やってきました! 東京駅!
「はい。全員注目~」
赤煉瓦の駅舎の前、ものすごーく広い広場の一角でトレーナーさんが両手でメガホン。
そして私の周りには、ウマ娘がそこそこ。
これ、普段のコース練習よりも人数多いんじゃ?
「今日から合宿です。なんと今年は所属メンバー6割も参加です!」
「みなさん、ありがとうございます♪トレーナーさんの人件費を確実に反映できるイベントに来てくださって本当に嬉しいです♪」
「ブーケ、内情漏らすのはやめようなー」
なんかこの掛け合いも慣れてきたなぁ。
それにしても夏合宿。楽しみでしかない!
「ていうかミラ子来られてよかったね、合宿」
「今回ばかりは
「ふふん。私だってやれば出来るんですよ~もう二度とやりたくないけど」
いや本当に。もう二度とやりたくないですよ。
アイちゃんとの地獄の
「まあ? 終わりよければ全て良しってことでね?」
おかげサマで夏合宿を十全に楽しめるってもんですから、こりゃ感謝しないとですよね。
「いやホント、助かったよアイちゃん」
「? 私は当然のことをしたまでよ!」
うお聖女、聖女がいる……!
とかなんとかやっているうちに、トレーナーさんの長話も佳境を迎える。
「……さて、知っての通りウチには俺以外にトレーナーがいません」
はいはい。知ってます知ってます。
「そこで、各世代ごとにリーダーウマ娘を決めて。点呼などはリーダーにやってもらうのでよろしく。去年参加した学生は要領分かっていると思うが、リーダーの責任は重大だからな~?」
はへー。
まあ、
「よろしくねぇ、アイちゃ」
「ジュニア組のリーダーはヒシミラクル学生!」
はい?
「ぼっくらの世代のリーダーはぁ~♪」
「ひしっみーひっしみーひっしひっしみー……」
ってなんでやねん!
どうして私がリーダーなの!?
「……ミラクルに負けた」
うわーんアイちゃん落ち込んでる!
ていうかリーダーに指名されないと負け判定なのおかしくない?!
「アイちゃん、リーダー譲るよ?」
「情けは受けないわ!!!」
「違うよ! 私のため!!」
情けは人のためならず、って言うでしょ!
「やっぱり情けじゃない!!!」
あーもう、話が通じないよぉ……!
いやトレーナーさんに指名されたリーダーを譲れるのかっていうと多分無理なんだけれどさぁ!
あーもう、もういい!
点呼します! やけくそ点呼!
「ハートちゃん!」
「はいっ」
「ロン!」
「はぁい」
「アイちゃん!」
「……はい」
「クロノちゃん!」
「はい」
そして私、ヒシミラクル! 以上!
「ブーケさん。ジュニア・未デビュー組5名、全員いますっ!」
「ありがとう、ヒシミラクルさん」
それにしても……当たり前の話だけれど、他の世代のウマ娘もチームに所属しているんだよね。
トレーナーさんは6割くらい合宿に来てるって言ってたから、案外〈クエーサー〉も大所帯なんだなぁ……。
…………アイちゃんがもし、本当に海外遠征するなら。
トレーナーさんはどうやってチームを回すつもりなんだろう?
『大変長らくお待たせしました。停車中の札幌行き〈はやすぎ9号〉車内清掃完了しましたため、ただ今よりご乗車いただけまぁす』
「よーしみんな乗り込めー」
トレーナーさんに言われるまでもなく、みんなワーイと列車に乗り込んでいく。
今日使うのは新幹線。2列と3列の座席があるので、もちろんいつもの3人でよいしょっと3列席の方へと座る。
「楽しみだねぇ」
「トランプ持ってきた?」
すっかり観光気分のハートちゃんにロン。
私は当然でしょ~とトランプを取り出しつつ、少しだけ安心。
ロンは、先週のメイクデビューに出走。
結果は7着。
そしてハートちゃんは、函館でのメイクデビューが控えている。
勝てば函館ジュニアステークスに直行予定だけど……。
「ねね、そういえばさ」
「んん? どしたの?」
ハートちゃんが急にひそひそ声。
「トレーナーさんとブーケさんって、どんな関係なのか知ってる?」
「そりゃあ、トレーナーと担当ウマ娘じゃないかなぁ」
いつもどおりに返すロン。
いつもどおり……だよね、たぶん。
「ミラ子はどう思う?」
「えっ? あっ、うーん……どうって言われても……」
私はトレーナーさんとブーケさん。当たり前のように2列席の隣同士で座った2人を見る。
「せっかくですし、新幹線にまつわる映画がみたいです♪」
「ずいぶん範囲が狭いな」
「トレーナーさんはどの映画がみたいですか?」
「うーん。『バレッ○・トレイン』かなぁ」
「トレーナーさんは、どの映画がみたいですか?」
「……『新感○ファイナルエクスプレス』かなぁ」
「トレーナーさんは、どの映画が、みたいですか?」
「…………『新○線大爆破』です」
「いいですね♪ そうしましょう♪」
「草○剛が好きなの?」
「2番目くらいに好きです。カッコイイですし」
「…………普通のトレーナーと担当ウマ娘、って感じじゃないよねぇ」
「だよね! でねでね、2人は専属契約だったんだって!」
「へぇー……」
専属契約。
それは1人のトレーナーが、1人の競走ウマ娘をつきっきりで指導する契約形態。
才能あるウマ娘と、その才能に全てを捧げるトレーナーとの間で結ばれる神聖な契約。
私たちが結ぶ名義貸しチームとの契約とは、対極に位置する存在。
少し前までは、私もスカウトされたら専属トレーナーがつくのかなぁとか、レース漫画みたいに青春の全部をレースにぶつける! みたいなこと考えていたけれど……。
「ミラクル! トランプでも勝負よッ!」
「うぇえっ?」
びょんと飛び出したアイちゃん。ギラギラの星お目々。
ていうか前の席に座ってたんだね……。
「アイさん。むやみに立ち上がると危ないですよ」
「分かったわ!」
ひゅんと引っ込むアイちゃん。素直だね……。
代わりにクロノちゃんのウマ耳が座席の向こうから飛び出す。
「こちら、座席を回転させてもいいですか?」
「もちろん。一緒にトランプしよ~!」
でもね。私はチームで良かったとも思っているのです。
だってこうして、みんなでトランプしながら合宿に行けるわけだし。
というわけで、着きましたよ北海道!
私たちを待ち受けるのはキモカワご当地キャラに、海の幸!
「あっさり、しじみっ、はまぐりさーん♪」
「ミラ子ってば、それ全部貝じゃーん」
「でも今日の夕ご飯はホッキ貝だってよぉ~?」
「それマ? 激アツぅ♪」
さて旅館についたら最初にすることは決まっているよね?
そう! ドキドキわくわく部屋割り発表!
「はいリーダー。これなくすなよ」
「トレーナーさん、この鍵は?」
「ジュニア・未デビュー組の部屋。5人部屋な」
う~~~~ん。知ってた!!!
なんの変哲もない部屋割りでございます。
鍵を開けて……
「はい一番乗りッ! ここ私のね!」
「うわっ取られた?! リーダー大人げないぞ~!」
「職権乱用だねぇ」
絶対安全領域である部屋の角を占拠して、荷物で場所取り。
この場所なら誰の動線にも被らず、安眠をむさぼることが出来るのです!
「ねぇ? 私はここをもらってもいいかしら?」
一方アイちゃんが荷物を置くのは部屋に入ってすぐの所。
「入り口だけどいいの?」
「ええ。こっちの方がトレーニングに行きやすいじゃない」
お、おう。さすが努力ガチ勢は違うね。
断り切れなくて付き合っちゃったけれど、あれしんどかったなぁ……。
「…………どうしよう」
「あれ? クロノちゃんどうしたの?」
そんな調子で室内のお布団配置を決めをしていると、なぜか入り口で立ち尽くしているクロノちゃん。
「クロノちゃんも早く来ないと、場所決めちゃうよ~?」
「えっ? 場所?」
「うん。布団の敷く場所」
「……あぁ! そういうお話ですね。でしたら……」
うん? どうしたんだろう。いつものクロノちゃんらしくないよーな。
いつもの頭脳明晰、見た目は
ふーむ。これはもしやリーダー・ヒシミラクルの出番かなぁ?
「ちょいちょい、クロノちゃん」
私はクロノちゃんの荷物解きを手伝う感じでヒソヒソ声。
「もしかして大人数部屋が苦手だったりする? 防音イヤーカバー貸そっか?」
「い、いえいえ! お気になさらず! ただ……」
「ただ?」
「少しだけでもいいので、ひとりになれる時間が欲しくて」
あー。合宿あるあるだねぇ。
普段から2人1部屋の寮生活とはいえ、なんだかんだと1人の時間は取れるモノ。
それが合宿という一日のスケジュールが決まっている生活になれば、そう簡単には1人の時間なんて取れないわけで。
うんうん。わかる、わかるよ。
「多分だけど、クロノちゃんならトレーニング時間とかに戻ってくればいいんじゃない? トレーニングしないんでしょ?」
「いえ。私も来年のデビューを目指しているので、今年の合宿からトレーニングに参加させていただくつもりなんです」
「あー、そういう……」
うーん。こういう時リーダーには何が出来るかな?
「ちょっと私も考えてみるね」
「すみません、巻き込んじゃって……」
「いいっていいって。私これでも、リーダーですし?」
さぁ、夏合宿の始まりだ!