小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第04R 断るのってアリなの?!

「私に名義を、貸しなさい!!!」

 

 

 

 ……。

 

 えっと?

 

 あの、トレーナーさん? お客さんですけれど。

 

「きみ、名前は?」

 

 あっ初対面なんだ。すごいバイタリティだねこのウマ娘。

 

 そんなことを思う私を余所に、彼女は後ろ髪をファサ……とかきあげる。

 おー、さまになってる。ドラマの中から出てきたみたい。

 

「アーモンドアイよ。よろしくね、トレーナー」

「はいよろしく。でも誰もまだ契約するとは言ってないよ?」

 

 あれ?

 

「どうして? 私はあなたに何も求めないわよ」

「あー……前提として、契約は双方の同意が必要なんだよ」

「そうなのね!」

 

 いやそらそうでしょ。

 いきなり部屋に入ってきて契約しろと言われて契約するヒトはいないだろう。

 

「……しかし、それにしても」

 

 トレーナーさんは彼女、アーモンドアイちゃんをじっと眺める。

 

「触らずとも分かるバ体の良さだ。きみ、スカウトはされているんだろう?」

「もちろん。でも断ったわ」

「理由を聞いても? どうやらそれがきみの、アーモンドアイ学生がここへ来た理由になりそうだ」

「ええ、それはね――――ブリティッシュ・チャンピオンズシリーズに出るためよ!」

 

 

ガタッ

 

 

「ぶ、ぶぶぶリッティッシュ・チャンピオン・シリーズっ!?」

 

 立ち上がったのはクロノちゃん。

 

「知ってるの?」

「ええ! ブリティッシュ・レース・オーソリティー主催の競走リーグ、5カテゴリー35レースにより構成される半年にわたる長期シリーズです」

 

 ちなみにURAファイナルズの元ネタとも言われています!

 へー、あれ(ファイナルズ)って理事長の思いつきじゃなかったんだ。

 ……ん? ブリティッシュ? ふと疑問がわく。

 

「そのレースってブリテンで行われるんです?」

「そうだ。BCRは連合王国で開催される。もちろん全部海外レースだ」

「ええ、その通り」

 

 アーモンドアイちゃんが大きく頷く。

 

「しかもBCRの開催期間はトゥインクルの主要レース時期と丸かぶり……だから、どのトレーナーもいい顔をしなかったの」

 

 確かに、他の担当をほっぽり出して連合王国になんて行けないわよね!

 

 ……あー。だからアーモンドアイちゃんはスカウトを断ったんだ。

 確かに、自分の走りたいレースに付き合ってくれないなら、契約できないよねぇ……。

 

「そういう訳で、名義を貸しなさいトレーナー!」

「ふーむ。却下かな」

「なんでよ!?」

 

 あれ?

 

「どうして? 私はあなたに何も求めないわよ!」

「あー……前提として、契約は双方の同意が必要なんだよ」

「そうね! そして私は契約したいの!!」

 

 なんか既視感(デジャブ)だなー……。

 するとトレーナーさんは私たちに視線を寄越した。なんです??

 

「さて、では3人に問題だ」

 

 アーモンドアイ学生はいま大きな問題を抱えている。

 

「それがなにか、さっきの『目標』と『目的』という2つの言葉を使って答えなさい」

 

 あ、これさっき(競走ゼミで)やったところだ。

 

「はいはーい、目標は分かったけれど、目的が分からないです!」

「正解」

 

 そういいながらトレーナーさんはホワイトボードにイレイサーをかける。

 

 

【! 合格!】

 

 

 いや、もうそれはいいって。

 というかあからさまに「不」を消した跡が残ってるし。

 

「待ちなさいトレーナー! 私はまだ目的を言っていないだけよ!」

「ではどうぞ?」

 

 どうぞどうぞとトレーナーさん。促されたアーモンドアイちゃんは胸を張る。

 

「私こそ世界最強、頂点に立つウマ娘であると証明するの!」

「なら尚のこと、まずは国内注力でいいんじゃないか?」

 

 そしてトレーナーさんはド正論。

 いやそうだよね? 普通オリンピック選手とかも全日本選手権とかで勝ってから世界大会にいくもんね?

 

「国内に注力したら向こうのオークスに間に合わないじゃない!」

「別にBCRは全勝しないといけないタイプのシリーズじゃないぞ?」

 

 あっ、へー。そうなんだ。

 URAファイナルズがそういうもの(勝ち上がり式)だからてっきりそういうものだと思ったけれど。

 

「イヤよ! 不戦敗なんてゼッタイにイヤ!!」

 

 うわぁ、出走しないだけで不戦敗なんて言います?

 その理屈だと未デビューの私なんて一年に4000敗くらいしてることになると思うんだけれど。

 

「うーん。まあとにかくまずはきみも体験から始めようか。話はそれからだ」

 

 あっ、それはいいんだ?

 

「ちなみに1ヶ月間お試しキャンペーン中。月謝は頂きません!」

「はいるわ!!!」

 

 ダマされてますよ奥さん!!!

 

 

「はい。じゃあ改めて……どこまで話したっけ?」

 

 首を傾げるトレーナーさん。だいぶ話それたもんねーと思う私。

 ……ていうか、本当にどこまで話したっけ?

 

「トレーナーさん、目標と目的の話です」

「ああそうだったブーケ、ありがとう」

 

 そこでパッとブーケさんがトレーナーさんに伝える。さすがチームリーダー。

 

 

「こほん。では改めて、新規メンバーの君たちには……目標と目的を決めてもらいます」

 

 そしてトレーナーさんは、私たちに一枚のプリントを渡してきた。

 

 

 


 

チーム:クエーサー

メンバー目標シート

 

【目標】

 

 

 

【その心は?】

 

 

 

【いつまでに達成?】

 

 

 

【競走名】

 

 

 

 


 

 

 

 

「……っていうか、ミラ子の将来設計爆発でビビったね」

「ミラ子がいちばん、考えてると思ったんだけれどなぁ」

「あはは……まぁ~、いうて私もスットコドッコイですし?」

 

 寮への帰り道。ざっくり言っちゃうハートちゃんとロンに私は苦笑い。

 いやあ、あんなに言われるとは思ってなかったよ。しょーじき。

 

「でもさ」

 

 それでも、私はちょっと嬉しかったんだ。

 

 

「大学進学が悪いこととは、言われなかった」

 

 

 トレーナーさんは、目的が大学入学で終わってるとしか言わなかった。

 

「……そりゃ、大学進学が悪いことな訳なくない?」

「あーいや。えーと、そりゃそうなんだけれどね?」

 

 たぶん、トレーナーさんの言いたいことはすごく簡単なのだ。

 名義貸しチームで、名義を借りるのは、単なる手段。道具に過ぎなくて。

 

 その道具(名義)でトゥインクル・シリーズ出走権を得て、それで「次に何をするか」が大切なんだ。

 

「ごめん2人とも。私もうちょっと、走ってくる」

「え、どしたの急に」

「いいから、先帰ってて!」

「学園から出たらダメだからねぇ~」

 

 ちょっと呆れてそうな2人に背を向けて、私は走り出す。

 

 

 

 私って、なんのために走るんだろう。

 

 お金持ちになるため?

 有名人になるため?

 

 チームに入ったのだってそう。

 それってお小遣いを月3000円に減らしてまでやることなのかな?

 

 

 ――――ヒシミラクル学生の『目的』は『大学に入る』で終わっている。

 

 

 トレセン学園は、進学にも就職にも有利な学校だ。

 在学しているだけで、すごいねって言ってもらえる学校だ。

 

 

 ――――名義を借りることはできる。

 

 

 でもそれは、ぜんぶ学園という看板だけ。

 

 

 ――――名義を借りただけでしかない。

 

 

 学園生としての私に向けられたものじゃない。

 

 だから、そこから先。卒業した後のことは全部――――

 

 

 

 ――――自分で決めなきゃいけない。

 

 

 

 

 後ろを振り返る。2人の姿が角の向こうに消えたことを確認する。

 それでスマホを取り出して、顔認証……は暗くて出来ないのでパターン認証でロックを解除。

 

 トークアプリのLANEから、お気に入りの連絡先。

 そこに登録されてる2つのアカウントから、素朴なアイコンの方を選ぶ。

 

 通話ボタンを、押す。

 果たして相手は、数コールのあとに出てくれた。

 

 

 

『クー?』

「ねえお父さん。どうして帝都農工大学に入ったの?」

 

 ちょっとの、間。

 

『なにかあったのか?』

「いーから、答えてよ。なんのために入ったとか、目標とかあったでしょ?」

『そうだなぁ……クーは、ロボコンって知ってるか?』

「ロボコン?」

 

 おう、ロボットコンテストの略だぞとお父さん。

 

『そこでな、ロボットたちがサッカーをしてたんだよ。眼もないのにボールを見つけて、足もないのにずばーんとシュートしてゴールを決めてな』

「へー」

『カッコいいと思ったから、その年の優勝校だった帝農工を選んだ』

「えそれだけ?」

『おう、それだけだぞ』

 

 ……て、適当だ…………というか下手したら、就職まで見据えてる私の方が立派なんじゃないのコレ?

 

「あれ、でもロボットの仕事なんてしてたっけお父さん」

『昨年あたりにな。ほら、あのST-2(メカウマ娘)向けのサーボモータ。あれはウチが学園に納入したんだぞ』

「メカウマ……なにそれ?」

『そ、そうか知らないか…………』

 

 声だけで分かるお父さんの落胆した様子。

 えーと、もうちょっとだけ聞いてあげようかな。

 

「そのメカウマスメのサーボモタ? を作るのが仕事なの?」

『うーん。お父さんは作るんじゃなくて、その製品に「安心ですよ」ってハンコを押すことかな』

「……ふーん。なんか名義貸しみたいだね」

『難しい言葉を知ってるじゃないか』

 

 うげ……そういや見栄張って〈クエーサー〉が名義貸しチームだってこと言ってないんだった……。

 家族LANEで「チームに入れそう!」って報告して「スカウトされたの?」に対して「そんなとこー」って返しちゃったんだよなぁ……。

 

『とはいえ、ハンコを押した以上はお父さんの責任だ。製品で誰かが悲しんだりしたら、お父さんが責任を取らなくちゃいけない』

「そっか……そりゃ大変だ」

 

 お父さんは「まあな」と短く返す。

 きっと、私がどんな気持ちで言ったのかには気付いていない。

 

『それで? クーは帝都農工に入りたいのか?』

「えっ?! いや、いやいや。まーほら、もう高校生じゃん?」

 

 さすがにあなたの進路丸パクリとは言えません。

 だって考えナシみたいだし、恥ずかしいし。

 

『気が早いな……ま、じっくり考えるのはいいことだ』

「うん。そーだね。ゆっくり考えるつもり」

 

 あのさ、お父さん。

 

「お父さんの目標ってなに?」

『目標?』

「うん。これを達成しようとか、こういう風になりたい的な」

『うーん。とりあえず家に帰ることかな?』

 

 ん???

 

「え、もしかしてまだ会社にいるの?」

『おう。そうだぞ』

「ブラックじゃん!」

『バカいうな、天下の菱三だぞ。うちは芦ヶ峰なみに真っ白だ』

「じゃ~なんでまだ会社なのさぁーお母さんかわいそうだよー!」

 

 というか私、そういう簡単に達成できそうな目標は聞いてないんですけど!

 

「そうじゃなくて、もっとこう……会社を世界一にする、とか!」

『なに言ってるんだ。まず今日の仕事を終わらせないと家に帰れないだろ?』

「んー?」

 

 ……まあ、確かに?

 

『母さんの料理を食べないと明日も元気が出ないよな? だから父さんは家に帰る』

「……」

『それで、家に帰って元気になったら、明日まだ会社にいくんだ。会社を世界一にするためにな』

「そっか……そっか!」

 

 なーんだ。もしかしてこれって簡単なことだったりする?

 私、早くも世界の真理に気付いちゃったりして。

 

 

 目標と目的の間には『溝』がある。

 そしてその『溝』は、きっとどこまで行っても埋まらない。

 

 だって、レースで活躍したから立派な大人になれる訳じゃない。

 立派な大人になる手段は、レースで活躍するだけじゃない。

 

 でも、まずは手を伸ばさなきゃ始まらない。

 だから私は、チームの扉を開いたんだ。

 

 

「ねえお父さん。私ね、トゥインクル・シリーズに出るよ」

 

 

 契約相手は、名義貸しトレーナーだけれど。

 だれもまだ、私に期待はしてくれていないかもだけれど。

 

「それで、やれるところまでやってみる」

『おう』

「そしたら私は――――どこまでいけるかな」

『いけるさ。どこまでも』

 

 それで、いつでも帰ってこい。

 

 

「うん。ありがと」

 

 

 


 

チーム:クエーサー

メンバー目標シート

 

【目標】

条件戦を突破して、オープンウマ娘になる。

 

 

【その心は?】

大学進学(競走ウマ娘枠 受験資格)のため。

 

 

【いつまでに達成?】

シニア1年目3月

※一般受験に切り替えるため

 

【競走名】 ヒシミラクル

 

トレーナーさんへ

オープン昇格後のことは、あとで考えます!

 


 

 

 

「ヒシミラクル学生」

「はい」

 

 私の提出した目標シートをみたトレーナーさんは、すっくと立ち上がる。

 そして、ホワイトボードに手をかけると……。

 

 

 

 

【! 合格!】

 

 

 

 

「それはもういいですってぇ!」

 

 

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