Silent Shields/日本国召喚×アベンジャーズ   作:匡近

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1.転移①

澄み渡る青空に、かすかな歪みが波打つかのよう広がっていく。その正体は隠匿システムを展開し空に溶け込む航空空母艦ヘリキャリアだ。

 

最先端の精密機器であふれる作戦室に2人の人物が立っている。国際平和維持組織S.H.I.E.L.D.(シールド)の長官ニック・フューリーと副司令官のマリア・ヒル。彼らの周囲には機器のわずかな音以外、何も響かない。淡く発光する立体的なディスプレイは一見するとハイテクにデザインされた釘のようだが、実際は軌道上に建造中の巨大なS.A.B.E.R.(セイバー)宇宙ステーションだ。それを見つめる彼らの目には内に秘めた決意と疲労が垣間見える。

 

1995年。フューリーは生涯初の異星人と接触した。それも二種属と同時に。

スクラルとクリー、故郷を失い迫害される種族と銀河で支配域の拡大を目論む帝国。地球外が原因の戦争に巻き込まれて生還できたのは彼よりも前に渦中に引き摺り込まれた地球人がいたからに他ならない。

 

思い出したように微笑を浮かべると別ウィンドウに表示された人員リストに目を移した。S.A.B.E.R.プロジェクトには、地球人だけでなくスクラル人や新アスガルドからの人材も含まれていた。異星人が地球に移住して働いている現状は今でもどこか異質で新鮮に感じられる。

 

「S.A.B.E.R.プロジェクトか…私がスクラルに要請した活動とは大違いだ。国際連合がアスガルド人を受け入れた結実とはいえここまでとはな」

 

「彼らにしては珍しい英断でしたね」

 

「2度の異星人の侵略を経験してもソーの貢献は無視できなかったんだろう。当人はまるで気にしてないが」

 

数年前まで異星人とのコミュニティを築いていたのは一握りの者だけだった。今ではノルウェーに建てられた新アスガルド国は観光客で賑わっている。劇的に変化していく情勢に二人は深く関与していたが、消えていた期間でも仲間のスクラル人が味方であり続けていたことには感謝せざるを得なかった。

 

「人道的見地と安全保障では?それともヴァルキリーから出された簡単な要望があまり気が進まないんですか?」

 

彼女の問いかけにフューリーは鼻を鳴らして答える。

 

「いつも相手が面倒でね」

 

新アスガルドが地球に移住するという決断にはソーの影響力が大きかった。だが、国際社会の打算的な一面もあった事は確かだ。

何気なくヒルが指先でホログラムを操作すると地球を中心に世界各国の情勢が映像と小さな音声で反映される。サノスがもたらした大量虐殺。「指パッチン」による破壊と混乱は依然としてその影響を引きずっていた。フューリーもヒルも蘇った後に累積された情報や情勢の変化を受け止めるまで相応の時間を要した。

彼らが歩む道の果てに何が待っているのか、それを知る者は誰もいない。しかし彼らは立ち止まらない。静寂の中、S.A.B.E.R.プロジェクトはその静かな歩みを進め続けている。

 

────…その時だった。

 

静寂を切り裂くアラーム音が響き空気が一変する。黄色の光が壁面に沿って連続的に点滅し広くない部屋の緊張感を一気に高めた。

 

「状況は?」

 

耳に装着した通信端末を慣れた手つきで起動する。訝しげな顔のフューリーが短く問いかけた。

 

「原因不明の振動を検知。それとほぼ同時にトリスケリオンをはじめとする本部施設、各国の主要組織、全ての人工衛星との通信が一斉に途絶したようです。──…航海部に繋げます」

 

突然の緊迫した状況下、しかもあのニック・フューリーからの指令を受けた通信士は喧騒が渦巻く状況でも冷静に行動した。

 

「司令官、こちら航海部です。外部カメラの記録をそちらの端末と共有します。外部通信が途絶する前の記録において確認されていたのは海面と雲でした。しかし―…」

 

彼女が言葉を一度切り、記録映像が一瞬だけ周囲が幾何学的な模様が拡がる宇宙に覆われた後に現在の風景に切り替わる。

 

「見て分かる通り最大の異常点は水平線の曲率にあります。現在、水平線が描く円弧が従来の地球上で観測されるものとは大きく異なり目視でも明らかに曲率が緩やかです」

 

既にヒルと共に足早に艦橋に向かうフューリーの目に映る水平線は、この世界の地平がより大きな円の一部であるかのようだった。

 

「高度はどうなっている?」

 

「ヘリキャリアの高度は依然としておよそ2,0000メートル、船体周辺の重力加速度も同じ約9.8m/s²を維持しています。大気の光の屈折や圧力の影響も考えられますが…」

 

「『地球ではない』――別の惑星に移動したと?」

 

その一言にオペレーターの顔が張り詰める。一瞬、口を噤んだが控えめに付け加えた。

 

「しかし長官、例えばテッサレクト(四次元キューブ)が使用された場合には必ず高エネルギー放射とガンマ線が伴います。ですが今回はそんな事象は観測されていません。これでは理屈に合いませんよ」

 

「ならばロキと同等かそれ以上の脅威を想定して動くべきだな」

 

「現時点ではそのような確証はありませんが…記録された全事象を情報部と共同で分析中です」

 

「続けろ」

 

返答に特に反応を示さずに通信を終えると足を止めた。フューリーの記憶は一瞬、ニューヨークのあの日へ遡る。ロキがチタウリを率いて行った侵略。摩天楼が崩れ落ち、地は焼かれた。空に大きな穴を作り出したあの光景は未だ鮮明だ。

 

「ヒル、全乗員の安全確保を最優先。次に現状把握と情報収集だ」

 

「了解」

 

彼女が答える間もなく、別方向へ歩きながら言葉を続ける。

 

「私は『奴ら』と話す」

 

ヒルは表情を引き締め、指揮を執るべく艦橋へと急いだ。

警告灯が点滅し続ける艦内は静けさを許さない場と化していた。廊下を走る乗員たちは緊急事態に対処すべく行き交い、誰もが自分の役割を果たすことに集中していた。慌ただしい足音が金属製の床を打ち鳴らし、短い指示や報告の声が聞こえる。

 

そんな中、テッサレクトのような強大なエネルギー源なしで400メートル級のヘリキャリアを別惑星へと送り込む事象にヒルの頭の中では状況の分析が錯綜していた。艦橋に足を踏み入れると乗員たちの緊張した空気がその場を支配している。正面の強化ガラスの外は文字通り異世界の空だ。飛び交う報告と指令の声が、異常事態の深刻さを物語る。

 

「副司令ッ」

 

若い通信士がヒルに駆け寄る。額に汗が滲んでいるがその声はしっかりとしている。

 

「防御システムと隠匿システムの診断が完了しました。双方とも正常に稼働しています」

 

ヒルは短く頷くと全員に聞こえるように明瞭な声で指示を出す。

 

「各部署は速やかに所属乗組員の安否確認と機器の稼働状況を再チェックし、特に通信装置と動力系統は確認を急いで。管制官は対地、対空レーダーによる監視を厳とし異常な物体やエネルギー反応があれば最優先で報告を。この30分間が正念場よ」

 

「了解しました」

 

通信士が足早にその場を去る。少なくとも艦橋に手榴弾を投げ込まれる事はなさそうだ、今はまだ。頭の隅で思っていると航空管制部署の部長補佐が歩み寄る。

 

「副司令、現在ヘリキャリアは高度20000メートルを維持していますが、状況が不明瞭な以上、防衛のために高度を下げて護衛機を発艦させることを提案します」

 

ヒルは一瞬考え込む。防衛を強化することは理にかなっている。しかし、いまだ敵性勢力が確認されていない以上、安易な行動が逆に脅威を引き寄せる可能性もある。

 

「いいえ、まだ動くべきじゃない。まずは情報収集を優先して外部への影響を最小限に抑えることを最優先に」

 

部長補佐は納得したように頷き、管制席へ戻っていった。

 

(防衛システムが正常…?この状況が未知の敵が意図したものだとして、なんの利点が?戦力の分散か或いは私たちを油断させるのが目的か…)

 

同ヘリキャリア内2分前

 

格納庫へと急ぐ途中、艦橋をヒルに任せたフューリーは通信機を操作する。

 

「スターク!いるか?」

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