平素よりURA平地・障害競走チームクエーサー(日本トレーナー会加盟)をご利用頂きありがとうございます。
さて、2月といえばフェブラリーSの開催時期でありますが、学園内ではバレンタインチョコが飛び交う時期でもございます。ちなみに金本はチョコが苦手なので贈らないように。フリじゃないです。チョコ代はトレーニング用品カンパに投げること。
長い前置きはさておき、チームクエーサーでは契約ウマ娘の皆さんに感謝をこめて、バレンタインデー特別企画と称しましての大還元祭を行います。
なんと! ローテーション面談、トレーニング面談、脚質診断全ての有料サービスが平常の8割引きで超お得!
2月といういい感じにヒマなタイミングを狙って競走能力を底上げしよう。
課金装備とコーナーで差をつけろ!
「トレーナーさん。目標シートの件について相談があります」
「はいどうぞ」
名義貸しチーム〈クエーサー〉のチーム部屋。
私にとっては、慣れ親しんだいつもの場所。
「私はいま、走る理由がありません」
「そうか」
あの後、あらためーて考えましたとも、ええ。
なんで走るのか? ワイ、アイ、ラン?
その結果は――――分かりません!
もうちょっと正確に言うと、いまの私って走らなきゃいけない理由がないんです!
「とりあえずもう少し深く聞こうか」
「はい。私って、進学を目的に〈クエーサー〉に入ったじゃないですか」
目標は帝都農工大学!
利用するのは競走ウマ娘推薦枠!
「で、その推薦の条件になってる『オープンウマ娘』になるっていうのは、もう達成しましたよね?」
「そうだな」
でそうなってくると、これがもう走る理由はない。
ていうか、走ることで得られるメリットがない。
「それでまあ、有マはアイちゃんに勝負を挑まれたこともあって出ましたけれど……」
「この先、
「いや。そーゆうんじゃなくて。えーと」
ここら辺、言葉にするのがちょいムズいんだよなぁ……。
モチベとか、やる気とかじゃなくてですね。
「なんていうか、走る理由がふんわりしすぎっていうか」
「別にいいんじゃないか?」
「えぇ……」
いやでも。
そのふんわりした状態で走った結果が有マ記念のあの有様なんで。
あんまりああいうの、やりたくないっていうか……。
「ヒシミラクル学生。いちおう海外の事例を紹介しておこう」
そこでトレーナーさんはノートPCを取り出すとパチパチ叩く。
それから画面に映し出されたのは、なにかのネット記事。
「これは欧米における競走ウマ娘の早期引退事例を示したものだ」
「い、引退ですか……」
別にそこまでは言ってないんだけれど…………。
「例えばドイツでは、2シーズン。つまりジュニア・クラシック期までにG1クラスの競走成績を出さないと競走ウマ娘の肩書きを活かした職業に就くのは難しいとされている」
「競走ウマ娘の肩書き?」
「ヒシミラクル学生が目指している競走ウマ娘推薦枠みたいなやつだよ」
「あ~」
つまりセカンドキャリアってことね。
「やっぱりレースでの成績って重要なんですかね、ウマ娘のセカンドキャリアにおいて」
「うーん。一概にこうとは言えないが……前も話したよな? 有利になったり、ならなかったりするって」
「あ、なんか言ってましたね」
すっごいフワフワしてるなぁって、あの時は思ったけれど。
「結局なにが有利で、なにが不利なんでしたっけ」
「……就職支援担当に聞いてくれって言ったはずなんだが」
「まーまー。教えてくださいよ~」
「きみなぁ」
ため息ひとつ吐いて続けるトレーナーさん。
「まず有利な点は言うまでもなくネームバリュー。いい企業にいい待遇で入りやすい」
うんうん。そうだよね。
分かりやすくていいね。
「それで不利な点はその裏返し。就職後に苦労するウマ娘が多い」
「?」
なんで?
いい企業にいい待遇。それでハッピーエンドなんじゃ?
「きみ、考えてもみろ。競走ウマ娘はスポーツ選手だ。スポーツ選手が……そうだな、例えば第一商事にはいったとしてなにをする?」
「なに、って……そりゃ仕事じゃないですか?」
「そうだな。仕事だ。それで第一商事はどんな仕事をしているんだ?」
「……?」
言われてみれば、第一商事ってなにやってるんだろ。
よし、スマホのAIアシスタントに聞いちゃお。
「へいGOlSHI、第一商事がなにやっているか教えて」
『検索しています、、、第一商事は繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食品、住生活、情報、金融の各分野において幅広いビジネスをグローバルに展開する大手総合商社です』
「えーと、つまり?」
『お前なんでもかんでもAIに頼ってんじゃねえよ! これだから最近のワケーモンは!』
ええ……怒られちゃった……。
「わかるなヒシミラクル学生。なにも知らない学生がいきなりデカい企業に入ると苦労しそうだろ?」
「そ、そうですね……」
いやでも。誰だって最初は初心者だし、それは色々教えてよって思うんだけれど……ん?
「いやでも、なんかおかしくないですか?」
「なにかな?」
「だって、苦労しそうっていうか。苦労してるんですよね? それは会社も分かってるんじゃ?」
「ああ、それは簡単だよ。ほら、○谷いるだろ? あのバカでかい年俸で契約した野球選手」
あー、なんかテレビで話題になってましたね。
「あの契約料、既にCMとかの出演料でペイ出来てるぞ」
「え……そうなんですか?」
てことは、CMでお金入ってくる上に野球選手としても活躍してもらえてお得しかないってこと?
「まあ○谷は極端な例だが、とにかく本業とは関係なく費用は回収できるんだよ」
「へ、へぇ……」
とりあえず、企業側にもいろいろ考えがあるんだなぁと言うことは分かった。
「うーん。じゃあ結局どうすれば?」
「ヒシミラクル学生はどうしたいんだ?」
「大学進学はしたいですね」
「じゃあ進学しよう。推薦枠でいいんだよな?」
「あっはい」
ノリ軽いけれど、いいのかな?
「そんなもんだぞ。そもそも競走ウマ娘の契約期間がまずは3年とされているのも、明らかに中学高校が3年制であることを意識したシステムだしな」
「そんなもんですか~」
まー確かに、3年間走って進学・就職ってのは分かりやすいんだろうね。
となると……じゃあ今年いっぱいで私の競走生活は終わりってことかぁ……。
「じゃあとりあえず、今年のローテを組むか?」
「あっはい。よろしくです」
私のその言葉を合図に、トレーナーさんは部屋の壁際においてあったホワイトボードを持ってくる。
それをくるっとひっくり返すと、現れるのは12月までのレーシングカレンダーがずらり。
「よくある年末有マ記念を引退レースに見据えて組んでいくぞ? 方針としては距離適正を活かしつつ獲得賞金を最大化する方向でいいよな?」
「ま~そうですね。それでよろしくです」
お金はあって困るもんじゃないしね。
有マ勝ってる時点で億ション買えちゃうけれど……。
「なら。外せないのは長距離G1の天皇賞春と有マ記念。G2でいうと阪神大賞典に日経賞、目黒記念にアルゼンチン共和国杯……」
ポンポン、とカレンダーにマグネットを置いていくトレーナーさん。
「な、なんか多くないですか?」
「多いぞ。だからこっから削っていく」
「あ、削るんですね」
「最近のトレンドは少なく走ってパパッと稼ぐだからな」
いや言い方……。
「それで、春の大目標はもちろん天皇賞・春……なんだが」
「なんです?」
「天皇賞・春に直行するのは危険だと俺は考える」
えなんで。
「
「……無防備」
「言っちゃ悪いがヒシミラクル。有マ記念の勝ちはマグレだったと思わないか」
「それは、まあ」
そうなんだよね。
なんかスルッと抜けて、勝っちゃったていうか。
「その通り。だから天皇賞の前にG1を叩きに使う」
「タタキ?」
タタキ……カツオのタタキ。あのギュッとした噛み応えを思い出す。
絶対そういう意味じゃないと思うけど。
「きみ絶対ヘンなこと考えただろ」
「いやいや。タタキの意味が分からないって訳じゃないですよ?」
「『叩きに使う』ってのは『実際のレースで練習する』ってことだ。
「え、えぇ……」
揉まれるって、なんかいいイメージまったくしないんですけれど……。
「当たり前だ。すごいプレッシャーだぞ?」
「え、それって避けるのとかは……」
「出来る。だがどのみち天皇賞・春に出るんなら同じことだろ?」
「まあ、そりゃそうかもですけれど」
「ワクチン接種と同じだ。プレッシャーを知っていれば対抗できる」
「なるほど~」
じゃあ、そういうことで。
……って了承しちゃったのが悪いんですけれども。
それはそれとして……。
「トレーナーさん! これはなんですか!!??」
「なにって……ネットニュースじゃないか」
帝東デイリー[競馬]
コラム
ヒシミラクルに死角ナシ!手始めに春シニア三冠!
快進撃チーム〈クエーサー〉がトゥインクル・シリーズの台風の目になると宣言した。
チーフ金本師は「海外のアーモンドアイ、国内のヒシミラクル、クラシックのクロノジェネシス」による最強布陣に自信を滲ませ、この「三本の矢」によってレース界隈の話題を完全制覇する。
アーモンドアイはドバイ、ヒシミラクルは大阪杯、クロノジェネシスは桜花賞がそれぞれの次走となる。特にヒシミラクルは完全にピークを迎えており、大阪杯での経験が天皇賞春と宝塚記念への布石になると発言。春シニア三冠制覇を実質的に宣言した。
春シニア三冠は達成すればテイエムオペラオー以来となり、すごくすごい。
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「誰も春シニア三冠なんて言ってないんですけれど!?」
「言ってないぞ」
「はい??? いやでもここに……」
「よく読んでみろ。大阪杯での経験が天皇賞春と宝塚記念への布石になるって言っただけだろ?」
「いやいやいや……!」
こんな言い方したら春シニア三冠狙いになっちゃうでしょ!
「きみな、バカ正直に『プレッシャー受ける訓練で大阪杯でます』はマズいだろ。単純に天皇賞・春に出たいんなら阪神大賞典を叩きに使えばいいんだし」
「いやそりゃ……」
「それで記者が『わざわざ中距離レースに出る意図は?』と聞いてきたから中距離レースの経験も積みたいんですよと言ったら春シニア三冠ってことになった」
「いやそうは……そうはならんやろ……!」
なっとるやろがい!!!
「とにかくこれで、バッチリ喧嘩は売れた。大阪杯はきっとスゴいことになるぞ」
「ああもう……なんでこんなことに…………?!」
というか絶対、今がピークとか話題をかっさらうとか妙に大言壮語なこというからだよね?
トレーナーさん、恨みますよ、こんなんで負けたらどうすれば……!
「負けたらトレーナーの責任だよ。ヒシミラクル学生」
だからまあ、思いっきり負けてこい!
「や、さすがにやるからには勝ちを目指すっていうか。ホント頼みますよ?」
「指導付きのトレーニングは有料だぞ?」
「もー! まーたお金の話なんだから!」
夜。
それは深い夜。
月すらも地平線の向こうに隠れるような――――深い深い、夜の中。
「スティル」
草原に漏れ出た声を、しかしその耳は聞き逃さない。
誰の目にもつかないように整備された2人だけの場所で、そのウマ娘はそっと彼女のトレーナーに寄る。
「聞いたかい? スティルの得意な距離にヒシミラクルが来てくれるそうだ」
「まあ……そうなのですね」
静かに、じっと事実としてその情報を受け入れるスティルインラブ。
トリプル・ティアラをその頭上に戴く、孤独なウマ娘。
その走りはあまりに鮮烈で。
その走りはあまりに剥き出し。
ゆえに学園の誰からも疎まれ……疎まれぬように、常識の皮を被り続けてきたウマ娘。
「きっと天祐だよ。スティル」
そのトレーナーは、自らの担当ウマ娘に寄り添う。
ともすれば、両の腕が彼女の細い肢体を包み込むほどに。
「思うままに、喰らっていい。まるまる太った雌牛は美味しそうだと思わないかい」
「……あなた、どうかシてるワ」
「おや。そうなのかい? きみはソテーより丸かじりのほうが好きだと思っていたけれど」
「そんな、はしたないこと……」
「スティル」
そこでスティルインラブの言葉はとまる。
この人はいつもそう、ワタシを抑える私をいつもおかしくしてしまう。
トレーナーさんに抱きしめられたら他のことなんて考えられなくなってしまう私を、いつもこうして包み込んで宵闇へと引きずり込む。
「本当に、罪な人」
「いいんだ。スティル、ぼくを言い訳にしておくれ」
「……でも、ワタシ。もう負けらレナイ」
「そうとも。きみは負けない」
「さあ、もういちど」
最高のフルコースを。きみに。