Day6
「お~! 凄い、みんなの顔までバッチリ! ……って、まあそんな分かったところで知り合いなんてほとんどいないんですけど。あ、でも、あれは巴さんで、あっちは……呉さん!? うわー、やっぱうちの生徒でしたかー……絶対に近づかないようにしないと」
遠見の魔法の練習中、とんでもない人の顔が見えてしまいました。いやー、やけに見覚えのある服だとは思ってたんですけどね。着崩してたのではっきりと分からなかったというか、分かりたくなかったというか。
しかし、ただでさえ工場見学なんて面倒くさいだけなのに、まさか即死トラップまで仕込まれているとは。さっさと抜け出してきて正解でした。あ、でもまた点呼の時に戻らなきゃですか……。
……見なかったことにしましょう! それよりも、今は魔法の話です!
練習の甲斐あって、少なくとも今使える魔法はもう使いこなしたと言っても良いでしょう。 昨日は光学迷彩で映画のタダ見も出来ましたし! ……流石に罪悪感もあるのでもうしませんけど。
遠見と、それを利用した読唇術。そして身を隠す光学迷彩! これを利用すれば、きっと!……いや、どう考えても戦闘スキルじゃないなこれ。
まあ、身を隠せるのはいいとして、気付かれずに近づいて、それからハサミで刺す? 切る? うーん、針に刺された程度のダメージしか与えられないんじゃ……。
サポートなら自信あるんですけどね! 遠くから魔女を確認して、そっと近づいて味方の攻撃を当てる手伝いをするとか! ほら、中々使い道がありそうじゃないですか?
……逆に言うと、気付かない内に記憶を消される可能性があるってことで、危険性の方も上がっちゃったんですけどね。これ、ますます信用される気がしなくなってきました。
「はぁ……」
便利な魔法を身に着けることが出来たのは一つ良いことです。生存性も大分上がった気がします。危険から身を避けて隠れるという点で、ですけど。
でも、じゃあこれで準備万端!……ってことで、改めて時間停止や時間遡行の謎を追う。それは……うーん、あんまり気が進みませんね。
『私だったからいいけど、他の魔法少女に襲われてたらこうはいかない。最悪、殺されるか魔女の餌にされるか』
去り際に告げられた、呉さんの忠告。いや、貴女が言っちゃうんですかそれ、って感じですけど、だからこそとても説得力がありました。
流石にみんながみんなそんな殺伐としてるわけじゃないと信じたいですけど、やっぱり他の魔法少女と接触するのは気が引けます。警戒するに越したことは無い、ですよね。
だから、その時間を操る魔法少女についても、やっぱり接触は避けたいです。せいぜい遠目にストーカーするくらいが限度で、それ以上の介入はこちらの身が危ない可能性が高い。
となると、私は彼女の行動にほぼ干渉できないわけで、あとは彼女がループを脱出するのを見守りつつ祈るだけ。しかも、彼女の目標が良いことなら手伝ったりもできるかもですけど、例えば世界を滅亡させようとしてたりしたら? それこそ、ボッチの私にはどうしようもないです。誰かがその野望を打ち砕いて、ついでにループを止めてくれるのを祈るだけ。結局そこでもお祈りが発生するわけで、じゃあ、そもそも探す必要あるのか、って話ですよ。
「なんか、もうよくないですかね……ちょっと、色々疲れました」
なんだか、どっと疲労感が湧いてきました。
もう、時間停止でもループでもなんでもしてくれ、という気分です。新作映画が見れないのは残念ですけど、まだまだ見てない過去の作品はたくさんありますし。そうだ! いっそループ中にレンタルビデオ屋のDVDの制覇を目指すってのはどうでしょうか。時間が戻ればお小遣いも戻るから、お金も時間も使い放題! にひひ、夢が広がりますね……!
いや、でもそうやって映画ばっか見てると、そのうち魔女になっちゃうんでしたっけ。魔法を使わなかったら省エネで行けるけど、それでも徐々に穢れが溜まっていくとか。前の周の記憶から少なくとも1カ月は大丈夫だと思いますけど、それ以上経つとちょっと確証が持てない。というか、そもそもまた巻き戻るという保証もないわけですし。うーん……、やっぱり、ちゃんと調べないとダメでしょうか?
「んー?」
あれ、ボーっと考えてたら工場の門のところで生徒たちがいつの間にか増え始めてますね。ヤバっ、もう点呼の時間です! 急いで戻らないと!
「えいっ!」
屋上からジャンプして、一気に近くまで着地! ……おお、やれるもんですね。 魔法少女の身体能力ってすごい。そのまま工場近くまで近寄って、近づいたところで透明化と変身を解除! なんとか間に合いました! ふぅー、やっぱり普段使いには便利ですね。
「いいかみんな! 10分後にこの場所に集合だからな! トイレなんかはちゃんと済ませておくように!」
あ、というかちょっと早く着きすぎちゃったみたいです。ちょっとどっかのベンチに座って休憩を……。
*pause*
「あれっ? なんか急に静かに……あ、時間停止ですか」
まったく、いつもながら唐突ですね。相変わらずこっちの都合を考えないというか、まあ当たり前ですけど。どうしましょう、とりあえず解除されるまでその辺で座っておきますかね。
その時、視界の端を何かが横切りました。驚いて声を出しそうになって──それを必死に堪えました。止まっている振りをしないと!
私以外にこの世界で動いている人間がいるとして、その正体は私と同じく巻き込まれた被害者か、あるいは時間を止めた張本人か。
前者であれば協力関係を結ぶことも出来るでしょうが、後者だった場合見つかるのは危険です。だって、私にその能力が効かないと一発で分かってしまうわけですから。警戒されるだけならまだマシで、最悪、問答無用で殺されてしまうかも……ひえぇ……。
だからこそ、私の魔法の出番です。ゆっくりと視線だけ動かして周囲に動きが無いことを確認した後、すぐさま変身し透明になりました。これで、見つかる可能性は大きく減ったはずです。
で、どうしましょうか。一息ついたところで私は首をひねりました。
この状態ならまず見つかることは無いはず。でも、絶対にないとも言い切れません。だって、音とか気配は消せませんしね。
せっかくのチャンスです。いまこそ時間停止の犯人を探る時!……としたいのはやまやまですが、やっぱり見つかった時のリスクを考えると……そもそも、もう探さなくていいかな、とかついさっきまで思ってたところですし……。
……いや、やっぱり気になる!
結局、好奇心を抑えきれなかった私は、先ほどまでいたビルの屋上に再度上ることにしました。見晴らしのいいところで、動く人影を探すためです。それに、あそこならまず見つからないでしょうし。
よいしょ……っと。
さーて、どれどれ~……、うーん、良く分からない。遠見の魔法も組み合わせて結構くまなく探したつもりですが、流石に360度同時に見るのは不可能ですし、その状態で一つだけ動いているものを探すのは無理ですよね。やっぱり、諦めますか。
「……ん?」
待ってください、あの工場のところに見えているもやもやした空間、明らかにおかしいです。というか、とても見覚えがある……あ、魔女の結界だ。
そうだ、そもそも何故今時間が止まっているのかって、時間を止めている間にやりたいことがあるからで、それって魔法少女的に考えれば戦闘目的ですよね。避けられない攻撃を避けたり、逆に奇襲の準備をしたり。じゃあ、もしかしてあの空間の中で今まさに戦っている……?
*resume*
あ、景色がまた動き始めた……時間停止を解除した? と、いうことは──。
「……あの人が」
──魔女の結界が消え、一人の魔法少女が姿を現しました。
まっすぐに黒く伸びた髪、人形の様に整った顔、そして、鋭く意思を湛えた目。うひゃー! 絵に描いたようなクール系美少女というか、孤独に戦う戦士というか、とにかく滅茶苦茶カッコいい!
あ、髪をかき上げて風にたなびかせてる! 超クール! とってもそれっぽい仕草というか……いや、あれは自分でもカッコいいと思ってやってそう……。かっこよすぎて、逆にちょっと冷静になっちゃった。
なんか、あえてそう振舞ってるみたいなこともあるんでしょうかね。確かに、一人で時間を巻き戻して戦い続けるなんて過酷なこと、気丈にふるまわないとやっていられないのかも……。
「……あれ」
なんかほっぺたが冷たいと思い、触ってみると濡れていました。それは目元まで繋がっていて、気が付くと、私は思いっきり涙を流していたようでした。
「えっ、な、なんで、っ、ちょ、意味が、えっ、やば、止まらな、」
両手で目を抑えても涙は止まらず、それどころかどんどん勢いを増していきます。なんで? あの魔法少女の境遇を勝手に想像して、一人で盛り上がってつい泣いちゃった? い、イタい……イタ過ぎる……。もしかして、アレですか、年を取ると涙腺が弱くなるとか言いますけど、そんな感じの奴ですか!? なるほど、魔法少女になって寿命が減ったからこの年でももう人生終盤……って、全然笑えません!
うわ、どうでも良い思考が頭の中をぐるぐる回って、全然纏まらない。しかも、涙は止まらないし。ホントに私、どうしちゃったんでしょう、まさか、暁美さんを見ただけでこんなになるなんて──。
「──『暁美さん』?」
……そうか。私は、あの人のことを知っていたんだ。
■工場見学
scene 0お馴染みの奴。出典は『The different story』で、そのさらに出典はBD付属ドラマCDの『フェアウェル・ストーリー』。まどドラで読めます。フルボイス
■牛の魔女
爆殺された
■『暁美さん』
まあこっちも名前は魂に刻まれてておかしくないよねって。時間停止の表現は某名作のパクりです。ごめんなさい。知らない人はまどマギ原作で検索して、相対評価上から漁ってください。