Silent Shields/日本国召喚×アベンジャーズ   作:匡近

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8.動乱①

 

■ 2015年3月3日

 

日本政府は国家安全保障会議(NSC)を中心に、外務省、防衛省、内閣官房を含む関係省庁による合同協議を実施。異世界に突如現れたS.H.I.E.L.D.(シールド)という組織を前に議論は慎重を極める。

 

厳正な協議の末、政府は非軍事的な補給支援の実施を決定する。

 

これはS.H.I.E.L.D.を不用意に孤立させず情報共有関係を維持を目的としていた。決定は実務へと落とし込まれ、内容と方法についても厳格な線引き行われた。

補給内容は保存食を中心とした食料品(生鮮は最小限)、医療・衛生用品、その他に生活必需品及び日用品が挙げられ、同時に日本政府は選抜された数名の専門技術者によるヘリキャリアの視察が検討された。

 

 

■ 2015年3月4日

 

前日の国家安全保障会議を受け、日本政府は同日午前、内閣官房長官による定例記者会見の場で、異世界において確認された『正体不明の大型浮遊構造体』及び、それを運用する組織との接触について、限定的な情報公開を行った。

 

発表内容は厳しく精査され、軍事的示唆や能力評価、交戦規定といった要素は排除された。

 

政府はこれを、

 

『日本周辺海域において確認された出自不明の大型構造物に関し、関係各省庁が安全確認および情報収集を目的として接触を行っている』と発表。当該組織の名称についても『“S.H.I.E.L.D.”と称する国際的性格を持つ非国家組織』とのみ説明。

 

同時に

 

・当該組織は日本に対し敵対行為を取っていないこと

・現時点で日本国内および国民生活への直接的な危険は確認されていないこと

・接触はあくまで人道的・安全保障上の情報交換を目的としたものであること

 

が強調され、武装や戦力、技術水準に関する質問については『憶測を招くため回答を差し控える』として一貫して言及を避けた。

 

『確認されていない情報に基づく過度な不安や混乱を避けるよう、冷静な対応をお願いしたい』と国民に呼びかけた。

 

事実の存在のみを認め評価や意味付けを意図的に曖昧化するという、日本政府が危機時にしばしば採用する情報統制の典型例であった。

結果として、国民の多くは詳細は不明だが、政府が把握・管理している事案として受け止め、大規模な混乱やパニックは発生する事は無かった。

 

一方で、専門家や一部報道関係者の間では、政府が無視できない規模の存在が確認されたという認識が静かに共有され始めることになる。

 

 

■ 2015年3月7日

 

太平洋上に着水中のヘリキャリアに対し、『おおすみ型輸送艦』およびヘリキャリア艦載機による補給が実施される。

 

 

■ 2015年3月10日

 

気象、海洋、通信、法制度などを専門分野とした技術者ら視察団によるヘリキヤリアの視察が実施され、S.H.I.E.L.D.長官ニック・フューリーが日本人の前に姿を見せる。

 

非軍事区画の視察後半、ヘリキャリアは海面から離水を実施。巨大な船体に比べ、静かに浮上する鋼鉄の島に技術者たちは言葉を失う。

 

 

■ 2015年3月12日

 

視察終了後、S.H.I.E.L.D.は日本政府に対し、情報の共有と人道的観点に基づく危機評価の実施を明言する。

 

日本政府はこれを了承し、結果S.H.I.E.L.D.は同盟国ではないが、無視できない第三勢力という、極めて異例な位置づけを与えられることになった。

 

 

■ 2015年(中央暦1639年)3月17日

 

日本政府の仲介により、S.H.I.E.L.D.とクワ・トイネ公国の間で初の非公式接触が実現。同年3月20日、クイラ王国とも同じく初接触が行われた。

 

情報共有と平和的な相互認識を目的としていたがクワ・トイネ、クイラ両国は日本と関係を持つ勢力であることを理由に、S.H.I.E.L.D.に一定の信頼を示したが同時に組織とその能力については強い警戒も隠せなかった。

 

 

3月下旬を過ぎ、日本政府を仲介役としたS.H.I.E.L.D.は目に見える形で次の段階へと進み始めた。

 

喫緊であった食料は日本政府とS.H.I.E.L.D.研究開発部署による検疫の下、充分な数量が運び込まれた。これは単なる食糧補給以上に長期滞在を前提とした計画が成立する兆しを見せる。そして、鉱物資源国家――原油を含むエネルギー資源の産出国であるクイラ王国との接触。これにより燃料と代替部品の補給にも希望が見えつつあったが…。

 

 

ヘリキャリア/第一会議室

 

 

中央のホログラムにロデニウス大陸と周辺海域。その上に幾つものレイヤーが重なり、資源分布、航路、既存の外交関係が色分けされている。

 

「やはり基地建設は難しいか」

 

フューリーの声が室内に沈む。

 

「異世界転移以降、日本国内の土地価格は急騰し供給は減少、需要は国家主導で集中。民間流通も実質的に統制下です。入り込む余地はありません」

 

ヒルは端末から目を離さず、間を置いてから答える。

ヘリキャリアの維持に必要なのは精密機械の代替部品と自律的に運用できる拠点だ。しかし部品等を精製、加工し、規格に合わせるには外部からの制約を最小限に抑えた地上拠点が必要になる。

 

S.H.I.E.L.D.が確認している各国の文明レベルは極端な偏りがある。魔法が組み込まれた中世後期に相当する国家が大半を占める中で、日本だけが例外的に現代国家として存在している。

 

この非対称性は無暗に進出した場合、技術格差そのもの脅威と見なされ、下手をうてば利用される。

 

スクリーンに表示された交易ルートが強調される。

 

「クワ・トイネ公国、クイラ王国、候補にはなり得ますが政治的リスクが大きすぎます。日本にとって重要な資源供給国です。食料と交易港、エネルギー資源、依存度は高い」

 

「…顰蹙じゃ済まないな」

 

S.H.I.E.L.D.はあくまで日本を介して接触している立場だ。枠組みを逸脱すれば信頼を損なう。日本との関係は単なる友好ではなく生存条件だ。

 

そうした戦略的判断とは別に現場はさらに過酷だ。異世界転移によってS.H.I.E.L.D.の業務は根本から変わり、本来の任務である地球規模の脅威への対処、情報収集、対テロ活動。

 

それらは棚上げされ、代わりに補給管理、資源探索、外交調整、環境適応。国家そのものに近い機能が求められた。

 

整備員は情報部から送られた断片的な地理情報から地政学的構造と大気組成を分析し、艦載機の機材の調整を続けている。

 

通信士は翻訳現象と既存プロトコルの整合性を取り、自分の職務の延長線上で異常事態に適応している彼らはまさしくプロフェッショナルだ。

 

その中で、例外的に艦外へ出ている人物がいた。

トニー・スターク。

彼は技術部の数名と法務部の人間を伴い、技術基盤を把握する為に日本へ渡っている。

 

技術供与は常に法的枠組みとセットだ。特に今回は国家と非国家組織という前例のない関係性になる。希少な法務部が同行しているのはその為だ。

 

どこまで開示し、どこまで守秘するか。誤れば協力関係が破綻する。境界線を見極める役割も担っている。

 

もっともスタークは重苦しい話よりも、別世界の日本の工業基盤と歴史の類似点と相違点に対する純粋な興味の方が大きいようだったが。その他、ヘリキャリア内の業務に問題が出ない範囲でクワ・トイネ公国へフィールドワークへ出ている者達もいる。

 

 

「長官、日本国外務省より緊急連絡です」

 

艦内通信チャンネルが開かれ音声の波形がホログラム内右端に表示される。フューリーは視線だけを動かし、ヒルを見る。彼女は頷き既に椅子を引いて立ち上がっていた。

 

「回線を確保して。暗号レベルは先方に合わせて」

 

「了解」

 

彼女が身だしなみを整えている合間にも会議室の照明は切り替えられ、外交的体裁が作られていく。通信士の指が走り、連絡が入ってから数分でスクリーンに日本政府の通信ウィンドウが立ち上がる。

 

控えめな明度で日本国外務省の会議室らしき一角でスーツ姿の職員ら数名がが映し出され、中央の男性が一礼する。

 

『突然のご連絡をお許しください。外務省総合外交政策局安全保障政策課の赤井です。本日はお時間を頂き、ありがとうございます』

 

「副長官のマリア・ヒルです」

 

『緊急性が高いため事前調整を省略しました。直ちに共有すべき事態が発生しています』

 

互いに形式的な挨拶を交わした後、赤井は評価や感情を排除し淡々と説明を行った。

 

地名と距離、事実関係、第三国の評価。話が進むにつれ室内の空気はさらに張り詰めていく。

 

ロウリア王国によるクワ・トイネ公国への軍事侵攻。

 

説明が終わると短い沈黙を挟んでやや険しい顔つきのヒルの口が開いた。

 

「……一点、確認させてほしいのですが貴国としては、外交的手段をすでに模索したという理解でよろしいですね」

 

『はい。2月下旬、ロウリア王国に対して公式な外交接触を試みましたが訪問した職員によると会談そのものを拒否されました。実質的に外交的意思疎通は成立しませんでした』

 

ヒルは表情を変えなかったが、その指先がわずかに動いた。

 

「交渉の土俵に立つ意思すらない、と」

 

『その通りです…』

 

画面の向こうで、外務省職員は一瞬だけ視線を落とした。カメラの視野角より外でフューリーは腕組みのまま、眼帯の奥でその姿を見据えている。

 

一組織であるS.H.I.E.L.D.に、国家間の外交を代替する権限はない。まして、相手が最初から外国との対話を拒否している以上、説得や仲裁という選択肢は成立しない。

 

「…我々としても、話し合いによる解決は現実的ではないと判断します。その上で、クワ・トイネ公国政府の許可を得れれば、我々は情報収集を検討します。現地周辺の動向、兵力規模、準備状況の把握が目的です」

 

『それは……』

 

「介入ではありません。あくまで観測を」

 

その言い回しは意図的に選ばれていた。日本政府が最も警戒するであろうS.H.I.E.L.D.の越権行為を避けるための一線。

 

『わかりました。今のところ日本政府からS.H.I.E.L.D.へ追加の要請は特にありません。ただ事態が急変した場合、速やかな情報共有をお願いしたい』

 

「もちろんです」

 

『また、本件は国家安全保障会議に即時報告いたします。正式な形での情報共有の場について、改めてご提案申し上げます』

 

ヒルは穏やかな声色で含意し、通信は閉じられた。

 

 

数日後 ヘリキャリア内 対外折衝用会議室

 

 

長方形のテーブルを挟み、ホログラフィック投影装置が中央に設置されている。専用回線、事前共有資料、先の緊急通信時とは異なり今回は場が整えられていた。

 

長い楕円形のテーブルの正面に副長官マリア・ヒル。その右にニック・フューリー。さらに両脇にはS.H.I.E.L.D.戦略法務・管理部の法務部長・法務顧問2名と情報部の分析官1名が着席している。

 

一方、日本側は前回に引き続き赤井と日本側は外務省に加え、防衛省防衛政策局審議官と内閣官房国家安全保障局審議官が同席している。

 

背後の壁には日の丸と外務省章。カメラの位置も前回より意図的に調整されている。事前に議題は共有され、双方ともに想定問答集を作成済みの状況で最小限の外交的儀礼終えた後に赤井が切り出す。

 

『本日は情報共有の場を設けていただき感謝します。本件について、日本政府として正式に要請があります。貴組織が把握している超常能力もしくはこの世界で魔法と称される現象の軍事的評価について説明を求めます』

 

「わかりました。では、まず前提として我々は国家ではありません。従って、主権国家間の情報共有義務とは異なる立場にあります。ですが抽象化された戦略評価は共有可能です。ただし、今から行う説明はあくまでも最悪の場合という事をご了承ください」

 

ヒルは一拍置き、日本側と共有しているスクリーンにリスクマトリクスが表示される。

 

「我々が想定する高度な魔法使い十数名が統制的に運用された場合―…戦術単位を超え、戦略単位での影響が想定されます。参考資料としてシミュレーション結果を提示します」

 

『2015年時・日本国自衛隊主要装備体系を用いた仮想戦闘シミュレーション』

 

その副題に防衛政策局審議官の表情が、僅かに硬くなる。

 

海上自衛隊の護衛艦隊。

航空自衛隊のF-15J編隊。

陸上自衛隊の90式戦車部隊。

 

S.H.I.E.L.D.が元々持っていた情報と交流を結んだことで得られた自衛隊の兵器を基にし、簡易化されてはいるが現実的な配置だ。

 

日本側は事前にシナリオの存在を知らされていたが、具体的な数値と経過時間を読み進める内に、赤井の指が机の下で握られていく。

 

 

想定地域:本州太平洋沿岸部主要都市圏

 

T+00:00

沿岸部上空に局所的大気歪曲を観測。

高エネルギー反応出現。

人的被害:なし

物的被害:なし

 

T+03:20

航空自衛隊F-15J 1個飛行隊が緊急発進。

高度8,000mにて視認接触。

敵性個体は空間座標を不規則に変位。

 

T+04:10

空間分断現象発生。

F-15J 4機、機体前半部消失。

人的被害:搭乗員4名戦死

物的被害:戦闘機4機喪失

 

T+06:45

イージス艦よりSM-2発射。

目標周辺で弾頭消失。迎撃失敗。

 

T+07:10

局所重力反転。

海面が鉛直方向に変位。

護衛艦2隻転覆。

 

人的被害:乗員推定312名戦死

物的被害:護衛艦2隻喪失

 

T+10:30

陸上自衛隊第7師団機甲部隊展開。

10式戦車による120mm砲撃開始。

 

T+11:05

砲弾、目標到達前に空間歪曲へ吸収。

直後、同一砲弾が戦車部隊後方に再出現。

 

人的被害:隊員68名死亡

物的被害:戦車12両大破

 

T+15:00

都市圏中心部に現実改変現象。

道路網分断。

建築構造物の位相ずれ発生。

 

人的被害:推定2,400名

物的被害:都市機能停止(広域停電・通信断絶)

 

T+22:40

指揮系統断絶。

電磁的攪乱により統合幕僚監部との通信不能。

 

T+30:00

自衛隊側戦闘継続能力喪失。

 

 

──スティーブン・ストレンジやワンダ・マキシモフ。両名と過去にサノスが保有していたインフィニティ・ガントレットは伏せられた。前者はプライバシーの問題があり、後者はあまりに現実味に欠け戦略評価に含まれなかった。

 

だが、S.H.I.E.L.D.の分析官による補足説明が終っても赤井らはすぐには口を開けない。事前に概要は知っていた。しかし、こうも目の前で突きつけられると印象は異なる。防衛省審議官は無意識に喉を鳴らす。

 

机上の資料を一度見下ろし目を戻す。外交の場において不用意な質問は避けるべきだと理解している。しかし、この場で確認しなければならないこともあった。

 

『……失礼ですが。仮に先ほどのシミュレーションにおける敵性個体と同等の存在が現実に出現した場合――』

 

室内の視線がゆっくりと彼に集まる。

わずかに間を置いた。

 

『貴艦に同乗している、いわゆる超人的能力を有する方々を含めた戦力で迎撃は可能なのでしょうか』

 

外交の言葉としては慎重に「アベンジャーズを含め、S.H.I.E.L.D.だけで戦って勝てるのか?」と聞いているに等しい。

 

ヒルはすぐには答えず、首を振って隣に座るフューリーを見る。

 

「結論から申し上げると、甚大な被害を受ける可能性は否定できません。しかし、我々は敗けるつもりで戦うことはありません。超常戦力同士の戦闘は、通常の軍事戦闘とは性質が異なります。戦術的勝敗とは別に、周辺環境や都市機能に与える影響が極めて大きい」

 

言葉を選びながら続ける。

 

「交戦となれば、被害を受けないという保証はできません」

 

防衛省審議官は静かに頷いた。

 

彼の回答は、ある意味で予想通りであると同時に予想以上でもあった。日本政府はS.H.I.E.L.D.の経歴を調査している。ニューヨークにおける異星人侵攻、『チタウリ』に関する記録も当然把握している。

 

だが、日本側が想定していた脅威は、あくまで宇宙からの軍事侵攻だった。

 

兵器、艦隊、軍勢。

 

軍事力の延長線上にある脅威。先ほど提示されたシミュレーションはそれとは全く異なる。

 

空間の分断、現実の改変、重力の操作。それは兵器体系ではなく、物理法則そのものを操作する戦力だった。脅威の次元が違う。内閣官房国家安全保障局の審議官が口を開く。

 

『確認させてください。S.H.I.E.L.D.としては、この世界においてその水準の魔法戦力が存在する可能性をどの程度と見ていますか』

 

核心を突く質問にヒルが答える。

 

「現時点で、ロウリア王国がその水準の戦力を保有しているという証拠はありません。なので我々の評価でも現実的な脅威は地球換算で16~17世紀基準の通常戦力とワイバーンと呼ばれる航空兵力です」

 

画面が切り替わりロデニウス大陸西側が拡大され、赤い識別マーカーが次々と点灯する。ロウリア王国軍の推定兵力、艦隊数。陸軍が推定配置図が映し出される。ヒルは一度視線を日本側に戻した。

 

「繰り返しになりますが、先ほど提示したシミュレーションは最悪の想定です。我々が貴国にパニックを誘発させる意図はありません」

 

つまる所、可能性自体は存在する。日本側の三人は表情を変えなかったが内心は穏やかではない。

 

――あなた方の軍事力は容易く破られる可能性がある。別世界の組織から事実上こう告げられている。防衛省審議官は無意識に資料の端を指で押さえた。

 

フューリーは赤井らの動揺を察知し、落ち着いた調子で語る。

 

「今は結論を急ぐ段階ではないので状況の監視、情報収集と精査の継続したいと考えています。貴国政府には、外交・地域情報の共有をお願いしたい」

 

『承知しました。日本政府としても、現段階で軍事的な判断を下す状況にはないと認識しています。クワ・トイネ公国およびクイラ王国からの情報は、引き続き共有します。またロウリア王国の動向についても、外交ルートを通じて可能な限り確認を試みます』

 

内閣官房の審議官が静かに補足する。

 

『本日の内容は、国家安全保障会議に正式報告されます。共有いただいた評価についても、政府内で慎重に検討します』

 

ヒルは小さく頷いた。

 

「ありがとうございます。我々も情報収集を継続します」

 

形式的な外交儀礼の言葉がいくつか交わされ、回線は静かに切断される。

 

戦略法務・管理部の法務部長と隣の法務顧問が椅子から立ち上がり、議事録の作成のためカメラの後ろに控えていた部下へ指示を出す。

 

「本件は“対外機密レベル3”。各発言のタイムスタンプを整理して日本側へ送付する要約版も」

 

「了解しました」

 

ヒルはそれを横目に見ながら、自分の端末に指を走らせている。対外会談のログ、各部署への指示。会議が終わった直後のS.H.I.E.L.D.はいつもこうだ。

 

フューリーは椅子に深く背を預けたまま、しばらく何も言わなかった。やがて低く呟く。

 

「早すぎる」

 

ヒルはキーボードを叩く手を止めないまま聞き返す。

 

「何がです?」

 

フューリーは天井を見上げる。この世界に飛ばされてから、まだそれほど時間は経っていない。

 

本来ならばもっと時間この惑星の政治構造を分析し、誰にどこまで見せるかを決めるはずだった。超人の存在。S.H.I.E.L.D.の技術。自分達が経験してきた脅威。

 

本来、簡単に見せる手札ではない。いずれ明かさなければならないにしても。ヒルはわざとらしく空を指差す。

 

「それで。招集をかけるんですか?集団生活に向いていない、ペガサスに乗ってこの惑星を観測してる人とか」

 

滞空しているヘリキャリアに乗っている以上、指しているのは大気圏外で宇宙船による観測を続けてるキャロル・ダンバースだ。

 

「まだいい。連中はどうせやりたがらない」

 

フューリーは頭をかいてクワ・トイネからの情報を思い出す。ロウリア王国の政治思想は亜人殲滅だ。まだ確証が無い情報だが、もし事実なら種族浄化とも言うべき事案だ。

 

フューリーは低く言う。

 

「……それも時間の問題か」

 

 

■ 2015年(中央暦1639年)4月12日

 

ロウリア王国がクワ・トイネ公国の町、ギムへ侵攻開始。ギムに駐在する守備隊3,554人の全滅し、ロウリア王国東方征伐軍による民間人に対する大規模虐殺が発生。

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