ティアラを達成して、トゥインクル・シリーズを多いに盛り上げた。その盛り上げがそのままファン投票に反映されている」

「へー。今年ってティアラ路線スゴかったんですね」

「…………」

「あっ、なんですかその顔!」

「いや。他意はないが」

「他意しかないですよね? コイツG1戦線にも興味ないのか~って思いましたよね? いやそのとおりなんですけれども!」

 

 私だってオープンウマ娘になるために必死だったんですから!

 そう言うと、トレーナーさんはポンと手を打つ。

 

「そうだ。完全に忘れてたんだが、オープンウマ娘になったな」

「えっ忘れてたの!?」

「すまんすまん。最近フツーに忙しくてな」

「うわ『フツー』って何ですか。トレセンの普通はゼッタイ普通じゃありませんからね?」

 

 いやうん。聞かれないなーとは思ってたんよ。

 どうせ流れで有マは出るだろうし、その後で聞くのかなーとも思ってたら……まさか忘れているとは…………。

 

「じゃあ、目標達成したから次の目標決めて」

「ええと……有マで入着とかです?」

その心(目的)は?」

「う”」

 

 そうだ、目的も決めないとだった……。

 目的、目的ねぇ……。

 

「『アイちゃんに勝つ!』とかでどうでしょう?」

「それで入着か。アーモンドアイは着外間違いなしと」

「えっ! いや、そういう意味じゃ……」

「そういう意味だろそれは」

 

 もしくは目標未達成を回避するための予防線(いいわけ)かとトレーナーさん。

 いや、そんなつもりは……別に目標を達成しようがしまいが生活は続いていくし……。

 

「まあ。すぐには思いつかないだろうから、とりあえず考えておくようにな」

「はーい」

「ああ、別にダラダラ所属し続けてくれても構わないからな? 月謝くれるなら」

「サブスクじゃないんだからそんなことしませんよ!」

 

 …………うん?

 

 そういえばサブスク解約したっけ?

 なんか、はるか昔にサブスク解約しようみたいな話をした記憶がある*1けれど……あれどうなったんだっけ……?

 

「話もどすぞー」

「あっハイ。有マ記念に出るかどうかですよね」

 

 まあ、とりあえず出るよね。うん。

 

「でます」

「よし。じゃあ今日からウイニングライブの練習な」

「えっ今日からですか?」

 

 そりゃそうだろとトレーナーさん。

 

「有マ記念はとにかく入場者数が多くて、ライブ時間まで残る客が多い。この意味は分かるな?」

「たくさんのお客さんが、ライブを観る……」

 

 つまり割と真面目に練習しておかないといけないってワケかー……。

 

「アーモンドアイ学生もすでに向かってるから、とっとと行ってこい」

「はーい」

 

 

 


 

 

 

「あれ?」

 

 そこまで話したところで、ファン投票第9位のダンツちゃんが気付いた。

 

「それって最初の『NEXT FRONTIER』(グランプリ用ウイニングライブ)向けの合同レッスンの時ですよね?」

「うんそう。ダンツちゃんも居たよね」

「居ましたけど、あの時なにかあったんですか?」

 

 あー、いやね?

 

「なにもなかったよ?」

 

 ていうか、なにもなかったのが問題なんよ。

 

 

 


 

 

 

 という訳で、やってきましたライブレッスン。

 学園内にいくつかある練習用の部屋。巨大な鏡で動きがバッチリ分かるようになっているそこ。

 

「ミラクル! きたのね!」

「うん。きたよ~アイちゃん」

 

 とりあえず同じチームのアイちゃんと合流。

 ファン投票10位。こないだのジャパンカップをはじめ取ったG1タイトルたくさん。

 

 そして部屋を見回せば……おおう、すごいねこのメンツは……。

 

「あっ、ミラ子先輩!」

「やっほーダンツちゃん。今日はよろしくねぇ」

 

 おっ同室のダンツちゃんだ。

 有マ記念という言葉の重みにちょっと、まあまあ緊張していたけれど。やっぱりいつも顔合わせている相手がいると落ち着くねぇ~。

 

「おうおう! ミラ子よ来たな来たな!」

「あっノーリーズンちゃん。ども~」

 

 おっ今度はファン投票第7位! ノーリーズンちゃん。

 同じレースを走ったからか、なんか声をかけてくれるようになったんだよねぇ。

 

「あっ、ミラクルさん。ご機嫌よう♪」

「ファインちゃん! こないだ手伝ってもらった英作文、無事合格できたよ!」

「ほんとう? お役に立てて光栄です♪」

「いえいえ……いつもお世話になっておりますぅ~」

 

 ファン投票第6位! ファインモーションちゃん。

 なにげに私が初めてのサインをプレゼントした、愛英からやってきたお姫様!

 

「…………」

 

 あ、あそこでパソコンと睨み合ってるのはファン投票5位のエアシャカールさん。

 近寄るなオーラ全開なのでスルーしよっと……。

 

「……って、あぶっ!?」

 

 スルーすることに集中しすぎてぶつかっちゃった!

 

「あわわ、ごめんなさいごめんなさい!」

「あ"? てめえ何処みて……って、お?」

「ひゃい! ……あれ?」

 

 メッチャガン飛ばしてくる! ……と思ったら急に笑顔?

 

「お前。ヒシミラクルだよな! ヒシミラクル!」

「あっはい。ヒシミラクルですけれど」

「おーすげーモンホンだ! ダンツからやべーウマ娘がいるとは聞いてたんだけれどよぉ! はじめましてだな!!」

「えっと、ソウデスネ……」

 

 うわ。この子がジャングルポケットさんかぁ。

 ファン投票は4位。それで去年のダービーウマ娘。

 

「ところでよヒシミラクル。あの紅いアイツは知らねぇか?」

「へ?」

「アイツだよアイツ、スティルインラブってやつ」

「え、あー……」

 

 ファン投票3位。今年のトリプルティアラウマ娘。

 スティルインラブさんの姿は、ここにはいない。

 

「いや、知らないですね~……」

「そうか。付き合いもない感じか?」

「えっ、いやぁ……あ」

 

 そういえば、デビュー戦の時いっしょしたような*2

 そうだ。確か専属だとかいう変な雰囲気のトレーナーさんと一緒にいて……。

 

 

『ミラクルさん。見た目に惑わされてはいけません』

『えっクロノちゃん? どうしたの急に』

『彼女はスティルインラブ選手。アンダーグラウンドでは有名な『駆ケ狂イ』です』

『へぇ~』

『なんでも、京浜一帯の走り屋を全て()()()()しまったとか』

 

 

 ……たしか、ジャングルポケットさんて。

 東京の走り屋さんとも付き合いがあるとかってどっかの記事に書いてあったような……。

 

「残念だなー。今日は古巣を荒らしてくれた()を言ってやりたかったんだがなー」

「…………」

「ま! レース当日に()()()()()()してやればいいか! そう思うよなミラクルも!」

「え? いやぁ……まあ…………そうなんじゃないですか?」

 

 

 


 

 

 

「もぉー! ポッケちゃんたらそんなこと言ってたの!?」

 

 信じられない! とダンツちゃん。

 今度言っておくから! には、別に言わなくていいよとフォローしておくんだけれど……。

 

「……まあとにかくさ。そんな調子だったんよ」

「ポッケちゃんのところ以外は普通じゃなかった?」

「いやいや。それが問題なの」

 

 でさ。残りのファン投票1位と2位って、トップロードちゃんとクリスエスちゃんじゃん?

 普通にガッツリ知り合いじゃん?

 

「……グランプリのメンバーとだいたい顔見知りなのって、怖くない?」

「???」

 

 首を傾げるダンツちゃん。

 うーん。やっぱし伝わんないかぁ……。

 

「なんていうかさ。私、つい1ヶ月前までオープンウマ娘でもなかったじゃん?」

 

 それが今、こうやってファン投票で選ばれて、有マ記念に出走することになってさ。

 

「で。本当ならチャレンジャー側のはずなのに、いざ行ってみたら知り合いばっか!」

「そういうものじゃないですか? だってグランプリは、活躍してるウマ娘が集まるわけですし」

「そーなんだけれどさぁ。や、私もG1とって『活躍してる側』なのは分かってるけれどさぁ……」

 

 でも、やっぱり私にとってグランプリは遠い世界のハズなんよ。

 

 だからやっぱり、そこに立とうとしてるっていうのは。

 現実なのに現実じゃない、みたいな感じでさ。

 

「ちょっとくすぐったい、ていうか……」

「ふふっ」

「あちょっと! なーんで笑うのさダンツちゃん!」

「ごめんなさい。でも、ふふっ。なんかいいですね」

「えーよくないよぉー。わたしこれでも悩んでるんですけれど~」

 

 この感覚が、普通になっていくのかな。

 

「私、嬉しいですよ。先輩」

「なにが?」

「先輩、もう立派なG1ウマ娘みたい」

「なにおぅ~~~?」

 

 ていうか「みたい」ってなにさ!

 

 

 

 

 

*1
第02R参照。

*2
第05R参照。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。