Day. 4
「まばゆちゃん、いってらっしゃーい」
何か、笑顔で声をかけてくれるのが逆に怖いですね。結局、昨日は何も言わずにお店サボっちゃいましたし……。
とまあ、そんなわけで。咲笑さんに声をかけられつつ、私は珍しく時間通りに学校に向かいました。本当はサボろうかとも思ったんですが、こんな時こそいつも通りの日常を味わいたくなったと言いますか。
朝起きて、試しに変身してみて本当にできちゃったときの絶望ですよね。まさに、某名作アニメ映画のあの台詞ですよね。夢だけど、夢じゃなかった。
ただ、時間停止って怪現象に巻き込まれている理由がちょっと分かったのは収穫でした。普通の暮らしをしていた私が突然巻き込まれたわけではなく、魔法少女っていう巻き込まれる理由があったのを忘れていただけだった。まあ、ちゃぶ台をひっくり返されたみたいな話ですけど、納得はいきます。
それに、時間停止と時間遡行を行う何者かの存在。魔法少女という存在を前提にすれば話は簡単です。
私みたいなのでも記憶消去とかいうチートじみた魔法が使えるなら、時間停止と時間遡行ができる更にチートじみた魔法少女がいてもおかしくなくて。その子と私が何かしらの接点があって、私がその子の能力に巻き込まれるようになった。おそらくそんなところでしょう。
だから、無くした記憶を取り戻すためにも、時間停止や時間遡行から抜け出すためにも、その魔法少女を追うのが重要、なんでしょうけど……。
「なんか、ヤバそうな予感しかしないんですよねー……」
その魔法少女の立場に立って考えてみましょう。タイムループものの鉄板ですが、彼女は何かどうしても叶えたい目標があって、時間を繰り返して試行錯誤しているはずです。何か強大な敵を倒したい、とか、命を失う運命にある人を救いたい、とかですかね。まあ、ずっと平和な日常を繰り返していたい、みたいな動機の可能性も無きにしも非ずですが……。
で、そこに同じく繰り返しを認識しているへっぽこ魔法少女が現れた。しかも、時間停止が効かなくて、記憶消去とかいう厄介な能力まで持っている。もし自分の目標を忘れさせられたら、達成できないままループが終わってしまう。
なら、その前に排除しよう、なんてことになってもおかしくないですよね。
もちろん、一緒に協力しよう、となってくれる可能性もありますけど、やっぱり記憶消去とかいう能力を持っている私を信用してくれるか、って点が問題です。それを挽回できるコミュ力は残念ながら私にはありませんし。ただでさえ、魔法少女は生きていくためにグリーフシードが必要で、他の魔法少女はそれを奪い合う敵でもあります。最悪の場合、適当に絶望させられて、グリーフシードゲットだぜ!……となってしまう可能性も……。
だから、接触するなら少なくともその目的を知って、しかも自分が有用だとアピールできるようにならないと危険、ということです。
「じゃあどうやってそうなるんだって話ですよね……」
他の魔法を練習する、まあこれはいい考えです。魔女を倒して戦力として役立つところを見せる……できるもんならやってみろって話ですよね。記憶消去能力を活かして交渉する……危険だと思われるだけだってば。
「うーん……」
と、ぶつぶつ呟きながら歩いていると、いつの間にか学校についていました。とりあえず、他の魔法を練習するのが良さそう、というところで、まずどんな魔法が使えそうか考えてみますか。
うーん、記憶消去が映画のフィルムを切るイメージだったから、なんか映画っぽい能力なら使えたりしないですかね。映画を……視る? 視力強化? それか映画を撮ることから連想して……カメラの機能、拡大とか、録画とか、フラッシュとか……あ、逆に被写体として映らなくするとか……。まあ、色々書きだしてみますか。
*
というわけで、授業そっちのけで能力を考えていたら、いつの間にか下校時間でした。なんか、自分の特殊能力を考えるって……冷静になると……いや、考えないようにしましょう。クラスのボッチ陰キャがノートに魔法の妄想してるなんて、相当ヤバい絵面だってことは。
まあ今さら重度の中二病患者という属性が加わったところで、もともと私のクラス内評価なんて底辺ですから問題ないですか、ははっ。考えない考えない……ぬああああああ! やっぱりめちゃめちゃ恥ずかしくなってきたー!
と、ちょっと今すぐコタツに引きこもりたい気分だったので心なし速足で帰り道を急いでいると、妙な感覚が体を襲いました。こう、ピキーンって感じの、何かを感知したような。
「ん?」
一応辺りを見回してみると、路地裏のところに空間がぼやけたようなところがありました。いや、どういうことってセルフ突っ込みしたくなりましたが、よく見てもそうとしか言い表せないというか。
『魔女や使い魔は自分を中心に結界を展開するんだ。そして、結界を広げたり、結界の中に人を引き込んだりする。まばゆ、先ほどキミが巻き込まれたのも使い魔の結界さ』
その時、唐突に機能のキュゥべえの言葉が脳裏をよぎりました。
「……あー、これが噂の……」
つまり、これがまさしくその結界という奴ですね。まあ、このタイミングで思い出すということは、これも私の体が覚えていたというか、そういうことなんでしょう。
「さて、どうしましょうか。放置すると昨日の私みたいに誰かが巻き込まれたりする、と。で、今のところ他の魔法少女がいる様子はなし」
………。
「え、私がなんとかしなきゃいけない感じですか……!?」
……。
「いやいやいやいやムリムリムリムリ! 誰か、誰か代わりの人!」
……。
「マズいマズいマズい……ど、どうしろってんですかこの私に……」
助けを求めるあてはない。キュゥべえに知らせたところで何もしてくれなさそう。逃げ出す……そうしたいのは山々! 山々なんですけど!
「そんなのムリに決まってるじゃないですかぁ……!」
勢いでソウルジェムを握りしめ、そのまま変身。武器は手に持っているハサミだけ。そりゃ普段使いのハサミよりは大きいですけど、武器としてはちょっと、いやかなり心もとない!
「よーし、こうなったら前の私が実は滅茶苦茶強かった可能性に掛けましょう! それで、体が無意識に動いてくれて敵を一刀両断! え、私なにかしちゃいました? みたいな!」
そうです、こんな意味わかんない状況だけ残していったんだから、そんくらいのおまけがあってもいいですよね、前の私!
「や、やるぞー! おー!」
「やるって何を?」
あれ?
ふと我に返って目の前を見ると、黒い装束に身を包んだ少女。このファッションは、おそらく魔法少女でしょう。というか、爪怖っ! 見るからに強そう! ……私とは大違いですね。
「ねえ、それで何をやるのさ」
「え……。そ、それはもちろん魔女を……」
「ということは、私が魔女を倒した今、キミはそのやる気の矛先を失ってしまったわけだ。なら、ちょうどいいね」
そういいつつ、彼女はじりじりとにじり寄ってきます。嫌な予感しかしない!
「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょうどいいって何が」
「だからさ。私も魔女が弱っち過ぎてやりきれないところだったんだよ。でも、そこにキミがいてくれた」
そして、彼女はその大きな爪ごと腕を振り上げて……ウソっ!? ままままままマジですか!?
「キミは、私の八つ当たりに付き合ってくれる、かい!」
「ぎゃあああああ!」
咄嗟に右へ避けた瞬間、耳元で轟く粉砕音。どう考えても人に向ける威力じゃない! ヤバい! 本気でヤバい人ですこの人! こうなったら、一か八か、やるしかない!
「お、避けたね。やるじゃないか。その調子で私を楽しませて……って、うん? どうしたの? 何そのポーズ?」
地べたに正座で座り込んで、そのまま額を擦り付けた私。そう、土下座です!
「ど、どどど、どうしたもこうしたも……降参! 降参です! い、命だけは! 命だけはお助け下さい!」
「いや、別に私も命まで取ろうってわけじゃ……骨折くらいはしてもらうかもだけど……でも、そっか。そんなに私と戦いたくないの?」
「はい! それは勿論!」
「えー、参ったなぁ、それじゃ私はこの鬱憤をどうすればいいんだい?」
知るか! と答えそうになるのを必死に抑えて、何とか答えを絞り出します。
「……え、映画とか如何でしょうか。その、気晴らしにはなるかなって思うんですけど……」
「映画、映画ねぇ。あんまり興味ないんだけどなぁ。前にクラスメイトと一緒に入った奴も全然面白くなかったし」
「いえいえ、映画と言っても様々ですよ。一つの映画を見てすべての映画を分かった気になるのはあまりに浅すぎる! ちなみに、どんな映画だったんです?」
あ、つい饒舌に……。
「え!? あんまり覚えてないけど、そうだな、普通に恋愛系だったような」
「恋愛以外にも映画のジャンルは様々ですよ! どういったものが好きか教えて頂ければお薦めの映画も紹介しますし! 少なくとも、私みたいなのをいたぶるよりもよっぽど楽しいはずです!」
だから、ここは見逃して映画館に行ってください!
「ふーん。ま、それもアリか。じゃあ、よろしくね」
「……え?」
*
「お、お邪魔します……」
「お菓子とジュース取ってくるから、キミはテレビの準備を頼むよ」
「は、はい。分かりました……」
思いっきり墓穴を掘りました……! まさか呉さんのお家で上映会を開く羽目になるなんて……!
それもこれもオススメを教えるなんて言ってしまったからです! まあ、私もオタクたるもの? もしクラスメイトに訊かれた時用の一般向けオススメ映画なんかを妄想したりすることはありましたから、とりあえずレンタルビデオ屋に向かったわけですかが。
『こ、これとかどうでしょうか……? 結構ミステリの要素もあって退屈せずに見れると思うんですが……』
『ならそれにしようか。で、どこで見ようか?』
『え? じ、自宅で見てもらえれば』
『私の部屋だね。オーケー、それじゃあ付いてきて』
『……ん? え、えええぇぇぇ!?』
まさかそのまま御呼ばれしてしまうとは! 初対面の相手をいきなり自宅に連れ込むなんて、こ、これが陽キャ……!?
そして、彼女が道中訊いてもいないのに自分の情報を開示してくるので、自然と彼女のパーソナリティを知ってしまいました。私としては、全然知りたくも何ともなかったですけど!
彼女は呉キリカさん。願いは『違う自分になりたい』だとか。ただ、どうしてそう願ったのかは覚えてないそうで、そのもやもやを通り魔行為で発散しているようです。なんてはた迷惑!
ただ、願いについての記憶が怪しいというのは私と一緒で、そのことを話すと『じゃあ、そういう感じの映画はないのかい?』と。そう言われて思いあたったのは一本の映画。10分までしか物事を記憶できない男が主人公の、アカデミー賞にもノミネートされた名作映画です。最初は設定が分からず混乱しますが、主人公の記憶を追体験するうちにだんだんと事件の真相が明らかになっていくという、ミステリー仕立てのサスペンス! これなら映画を見ない陽キャの呉さんでも退屈しないはず……!
と、思っていたのですが。
『女房に許しを乞え、頭をぶち抜く前にな』『記憶もないくせに……』
ポリポリ。
『もっと自分を信じて。何も分からないんだから』
ポリポリ。
『キミが考えるべき疑問だ。このスーツや車はどこで買った?』
物語が佳境に入る中、呉さんはまったく態度を変えることなく、ただ詰まらなさそうにテレビを眺めながらポテトチップスをつまんでいました。
これは、どっちだ……!? ただそう見えているだけ? それとも本当につまらない? いや、それなら途中で視聴を打ち切っている、はず。別にケータイをいじったりもしてないし、少なくとも映画のストーリーを追ってはくれている、はず! でもそれなら表情をちょっとくらい変えて欲しい! うわー、やっぱり映画のチョイスが不味かったでしょうか! もうちょっと楽しい映画にしておけば、この部屋も意外とファンシーですし。というか、改めて見るとこの映画ややこしすぎる! 面白いとか以前にそもそも話についていけないかもじゃないでしょうか! オタクの悪いとこ出ちゃいましたか!?
いや、冷静になれ私! もう考えてもしょうがない! とりあえず映画は最後まで見てくれそうな雰囲気だし、少なくともそこまで私の命はあると思えば……って、死ぬこと前提!?
「ねぇ」
「ひゃ、ひゃい!」
声をかけられて我に返ると、いつの間にかスタッフロールが流れていました。
「あ、終わってる……」
「あれ、寝てた? まあいいけど。それよりさ、一個聞いていい?」
「な、なんでしょう」
「これって続きとかあるの? それともここで終わり?」
あ、映画についての質問だった。
「えっと、少なくとも続編の映画はなかった気がします。原作は私も読んだことが無いので分からないんですけど」
「ふーん、じゃあこの主人公がこの後どうなったかは分からないわけだ」
「この後、つまり時系列的には映画の冒頭シーンの後ってことですよね。そうですね、まあ普通に考えるなら逮捕されると思いますけど」
「でも、彼の中では復讐を成し遂げたってことになってる。だから大人しく捕まるか、あるいはまた記憶を勝手に作って違うストーリーの中を生きるようになるか。全く、周りの人間にとっては迷惑も良いところだね」
あなたもそういう人間ですよ、という言葉が喉元まで出かかりました。でも、結構しっかり見てくれたみたいなのはちょっと意外です。
「……まあ、本人がそれで生きていけるならそれでいいような気もします。そもそも、事故による記憶障害が全ての原因なわけですし」
「そう! そこも気になったんだけどさ、彼って本当に生きているっていえるのかい? だって、10分前の自分と今の自分が連続していない。 今どんなに嬉しくても悲しくても、10分後にはすべてを忘れてしまう。一度死んで生まれ直しているだけだ」
「いやいや、流石にそれは言いすぎですよ。事故にあうまでの記憶は共通だし、人格だって同じなわけですし。主人公だってそう思っているからこそ、未来の自分に復讐を託したわけじゃないですか」
「そうかい? むしろその行動こそ、今と未来の自分が違う人間だって証明しているように感じたな。だって、結局未来の自分を騙して操り人形にしたわけだろ? 同じ自分だと思ってたらそんな残酷で無意味なことはしないさ」
「で、でも、自分を騙すって良くあるじゃないですか。さっきご飯いっぱい食べたけど、ケーキは別腹だから大丈夫、とか。だいたい、記憶を失うのが死ぬことなんだったら、私たちどっちも一回死んだってことになるじゃないですか」
そう、かつてキュゥべえと契約を交わした私。魔法少女として戦っていた……かもしれない私。その記憶をなくしたまま放り出された私。それでも、結局愛生まばゆは愛生まばゆのままで、変わらず学校に通って、レコンパンスを手伝って、映画が好き。少なくとも、咲笑さんが、一番私を近くで見ている人が何も言わない以上はそのはずです。だから、私は、変わらず生きている。
そのはずなのに。
「そう、だから私たちは一回死んで生まれ変わったんだ」
彼女は、なんてこともなく、そう言ってのけました。
「なるほどね、だから私は一度死んでまで託してきたかつての私の願いが分からなくてイライラしているんだ。あっははっ! そうか、そうと分かったらますますイライラしてきたな! ねえ、映画の人、もしよかったらやっぱり今からでも」
ってヤバい! なんか話がマズい方向に転がってる!
「い、いえ! 今日はこの辺で失礼させてもらいますっ! お菓子ありがとうございました! それでは! ……ふぎゃっ!」
危機を察知した私は急いで彼女の部屋から脱走! ……しようとしたらコケた! しまった、ずっと座って映画見てたから足が痺れてる!
……というか、本当になんなんでしょう。昨日からこんなことばっか! 変なのに殺されかけるし、いきなり衝撃の事実を聞かされるし、せっかく覚悟決めたのに不意にされるし、変な人に殺されかけるし、変な人と映画観賞会する羽目になるし! ……まあ、それはちょっと楽しかったけど。
とにかく、なんか散々過ぎてもうどうでもよくなってきました。あー、なんかもう立ち上がる気力もない。このまま地面に溶けてシミになりたい。なんて考えてると、背後から
「ぷっ」と笑われました。……笑われた!? 私をこんな目に合わせといて!? でもそんなこと声に出すとどうなるかは火を見るよりも明らかなので、私はまたぐっとこらえました。
そうしていると、再度背後から呉さんの声が。
「あ、悪いね、つい笑っちゃった。冗談だよ、そんなに怯えなくてもいいじゃないか。今さらキミを痛めつける気はないよ。映画、確かに面白かったしね。今日は気を付けて帰りなよ」
「……え? 良いんですか? 帰っちゃって」
「うん」
思わず聞き返しちゃいましたけど、ホントに良いみたいです。急いで立ち上がった私は呉さんの部屋を今度こそ後にしました。
もう二度と来ることがありませんように! ……そんな思いで扉を閉めると、中から声を掛けられました。
「でも、本当に気を付けなよ。私だったからいいけど、他の魔法少女に襲われてたらこうはいかない。最悪、殺されるか魔女の餌にされるか。これに懲りたら、不用意に結界に近づくのは止めた方がいいね」
余計なお世話じゃい!
*
そこからの記憶は曖昧です。いつの間にか家にたどり着いた私は、そのままレコンパンスの手伝いをちょっとして、咲笑さんと遅めの夕食を取りました。いえ、咲笑さんに帰るのが遅れた理由を聞かれて、誤魔化すために「ちょっと、友達の家で映画を」と告げた際の咲笑さんの涙は印象に残っています。いや、泣くほどですか。
とにかく、ようやく自分の部屋に戻った私は、黒歴史ノート、もとい授業中に考えた魔法ノートを取り出しました。
今回の件で得た教訓は二つ。一つ、一人で魔女退治が出来るなんで思い上がらない。二つ、世の中ヤバい人がたくさんいるから隠れる方法がないと本当に死ぬ!
そうなると、やはり魔法の練習は急務です。本当ならキュゥべえにも手伝ってもらいたかったのですが、忙しいのかテレパシーで呼びかけても反応してくれません。仕方が無いので一人で練習を行いました。
これで徒労に終わったら本当に最悪の一日でしたが、練習の甲斐あっていくつかの魔法を習得することが出来ました。特に、光学迷彩が出来るようになったのが嬉しい! これがあればもう、今日みたいにいきなり襲われることもありません! これで、枕を高くして眠れるってもんです!
しかしまあ、本当に災難な一日でした。特にあの呉キリカさん。まさかあんな人に絡まれるなんて。まあ、願いのせいで人格が変わっちゃったのなら、同情の余地はありますけど。
……でも。
『映画、確かに面白かったしね』
そんなこと言われたら、嬉しいに決まってるじゃないですか……!
「あー!」
そうやって、つい布団の上でジタバタしながらニヤついてたのは、私だけの秘密です。
サイドストーリー #2
Day. 4
「変な奴だったな……」
一人残された部屋でキリカは呟いた。自分のストレス発散のため、これまで何度も魔法少女に喧嘩を吹っかけてきたが、まさかいきなり降参してくるとは! 思わず呆気にとられてしまい、彼女の珍妙な提案に載せられて一緒に映画まで見てしまった。
「ま、いっか。たまにはこんな日があっても」
キリカにとって、魔法少女とはストレス解消の手段である。
自分の知らない自分が勝手に押し付けていった人格とソウルジェム。もしかしたら、かつての自分にはその願いでまさしく変身した心と体を使って、何か叶えたい思いがあったのかもしれない。かつてとは違う社交的な性格。それを考えれば、まあ誰か仲良くしたい人がいた、とかそんなところだろうか。
だが、今のキリカにはそれが気にくわない。クラスメイトとの無意味な会話、弱い魔女との退屈な戦闘。今の自分を取り巻くすべてが、彼女にとっては退屈で、だからこそそんなものを残していったかつての自分に対する怒りが、彼女を苛立たせていた。
というわけで、あえて人を傷つけ、かつての願いを踏みにじるような行動をとることでストレス発散を試みているのだが、どうにもこれが上手くいかない。戦っている間は幾分かストレスを忘れられても、決着がついてしまうと面白くない。あえて相手を痛めつけるように振舞ってみても、退屈な作業の様に感じられてしまう。
だから、今日の体験はキリカにとって新鮮だった。確かに、言うだけあって映画は面白かった。特に、あのラストシーン! 思わず色々考えてしまい、質問までしてしまった。
記憶を失う前の自分と、失った後の自分。一度死んで生まれ直した、という表現は発見だった。正しくその通り、かつての私は死んだのだ。
だったら、今の私が自由に動いても、死人に口なし、ということだ。そうキリカは閃いた。
これまでの自分は過去の自分の願いの理由を想像して、それを踏みにじろうとしていた。かつての自分に逆らうようで、その実かつての自分に捕らわれていた。
だが、本当はそんな必要はない。記憶が無いのなら、好きに記憶を作ってしまえばいい。もうそれに文句を言う人間は、自分含めて誰もいないのだから。そうすることで、自分は本当に自分のために生きることが出来る。まさにあの映画の主人公の様に。
「……まあ、別に何か思いついたわけでもないけど」
だが、まだキリカはそうするだけの動機も持ち合わせていなかった。今の自分を肯定できるだけの理由が思いつかない以上、差し当たってこのイライラをどうにかするにはこれまで通り戦いを吹っかけていくしかない。つまりは、どうしようもなく八つ当たりだ。
「はーあ。ま、明日もやるかー」
──そして翌日、キリカは彼女に出会う。
■タイムループものの鉄板
主人公がタイムループする一人称の作品たち
これを捻ってヒロインがタイムループする二人称の作品がまどマギ
そしてそれを捻って第三者がタイムループに巻き込まれる三人称の作品がscene0、らしい
詳しくは先日公開されたシナリオライターのインタビューをチェック!
■へっぽこ魔法少女
ふゆぅ
■キリカの家
2011年相当の据え置きゲーム機があるからきっと映画も見れる
■記憶障害の男が主人公の名作映画
ネタバレしまくっちゃったけど、scene0本編でも某傑作音楽映画のネタバレしてたしセーフ
■忙しいキュゥべえ
隣町で人探し中
■『彼女』
手下募集中