ホロ=モダンエイジス - 真夏日、陽炎は揺らめき -   作:テラ・ぺた・エクサ

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00:南極点、灼熱日和

 

 

 

「はああああちゃまっっっっっっっちゃまああああああああっっっ!!!!!」

 

 

 

 快晴の南極の空いっぱいに甲高くて素っ頓狂な叫び声が響きわたった。

 そう、ここは地球の南の果てにして地表最後のフロンティア・南極、その中心たる南極点である。しかも五十数メートル先からでも確認できるような大爆発が恐らく氷河の真下あたりで唐突に起きて、そしてもうもうと立ち上る真っ白い蒸気の中からその叫びは聞こえてきたのだ。まさに一昔前の特撮ヒーローの高らかな笑いよろしく、といった風情で。チクショー、俺だって特撮のスタントマンになるのが夢だった時期もあるのに。

 とりあえずその『何者か』は、同行していたウチのテレビクルーやガイドたちどころか、明らかにどこの国の南極調査隊員とも関係ないだろう。というかあんな隊員がいる国があるなら、隊員選抜の手法をなるべく早く見直すよう勧めたい。ソイツは明らかに何者かというより人間以外の“何か”だろうが。

「はあぁちゃまぁぁ……ストォォォンプッッッッ!!!」

 今度は技名みたいなものを叫びながら、お構いなしに何者かは今しがた自分が吹っ飛ばした氷河の残骸の上へと降り立った。衝撃波によるものおぼしき一陣の風により、白い蒸気の幕が取り払われる。

 

 何者かの正体は、ボロ布を纏った鮮やかな金髪碧眼の少女だった。

 

 もちろん開いた口が塞がらない。あまりにも“そういう”アニメっぽ過ぎる。何にしても、誰がどう聞いてもフィクションの世界の話じゃないか。

 戸惑う俺やらテレビクルー、ガイドたちの一団に気付いたらしい少女はこちらを一瞥すると、怪訝そうに片眉を吊り上げる。そしてイヤに整った顔立ちの少女の顔はパッと明るくなった。

「はあちゃまっちゃまー! 初めまして、はあちゃまはアカイハアトってゆーの! よっろしくぅー!!!」

 いやいやいや、のん気に自己紹介なんてしてる場合じゃない。こっちからすれば「頑丈な氷の大地すら破壊していきなり目の前に登場した何か」に話しかけられているのだ。恐ろしくて口がきけるワケが——

 いや待て、と俺の中の何かが声を上げる。いくらバラエティ番組のディレクターとはいえ……という一文が脳裏に浮かんだ。どういうわけか、これまた出し抜けに「俺はテレビマンだぞ」というよくわからない矜持めいたものが何故か目覚めたらしい。そうでなくても、この一団の中で一番立場が上なのは俺だ。つまり何かあれば責任を問われるのも俺。

 無事帰れるかも分からないが、帰ったときに怒られないように、気を引き締めて毅然とした態度で臨まなくては。

 

 

 

 俺は右腕のサバイバル用腕時計に目を走らせ、頭の中に今日の日付・時刻を刻みつけた。生まれてこの方、こんなに自分の行動の手際が良かった試しはないが、自画自賛する間もなく“報道者の使命感”というやつにせっつかれて俺の思考は機械的に整理されていく。

 

・時間は二〇二一年一二月五日、場所は南極点付近(南半球なので季節は夏)、一〇時四七分。

・少なくとも相手には意思疎通出来るだけの言語力と常識力はあるようだ。

 なら、まずは名前の確認から。そう思った俺は自分の立場を伝えると、さっきの自己紹介の内容を繰り返した。幸いさっきの爆発からカメラは回してある。タレントが南極点にたどり着くシーンを撮りたかったからだ。

 

「そー、はあちゃまだよ! よろしくね」

 

・少女の名はアカイハアト、自称はあちゃま。

 次に私はその格好で寒くないのかを尋ねた。いくら日が高くてもあたりはまだ極地の最奥、夏とはいえ外気温マイナス二十三度という極寒の世界である。なのに目の前のアカイハアトと名乗った少女はボロ布を体に巻き付けているに過ぎない。明らかに生きているのが不思議なレベルだ。

 

「寒くないよ? というかなんでそんな厚着してんの?」

 

・彼女はどう考えても薄着だが、どうやら寒さは感じていないらしい。そもそも異常ともいえる温度感覚については自覚がない模様。

 今の爆発は何なのか、についても尋ねる。ここが一番大きな部分だ。あの爆発を起こせるのなら彼女は一体何なのか、少なくとも危害を加えるつもりがあるのかないのかだけでも確認しなければならない。

 

「あれはねー、目が覚めて氷を叩いたらあんなになっちゃったんだよね! なんか周りが熱くなって、気づいたらフワッて飛んでたの」

 

・爆発については自覚があるものの、原理などは本人もわかっていない模様。説明を求めても感覚的な言葉が多く理解が難しかった。敵対的感情はないと思われる。

 

 

「そーれーで! 次ははあちゃまにも質問させて、おじさんたち何してるのー?」

 

 その見事な金髪碧眼を煌めかせながら、腹立つくらいにこやかに薄着の少女は尋ねてきた。

 

 

 

 衛星通信でなんとか本社に問い合わせたら、「この一件は国際的圧力に口止めされている」「たかが一国のバラエティ番組程度の手に負えるケースではなくなった」とかお偉いさん直々に言われた。

 撮ったVTRはもれなく“国際的圧力”とやらに回収されて研究資料になるらしい。後々の現場ももちろん撮影なんて出来ない上に、そもそも南極点を示す金属球とその周辺部分を撮りたかったのに、そこが爆発に巻き込まれている時点で最早どうにもならない。とりあえず、アカイハアトは保護して然るべき機関に引き渡さなければならないらしい。

 はぁ、とりあえず企画書また書かなきゃ。

 

 

                        (あるテレビ番組ディレクターの日記より、

                         後日、日記没収時に抵抗したため拘束)

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