小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第44R こんな時までお金儲け?!

 

 

 それは春休みが終わりそうなある日のこと。

 休養日ということで最低限のロードワークだけして部屋で過ごしていた私に、コンコンコンとノックの音。

 

「ヒシミラクル、ちょっといいかい?」

「あはい。どーぞ」

 

 返事をすると扉を開けて入ってきたのは我らが栗東寮の寮長、フジキセキさん。

 

 机の上に広げられたノートに赤本――――大学入試の過去問集――――を見て、ちょっと申し訳なさそうな顔をする。

 

「おっと。すまない、勉強の邪魔をしてしまったかな?」

「いや~別に。ぶっちゃけ進んでないんで……」

 

 そう言いながら赤本をパタリと閉じる私。

 表紙に書いてあるのは、もちろん帝都農工大学。

 

「帝都農工といったら名門じゃないか。受験するのかい?」

「うーん。受験するなら推薦の競走ウマ娘枠使うつもりなんで、レベル感をみておこうかなーって感じです」

「レベル感?」

「あはい。だって、こういう問題を解ける人が帝都農工にくるんですよね? だったら、私もそのレベル……とまではいかなくても、なんか知ったかぶり出来るくらいには勉強しておいた方がいいかなって」

 

 つまりは予防接種的な?

 推薦で入った人と筆記試験を突破した人って、やっぱりなんか違うらしいってネットに書いてあったし、入学するのに試験勉強がいらないっていっても、やっぱりバカにされないくらいには勉強できた方がいいと思うし。

 

「なるほど。ヒシミラクルは将来のことを見据えてるんだね」

「え~? まあそれでほどでもありますけれど。このくらい高3ならフツーっていうか?」

 

 まあ、ここ(トレセン)って高等部は単位制だから、ルール的には留年できるし高等部3年目ってあんまり深い意味はないんだけれどね。

 でも、やっぱり入学した年でクラス分けはされているし。学年っていうのも一応存在するから、高3は受験とかそういう進路を意識する年ではあるんだけれど。

 

「うんうん。でもまずは、目の前の予定について答えてもらっていいかな?」

「はい?」

 

 ニコニコしている寮長が差し出してきたのは1枚のプリント用紙。

 

「『ファン感謝祭の出場競技アンケート』?」

 

 あー……ファン感謝祭。

 そういえばそういうのもあったね。

 去年は完全にスルーしてたけれど。

 

「あれ。でも出場って当日でもOKじゃありませんでしたっけ?」

「もちろん! けれどファンの数が多いウマ娘には参加種目を事前に答えておいて欲しいんだ。当日の誘導や、観戦席の調整をするためにね」

「ああ~」

 

 確かに人気のウマ娘が参加する種目にはお客さんもたくさん見に来るだろうしね。

 人気のウマ娘であれば、だけれど……。

 

「私、人気のウマ娘なんですねぇ」

有マ記念(グランプリ)に出られる時点でそうだと思うよ?」

 

 あー……。

 ま、そうですよね。

 グランプリレースって、ファンの投票が集まらないと出られないワケだし。

 

 そして、ファンがいるならファン感謝祭には出てね! って話でもあるんだろうなぁ、これ。

 

「ちなみになんですけれど。これって今日決めたほうがいいヤツです?」

「いいや? ゆっくり考えてくれて構わないけれど……」

 

 まあ。寮長は優しいからそう言うよね。

 なんか言いっぷり的にも、これはあくまでアンケートで出場種目決定って感じじゃなさそうだし。

 とはいっても、わざわざ部屋を尋ねてくるあたり、そこそこ早めには出さないとなんだろうなぁ。

 

「りょーかいです。さっと決めて今日中に出しますね」

「ホントかい? 助かるよ!」

 

 それじゃあ頼んだよと部屋を出て行く彼女を見送って、私の机にはアンケート用紙。

 

「うーん……こうしてみると本当に色んな種目があるんだなぁ……」

 

 おや? 大食い対決なんてあるんだ。しかも辛さ部門に甘さ部門に総合部門に自由部門なんてあるの?

 …………これってもしかしなくても自腹じゃなくて学園持ちだよね?

 

 

待つんだ、ヒシミラクル学生

 

 

「むっ?」

 

 その声はお金のことしか考えていない悪魔のトレーナーさん!

 しかも悪魔のツノと尻尾まで生えてる!!

 

『ヒシミラクル学生。ファン感謝祭は例年4月のG1開催がない週に開催されることは知っているな?』

「そりゃまあ、知ってますけれど」

『そして4月でG1開催がない週は皐月賞の翌週のみ。その翌週は?』

「……て、天皇賞(春)」

『その通り。にも関わらずヒシミラクル学生は大食い対決なんていうカロリーオーバー待ったなしの競技に出場しようとしていると』

「い、いや。これはファンに感謝の気持ちを伝えるためですので……実質ゼロカロリーといいますか……」

『なるほどな。ではこの間のドーナツはどう説明する? あれもファンのために食べたからゼロカロリーか?』

「えっ、なんでそれを……トレーナーさんには申告してないハズ……」

『そりゃあきみ。この俺はきみが生み出した妄想なんだから知ってるだろ』

「うわ、そういうメタいこと言うの止めてもらえます???」

 

 

ミラクルさんをいじめるのはダメです!

 

 

「ややっ!」

 

 その声は天使のブーケさん!!!

 白い羽根に天使のわっか。勝負服にメチャクチャ似合ってますね。

 

『ブーケ。俺はヒシミラクル学生をいじめている訳ではないぞ。簡単に論理破綻してくれるから面白がっているだけだ』

「うっわ! やっぱりそう思ってたんだ!!」

『きみの思い込みだよ。この俺はきみの妄想なんだから』

 

 そんないい性格している悪魔のトレーナーさんを差し置いて、ブーケさんは微笑む。

 

『ミラクルさん。大食い大会に出てしまいましょう!』

「あ、やっぱり? やっぱりそう思いますよねブーケさんも」

『ええ。だって一杯食べるミラクルさんはとっても素敵ですから』

「いや~照れますねぇ~~~」

『そんなミラクルさんを見たら、ファンの皆さんもお腹いっぱい食べたくなると思うの』

「おおー、いいですねぇ。みんなで大食い大会ですね!」

『ええ。ですからトレーナーさん! いまからヒシミラクル監修メニューを作ってキッチンカーで売りさばきましょう!!!』

「は?」

 

 売りさばく???

 

『おおブーケ。それはとてもいい考えだ。さすが俺の担当ウマ娘第一号!』

『はい! ミラクルお好み焼きに6分の1でタコが当たるロシアンミラクルタコ焼き! これでチームのお財布は大黒字待ったなしですよ!』

「いやいやいや! まってまって!」

 

 6分の1でタコが当たるって、つまり他のタコ焼きにはタコ入ってないってことじゃん!

 

「うーん。まずい、このまま大食い大会に出たら大変なことになる……!」

 

 といっても、他に出るいい競技が思いつかない……。

 

 ……。

 

「……ていうか、私出場しないとダメなのかな?」

 

 去年は別に出なかったし。出ないと怒られるって話も聞いたことないし。

 うーん、でもこれって「ファン感謝」祭だもんね。やっぱり出ないとマズいのかな?

 

「や、考えても仕方ないからトレーナーさんに聞きに行こっと」

 

 私は休養日だけれど、トレーナーさんは普通にトレーニング監督してるだろうし、コースに行けば多分いるよね。

 というわけで早速出発、寮を出ようとしたのだけれど――――

 

 

 

 そこにはヴェールを被ったウマ娘。

 スティルさんの姿。

 

「あ」

「み、ミラクルさん」

 

 な、なんでここに……って同じ栗東寮なんだからそれはそうか。

 今は春休み期間中だし、まさか会うとは思ってなかったけれど。

 

「い、いやーどもども。大阪杯ぶり?」

「えぇ……お久しぶりです」

 

 お久しぶり、って言うほど期間は空いてないとおもうけれど。

 いやでも、まあ。そうね。とりあえず。

 

「えーと、なんていうか。この間はスミマセンでした!」

「えぇっ?」

 

 いやなんで驚くの、そりゃ謝るでしょ?

 

「うちのトレーナーがなんか変な申し立てしちゃって、スティルさんが降格になっちゃったから!」

「あ、いえ……あれは…………私に問題があったのは、事実ですので……それに、あまりこういった件で謝るのはよろしくないかと」

「いやでも」

「私は、勝つために手段を選ばなかった。それを咎められた。それだけです」

 

 え。

 いや、そんなにキッパリ言われても……困るっていうか。

 

「う、うーん。でも私、やっぱり先着している訳ではないし。それで勝ったって言われても。実感が持てないっていうか」

「……()()は、私の力ではないのです」

 

 アレ、って。

 たぶんだけど、アレのことだよね。

 あの庭園。不気味な空に、あの紅い瞳。

 

()()()()()を借りてでも、私は勝ちたかった」

「いいえ。勝たなくてはならなかった」

「けれどそれは、正しいことではなかった」

 

 だから咎められた(降着処分を受けた)

 

「ですから、私は大阪杯の件について、なにも思うところはありません」

「や。私は思うところがあるって話をしてるんですけれど」

 

 だってなんか。

 降着で繰り上げになって勝つとか、ズルくない?

 どうせトレーナーさんは権利を行使しただけとか、裁決委員がそう決めたんだから決定事項なんだとか言うんだろうけれど。というか実際にそう言ったんだけれど。

 

「いいえ。私は、負けたのです」

 

 なのにスティルさんは、まっすぐに負けたと言う。

 曇りのない表情で、こちらをしっかり見据えて。

 

 その表情は――――似ていた。

 いつか見た、私の大切な友達たち(ハートちゃんとロン)の表情に。

 

 

「ちがうよ」

 

 

 だから、たぶん私は言わないと。

 

 

「あの時、勝ちたいって気持ちは絶対にスティルちゃんの方が上だった」

 

 

 ――――強者として。

 

 

「それに、まだスティルちゃんの方がG1たくさん勝ってるし」

 

 

 ――――勝った側として。

 

 

「だから。また勝負、しよう」

「……ええ、そうですね。きっと」

 

 その顔には、覚えがある。

 

 あの日、ニューマーケットレース場で。

 ううん……私がずっと、アイちゃんにライバル扱いされる度にしていたであろう顔。

 

 

 ああ、そっか。

 

 私はもう、勝てるウマ娘(こっち側)なんだ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 そんな会話があった後、コースにいくとブーケさんがトレーニングの監督をしていました。

 

「ファン感謝祭の出場競技ですか?」

「はい。実は大食い対決に出てみようかな~、なんて」

「いいと思います」

 

 え。

 

「……ま、まさか本当にロシアンタコ焼きを売るつもりじゃ!」

「?」

「あ、いえこっちの話……てか体重のこととか言われるかと思ったんですが」

「ええ。それは問題ないんです。太め残りの原因は基本的に継続的な食生活にあるので」

「ふむ?」

 

 どうも話を聞くと、太るにはまずエネルギーを蓄える「脂肪細胞」が必要で、その脂肪細胞が増えないことには一定以上太ることはないらしい。

 でも脂肪細胞は余ったエネルギーを吸収して3倍くらいには膨らむとか……。

 

「じゃあやっぱり太るんじゃ?」

「いいえ。一回のカロリー過剰摂取で大きく太る訳ではありません。もちろん、極端な過食は一回だけでも消化器系に大きな負担をかけますが……」

「あー胃もたれ的な。てか詳しいですねブーケさん」

 

 そう言うと、ブーケさんは困ったように微笑む。

 

「トレーナーにとって、ウマ娘の食生活管理は一番最初に学ぶことですから」

「おお~、なんかプロっぽい」

「いえ。トレーナーさんと比べたら、私なんて」

 

 それでも、やっぱブーケさんはスゴいよ。

 ドリームトロフィーを走りながら、ちゃんとトレーナー補としての勉強もして。

 お金のことを色々考えるのも、チーム経営を考えているからこそ。

 

「これだけ詳しければ、トレーナー試験にも受かりそうですね」

「ええ、そうですね……」

「?」

 

 なんだか複雑そうな顔をしたブーケさん。

 

 ……あ、やっばいの踏んじゃったかなコレ。

 

「ああとその、ごめんなさい」

「いいえ。気にしないで? 気を遣ってくれてありがとう」

 

 うーん。しまった、私としたことが失言……。

 

 でもなぁ、ブーケさんくらい何でも()()()()こなせるウマ娘なら、トレーナー試験くらいあっさり通りそうなもんなんだけれど……。

 

 やっぱりトレーナー試験の壁って高いんだなぁ。

 ウソか本当か、あの帝都大学よりも難易度高いっていうもんね。

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