ホロ=モダンエイジス - 真夏日、陽炎は揺らめき -   作:テラ・ぺた・エクサ

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29:疑問符、狂乱中

 病院の建物を見たときに感じたあの嫌な感触を思い出した。あれの正体はこれだったのか、こんなん予想できるワケないじゃん。

 そんな八つ当たりにも近い怒りをぼんやり感じながら、まつりはガチガチに凍っていく足元を見つめる。病院本舎二階入口から伸びる霜は熱い空気中に含まれる水蒸気を吸って大きく成長して、もはや『霜柱』というにふさわしい異様な光景を作り出していた。

 このままでは足全体が『霜柱』に呑まれて凍りつくのも時間の問題だろう。かといって、まつりやスバルがいま履いているスニーカーや隊員たちのブーツやらを捨てて行動しようものなら、それはつまりこの真夏日でもなぜか凍っていくほど冷たい地面に裸足で立ち向かわなければいけないということになる。この土壇場でそれを実行すればどうなるかを悠長に検証する度胸はさすがに潜入部隊メンバーの誰も持っていなかった。

 

「な、ンだよ……何だよこれェ⁉︎」

「アパイニ、アッパインニぃッ⁉︎」

 年齢・性別だけでなく、日本語・英語・英語ではないのは分かるがまつりの知らない謎の言語(たぶんイオフィの故郷の言葉だろう)とあまりにも多種多様な悲鳴が隊員たちの口々から溢れ出る。こんな異様な状況なんていくら軍人といえども訓練なんかされてはいないのだろう、彼らの恐れおののく声がそれを物語っていた。

「ねぇまつりちゃん! 私にも拡声器(それ)貸してくれない?」

 そんな中だったからだろうか、まつりにはそらの冷静な声が一際大きく凛として聞こえた。周りを固める隊員たちの隙間から覗くと、そらがこちらにむかって必死に手を振っている。ちょうど球技で味方からパスを要求するときみたいな動き。まつりは迷わずに彼女に向けて手に握られていた拡声器を投げた。

 それをなんとか空中でキャッチしたそらは一息吸い込むと、病院中に聞こえそうなくらいの声で叫ぶ。

「みんな、慌てないで聞いて! 構えてるライフルの狙いは今の場所から動かさないように‼︎ ……確かにいま目の前では恐ろしいことが起きてるかもしれない、でもよく考えて! もともと私たちはこの通路から動こうとはしてないしライフルは握ったままだよ! つまり、靴が凍らされても足元が怖いこと以外は“特に状況は変わってない”、というかみんなのブーツの断熱性なら全然問題ないはずだよ! むしろ焦ったぶんだけ危なくなる、冷静さをなくさないで‼︎」

 恐慌状態に陥りつつあった潜入部隊は水を打ったように静まり返る。そして誰一人としてそらの言葉に耳を貸さなかったものはいないようだ。確かに超常現象に出くわしたときの対処法なんて彼らは知らないだろう、しかし慌てたときに冷静さを取り戻すための訓練なら隊員たちも受けていたらしい。きっかけがないとそれを思い出せないのならそれは玉にキズだと思うが。

 急速に平静さを取り戻していく隊内の様子にまつりはちょっと安堵した。

 

 

 とはいえ、である。

「……くそッ」

 ガチリ、と構えたライフルを器用にいじる音と目の前の部隊長が悪態をつくのが同時に聞こえた。

 状況は現時点で先ほどとほぼ同じで、状況が変わっていないのは向こうから見ても同じだ。そこが何とも歯がゆいが、何にせよ膠着状態は依然として続いているということである。ただこちらにはタイムリミットが新しく付け加えられているという点が違った。このまま動かないのでは、やがて靴から足先まで凍ってしまうかも知れない。そうなれば行動不能はおろか最悪足首から先を失うことにもなりかねない。足の冷たさはひどいのに、日差しと焦りで滲んだ冷や汗がまつりの頬を伝っていく。

 病院側の入り口も依然として固く閉ざされたままだ。窓に降りた霜のせいで向こう側も見通せない。でも校舎側の様子を見る限り、真っ白な壁の奥にも兵士たちが並んでいることは想像に難くなかった。だとすれば逃げ道は残されていないということであって。あの放送の声もそれを分かりきっているのか“タカ”を括っているのか、もう何も言ってこないしノイズ音すら聞こえてはこない。息苦しい静寂があたりを包み、頭が痛くなりそうなくらいの緊張感が立ちこめる。

 

「カァ、カァ、カァ」

 

 不意に三回、カラスが鳴く声が聞こえた。少し離れた位置でまつりと同じように四人に挟まれているスバルに目をやると相変わらずイカロスを両手に抱いたままだ。……カラスのせーめーを始め、スバルが連れていたハズの残り四羽(よにん)の野鳥たちがいない。ということはあの鳴き声はせーめーのものだろうか、何にしても結局まつりにはスバルの家族たちを見分けることは出来なかったが。

 

「カァ」

 

 と、ここで別の方向からカラスの鳴き声。よく見ると別の方向に別のカラスが止まっていることにまつりは気がついた。あれ、カラスがもう一匹? ってことはさっきの鳴き声も別のカラスのものだろうか、じゃあ本物のせーめーや他の三羽たちはどこに? そう思った矢先、間髪を入れず別の鳴き声が聞こえる。

 

「グワワッ」

 

 イカロスの声だ。まつりは違和感を覚えた。彼がムダ鳴きすることは普段ないからである。イカロスはアヒルとしては並外れて頭がいい。その証拠の一つが“静かなこと”というのは前に言ったとおりだ。となると、今の鳴き声は……。

 

「グゥゥゥ、クックー」

「ピピューイ」

 

 また野鳥の鳴き声。もはやまつりの見知った鳥たちの声なのかすらも分からない。ただ一つ言えるのは、あの四羽とは別の鳥たちが確実に混ざっているということ。

 

「ガー、カァカァ」

「ピィヒョッ」

「ガーガーガァ」

「グルルルックー」

「カァッカァッカァッカァッ」

 

 周りにいる両陣営の兵士たちもさすがに異常に気づき始める。明らかに、周囲を飛び回る鳥たちが尋常でなく増えているのだ。夏空を影で埋め尽くすような数の野鳥たちが頭上で渦を巻いて飛んでいる。遠くから絶え間なく聞こえてくる蝉時雨(せみしぐれ)に何千、何万もの鳥たちの羽ばたく音が重なって、もはや都心の雑踏のような“さざめき”があたりを震わせていた。

「今度は何だよこれ……」

 もう驚くのにも疲れたような気の抜けた声をふと隊員が漏らす。まつりは共感しそうになるのをこらえて、その隊員にだけでも、いや出来れば他の隊員たちにも聞こえればいいななどと思いながらちょっと声を張って呼びかけた。

「落ち着いて! これたぶんスバルの……」

「今だイカロス!」

 

 

「グァッグァッグァッグァッグァッグァッグァッグァ‼︎‼︎‼︎」

 

 まつりを遮るようにスバルが声を上げ、そしてイカロス渾身の叫びがあたりに轟いた。

 

 

 と、頭上のカラスたちが撃ち落とされたように急降下していく。そこから少し遅れて頭上の方からどよめきや銃声も聞こえだす。何を言っているかは理解できないが、どうもどよめきというよりは悲鳴に近い叫びといった方が正しいようだ。潜入部隊の面々が顔を上げると、病院の屋上が妙に騒がしい。

「ちょっ……何よあれ」

「みんなぁ! 危ないからあんまり、うわぁ……」

 アメリアを始め隊員たちほぼ全員が事態に困惑して疑問符を浮かべる中、唯一スバルだけは少し態度が違う。やっぱり、とまつりは一人納得した。この鳥たちの大群は救援だ。たぶん、あの四羽が連れてきたのだろう。

 味方である潜入部隊は呆気に取られて頭上を見つめていたが、それでもいたずらにライフルを撃つことはしなかった。スバルの連れていた五羽とのやりとりを事前に見ていたのと、鳥たちがこちらには一切飛んでこないのとで誰も怯えてはいなかったためだ。というより、あの群れはきっとスバルに関係しているのだろうと部隊全体が悟っていたというか。

 一方の相手方である。

 さすがにこうも大きな群れが相手となると、例えどんなに武装していても恐怖の方が大きくなるのは当たり前だ。そしてそれは校舎の壁の向こうでだって同じ。校舎側の廊下を見ると、列をなしていた敵兵たちが慌てて対応しようと四苦八苦している様子だった。ある者は妙な見た目の無線機で連絡を取ろうとしていたり、ある者は窓を勢いよく開けて鳥たちの群れに向かってライフルを向けようとしていたり、まったく指揮の取れていないてんでバラバラな行動をとっている。これが彼らにとって良くなかった。

 

 敵兵たちが開けた複数の窓から勢いよくカラスが一羽二羽と飛来する。慌てて撃とうと敵兵の一人が構えようとするも、誤射背後からハトやら別のカラスやらのクチバシが勢いよく彼をつついたり、体当たりしてきたり、視界を塞いできたり。廊下にはたちまち殺到して見るも無惨な状態になった。たとえ竜巻クラスの突風が廊下を通り過ぎてもこうはなるまい。

 校舎の廊下でこれなら屋上はもっと酷いハズだ。というか今の状況で病院にいるのは敵兵だけだろう、だとすればアイツらこんなときにあんなトコで何をやっていたんだ? まつりの頭に疑問が浮かぶ。と、

「うわぁっ、何だよぉコレっ⁉︎」

 たまらずフェンスを乗り越えて逃げ出した男の影が図らずも答えを示してくれた。あっ、と叫びそうになったまつりは視界の端で糸のように細長い影がつながっているのを見つける。次の瞬間、敵兵はその影から吊られる形で壁を慌ただしく降下し始めた。間違いない、あれはケーブルだ。屋上から降下して通路上で挟み撃ちにする算段だったのだろうか。ともかく、いま襲われているあの集団は伏兵だったらしい。

 もはやパニック状態なのだろう、逃げ出した敵兵は一心不乱に降下してくる。……降下した先に潜入部隊が待ち受けていることも忘れている様子で。通路に降りた敵兵は急に飛んできた一匹の小鳥に情けない声をあげ、直後すぐ脇でライフルを構えていた隊員から飛んできた一撃により気を失った。

 小鳥はコン、と窓ガラスを突いて軽い音を鳴らすと、通路中程で隊員たちに守られていたまつりの所まで飛び込んでくる。この動きでこんなところまで真っ直ぐにやってくるのなんてまつりには一羽しか思い当たらない。間違いなくモズのスモックだ。

「ッキキキキェ」

「スモック!」

 名前を呼ばれたスモックは突き出されたまつりの指に止まり、小鳥らしいつぶらな瞳でまっすぐまつりの顔を見つめる。

 思えば、コイツはつくづく不思議なヤツだ。スバルのところに居着いているのになぜかコッチ(まつり)の方に懐いている。というか結局『スモック』という名前の由来も聞いたことがないままだ。でも改めて聞き出すにも特にきっかけがなかったし、スバルのように会話で聞き出せるような才能なんてものもまつりない。そんなこんなで何となく、まつりはそのあたりの事情には触れずにそっとしていた。それはきっとそんな感じでいいのだ、多分。

 まつりの手の上でくるりと回ったスモックは、キキキキェと先ほどと同じように一声鳴いて病院をじっと見つめる。そういえばここまで飛んでくる前に窓をわざわざ突いていたがあれはどういうことだ? 遠目で見ていても明らかに不自然な飛び方だったことはよくわかる。なぜわざわざあんなことをしたんだろう、あんなことをしたら窓の向こうにいるだろう兵士たちに撃たれるかも知れな……あれ、何の反応もない?

 

 まつりは別の疑問に突き当たって、それから閃いた。

「ね、ねぇアメちゃん!」

「叫ばなくてもさすがに聞こえるわ、確かに大騒ぎだけどこの距離よ?」

「病院側の廊下なんだけどさ、あれ……中に誰もいないんじゃない?」

 まつりが矢継ぎ早で告げる推測に、隣で隊員四名に相変わらずガッチリ守られていたアメリアは周囲の騒ぎもそっちのけで急に低く声を返した。

「……その根拠は?」

「ここまでの騒ぎになって、ガラスが揺れもしてないし向こう通ってる人影一つも見えないのおかしいもん。校舎側はあんな騒ぎになってみんなバラバラのことして大騒ぎしてるのに、病院側は全員窓も開けないでじっとしてるのってさすがに変じゃない? 同じ所属の兵士でこんだけ行動にバラつきあるなんておかしいよ」

「なるほど」

 アメリアはそれだけ返すと、周りをガッチリ固めていた四名の隙間から通路の真ん中へと(おど)り出る。今や校舎側の廊下は阿鼻叫喚、そして病院側は霜によりほとんど見通せない。慌てて四人が止めるまでもなく、彼女を狙う銃口なんてまるでなかったのだ。そしてアメリアは(ふところ)から黒光りする小降りの拳銃を取り出して両腕をまっすぐに伸ばし、ハリウッド映画なんかでよく見るようなまっすぐの姿勢で窓に数発撃ち込む。

 ……反応は相変わらずなし。

 まつりの予想は的中していた。正面向かいの壁からまつりの言葉を聞いていたそらは拡声器で声を張り上げる。

「いま病院側にライフルを向けている人は扉を撃って! 校舎側を向いてる人は振り向かないように、撃つのはあくまで隊員の半分だけ! すぅー……撃てェ‼︎」

 そらの叫びと共にアメリアが元の位置に滑り込んで、それを待っていたそらの叫びと共に複数の銃声が突き刺さる。一四(ちょう)ものライフルから放たれた実弾が扉に食い込んで瞬く間に弾け飛んだ。そして、ただでさえ凍るような寒さだったあたりの空気がさらに一気に温度を下げたのが肌でも感じ取れる。なるほど、これだけ寒ければ窓にこれだけ霜が降りても不思議ではないし、廊下に誰も配置されていなくても無理はない。なんならここに見張りが一人もいないのもうなずける。どう考えてもここの突破なんて出来るわけがない。“普通なら”そうだったろう。

 まつりは前を見据える。ヘルメットもゴーグルも何もないまつりにとってこの寒さの中では目を開いているだけでも痛いくらいだ。でもいま自分にできることはこれだけだ、そう信じていたからこそそうした。ただ目的もなくボーッと眺めるとかではない、ちゃんとした使命があってそうする。“冷たいものを察知できるようになった”ということがこんなふうに役に立つとは思いもしなかった。そりゃ、自分に何の縁があって急にこんなことが出来るようになったのかはまるでわからないけど。何にしても出来ることをやればいいのだ、そう思えた。

 

「吹っ飛んだ扉の下敷きになってるヤツ見える⁉︎ ちっちゃいロボット掃除機みたいなの! あれだけすごい冷たい‼︎」

 まつりが見つめる先、先ほど隊員たちの一斉射撃で蜂の巣になった扉の残骸。よく見ると床にそれらが転がっているだけではない。不気味な稼働音を鳴らして動いている小さな機械が転がっていた。ただでさえ極低温に冷やされている廊下の中にあって、これだけがそれすら比べ物にならないほどに冷たい。たぶん間違いなく、これこそが……。

「撃てェェ‼︎‼︎‼︎」

 そらが再び叫ぶ。再び一四(ちょう)が火を吹いて、その機械はビクともしていなかった。

「ダメだ! あの機械、異様に堅いぞ!」

 いくら撃ち込んでも効果がないことに業を煮やして部隊長がうめいた。さすがにこの距離からの銃撃で傷つけられないのなら、おそらくどんな攻撃でも破壊することは無理だ。より近付いてさらに脆い部分を探し出し、そこを集中的に発砲でもすれば破壊できるかもしれない、でもそれをするには。

「……やっぱ動か、せない……」

 そう、依然として潜入部隊の面々は一人残らず、足元に生えた霜柱のような氷の岩盤に足を囚われて動かせないのだ。もはや液状のコンクリートやアスファルトから基礎で固められたように僅かな隙間だって無い。

 何度も何度もくぐり抜けてきたつもりだったけど、今度ばかりは、というより今度こそ正真正銘の万事休す。まつりの頭にそんな考えが一瞬よぎった。

 

「ワタシが……イオフィがやる」

「姫しゃま⁉︎」

 そんな中で声を上げたのはイオフィだった。確かに彼女の念動力を使えばある程度は攻撃できるかもしれない。しかし一度攻撃してムダだった以上、それをするには工夫をせねばならず、そのためには機械に近寄るか機械そのものをこちらまで持ってこなければならない。因果関係のイタチごっこみたいなもので、強行でもすれば誰かが犠牲になりかねなかった。

「ダメだよイオフィちゃん! あんまり無茶したら……」

「ダイジョブよー、そら姉さん。イオフィにだって考えがあるから!」

 イオフィはいつもの笑顔でそういうと手をすっとかざす。

 すると隊員たちの手に握られていたライフルがふわりと各々の手を離れ、獲物に襲いかかる蜂の群れのように病院側入口に殺到した。空中に浮かぶライフルたちは一斉に機械を取り囲み、そして全てが銃口を機械表面に向けて遠目にはドーム状に並んで狙いをつける。まつりの目にはウニのようにも、ガンメタルに輝く半球状の鉄檻にも見えた。

 そしてイオフィがかざした手をギュッと握ると、機械に向けたライフルも一気に表面に張り付きゼロ距離になった。本格的にウニのような見た目だ。だがこうしたとしても、さっきの攻撃ですらビクともしないのであれば意味があるとはあまり思えない。

「危ないからここから動かして……」

 そんなつぶやきと共にイオフィが突き出した拳を無理やり引き寄せるように腕を曲げる。相当な力を込めているのか、よく見ると小刻みに手が震えていた。そしてそれと同時に氷で床に張り付いていた機械は瓦礫を砕くような音を立てて引き剥がされていく。周囲に降りていた霜ごとライフルの先端で無理やり押し退けられた。

 しかし、今度はイオフィのほうに異変が生じる。

「……うっ」

「イオフィちゃん⁉︎」

「姫しゃま、それ以上はおやめ下さい!」

 ポタリ、とイオフィの顔から何かが垂れた。血だ。おびただしい量の血が彼女の鼻からしたたり落ちる。明らかに量が多いそれは瞬く間に彼女の服や渡り廊下の床に特大の赤いシミを作った。

「だ、大丈夫! あの機械が思ったよりガッチリ地面にくっついてただけだから……」

 ちょっと青ざめながらもイオフィはそう言って、ライフルで出来た塊を病院の奥へ奥へと動かしていく。床の上をスライドする塊は階段の脇、奥へと伸びる二階の廊下へと追いやられた。それを見届けたイオフィはもう一度、突き出した手を開いてから握り込む。

 直後、塊を形作る二九(ちょう)のライフルからの何重にも重なった銃声が何十秒とかけて響き続けた。そしてその後、金づちを打ちつけ合うような凄まじい音と共に轟音は止む。そうなった途端、先ほどまであれほど立ち込めていた冷気が急に弱まったような気がする。

「こ、っちにぃ……!」

 イオフィが息も絶え絶えになりながらも腕を捻って手首を上に折り曲げると、フラフラと力なく機械だったものは圧縮された後に漂ってくる。全方位からの零距離による射撃を受けた機械も、撃ち出されながらも強靭な外装に阻まれて銃身から弾丸を発射させられず連射を強いられたライフルたちも、一緒になって見るも無惨な塊と化している。よく見ると爆発したような跡まであった。

「……やった」

 それを確認したイオフィはへなへなと力なく倒れ込み、そのまま気を失った。同時に塊も床に落ちる。

「姫様!」

「姫しゃまはっ⁉︎ ご無事なのか⁉︎」

「だ、大丈夫です! ご安心を! 大丈夫ですから隊長殿、落ち着いて! お気を確かに!」

 イオフィの(かたわ)らにいた隊員が慌てて彼女を受け止める。彼の安堵したような反応から見るに息はあるようだ。あまりの事態に卒倒しそうになっている爺やを彼の隣にいた近衛隊員がなんとか落ち着かせた。

 一方でまつりは足を無理やり動かす。ミシ、パキッ、と音を立ててやっと靴が動いた。いい加減足がかじかんで痛いほどだったが、温度を下げていた原因がなくなって急速に足が動くようになってきている。まつりは靴を呑み込んでいた『霜柱』からやっと抜け出したスニーカーでそれらを踏み砕いた。

 

 あの大量の野鳥たちは、まつりが感謝するヒマもないままにいつの間にか飛び去っている。しかし頭上も背後も、敵兵たちは鳥たちの襲撃でもはや何の気力も残っていない。どこかのパニックホラー映画以外では有り得ないような恐怖体験に魂を抜かれたようになって、怯えた目つきでおっかなびっくり周りを見回すばかりだ。

「よし、みんなも急いで! 他の入り口にいる見張りが来る前に病院の中に入ろう! どうせまだみんな拳銃とか持ってるでしょ? ツキは回ってきてる、急いではあちゃま助けに行こう‼︎」

 まつりは不敵に笑いながら隊員たちにそう言った。

 

 

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