小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第38R 今年もあっという間だ!

 

 私、ヒシミラクルは有マ記念に勝ちました。

 

 

「お、アーモンドアイ学生は手慣れてるな」

「ふふん! ララに教えてもらったわ!」

「ラッキーライラック学生か。向こうじゃ一家に一台たこ焼き器があるってのは本当なんだな」

「いやいやトレーナーさんや。そりゃ言い過ぎですって……まあウチにはありますケド」

「あれ? ミラクルさんって東京(このへん)のご出身じゃありませんでしたっけ?」

「あー、親の都合で東京越してきてるんで」

 

 で、去年と同じように大掃除からのタコパ(たこ焼きパーティー)やりまして。

 

「それじゃあ今年の練習はこれで最後となります。お疲れさまでした、良いお年を」

「「「よいおとしをー」」」

 

 そんで今年最後のトレーニングも終わって。

 寮の荷物をサクッとまとめて実家に帰って。

 

「クーちゃん。晩ご飯はお蕎麦でいいわよね?」

「あーうん、いいよー」

 

 なんか。気付いたら大晦日も最終盤になってました。はい。

 

 ……まじか。

 

『おうおう、来たなポニーども。今日はな、お前らに「ガースー黒光り記念」での優勝目指してトレーニングをしてもらうで!』

 

 それでまあ、今年最後の食事も終えて。

 毎年恒例の年末バラエティ番組を眺めているワケです。はい。

 

『勝負服はウマ娘の走りそのものやからな。しっかり着替ええ!』

『ちょ……なんで私だけウララさんの勝負服なのよ!』

『キングちゃん似合ってるよー♪』

 

 あー……やっぱお約束って癒やされるわぁ……。

 なんていうかこう、実家のような安心感っていうか?

 まあここ実家なんですけれど……。

 

 

パーパパパーパパー♪

 

 

「うん?」

 

 通知音にスマホを手に取れば、そこには見知った名前。

 


 ビロンギングス

 

ミラ子ミラ子

テレビみてる?

 


 

「テレビみてる……って、そりゃ年末なんだからみてるでしょ」

 

 ちらりとテレビに目をやれば、セイウンスカイさんがニシノフラワーさんからのビデオメッセージをみている場面。

 ああこれは……もう分かりやすく盛大な「フリ」ってヤツです。

 オチが読めましたね、ええ。

 


 ビロンギングス

 

ミラ子ミラ子

テレビみてる?

 

既読20:54
ウマツカみてるよ(^^)

 

フガクTVでミラ子のことやってる!

 


 

「はい?」

 

 なんで私のこと?

 ……いや、なんでもかんでもないか。

 そりゃ番組くらい取り上げられるよね。だって有マ勝っちゃったんだし。

 

 まあ後でみておきましょーかね。

 いやだって、どんな評価なのかはやっぱ気になるじゃん?

 

『スカイさん。いつも、本当にいつもありがとうございます!』

『フラワー……い、いやあちょっと照れちゃ』

『そんなスカイさんには、タイキックです!』

『え"え"え"ーッ!?』

 

 ……どうしよ。

 やっぱすぐみようかな。

 

「おとーさん、チャンネル」

「お父さんはチャンネルじゃないぞ」

「んもー。フガクに変えて」

 

 お父さんがリモコンに手を伸ばしてチャンネルを切り替える。

 パッと画面が切り替わって、現れるのは年末のレース特番。

 

 クラシック期で天皇賞を制したクリスエスちゃんや、有マ記念で堂々のファン投票1位に輝いて引退レースを飾ったトップロードちゃん……。

 

『そして欠かせないのが、クラシック期から長期海外遠征に挑んだアーモンドアイ選手ですね!』

 

「お、アイちゃんじゃん」

「クーの知り合いか?」

 

 お父さんが聞いてくるので、チームメイトだよと説明する。

 

「すごいよねー。海外のG1とかも勝ちまくってるし」

「クーだって勝っただろう?」

「いやいや。格が違うっていうかさ」

 

 愛英のレースっていったら格が違うよね。

 なんかこう、近代レースの発祥地だったかな?

 

 番組はざらっとアイちゃんの海外レースを紹介したあとに、ジャパンカップの映像を流す。海外レースばかりで日本の芝に適応できるのかと心配されていたアイちゃんだけれど。

 

『そして見事、凱旋レースとなったジャパンカップにて勝利を飾りました!』

『いや~すごいですね。もうさすがとしか言えない』

 

 うんうん。コメンテーターさんの言うとおりだよ本当に。

 東京レース場ってことで近かったから観にいったけれど、アイちゃん強かったもんねぇ。

 

「……ていうか、ロンは私が映ってるとか言ってたけれど。私の出番終わってるんじゃ?」

 

 いや。それはそうか。

 だってロンはテレビで私のことを観てからLANEを送っているわけで。

 つまりスマホを取り出して文章を打つ時間、ここに私がチャンネルを切り替えるまでの時間がタイムラグとしてあるわけで。

 クリスエスちゃんやトップロードちゃんもさらっと流して終わりだったのに、私なんかのレースシーンが長々と流されるわけないよね。

 

「おとーさん。これって確か巻き戻しで見れたよね?」

「巻き戻しというか、48時間前までの番組は録画して一時保存されてるぞ。この番組にクーが出てるのか?」

「あいや、なんか出てるらしいって話を聞いたんだけれど」

「じゃあ永久保存だな」

「んもーそういうのいいから」

 

『しかし、そんなアーモンドアイ選手にまさかの刺客が……?』

『はい。そうなんです』

『いやぁ怖いですね。レースに絶対はないですね』

 

 ……んん?

 いやーな予感を覚える私。大写しになる中山レース場の最終直線を駆け上がってくるウマ娘たちのVTR。

 うわ、見覚えしかない白地に青の勝負服がぬるっとバ群を抜ける……。

 

『クリスエスかミラクルか、ミラクル起きるかこれはミラクルだ!』

『まだ感情が追いついてきてないっていうか……』

 

 そしてパッと画面は切り替わって毎朝みている芦毛のウマ娘がぼんやりインタビューに答える映像。いやそれにしても表情が死んでるなぁ私……。

 

『そう。ヒシミラクル選手です』

 

 そしてスタジオにニュルッと現れる私の顔。多分トレセン公式ウマ娘名鑑(デビューしたウマ娘は写真も公開されている)から引っ張ってきたらしいノンビリした表情。

 

『実力派揃いの今年度クラシックを最後に魅せたのは波乱のウマ娘。ヒシミラクル選手です』

 

 こうやってTVに映るとなんか思ったよりノンビリしてるね? カメラ屋さんがリラックスリラックス~って言うから言われるままにしちゃったけれど、もうちょっと引き締めた表情でも良かったかな?

 

『ここまでの主な勝ち鞍は菊花賞と有マ記念。今年の夏までは条件戦で一進一退のレースを繰り返していましたが、菊花賞から覚醒。来年の中長距離シニア路線において、台風の目となること間違いなしのウマ娘です

 

 ふーん。シニア期の台風の目、ヒシミラクル選手ですかぁ……。

 

「クーも成長したな」

 

 お父さんの安心したような声。

 

「えぇ、なんでそうなるの?」

「前なら、こうなった瞬間にテレビ消してただろ? 恥ずかしいからダメみたいなこと言って」

「あー……いや、なんというか……実感がなさすぎて……」

 

 なんて言えばいいんだろ。

 有マを()()()()()()()()()()()()()()が勝った感じ。

 

「お父さんはさ。私が有マ勝って嬉しい?」

「イヤってことはないだろ」

「んーーー。まぁ、そりゃそうなんだけれどさ」

 

 なんかなー。私が嬉しくないんだよね。

 最初はさ、成し遂げたことがデカすぎてキャパオーバーで。それで喜びとか驚きとかなんも来ないのかなって思ってたんだけれど。

 

 待てど待てども驚きがこなくて。

 あれっ? もしかして私驚いてない? って思った頃には喜ぶタイミングを完全に逃してて。

 

 なんかそれで、そのまま今年が終わろうとしてる。

 

 

「……菊花賞、勝ったときは。すっごい嬉しかったんだけどな」

 

 

 なんで嬉しくないんだろ。

 

 

 


 

 

 

 

 そうして、モヤモヤしたままレース特番を見終えて、その後は途中まで観てたガースー黒光り記念を黄金世代の皆さんがヘロヘロになって走りきる様子を見届けて。

 

 でもやっぱりモヤモヤは晴れなくて。そしたらすぐに除夜の鐘特集番組が始まっちゃって。

 

『新年、明けましておめでとうございます』

「あけおめ~」

 

 家族全員で明けましておめでとうってなって。

 ついでにLANEにも入れといて。

 

 じゃあおやすみなさいってことで、布団に入ったんだけれども。

 

 

「……寝れない」

 

 ていうか。いつもならもっと早く寝てるんだよね。

 だって眠くてしょうがないし、年末番組はぶっちゃけ途中で退屈になっちゃうし。

 

 いや、なんかさ。モヤモヤするんよ。

 去年はさ、結局勝てなかったな~未勝利クラスのままだったな~って感じの年末だったけれど。

 別にそれは、想定どおりというか。まあそんなもんかって気持ちがどこかにあって。

 

「え。私このまま年越しちゃうの?」

 

 いや、時計の針的にはもう越してるんだけれどさ。

 やっぱこう、眠りにつくまでが遠足ですみたいなところあるじゃん? 年末って。

 

「どーしよ」

 

 どうしたら。満足して年を越せるかな。

 どうしたら、このモヤモヤはなくなってくれるかな。

 

「……ちょっとだけ、走ろっかな」

 

 そう思って、布団をこっそり抜け出して。

 

「あれ」

 

 そしたらまだ、リビングに灯りがともっていた。

 

「クー、どうした?」

「あー……えーと」

 

 ソファでビールを飲んでるお父さん。

 てか晩ご飯の時、お母さんにお酌してもらって今日はここまでねって言われてなかったっけ? もう年明け(あした)だろ? それは確かにそうだけれど、なんか間違ってる気が……。

 

「それで? 眠れないか」

「や。別に、ちょっと喉かわいただけ」

「そうか」

 

 それきり何も言ってこないお父さん。

 私はとっさについちゃったウソのせいで、冷蔵庫に手をかけることになる。

 

「…………あのさ、お父さん」

 

 だからその言葉は、自分でもなんで溢れたか分からなくて。

 

「ありがと」

「どうした急に」

「や。なんかさ」

 

 多分きっと、モヤモヤの行き先を探してるんだって遅れて気付いて。

 

「トレセンの学費、けっこう高かったでしょ?」

「子供がそんなこと気にするな」

「そんなことって……後から調べてビビったんだからね?」

 

 でもきっと。高い学費をレースの賞金で埋め合わせできて良かったねとか。

 そんな現実的な(おカネの)話でもなくて。

 

 私は、進学のためにトレセン学園という看板を使おうとしただけで。

 私は、友達のためにG1ウマ娘っていう看板を手に入れただけで。

 

 だからきっと、オープンウマ娘になって、G1ウマ娘になって。

 それで次の目標をなににしようって聞かれても、思いつかなくて。

 

 それがそのまま、行き先のないモヤモヤだって気付いたんだ。

 

 

「ねえお父さん。私が帝農工にいきたいって言ったら、どう思う?」

「ああ、クーは帝都農工に入りたいんだったか」

「えっ。いや、そこまでは言ってないけれど。来年、てか今年? 卒業しようと思えばできるじゃん?」

 

 あ、3月だからやっぱり来年か……。

 年越ししたばっかりだから感覚が年越ししてなくてややこしー!

 

「まあとにかく! 私はもう真剣に進学を考えるの!」

「うん。それで帝都農工が近いから志望校の候補になったと」

 

 いやうん。近いのは事実だけれど別にそういう理由じゃないから。

 

「ほら、推薦枠とかあるからさ、入れるかなーって」

 

 でも。

 なんかさ。

 

「G1ウマ娘になったら、もっと走らなきゃだめなのかなって、思っちゃったりして」

「トレーナーさんはなんて言ってるんだ?」

 

 え。

 なんでそこでトレーナーさんが出てくるの?

 

「それは、トレーナーさんがプロだからだよ」

「プロだから……」

 

 ああ。そっか。

 プロだから、次のレースとか引退のタイミングとか……そういうのを決めるのかぁ。

 

『高度な柔軟性を保ち臨機応変に……』

『金本トレーナーっていつもそうですよね!』

 

『あーと補足を。次走は「ノープラン」です』

『ナアンダ……』

 

 そう考えれば、トレーナーさんの発言に記者さんたちが色々反応していたのも納得だ。

 

「どうしようかな」

「トレーナーさんとよく話し合って、決めるんだぞ」

「うん……」

 

 

 いやまあ。それは、そうなんだけれど。

 

 うちのトレーナー、名義貸しだからなぁ…………。

 

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