小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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閑話02 有マ記念にいこう!

 

 

 

 

 頭上に引き延ばされるのは、飛行機雲(コントレイル)

 少し遅れて、空を切り裂いていく航空機の爆音。

 

 

「……遅いな」

 

 誰にでもなく呟いて、今しがた覗いたばかりのチャットツールをもう一度閲覧。

 ようやく羽田(東京国際空港)に着いたという相手が、今日の待ち合わせ相手。

 

「それにしても、アイツがレースのことを教えて欲しいとか、どういう風の吹き回しなんだ?」

 

 姉にG1ウマ娘を持つことは当然知っている。しかしであれば、その姉が活躍している時期にこそレースに興味を持つのでは?

 そもそも「教えて欲しい」とはどういうことなのか。もちろんレースを知るにはレースを観るのが1番なので、こうして都合良く直近のG1――――有マ記念に来いと伝えたのだが……。

 

「間に合うのか?」

 

 既に正午過ぎ。朝イチ突撃で確保した四角(4コーナー)にある良い感じの芝生エリアに敷いたレジャーシートを1人で占有することほぼ半日。

 

「ま。待つっきゃないよな。パカパカで予想でも観よう」

 

 そうして動画共有サイトを開いてタグ巡回。今日は有マ記念ということでネットもお祭り騒ぎ。

 

「おっ、ジェネリックロノ動画あがってるじゃん」

 

 ポチッと画面を押せば展開される動画再生画面。抽象化された芦毛ウマ娘のアニメーション素材が画面端に表示。

 軽妙な音楽を背景に、妙にぬるぬる動きだす。

 

 

【クロノジェネシス(券の鉄人)】

 

 

 そう。レース予想界隈の新生ミーム。

 簡単クロノちゃんこと「ジェネリックロノ動画」。

 

『という訳で有馬記念の予想をしていくよー』

『有記念の出走表はこんな感じです』

 

 もちろん。これはクロノジェネシス本人が投稿した動画ではない。

 なにせクロノジェネシス自身が運営しているチャンネル「生涯年収ぷらす11億円」が存在するし、今日の有マ記念にチームメイトが出走する以上彼女が予想動画を投稿することはあり得ないから。

 

『まずはディープ産駒を、さんくすっといれます…w』

 

 ――――あとクロノジェネシスはこんなに寒いギャグはいわない。「審議中……」「産駒ってなんだよ」「産駒は産駒です!」などのコメントが流れていく。

 

『武豊もいれるよー』

『さらにユーイチもいれまーす』

『マジで今回はユーイチがきます』

 

「しまったネタ動画だ!?」

 

 釣られたと気付くももう遅い。

 

『外人(騎手)をぽいぽい』

『余った点数は、あがりを見ながら紐しましょう』

『混ざったらフォーメーションにじゅわー』

『20歳未満の人は、ここで脱落です』

 

 「おまいう」「※彼女は投票権を購入していません」と茶化すコメントたち。別にこの動画の投稿主はクロノジェネシスではないのだが……一度ネットの玩具になってしまうと、なかなか汚名を返上するのは大変なのである。

 今後彼女が活躍しなければ……いや逆か、活躍すればするほど。身バレ系ウマ娘11億円あらためクロノジェネシスの名前は広がっていくことだろう。

 

 

「すまない。遅れた」

 

 と、久々に聞く声。

 男子三日会わざれば刮目して見よとの言葉通り、そこにはまたしても一回り大きくなったヤツの姿。

 

「……てめえ、ますます親父さんに似てきてやがる」

「きみが僕のことを褒めるとは驚きだな」

「けっ、減らず口が」

 

 そう言ってバチン! と音が鳴るほど力強く手を合わせてやる。ヤツの血筋にはウマ娘が混じっている、遠慮はいらない。

 

「流石は貴婦人サマの血統だ。バカにならん……!」

「僕は姉さんとは違う。が、使えるモノは使う主義でね」

 

 あのゴリラ(ぢから)で潰されてしまっては勘弁なので、挨拶は終わりだという風でパッと手を放す。

 

「……それで、お前がいまさらレースを知りたいなんて。なにがあった」

「なにもないさ。……なにもない故に、というやつさ」

「?」

 

 妙な物言いをする。

 普段のコイツは、もっと傲慢で、自信に満ちあふれていて……自らが手に入れられないモノなどないと、そういう気質ではなかったか。

 

()()()()に、レースを知れと言われてしまってね」

「……?」

「いや。彼女が直接そう言った訳ではないのだが……『魚心は海から産まれるんだぞ!』というのは、紐解くならターフにこそ答えがあるという風に聞こえたんだ。おぼろげながらに」

「???」

 

 コイツはなにを言っているんだ?

 そう言ってやりたかったが、横顔を見る限りはどうやら本気で悩んでいる様子だったのでそこには触れないで置こうと思う。

 ……傷心(手負い)のゴリラを挑発するほどの愚か者にはなりたくない。

 

「で……お前は結局なにが知りたいんだ」

「このレースの見方を教えてくれ」

「このレースというと、有マ記念か?」

「他になにがあるんだ?」

 

 おっと。そこからか。

 どうやらコイツ、各レース場で一日に12R開催されることも知らないらしい。

 

「下調べくらいはしてくるのがマナーとは思わなかったのか?」

「図鑑で知った気になるなというのが彼女の言でね」

「いやお前の事情はしらねぇよ。というかなんで俺に聞くんだよ」

「幼稚舎できみ以外にレースにのめり込んだ奴を知らなくてね」

「イヤミか貴様」

 

 この場にその「彼女」とやらは居ないんだから下調べくらい別にいいだろと思わなくもないのだが……これはもしかして「ゲート」とか「差す」とかそういうレベルから教えないといけないのか?

 

「はあ、まあいい……お前がなにを求めているのかは知らないが、とりあえずこれを見ろ」

 

 


Nettai.race

有マ記念(GⅠ)

中山レース場 / 芝右2500m

 

ウマ

出 走 者 名

チーム

記者短評

1

スティルインラブ

クレセント

シニア級にも

見劣りしない

2

シンボリクリスエス

リギル

クラシック実績

実力疑いなし

3

フィフティフィフテ

リギル

直近6戦センター

連下ありうる

4

ヒシミラクル

クエーサー

中山未経験×

本格化に期待

5

エアシャカール

アルケス

前走JC惨敗

立直しなるか

6

ヨウセイブルー

シェリアク

札幌記念勝者

直近2戦着外

7

ノーリーズン

シリウス

陣営立直し策

に自信ありか

8

アーモンドアイ

クエーサー

前走JC勝者

大本命ウマ娘

9

ブリテンドン

カプリコルニー

昨年有マ2着

今年成績低迷

10

タップダンスシチー

ヒュドラエ

謎多き踊り子

G1初挑戦

11

ジャングルポケット

アラドファル

全レース着外ナシ

3戦惜敗続く

12

サーベルオレ

ズベンエシャマリ

前走ダート勝利

芝適性はある

13

ナリタトップロード

イクリール

ファン投票1位

期待に応える

14

ファインモーション

アイベラ

人気爆発ウマ娘

実力は忖度ナシ

15

ロイヤルハードラン

アルデバラン

年初G2勝利

直近3戦着外

16

パッシヴケミカル

コールサック

日経賞ウマ娘

芝2500巧者

ウマ

出 走 者 名

チーム

記者短評

1

スティルインラブ

クレセント

ティアラ路線最強、クラシック相手は如何に

2

シンボリクリスエス

リギル

クラシック路線最強格、実力は間違いなし

3

フィフティフィフテ

リギル

直近重賞4連続センター、流れ向けば連下か

4

ヒシミラクル

クエーサー

今年秋本格化の期待株、中山レース場未経験が不安点か

5

エアシャカール

アルケス

前走JC敗北響く。陣営の立て直し奏するか

6

ヨウセイブルー

シェリアク

札幌記念1着なるも天皇賞秋とJCは着外

7

ノーリーズン

シリウス

秋シーズン不調。陣営は立て直しに自信

8

アーモンドアイ

クエーサー

海外遠征メインの日本総大将。大本命ウマ娘

9

ブリテンドン

カプリコルニー

昨年有マ記念2着。ただし今年の成績は低迷

10

タップダンスシチー

ヒュドラエ

クラシック勢の中ではG1未出走。未知数の躍りを披露か

11

ジャングルポケット

アラドファル

1年勝利遠ざかるも、掲示板外したことナシ

12

サーベルオレ

ズベンエシャマリ

前走ダート勝利。芝レースは七夕賞勝利

13

ナリタトップロード

イクリール

ファン投票1番人気。期待に応えての有マ出走

14

ファインモーション

アイベラ

人気投票大爆発。正統派ティアラウマ娘としての活躍期待

15

ロイヤルハードラン

アルデバラン

年初GⅡ勝利。その後3戦掲示板外

16

パッシヴケミカル

コールサック

日経賞勝利、目黒記念好走。芝2500は期待できる

 


 

 

 

「これは?」

「出走ウマ娘の一覧だ。ウマ柱ともいう」

 

 詳細ボタンをタップすれば、折り畳まれていた戦績情報が開く。

 

「いいか? お前がレースの何を知りたいかは知らないが、俺にとってのレースは『情報戦』だ。徹底的にデータをチェック、前走成績もそうだがチームの得意レースも見逃しちゃいけない」

「チームの得意レース?」

 

 お、そこに食い付くとはいい嗅覚だ。

 流石に海の向こうで愛英資本家どもとマネーゲームに興じてきたヤツは違う。

 

「要は『誰に育てられたか』って話だ。チームだけじゃない、トレセン入学前にどこの私学校やレース倶楽部に所属していたか。そこでどんなウマ娘の薫陶を受けたか……可能なら出資者になって奨学金組合(シンジケート)から吸い上げた育成方針とかの内部情報もあるとより確実だ」

「まて……ウマ娘本人のデータは?」

「そんなものが走る前に存在すると?」

 

 例えば、この出走ウマ娘の中には中山を走ったことのないヤツがいる。

 

「コイツをみてくれ」

 

 ④のウマ娘をタップ。チーム〈クエーサー〉所属のヒシミラクル。

 

「ヒシミラクルが菊花賞を取ったとき、彼女の戦績は9戦3勝。主な勝ちレースは2勝クラス『からっかぜ特別』」

「そのレースはすごいのか?」

「すごかねぇよ。どこにでもある、普通の条件戦――――」

 

 そうだ。コイツはその「条件戦」がなんなのか分からないのか。

 

「――――お前の姉さんが勝ちまくったG1レースの、3ランク格下って言ったら分かるか?」

「……なんとなくは」

 

 分かってなさそうだが、まあいい。

 

「とにかく、このウマ娘は9戦やって3勝しかしてない。そんなヤツが菊花賞を取るハズがない――――このウマ娘()()見てないのなら、そんな結論しか出ねえ」

 

 そこでデータが登場する。

 ヒシミラクルは「あるウマ娘」との接点があるのだ。

 

「菊花賞ウマ娘――――ナリタトップロード。今日の有マ記念でもファン投票第一位を獲得した彼女との接点だ」

「そこから予想しろっていうのか?」

「そうだ。だから言ったろ、レースは情報戦なんだよ。校内模擬レース、公開練習で映り込む些細なサイン。ウマスタに映り込んだグッズすらにも意味がある」

「それは情報戦というより、もはやオカルトの域……」

「だが、人間関係の延長線だ」

 

 同じ私学校の出身。かねてからライバル意識を燃やし合う同期のトレーナー。憧憬から継承への変化――――全てはトレセンで、ターフの上で、レース場の外ですら繰り広げられる人間模様。

 

 それがレース。それこそがレースなのだ。

 

「分からないな。なんでそんなレースに夢中になれる? きみは金を賭けている訳でもないだろ?」

「当たり前だ未成年だぞ?」

 

 あの11億円(クロノジェネシス)ですら賭けていないのに。俺が賭ける訳がない。

 

「俺たちはドラマを観に来てるんだ。もちろん成人したら多少は賭けるだろうが、100円がいくらに化けるかとか、そういう話はしていない。俺の予想通りに世界(レース)が動くサマを見たいんだ」

 

 そしてあわよくば、思い通りになった世界の配当金を受け取りたい。そんな小さな射幸心と、生放送(めのまえ)で生まれる物語(ドラマ)が見たい。

 

「お前だって、自分の事業が思い通りにデカくなったら嬉しいだろ」

「事業とギャンブルを混同しないでもらえるか?」

「世の中全て選択と結果だ。なんでもギャンブルだろ」

「…………」

 

 ヤツが閉口してしまうので、俺はそのまま話を続ける。

 

「とはいえ、今年の有マはあんまり面白くないんだよな。誰が勝つかは分かりきっている」

「そうなのか?」

「アーモンドアイだよ。どう考えてもアーモンドアイ」

 

 母にG1ウマ娘、最大勢力を誇る私学校の出身。

 そしてなにより――――世界に通用済み。実力は折り紙付きを越えた何かだ。

 

「前回のジャパンカップはかなり美味しかったんだけれどな。国内芝に対応出来ないという懸念……という以前に、一般ファンがアーモンドアイを知らなさすぎた。うん、ジャパンカップは美味かった」

「きみやっぱり賭けてるだろ」

「賭けてねぇよ」

 

 11億円(クロノジェネシス)ですら賭けていないのに。

 

「一方コレだ、これを見ろ」

 


有マ記念(G1)

オッズ速報


1人気 スティルインラブ   3.2

2人気 アーモンドアイ    3.9

3人気 シンボリクリスエス  4.6

4人気 ジャングルポケット  5.4

5人気 ナリタトップロード  8.2

6人気 ヒシミラクル    10.9

7人気 ファインモーション 14.0

8人気 ノーリーズン    19.6

9人気 エアシャカール   35.1

10人気フィフティフィフテ 39.3

11人気サーベルオレ    49.2

12人気ヨウセイブルー   65.6

13人気ブリテンドン    70.3

14人気パッシヴケミカル  75.7

15人気タップダンスシチー 82.0

16人気ロイヤルハードラン 98.4


 

 

「アーモンドアイ単勝3.9倍。悪くはないが悪いな」

「どっちだよ」

「アーモンドアイは()()()()()。今日なら単勝でも買える」

 

 つまり旨味が減ったということだと言えば、トーシロのヤツはやはり怪訝な顔。

 

「ジャパンカップのアーモンドアイ最終オッズは5人気12.8倍。今回は3分の1までオッズが萎んでいる」

 もちろん。シンボリクリスエスをはじめとする主力ウマ娘に対してジャパンカップで先行し、ほとんど格付けは済んだという認識もある故なのだろう。

 

「それでも、1人気になってないのが奇跡なくらい……スティルインラブがティアラ路線に専念してくれていて助かった」

「助かった?」

「ほとんどのファンは、まだスティルインラブが最強だと思っているということだよ」

 

 長距離の経験がないティアラウマ娘を1番人気にまで押し上げるのはどうかしてる。

 もちろん、そうさせるだけスティルインラブが鮮烈な勝ち方をしていること。彼女と新人トレーナーのコンビが世に大きく報じられていることもあるのだろうが……それ以上の偉業を成し遂げているアーモンドアイに、世間はまだ気付きっていない。

 

「国内実績を重視するトゥインクル・シリーズの弊害だな」

「国内実績……確かに、そうだな」

 

 たぶん少しズレた視点で納得していそうな相手は無視。

 

「とはいえ、オッズで賭けても失敗するだけなのは明白だ。特にこういう強者揃いのレースではな」

「ほう。そうなのか」

「当たり前だ。レースはギャンブルだが、情報を掴めば勝てる勝負なんだからな」

 

 だからこそ、全ての視点を持つ必要がある。

 

 

「じゃあ順にいくぞ。①スティルインラブはデビューから無敗。ティアラ路線ではトライアル・レースも制覇したいわゆる『完全三冠』だ。あのメジロラモーヌの再現、1番人気に推されるのも当然だな。ただ専門家ほど評価は悪い、なぜなら彼女には長距離の経験がなく……――――――

 

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