小賢しミラ子の借り物競走【完結】   作:帝都造営

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第05R 勝てるわけないじゃん!

「ふふふ、ふーんふんふんふーん……♪」

 

 うふふふ。

 みなさんどうも、ヒシミラクルです。

 

 今日はなんと!

 みなさまにジュ~ダイなお知らせがあります!

 

 

「ダンツちゃん! これみて!!!」

「どうしたんですか? ミラ子先輩」

 

 蹄鉄の整備をしているダンツちゃん――――同室のダンツフレームちゃんが手を止めて、私の差し出したプリントを受け取る。

 ちなみに何のプリントかというと、URA公式サイトから印刷した出走表!

 

「ほら今週の土曜日! わたしメイクデビュー!」

「おお~!」

 

 パチパチパチーとダンツちゃん。

 いやーそれほどでもございませんよぉ~。

 

 そう、ついにやってきたメイクデビュー。

 トレーナーさんに頼んで、いちばん最初のメイクデビューに申し込んだのです!

 

「でもメイクデビュー解禁直後だよね? 大丈夫なんですか?」

 

 んー。やっぱりみんなそれ気にするんだねぇ。

 トレーナーさんも「空いてくる8月くらいにしたら?」みたいなこと言ってたし。

 

「だって。もう本格化してるんだから、早く始めた方がよくない?」

「んー……それは、そうかもですけれど……」

 

 そこで言葉を濁すダンツちゃん。

 競走能力の減退(ピークアウト)がいつ始まるか分からない以上、メイクデビューはなるべく早いほうがいいんじゃないの?

 

「えっと。トレーナーさんから説明は受けたんですよね?」

「うん、なんか集まるんでしょ?」

 

 

 

 


 

 

 

「デビュー・ラッシュ」

 

 

 それはジュニア級メイクデビューが解禁される6月に、有力ウマ娘のデビューが集中する現象。

 

「実際、後にトゥインクル・シリーズで活躍することになる多くの優駿が6月にデビューしている」

 

 その理由は分かるな?

 トレーナーさんの質問に、クロノちゃんは手を挙げる。

 

「ではハートリーレター学生」

「えっ、と……暑くなる前にデビューしておきたい、とかですかね?」

「いい線だ。ただし、7、8月開催は福島新潟や函館、札幌など北のレース場に集中している。だから基本的に暑さは問題にならない」

 

 いやむしろ、夏休み……帰省や強化合宿で抜ける選手も考慮すれば「狙い目」ですらある。

 つまり不正解らしい。クロノちゃんが手を空中に高々と挙げた。

 

「ではビロンギングス学生」

「んー……東京開催なら学園から近いし、いいコンディションで臨めるから、とか」

「コンディション。いい着眼点だ。しかしNHKマイルにオークス、ダービー安田記念のG1戦線によって東京の芝コンディションは最悪に近い」

 

 遠征の不利を受けた方がまだマシだろうな。

 またまた不正解。クロノちゃんは思いっきり高く、椅子に座ったままで挙げられる限界まで手を伸ばした。

 

「ではヒシミラクル学生」

「えーと……」

「6月メイクデビューを希望するのに、なぜデビュー・ラッシュが起きるのか調べてこようとはしなかったんだな?」

 

 いやだって、東京レース場(ちかいところ)でなるべく早くデビューしよう! 以外のことはなんも考えてないし……というかデビュー・ラッシュって言葉も初めて聞いたし。

 というか、トレーナーさんいつまでクロノちゃんを無視するんだろう……そろそろ手がぷるぷる震えてるし、顔が真っ赤になってるんだけれど……。

 

「アーモンドアイ学生」

 

 とうとうクロノちゃんは椅子から立ち上がり、チーム部屋の天井に手が届かんばかりに手を伸ばした。

 そしてアーモンドアイちゃんは、トレーナーさんに向けてフッと余裕の笑み。

 

「そんな質問、クロノちゃんが簡単に答えてくれるわ」

「分からないんだな?」

 

 キメ顔で肩を竦めて見せるアーモンドアイちゃん。控えていたブーケさんが顔を背ける。

 

「クロノジェネシス学生」

「はいッ! それは獲得賞金です!!」

 

 既に立ち上がっていたクロノちゃんが溜め込んでいた勢いで答える。

 

 

 ……獲得賞金って、レースの?

 

 

「えぇ……お金のためなのぉ……?」

 

 私をはじめ、一同ドン引き。

 はっ、と我に返ったらしいクロノちゃんが手をぶんぶん振る。

 

「あっあっ、ちが、違くて……!」

「正解。さすがだなクロノジェネシス学生」

「とっ、トレーナーさん!」

「では解説だ」

 

 クロノちゃんの弁明を聞かずにトレーナーさんはホワイトボードをひっくり返す。

 そこに書かれているのは何層かに別れたピラミッド。

 

「知っての通り、トゥインクル・シリーズは戦績に基づく階級制だ。『未デビュー・未勝利』から始まり『1勝クラス』『2勝クラス』と昇格していく……で、最後に晴れて『オープンクラス』となるわけだが」

 

 そこでトレーナーさんはペリリとピラミッドを剥がす……あ、それマグネットだったの?

 そして現れたのは……500万下?

 

「これ、元々は収得賞金がそのまま階級分けに使われていてな。今でも制度上収得賞金に基づいてクラス分けを行うんだ」

 

 へ、へぇ……。

 

「勝利数でなく収得賞金で処理することで、未昇格のウマ娘は後々恩恵を受けられたりするんだが……クラシック期までにオープン未昇格の選手以外は特に覚える必要はない」

 

 きみたちが覚えずに済むことを切に願うよ。とトレーナーさんが私を見る。

 

 お、おうふ。

 シニア期までにオープン昇格という目標を掲げる私には現実的でイヤな話だ……。

 

「そして収得賞金とは別に、もうひとつ獲得賞金というものがあるのだが……」

 

 トレーナーさんはホワイトボードに「収得賞金≠獲得賞金」と書く。

 

「獲得賞金というのは実際にもらえる賞金を指す。例えば有マ記念で5億」

「ご、ごおく!?」

 

 5億ということは億ションが5つ!

 

「そして収得賞金は原則1着で加算。対する獲得賞金は上位入着でもらえる」

「え。そうなの?」

 

 てっきり1着じゃないともらえないと思ってた……だってUMAー1とかも優勝しないと賞金もらえないし……。

 

「つまるところ、1着で得られる収得賞金は階級(クラス)分けに必要で、上位入着でも得られる獲得賞金は実際にレースでどのくらい活躍したかを測る指標になるわけだ」

 

 ほ、ほーん。とりあえず2つの賞金額があることは分かった。

 

「で、収得賞金(クラス分け)よりも大事になってくるのは獲得賞金(もらえる金額)だと、クロノジェネシス学生は言っている訳だが……」

 

 みんなに視線を向けられて、顔を真っ赤にして身を縮こまらせるクロノちゃん。

 それから彼女は恨みがましそうにトレーナーさんを見た。

 

「トレーナーさんのいじわる……もう銀行教えませんよ

 

 ん? いまなんか不穏な単語聞こえたんだけど。

 

「クロノちゃん銀行って?」

「なにも言ってませんよーだ」

「いや言ったでしょ。その『銀行』ってゼッタイ白井友長とか菱三UAFじゃない銀行でしょ?! ねぇ!」

「おーい続けるぞー」

「いやいやいや…………」

 

「でだ。この獲得賞金が多いと良いことがある」

 

 まあ、お金は多い方がいいもんね~。

 

「抽選で有利になる」

 

 ほむ。そうなの?

 ふーん……。

 

 あ。

 

「だから、デビュー・ラッシュが起こるのかぁ……」

「そのとおりだ、ヒシミラクル学生」

 

 そう抽選。抽選は魔の存在だ。

 レース記事とか見てると抽選漏れで無念……みたいな話もあるし、私のみてるウマチューバーも抽選漏れを嘆いてたなぁ……。

 

「早いうちから獲得賞金を積み立てておけば、後々の重賞で出走枠より多くの登録があった場合の抽選漏れを防ぐことが出来る」

 

 特にジュニア級G1は数が少なく、路線も集中するからなとトレーナー。

 

「でも。獲得賞金を増やすのなら重賞に出た方が早くないかしら?」

 

 そこに口を挟んできたのはアーモンドアイちゃん。

 

「アーモンドアイ学生の意見もその通り。それで? 誰もが同じことを考えるとしたら?」

「……一刻も早く未勝利を脱出して、7・8月の夏ジュニア重賞で獲得賞金を積み上げる……なるほど……」

 

 納得に包まれるチーム部屋。

 単純に7月以降のメイクデビューは遠征前提になるから東京でデビューしようとしただけなんだけれど、もしかしてこれって大正解だった?

 

「さっすがミラ子、考えてるぅ」

 

 小突いてくるハートちゃん。

 いや~それほどでも……あるかなぁ~!

 

 

 

 


 

 

 

メイクデビュー東京

東京レース場

芝・左・1600M

 

 

 

 

 

「いよいよだね、スティル」

「はい。トレーナーさん」

 

 若くてイケメンなトレーナーと、栗毛のウマ娘が会話している。

 そのウマ娘の表情はヴェール型のメンコで隠れて、ここからでは表情は分からない。

 

「今日、きみの走りを世界は目にすることになる」

「はい。とても、とっても楽しみです。早く……」

 

 トレーナーが彼女の口元に手を添える。

 

「まだガマンだよ、スティル。テーブルマナーは大切にしなきゃ」

「いけません。私としたことが……」

 

 

 

「……なんなのあの人達」

「ミラクルさん。見た目に惑わされてはいけません」

 

 えっクロノちゃん? どうしたの急に。

 というかここ関係者エリアなんだけれど。クロノちゃんは私の関係者(チームメイト)だから別に問題はないのかな。

 

「彼女はスティルインラブ選手。アンダーグラウンドでは有名な『駆ケ狂イ』です」

「へぇ~」

「なんでも、京浜一帯の走り屋を全て()()()()しまったとか」

 

 それでいて学園では清楚で憂いを帯びた女学生として通っているんですから恐ろしいですよね。

 清楚で理知的な芦毛ウマ娘として学園では通っているクロノちゃんがそんなことを言う。

 

「その理屈だとクロノちゃんは『賭ケ狂イ』だね」

「えへへ。そうでもありませんけど……」

 

 うん。褒めてないからね。

 ほんっっっとうに、ほめてないからね?

 

「それで? どう気をつければいいの?」

「結論から言うと、彼女と当たった時点で詰みですね」

 

 うーん。そっかぁ。

 いや、もうちょいオブラートに包んでくれてもよくない?

 

「もし救いがあるとするのなら、彼女の担当が新人トレーナーであることでしょうか。メイクデビューはトレーナーの実力が多めに出ると言われていますから」

 

 へえ~……というかそういう意味だと私って不利じゃない?

 だって、名義貸しトレーナーだし。

 

「はい。ですのでミラクルさん。残念ながら9番人気です」

「そっかぁ……まあ一桁人気だしギリギリ勝てるかもって感じかな?」

「いえ。メイクデビューは9人立てなので……」

 

 最下位じゃん!

 

「いや、いやいやいや……そこまでかな私。別に芦毛は走らないなんて過去の話だよ?」

「パドックに出たら分かると思いますよ」

 

 ほーん。そこまで言うなら見てやろうじゃないの。

 

「ヒシミラクル選手、お願いします」

 

 お、ちょうど出番だ。

 

『9番人気、ヒシミラクル』

 

 えっと、まずは観客に身体の調子を見せるんだよね。URA基本動作の足さばきは……。

 

「おや? またしても紐付けられし同輩(クラスメイト)下界(ミッドガルド)から闘技場(コロッセオ)へと脚を踏み入れたようだな」

 

 っと、誰かと思えばギムレットちゃんじゃないですか。

 ていうか。同じクラスとはいえすみっこぐらし(目立たないように)してた私のことちゃんと覚えてるんだね。えらい。

 

「わぁ、同じレースなんて偶然だねぇ。今日はよろしく~」

「偶然? 否、これは運命(ファータム)!」

 

 わお、なんて言ったんだろ。

 「偶然」を否定してるんなら「必然」的な感じかな?

 

 必然……うーん、そこまでかな?

 同い年なら本格化のタイミングも被りやすいし、デビュー年度が同じになることはままあることだと思うけれど。

 

 てか……やっぱり同学年の子、多いなぁ。

 あ、向こうにクリスエスちゃんもいるじゃん。相変わらずハリウッド映画みたいな雰囲気だねぇ。

 

「……」

 

 ん。なになに、なんか隅っこの方からメチャクチャ視線くるんですけれど。

 えーとなになに、ゼッケンには「ネオユニヴァース」と。

 

「感じる……『TND』だね」

「え、なんです急に……」

「”ネオユニヴァース”は『MRC』だよ」

「? なんて?」

「『MRC』は……『DMUR』だよ」

「??????」

 

 なに言ってるんだろあのヒト。

 

「んもぉーッ!!! 6番人気ってなに!?」

「お、落ち着いてください。スイープトウショウさん」

 

 おっと、反対の方ではなんかちっちゃいウマ娘さんが()()()()()を起こしてますね。ていうか、帽子でっかいね。

 

「人気というのはあくまで予想であって、決して勝敗に関係するものでは……」

「うるさい! スイーピーは1番じゃなきゃダメなの! ていうかロブロイ、アンタは4番人気じゃない!」

 

 わぁ。すごい1番への執念。さすがはトゥインクル・シリーズというか、すごいガツガツしてるんだなぁ……。

 …………ていうか。もしかして私、9番人気にもうちょっと危機感持った方がいい?

 

「あっはっはっ! デビュー・ラッシュは面白いモノが見られると聞いていたが、これは最高だな! だろう? ヒシミラクル」

「えっあっ。そうですね~」

 

 えっなに急に話しかけてくるの。コミュ力お化けか。

 私は目線を動かさないようにゼッケンの文字を読む。周辺視野ってやつね。

 伊達にクラスのカースト上位から睨まれないように生きてきてませんよぉ!

 

「タップダンスシチーちゃん、も。今日は物見遊山できた感じです?」

「まあそんなところだ。なにせ面白いじゃないか――――」

 

 よ、よかったぁ。コミュ力お化けだけれど、そこまで勝利にギラギラって訳じゃなさそう。

 

「――――これだけの財宝(あいて)が集まるパーティ会場なんて、ジュニア級ではここくらいしかない。だろう?」

 

 はい前言撤回。全然このヒトもギラギラでーす。

 うわ、やっちゃったかな。なんかトンデモナイお相手さんしかいないんですけれど。

 

「うぅ……なんで僕、こんなところに来ちゃったんだろう……」

 

 ややっ、その声は我が友(ゼッケン表記によると)シュヴァルグランではないか?

 私と同じすみっこぐらしな感じにシンパシー! 同胞の眼差し注いじゃお~!

 

「すごい見てくる……誰? 怖い……」

 

 目そらされたぁ!?

 

 

「とまーれぇー」

 

 

 あっヤバ。パドック・アピール終了の合図だ。

 はい決めポーズ決めポーズ。まあ重賞レースでもないし、写真撮影も大したことないでしょ……って、なんか多くない?

 

 

「今年のデビュー・ラッシュも凄まじいメンツだな」

「ここから勝者は1人だけ……誰が勝ってもおかしくない」

「アストンマーチャンをよろしくお願いします」

「このメンツで8人が未勝利送りってマジ?」

「写真映えしすぎて逆に画角にこまりますねー」

「素晴らしいです!(小声)」

 

 

 う、うわ~……改めて見るとなんか。ギャラリーもヤバ…………場違い感すごすぎ……。

 

 うーん、やっぱり来るんじゃなかったかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

メイクデビュー東京

ヒシミラクル

9着

 

 

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